あと1話、お昼に予約しています。
コツコツと石畳を革靴が打つ。
正面玄関から入り、下駄箱に革靴を入れ内履きに足を通す。
二度目の高校生に高揚する心を抑えヒーロー科A組を目指す。
まさか俺がA組に入れるとは思わなかった。
いい所行ってB組が精々だと思っていたからだ。
まさか無個性でここまで来れるとは。
温いとは言わないが、ここから卒業まで行けるのか。
いや、行かなきゃならん。
その覚悟はもう済ませた。
「…
A組へと繋がる階段の前で呼び止められる。
そこに居たのはボサボサの頭髪に草臥れた装いの間違えても教師とは思えない人物がいた。
「?教師の方…ですか?」
なるべく自然になるように受け答えしよう。
「ヒーロー科A組担任の相澤消太だ。よろしく」
「はい」
「A組に行くまででいい。話をしよう」
「わかりました」
微妙な雰囲気とでも言えばいいのか。
初対面の大人との会話はそう続かない。
世間話をする間柄でもないのだが、相手の方が口火を切った。
「無個性、だそうだな」
「その通りです」
「…無個性でこの雄英にいる意味はわかっているようだな」
「覚悟はとうに済ませてあります」
「そうか、なら言うことは無い」
それが本題だったのだろう。
話はそこまでで終わり、A組にたどり着いた。
「お友達ごっこがしたいな他所へいけ」
そう言い放ち、相澤先生はゼリー飲料を飲み干す。
キャップを付けゴミをポッケに突っ込むと続ける。
「ここはヒーロー科だぞ」
クラスの中を覗きみれば、困惑が頭を占めているようで。
なんで金髪碧眼の美少女が草臥れたよく分からない男の隣にいるのか、と。
まあ良く考えればわかる困惑だ。
「担任の相澤消太だ。静かになるまで6秒かかりました。君たちは合理性に欠くね」
頭をポリポリとかきながら好き勝手言う相澤先生は懐から衣服、体操服を出して言った。
「早速だが
「「は、はい!」」
忙しなく動き出すクラス内を一瞥し、相澤先生がこちらを見る。
幾らか逡巡しながら言う。
「帯金も着てこい。お前にとってはただの身体測定になるだろうが今後の指針にしろ」
「はい」
ああ、無個性が個性把握テストとか意味分からないもんね。
除籍されないように頑張ろう
◇ ◇ ◇
「「個性把握……テスト?!」」
「せ、先生!入学式は?!ガイダンスは?!」
先程に続いて困惑part2。
みんななんとも言えない表情で立ち尽くしている。
「ヒーローになるなら、そんな悠長なこと言ってられないよ」
「?!」
「雄英は自由な校風が売り文句。君達にも当てはまるが、それは当然俺たち教師にも当てはまる」
得も言われぬ威圧感を出しながら相澤先生は続ける。
「中学でやっていただろう“個性”禁止の体力テスト。これを個性アリでやってもらう」
何か含むことがあるような視線をこちらに送ってくる相澤先生。
どうしたもんかと考えるがその前に先生はトゲトゲ頭で人相の悪い、
「しぃねぇえええっ!!」
とてつもない爆風が運動場に立ち込める。
相澤先生の端末ではこれまたとんでもない記録が出ていた。
「まずは自分の最大限を知れ。その上で指導を始める」
「「す、すげぇ」」
「なにこれなにこれぇ!面白そう!」「705m!!すげぇ!!」「個性思いっきり使えんの?!流石ヒーロー科!!」
「面白そう…ね。ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気なのかい?」
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしとし、除籍処分としよう」
「「「は、はぁああああああ?!?!」」」
「生徒の如何も教師の自由。ようこそ。歓迎しよう。ここが雄英ヒーロー科だ」
ビリビリと緊張した雰囲気が辺りを立ち込める。
受験と似た雰囲気。
一筋縄ではいかなそうだ。
「デモンストレーションは終わり。本番はここからだ」
第一種目 50m走
「ふふ、みんな分かってないね!個性を使っていいって言うのは…!」
そもそも無個性でヒーロー科に入るって時点でかなりの見込みがある。
とおもう。
だがその色眼鏡を外すために相澤先生は俺をよく見るはずだ。
即ち、俺が最下位になろうものなら即刻、除籍処分を下すだろう。
じゃあ、俺も本気だ。
クラウチングスタートの構えを取り、本気の力を込める。
ブチリ…という音が俺に届く。
8種目ある。
いくらかセーブして完走しなければ。
だが記録は出さなきゃならない。
両方やるのはキツいが…
「やるしか…ない」
「こういうことさ!!」
パァンッ!!
運動場の地面から豪快な土煙が上がる。
光り輝くレーザーの横を並走し…いやレーザーが消え転がる
4秒53
あーやばいやばい。
個性把握テスト終わったら肉離れだわこれ
第二種目 握力測定
「は……っ!!」
84kgw
ブチンッ
あ、右腕行ったわ
第三種目、第四種目を過ぎ、彼、緑谷出久のターニングポイントとなるソフトボール投げになった。
彼は思ったよりも思い詰めた顔をしている。
それもそうか。
いま俺は人間のリミッターを外している。
修練の結果、手に入れた秘奥は医師にとってはヒヤヒヤするものであるらしくリミッターは外さないようにと言われている。
両足は肉離れ寸前、右腕は使い物にならず…とまあそれなりに満身創痍な俺ではあるが左腕は残してるし、長距離走程度なら足はもつ。
最下位にはならないはずだ。
そんなわけで周りからは増強型の個性として見られているはず。
無個性というのはそのうち知られるだろうがそれは今じゃない。
俺の体の異常は相澤先生も察しているだろうし、早く済ませなければ。
と、言うわけでポイポイと、投げるッ!!
120m
左腕はプチンといきました。
◇ ◇ ◇
「ちなみに除籍はウソな」
「「はっ?!?!」」
「君たちの最大限引き出すための合理的虚偽」
「はぁああああああっ?!?!」
一喜一憂するクラスメイトたちを他所目に、相澤先生がこちらにやってくる。
「帯金」
「なんでしょうか」
「お前、体ボロボロだろ」
聞き耳を立てていたクラスメイトたちの息を飲む音が聞こえた。
「ええ、両腕は肉離れ、足も立ってはいられますが走ることはかないません」
「はぁ……その手段を取り続けるなら俺はお前を除籍しなきゃならん。今後は考えろ」
「わかりました」
相澤先生は盗み聞きしていたクラスメイトたちを一瞥し言う。
「事情はクラス内で消化するように」
「緑谷、帯金。
その一言が今日の解散の呼び水になった。
ゾロゾロと解散していく中、俺と緑谷は同じ目的地に向け足を動かしていた。
少し硬い動きで足を動かす緑谷。
指が痛いのだろう、脂汗が頬を伝っている。
どうにもこの雰囲気に耐えられなかった俺は声をかける。
「貴方も、合格していたんですね」
「へぁ?!はっ、はい!」
「よかった。貴方のあの姿を見ている身ですから、いなかったら直談判しているところです」
「い、いや!僕なんてそんな」
「私の名前は帯金 風音。貴方は?」
「ぼ、僕の名前は緑谷 出久!です!」
「では、イズクと」
「へぇえ?!!」
いや面白い。
ここまでの反応を返してくれたのは彼がはじめてだから突っ走ってしまった。
そんな会話をしているとすぐに保健室に着いた。
「失礼します。怪我を治してもらいに来ました」
「おや、来たかい。残念だったねぇ、入学式が受けられなくて」
「いえ、相澤先生の言うことももっともです。これから成長するために雄英で過ごす中、最大限を知ることは重要ですから」
「そうかいそうかい」
その後、リカバリーガールの治療を受け絶大な疲労感を抱えながら帰路に着いた。
◆ ◆ ◆
「彼女は、どうでした」
「ん、イレイザー」
斜陽が窓から入り込む中、保健室には2つの人影が存在していた。
一方は雄英高校の屋台骨、リカバリーガール。
もう一方は雄英高校ヒーロー科担任、
「全身ボロボロさね。文字通り、自分で持てる最大限で臨んだんだろうねぇ」
「………」
「無個性で雄英高校を生き抜く覚悟を、あんたに示したんだろうねぇ」
相澤は先のテストでの帯金 風音の様子を思う。
彼女は自分の境遇を正しく理解し、覚悟を示した。
何がなんでもヒーローになる。
「無個性の生徒をヒーローになれるようにするなんて、アンタも大変ねぇ」
「いえ、当人にその覚悟があるのならそう難しい事じゃありません」
「俺はその支援をするだけなので」
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