直哉成り代わり♀がいく実力至上主義の教室   作:一夏 茜

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第1話

 私の頭の中には漫画がある。

 

 ────ブラウザバックするのは少し待ってや。正直さっぱり意味が分からないと思うわ。もし私があんさんの立場でもそうや。

 ……しかし事実なのだ。幼い頃、いや物心がつく前からずっと、この頭の中には漫画があった。私は頭の中で自由にその漫画をめくり読み耽ることができた。

 何度も心を躍らせた、強者たちの戦い。その漫画のタイトルは『呪術廻戦』。呪術師たちの血生臭い激闘が記されていた漫画だ。

 その中でも、私は『直哉』というキャラに感情移入していた。私と同じ、この禪院の家に生まれた禪院直哉。名前も、生まれも、その夢も、強さへの執着も私と同じ。違うのは性別くらいか。

 そう、なんのことはないあっさりと夢を果たせず死んだ三下のやられ役。これ以上ないくらいの憎まれ役で、この漫画が連載していれば散々読者から石を投げられ、退場した暁には赤飯が炊かれるであろう男。なぜだろうか私は、この男をどうも他人とは思えなかった。

 

 そうだ、こいつは私なのだ。こいつの心に宿る火。私と同じだ。強者への何をしても拭えない渇望。腹の底で馴染み、消えない焔を灯して燻るその苛烈な生き様。認めるしかない。この男が本来私の立ち位置にいる、私が男だった場合の禪院直哉なのだ。

 

 この男の死に様を見て、幼い私は決意した。

 

 きっと私はこいつと同じだ。────同じだからこそ私はそんなふうにはならない。周りへの暴言に暴行なんてのはどうでもいい。そんなことは些細なことだ。問題は、そう彼があっさりと夢を果たせず死んだことだ。許せなかった。絶対に私はそうはならん。志なかばで死に絶えるような、呪霊なんかになってそれであっち側に行けたと思えるような、そんな奴には絶対ならん。私は強者を目指してひた走る。誰であろうとその道を阻む奴は容赦せん。蹴り飛ばしてでも前に進んでやる。

 ────そうや、私は、あっち側に行くんや。

 

 そう決意して、10年が過ぎた。

 

 

 

 ◇

 

 

 「ハア、どいつもこいつも雑魚ばっかやないか……憂鬱や」

 

 高速道路をひた走るバスの中、頬杖をついた私はため息をついた。外ではキラキラと日光を受けて輝く海が見える。イライラと組み換えた足が乱暴に前の背もたれにガンと音を立てて当たった。私はそれに気にした様子もなく舌打ちをこぼした。

 私が今着ているのは、同じようにバスに乗っている周りの新入生と同じゴールドのラインが入った赤いブレザーに青いリボン。それに白のスカート。誰が見てもわかる、制服だ。普通のものより少しばかり派手だが。

 今から入学するのは高度育成高等学校。東京湾に浮かぶ場所にあり、60万平米を超える程の敷地を大都会の真ん中に形成している、国が主導する指導を行う高等学校。進学・就職率ともにほぼ100%、この学校の卒業生は希望する進路に必ず進むことができるらしい。……怪しすぎるやろ、絶対なんか裏があるに決まってるわ。

 大体なんで私がこんな面倒そうな学校にいかんとあかんねん。私は強者になるための修行がしたいのや、こんな頭でっかちちゃんみたいな奴ばっかがいそうな名門に用はないっていうのに。あんのクソジジイ。面白そうにニヤと笑いながら無理やりこの学校に行くことに進めたクソ親父を思い出して私はため息を吐いた。何が、「お前の望むものがそこに行けば得られるかもしれんぞ」だ。私が欲しいのは強者との血の沸くような闘いじゃ、ボケ。

 

 あの時はここが呪術廻戦の世界だと疑いもしていなかったが、どうやら違うらしいと気づいたのは何年か経ってから。いつ憧れの甚爾くんに会えるかとワクワクしていた私だったが、いつまで経ってもその日は来ない。訝しく思った私は昼間っから酒を飲んでいる親父にいつ呪術師としての訓練は始まるのか聞いた。

 

 「呪術師? 術式? なんだそれは」

 

 その言葉は私を絶望の淵に叩き落とすには十分すぎた。

 そうだ、私には投射呪法がない。それどころかここには呪力という概念もないらしい。呪霊もいない。そんなの絶対におかしいやろ。だって間違いなくここは禪院で、私は禪院直哉なのだ。なのにここは呪術廻戦の舞台ではないという。

 私は憤ったが、現実は現実。ここに私の憧れ(禪院甚爾)はいないし最強(五条悟)もいない。

 

 私は頬杖をつきながた大きなため息を吐く。毛先に黒のメッシュが入ったロングの金髪をいじった。胸に暗雲とした澱みが渦巻いていた。もちろんあれから強者となるための鍛錬は欠かしたことはない。周りには何をそんなに必死になるのかと言われたこともあるが……。うっさいんじゃボケ、お前らみたいな弱者に関係あるか。汗を流しながら体を痛めつけ鍛錬を続ける私がそう吐き捨てるとそれ以上は何も言われなかった。

 しかし、目に見えた目標がいないというのは気分が萎える。吐き気がするほどの退屈があれから私に取り憑いていた。

 うちはどうやら政治家を代々世に送り出している歴史ある名門の家だそうだ。その世界では有名な名家でかなりの権力を握っているらしい。まあ政治の世界になんて興味もないけど。うちの当主である禪院直毘人、クソ親父は私が鍛錬を続けるのを否定も肯定もしなかった。そしてある時、「強者を目指すのならお前にぴったりの学校がある」と話を持ちかけてきたのだ。

 

 それがこの学校だ。窓の外には雄大な土地の中に構える近代的で巨大な建物が見えていた。

 

 ようやくバスが到着したようだ。バスの外では豪勢な春色の桜が咲き誇っている。十分美しいとは思うが私の興味をそそりはしない。ゾロゾロと一斉に生徒たちがバスを降り、校門に向かって歩みを進める。校門を通るとすぐ、昇降口前に新入生のクラスがはられている掲示板があった。少し人だかりができている。私は歩み寄ると無感動に自分の名前を探した。

 

 「ほーん、Dクラスな」

 

 校舎に入ってすぐに私は違和感を覚えた。監視カメラが多い。監視カメラぐらい、これほど最先端な学校にはあってもよさそうだが、明らかにこの量はおかしい。歩きながら私は思案した。わかりきっていたことだが、どうやらここは普通の学校ではないらしい。それもかなり。クソ親父が勧めたわけもあると言うことか。

 

 「これは……ちょっとおもろいかもしれんな」

 

 扉の上にはDクラスの文字。教室にたどり着いた。見上げればやはりこの教室にも監視カメラが三つも設置されている。ガヤガヤと喧しい凡夫どもは何も気づいてないようだ。

 鞄を横にかけて席に座った私は頬杖をついて辺りを見回した。なんや、パッとしない面ばっかやないか。雑魚、雑魚、雑魚ばっか。私は顔を歪めた。少し期待した自分がアホみたいや。その時、背後に気配を感じた。きっと後ろの席の奴がきたのだろう。

 

 「入学早々随分と重たいため息ね。私もあなたとの再会にため息をつきたい気分よ」

 「……同じクラスだったなんてな」

 

 どうやら私の後ろの席の誰かは男子生徒で、横の女子生徒と険悪な会話をしているようだ。男の方は抑揚のない話し方の無気力そうな声だ。女の方はえらくプライドが高そうで、おまけに性格が悪そうだった。ま、私に喧嘩を売るようなら泣いて許しを乞うまで痛めつけるまでだが、赤の他人になら全然構わない。是非とも励みたまえと私は鼻を鳴らした。

 教師がくるまで一眠りしておく前に、私の後ろの席になった間抜けな顔でも拝んでおくかと、椅子の背もたれに腕をついて振り向いて、私は固まった。

 

 その衝撃をなんと表わそうか。腹の底がカッと熱くなり、心臓がバクバクと激しい鼓動を刻み、息が詰まって言葉が出てこない。はくはくと口を動かし固まっていると、彼は怪訝そうにこちらを見つめた。それにさえ私は激しい鼓動に心臓を抑えた。まるで彼にだけ太陽の光が集まっているように輝いてみえた。

 

 一見影が薄そうな顔だ。どこか無機質な瞳。中肉中背の体格で外ハネの茶髪。どこにでもいそうな男子生徒に見える。しかしうまく隠しているようだが私の観察眼は誤魔化せない。内から滲み出るようなその存在感。その佇まい、身体の、筋肉の動かし方一つ一つが言っている、この男は只者じゃないと。

 そうだ、この者は強者だ。私の中でそれは疑いようのない事実だった。それどころか私は生まれてきてこれまでこれほどの強さを持つ人にあったことはなかった。

 私は彼の机に身を乗り出して叫んでいた。

 

 「あっち側……あっち側や!! 見つけた、やっと見つけた!!」

 「あっち側?」

 

 のけぞるようにして私を避ける彼の瞳が、一瞬鋭さをもつ。私はそれどころじゃなく頬を染めてきらきらとした目で彼を見ていた。

 間違いないと思った。この人や、この人が私の憧れ!! 直哉の、私の目指す強さの象徴!!

 これから私はこの人の背中を目指してひた走るんや!!!

 

 そして我に帰った私は、椅子に座ると後ろの彼の机に腕を置き、これ以上ないくらいの上機嫌で彼に尋ねた。

 

 「なあ、名前なんて言うん? 私、直哉、禪院直哉や!! 直哉って呼んでや」

 「あ、あぁオレは綾小路清隆だ。よろしく」

 「清隆くんって言うんやね!」

 

 私はちょっと嬉しそうに自己紹介する清隆くんの顔をニコニコと見つめた。

 こんなところで、こんなに素晴らしい強者と出会えるなんて思ってもみなかった。それだけでここにきてよかったと思えた。柄にもなく親父に感謝をしたい気分や。クソ親父のやつたまにはやるやん!! 

 

 

 





 禪院直哉

 性別:女

 身長:163センチ
 体重:55キロ

 学力 A
 知力 B-
 判断力 B
 身体能力 A
 協調性 D

 学力、身体能力ともに試験では目覚ましい結果を残している。しかし、小学校中学校では友人を一人も作らず一人で行動し、さらにはクラスメイトを見下した言動をし暴言を吐くなど、他人に対する思いやり、配慮に欠けた言動が多々見られる。また無断欠席や、地域の暴走族または素行不良者との喧嘩など、何かとトラブルを起こすことが多い。そのため社会に送り出すには矯正が必要と判断し、今後の成長を期待してDクラスへの所属に決定する。
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