週二投稿二話目でふ。
「え?」
今の風音さんが、作られた人格かもしれない。
そう、言ったのか。
「細かい事情は省きますが、私は4歳の時に自分を自覚しました。その時、母に言われた言葉がなんなのかわかりますか?」
「………」
「誰?です」
「ッ!!」
その日、僕は彼女の歪さを思い知らされることになる。
◇
イズクは、瞳を震わせている。
当然だ。
個性の話を聞いていたら、身の上の、それも歪な話を聞かされているのだから。
「…私には、個性が発現したという感覚がなかったのです」
「……」
「それから私は無個性として過ごしました。私を形作ったであろう少女は、どこなのか。この体に元々あった人格はどこなのか。私は、生まれた瞬間に少女を殺してしまったのかもしれない。でも精神がそう単純では無いことも知っている。殺してしまったのなら背負います。でも、まだ生きているのなら……私の死力でもって救い出す」
「………」
「その救う方法を、探すために私は雄英に来ました」
細かい事情、目的を少し改変してイズクに打ち明ける。
思い、詰めたような顔をしていた。
悪い事をした。
軌道修正しようか。
「そういう事情もあって自分の個性が人格作成である【多重人格】だと思っていました。そういう根拠を元に、私は誠実で人を救うことができる人格を作ろうとしたんです」
「それが…敵襲撃の時に君の体を動かした…ってこと…?」
「……そういう…ことになりますね。さっきも言いましたが、無個性として過ごしていたため、それは失敗に終わったと、私は思っていました」
「…なるほど、何がきっかけで個性が発動するか分からなくて今まで無個性だと思ってたってことか。それで今回のこれで【多重人格】かとも思ったけど、人格を作っただけじゃあの身体能力、風が説明できないから、その可能性を切り捨てた訳で、実際はもっと強個性かもしれない…と」
必死に、頭を回して他人である俺の個性のことを考察してくれている。
そんな様子に俺は湧き上がる笑いを抑えきれなくなった。
「ふっ…ふふふっ」
「えっ?な、なんで笑うの…?」
「いえ、貴方とならばこの個性のことをもっと知ることができそうだと、思いまして」
「へぁ?!…お、おびがね」
「いつまでくっちゃべってる気だい?!」
俺とイズクが個性について話しているとリカバリーガールからお叱りの言葉が飛んできた。
見ればリカバリーガールは暗くなってきたためかカーテンを閉め、電灯をつけている。
そういえば保健室だったここ。
「はっ!はい!!…えっと、じゃあ帯金さん!帯金さんの個性についてもっと話そう!僕も力になるよ!…あっ、後日、になるけど…」
「いえ、ありがとうございます。助かります。ではまた」
「うん!じゃあリカバリーガール。ありがとうございました!失礼します!」
「あいよ」
ガラガラ、と扉を開け駆け足でイズクは帰っていく。
俺も帰ろうとベッドから足を下ろそうとするとリカバリーガールから声がかかった。
「待ちな」
「?」
「あんた。個性あるんだってねぇ」
「…ああ、さっきの話を全部聞いていたんですね」
「そりゃあんな大きな声で喋ってたら聞こえるよ」
「……聞いていたらわかると思うのですが…私は、無個性だと思っていました…でも今回の襲撃で私じゃない私が戦ったらしいのです」
「そう、言ってたねぇ」
「……これから、どうしたらいいんでしょうか」
「…イレイザーに言っておくよ。緑谷とも話し合って探っていけばいいさね」
「はい」
「それと、定期的にカウンセリングするから呼んだら来なさい」
「……いりますか?」
「いるに決まってるさね!!あんた!自分はどうなってもいいとか思ってんじゃないだろうねぇ!!」
「い、いえ」
「いーや!自分の元の人格を戻すためなら消えてもいいっていう言い草だった!!」
「そんなことは…」
「そんなことあるんだよ!!」
…その後すぐさまカウンセリングという名の説教を受けた。
思惑通りの進展ではなかったとはいえ、俺の個性、この体の個性について知ることが出来て、自分の秘密を共有できる人ができて。
俺は嬉しかった。
◇ ◇ ◇
「おはようございます」
A組のバカでかいドアを開け、言う。
見ればみんな揃っているようで、いっせいに視線がこちらに向く。
そういえば、彼らは俺じゃない俺を見ているんだったか。
その視線の意味に気づけば、みんなが質問したがっているのだ、と気づいた。
だが俺の事情は大々的に晒すものじゃない。
あの後イズクにも口止めをしておいた。
「おはよう!風音!」
「おはよう。風音ちゃん」
「おはようございます。風音さん」
「おはよう風音」
「おはようございます。ミナ、ツユちゃん、モモ、キョウカ」
そんなみんなの視線も無視し、割といつものグループとかした女子グループに合流する。
女子と言えばオチャコもいるが彼女はイズクのグループに大体いる。
「ねえねえ、風音は昨日のドラマみた?」
「何時のドラマですか?」
「22時よ」
「みんなは見たのですか?」
「見たよ。意外と面白かった」
「私はその時間は勉強していましたわ」
「そうなのですか…私は寝ていました…疲れていたので」
「そうなんだ…じゃあネタバレできないじゃーん」
そんなたわいもない話をしていると、いつも通りドアから相澤先生が入ってきた。
「あ、ホームルームだ」
「また話そーね」
「ええ、昼休みに」
そんな話をし、学友を見送ったあと相澤先生を見る。
ミイラマンが現れたんだが…
「相澤先生復帰はやっ!!!」
「先生、無事だったのね」
「無事には見えませんわ…」
そんな気遣いの言葉がクラス全体から飛ぶがそれを跳ねのけるように相澤先生は言う。
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
「戦い?」「まさか…」「また
「雄英体育祭が迫っている…!!」
「クソ学校っぽいのきたぁああああ!!」
雄英体育祭。
俺もこれまで生きてきてテレビで見てきた。
スポーツやらにあまり興味がなかったから毎年見るということはなかったが、両親が熱狂していたのは覚えている。
毎度の事ながら思うのは、原作漫画を読んだだけじゃ分からないことをこの世界で実感し、そこから改めて毎回疑問が生じている。
いやなんで体育祭そのままできるの?
原作の説明で「まあ…言ってることは理解できるよねぇ…」程度のものだったが、実体験が後押ししなし崩し的に理解させたソレは理解し難いものになった。
「相澤先生。体育祭は中止しないのですか」
「…雄英体育祭は人口の縮小で形骸化したかつてのオリンピックに代わる行事だ。
「い、意味?」
「逆に開催することで雄英の姿勢。危機管理体制は磐石であるというのを示す意味もある、ということだ」
言葉通り、警備を例年の五倍に増やす。と相澤先生は付け加える。
そしてこちらが本題である、というように相澤先生は言った。
「なにより、
雄英の体育祭はオリンピックに代わる行事であり、ヒーロー科最難関を謳う雄英には当然プロヒーローがやってくる。
それはつまり、ヒーロービルボードにのっているプロに自分の個性をアピールできる。ということだ。
当然、ヒーロー科は将来ヒーローを目指す子どもたちが集う場所であるからこのチャンスは見逃すことが出来ない。
相澤先生の言葉を借りるのなら敵ごときで中止するなどあってはならないのだ。
「何度も言うように、時間は有限。時は金なり。プロに見込まれればその時点で未来は拓けお前らの将来は現実になる。年に一回、計三回のチャンス。ヒーロー志すなら外せないイベントだ」
「……!!」
みんなが奮い立つ中、俺の興味は既に体育祭にはなく。
外に視線を向けていた。
◇
放課後。
俺は敵情視察で群がる生徒たちを圧倒的美貌で掻き分けそうそうに帰宅していた。
ただ少し寄り道をするために。
資料に書いてあった住所にやってきた俺は思った以上に自分が幻想を抱いていたことに気づいた。
窓ガラスはヒビが入っていてガムテープで補修されている。
その上、雑草はそのまま。
ポストには書類が詰め込まれていて、一言で言うなら「これが人の住む家なのか」と言わざるを得ない。
「………ここが、聖杯の在処」
昔から俺が聖杯と呼称する【理想を現実にする個性】を持つ
生きているか判然としないインターホンを押下して反応を待つ。
30秒ほど待っただろうか。
ガチャリと家のドアが開き、女性が顔を覗かせる。
最初に感じたのは喫煙者特有の脂の匂い。
それと酒臭さ。
「…あんただれ」
最低限の礼儀か、女性は玄関から出て扉を閉める。
懐からタバコを取り出し着火したのは驚いたが気にしないように努めて要件を話す。
「突然申し訳ありません。私は雄英高校一年の帯金 風音です」
「雄英…ね」
「…勘違いだったら申し訳ありません。中無 聖さんの関係者の方ですか?」
中無 聖の名前を出した瞬間、目の前の女性の目付きが変わった。
驚くように目を見開いたあと、睨めつけるように鋭くなっていく。
「……そんなやつ知らない…!帰れ!」
「待ってください。どうしても彼の個性が」
「知らないって言ってんだろ!!!」
「………後日、落ち着いたらまたお伺いします」
ヒートアップした彼女を前に、俺は為す術なく。
そのまま帰宅することになった。
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