週二投稿一話目です。
目の前で、恩師の手が小枝のようにへし折られる。
とてつもない巨躯の
そんな光景を前に、僕は息を潜めるしかなかった。
「個性を消せる……素敵な個性だよなぁ…でも、そんな個性でも純粋に強い敵の前ではタダの無個性だ…」
全身に手をつけている敵は全能感にでも酔っているのか、尊大な態度で相澤先生の個性をこき下ろす。
そんな敵の横にモヤが現れ、すぐに人型を形作りワープの敵が現れた。
「死柄木弔」
「黒霧、13号はやったか?」
「そこは抜かりなく。ですが困ったことになりました。散らし損ねた生徒を一人取り逃してしまいました」
「……困ったことになりました、だァ?……あ゛あ゛ァ…黒霧ぃ、お前がワープゲートじゃなかった砕いて散らしてたぞ…!」
「……」
「…さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない…木っ端も随分数が減っちまった……帰ろっか」
「でもその前に」
敵の視線が、こちらに固定された。
もしかして、最初からバレてッ!
「ヒーローの矜恃を少しでも壊してから帰ろう」
尋常じゃない速さで這い寄って来た敵が手のひらをこちらに向ける。
相澤先生の肘を
動け…
動け!!
このままじゃ!蛙水さんが!!
ドンッ
そんな衝突音と少量の土煙を残し、死柄木と呼ばれた敵が吹き飛び地面に転がった。
「がっ…あ゛ああ?!」
「頑張りましたね。イズク、ツユ、ミノル」
輝いて見える。
そうとしか形容できない景色を前に僕は自らの語彙力を呪った。
煤けている体操着、これまでで使ったであろうボロボロの剣。
若干の火傷を負っている白い肌に、土で汚れた金髪。
だけど、その満身創痍の身でも輝いている青い瞳。
その態度だけで、彼女は僕に、いや僕らにオールマイトのような安心感を与えた。
「私が
釘付けにする、と言ったのか。
ショウタ…相澤先生の事か、彼女は先生呼びしていなかったか。
釘付け…?
「そんな!無茶よ!風音ちゃん!」
「そ、そうだよ帯金!」
「帯金さん!君が強いのはよく分かってる!でも!!」
強いのは知っている。
だが彼女の強さは決してプロに及ぶようなものでは無い。
唐突に現れたのには驚いたが、彼女が敵連合に真っ向から叶うとはとても思えない。
「信じて、とは言えません。ですがこのような問答をしている間にもショウタの傷は悪化していく。問答無用、です」
「でも!!」
「イズク」
心配で頭がいっぱいの僕を彼女は真っ向から見つめて言う。
「任せましたよ」
そう言った彼女は目にも止まらぬ速度で相澤先生を拘束していた敵に向かって行く。
それを察知した改人“脳無”は
あの圧倒的な敵が、わざわざ飛び退く。
そんな光景に驚愕しつつも、僕は叫ぶ。
「今だ!相澤先生を避難させる!!」
「緑谷?!」
「…!ええ、そうね!風音ちゃんが言ったもの!」
その後、すぐに僕らは相澤先生を抱えてその場を離れる。
どうしても気になり、後方を伺った時目を疑った。
「うそ…」
それを蛙水さんも見ていたのだろう。
驚愕をそのまま口に出していた。
個性を使ったか使ってないか定かではなかった彼女は、その身一つで脳無と渡り合っていた。
ガンッガンッと今まで聞いたことの無いような衝突音を何度も何度も連続で打ち鳴らしながら彼女は戦っている。
オールマイトが行うような、もはや台風とも言っていい拳のラッシュと真っ向から切り結び、一歩も引くどころか押している。
「このっ!チートが!!オールマイト用の脳無がっ!!タダの無個性の女に!こんなッ!」
「私もッ!驚かされました!…まさか英霊と真っ向から戦える人間がこの世界にいるとは…」
そんな会話が耳に届きながらも僕達は階段を登り終わり、みんなに相澤先生を預ける。
「…ねぇ、あれって風音、なの?」
ここは見晴らしがいい。
広場での戦闘はここならば全てが見えただろう。
芦戸さんが僕に向かって訊ねてくる。
「うん。まさか、あそこまで強いとは思わなかった」
「あれって…個性なのかな」
背後から触れようと死柄木が接近するが、それも分かっていたかのように剣を振るう。
だがそれは守るように立ちはだかった脳無に止められる。
目立ったダメージはなく、それを悟ったのか帯金さんは飛び退く、だがそれを許さなかったのは脳無だった。
飛び退く彼女に追い縋りまたもや怪力を用いて我武者羅にラッシュする。
これにはさしもの帯金さんも苦しげな表情を浮かべ必死に拳を逸らす。
バキリ。
そんな音が、こちらにも聞こえてくる。
その次の瞬間、彼女が頑丈と称した剣が砕け散る。
機械部品を撒き散らしながら壊れていくそれは、どう考えても今の彼女の生命線。
なにを、なにを悠長に見ていたんだ僕はッ!!
彼女は僕らと同じクラスメイトじゃないか!!
思わず駆け出そうとした僕と芦戸さんの間を一陣の優しげで、それでいて力強い風が通り過ぎる。
竜巻。
彼女の手に、竜巻が握られている。
その竜巻に脳無はたまらず吹き飛び、両者の距離が空く。
竜巻はすぐに止んだ。
僕たちが目をこらすと、彼女の目に焦りは見えずその手には見えない、何かが握られていた。
個性?
あの尋常じゃない身体能力が個性じゃなかったのか?
彼女が握っている、武器?はなんだ?
「さぁ、続きを……んぐぅっ!!!」
優勢、目まぐるしく変わっていく戦況は竜巻を機会に優勢に保たれていく。
そんな錯覚は彼女の様子で儚くも崩れ去る。
胸を押さえ、彼女が膝をつく。
見えない武器は目に見える金の粒子を残して、消えてしまう。
リスクのある個性。
その発想に至れなかった自分が恨めしい。
止まっていた足を再び動かし、僕は駆け出した。
◇
「…はぁ…チートかと思ったら、タダのバグかよ。苦しそうだなぁ…調子に乗りやがってッ!」
膝をついて、動ける様子もない風音を死柄木が足蹴にする。
「はぁ…!はぁ…!グゥッ!!」
「チッ!!まだ動けんのかッ!脳無!!」
「あ゛あ゛あ゛」
震える膝で無理やり立ち、消えていた
接近し死柄木を守るように立った脳無。
そんなものは関係ないと大きい風圧は敵を吹き飛ばし、風音と距離を空けさせる。
だが最後の力だったのか、再び膝をついてしまう。
「はっ…はっ…やはり、英霊を降ろすのには負担が大きすぎましたか…!この調子では私が表に出られる時間も少ない…!グゥッ!」
体を襲う痛みが相当に大きいのか、痛みに呻く。
「私がこのまま出ていればこの体が壊れる…!だがッ!」
周りを見渡す。
見えるのは階段を降りてくる緑谷、この広場に走ってくる切島、爆豪、轟だった。
A組の生徒では脳無には到底敵わない。
だがこれ以上、自分が力を振るうことも叶わない。
情けない、そんな言葉が風音の思考を埋め尽くす。
体に降ろされ、期待され、今は膝をついている。
情けない。
そんな時、バァンッ!と力任せに金属を打撃したかのような音がUSJ内に響き渡った。
そこから出てきたのは、NO.1ヒーローオールマイト。
それを確認した後、彼になら任せられる。と風音の体に宿る存在は体の主導権を風音に返し、風音は再び気絶した。
◇
◇
◇
「……ぅ」
知らない天井だ。
俺は何をしていたんだったか。
「起きたかい」
「…ぁ…りかばりぃがーる…」
「…大変だったねぇ。ここは雄英の保健室だよ」
茜色の光が、保健室内を照らしている。
大きな疲労感を無視して若干痛む体を無理やり起こす。
窓から下校する生徒たちを見る。
「…私は、どれぐらいの間、寝ていましたか」
「ざっと3時間ほどさね」
「そう…ですか」
隙をついて、電流を流されたのか。
今まで眠っていたらしい。
保健室内に視線をめぐらせると、バチコン、とベッドで上体を起こしたイズクと目が合った。
「イズク」
「うぉっわぁああ!い、いや!別にずっと君を見てたとか!そんなことは!」
「無事、だったのですね。よかった」
原作通りに行ってよかった。怪我も足以外は少ないようでよかった。
二つの意味を込めてイズクに言う。
ただイズクはその言葉を受けて「うん」とは言ったものの、何かを聞きたいようだった。
それを察した俺は休んでいる途中ではあるし、こんな機会もあっていいか、と緑谷に言葉をかける。
「どうかしましたか?」
「……………うん。少し、聞きたいことがあって」
「そうですか」
「…ねぇ、帯金さん。帯金さんの個性ってなんなの?」
…尋常じゃないか雰囲気で聞いてくるから何とは思ったが、そんなことか。
そういえば秘密にしていたのだったか。
いずれバレることではある。
もう言ってしまおうか。
「…私は、無個性です」
「……え?」
「え?」
え?
どうやら困惑している様子だ。
それも当然だろう。
無個性でも入れるほど雄英は甘くない。
「すみません。騙すつもりは無かったのです。あなた達は優しい。無個性と知れば無意識にでも手加減されてしまう。そんな事態を恐れ、私はこうして無個性であることを隠してきた……の、ですが…?」
「い、いやいや……え、風音さん。覚えて…ないの?」
「覚えて……いや、私は一瞬の隙をつかれ電流系の個性で気絶させられてしまいましたから。それ以降のことは」
「は?……いや、でもあれは絶対に風音さんだったし、もしかして別人…?いや、サポートアイテムも持ってたし……」
イズクがブツブツと考察をはじめる。
まさか自分が考察される日が来ようとは…
ってそんな場合じゃない。
イズクがこんな困惑しているからには、俺が気絶している状態で動いていたことになる。
この疑問を解消しなければならない。
「イズク!!」
「はい?!」
「すみません。大声を出してしまって。質問がしたいのですが、私は気絶したあとのことを本当に覚えていない。なにがあったのか教えて貰えますか?」
イズクが俺に話してくれた内容。
それはある意味で腑に落ちた。
曰く、尋常じゃない身体能力で改人脳無と互角以上に渡り合っていた。
曰く、言葉遣いは全く変わらなかったが、相澤先生をショウタ、と呼んでいた。
曰く、
…結論から言おう。
俺の英霊降ろしは成功していた。
個性はしっかりと発動していたのだ。
「イズク。情報提供感謝します」
「い、いや、それはいいんだけど。何かわかったの?」
「貴方のおかげで自分自身の個性を把握出来ました」
おお、とイズクは感嘆する。
あの質問のうちに判断したことに驚いたのだろう。
「私の個性は【
「おおっ!!」
「だと思っていました」
「おお?」
「そうなると、身体能力の増強の説明が着きません。ただ人格を作るだけだと思っていたんです」
「でも、自分のことを無個性って」
「……この際です。話しましょうか」
この個性を語る上では、俺の抱える歪をさらけ出さなければならない。
不安はある。
目の前の少年はどこか決心したかのようにこちらを見ている。
…話そう。
「私が、作られた人格。かもしれない。そう言ったら、イズクはどう思いますか?」
読んでいただきありがとうございます。
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