直哉成り代わり♀がいく実力至上主義の教室   作:一夏 茜

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第2話

 そうしている間にもチャイムがなり、それと同時に教師が入ってきた。スーツを着た女で、髪を一つに括りポニーテールにしている。

 

 「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う。よろしく。今から一時間後に入学式が体育館で行われるが、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらう。以前入学案内と一緒に配布はしてあるがな」

 

 特殊なルール、な。それに対しては実に興味がある。監視カメラといい、Sシステムといい明らかにこの学校は異質だ。私は椅子を後ろに傾けながら鼻を鳴らした。前の席から資料が回ってくる。私は受け取ると自分の分を取って、少ない残りは後ろの清隆くんに満面の笑みで渡した。清隆くんはちょっとキョドリながら礼を言って受け取る。なんやの?

 

 「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することが出来るようになっている。クレジットカードのようなものだな。ただしポイントを消費することになるので注意が必要だ。学校内においてこのポイントで買えないものはない。学校の敷地内にあるものならなんでも購入可能だ」

 

 私は配られた学生証カードを指に挟み、じっくりと眺めた。不遜な態度でこちらを見る私が写っている。学生証と一体化したこのポイントカードは学校での現金の意味合いを持つ。”ポイントで買えないものはない”……か。それは文字通りの意味だと考えていいんやろうな。

 

 「施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで使用可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろう。それから毎月一日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントがすでに支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 教室がざわつく。一ヶ月に10万円か……どう考えても多すぎやろ。生徒が何人いると思ってんねん。単純に計算しても1クラス40人で4クラスあるから一学年160人やろ、それが三学年あるから480人。それに10万掛けたら……一ヶ月に4800万円かかるっちゅう計算や。一年になったら5億7600万。生徒の生活費だけでこれや。呆れた私は片眉を上げた。どんな学校やねん、これが本当に税金で賄われているとしたら紛糾ものや。国民総出のデモが勃発してもおかしくないやろ。

 しかし耳を澄ますもクラスメイトたちはこの違和感に全く気づいていないようだ。明るい表情で純粋に喜んでいる。ほんま頭も雑魚とか勘弁して欲しいわ。

 

 「ポイントの支給額が多いことに驚いたか? この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。そのことに対する評価みたいなものだ。遠慮することなく使え。ただし、このポイントは卒業後には全て学校側が回収することになっている。現金化したりなんてことは出来ないから、ポイントを貯めても得はないぞ。振り込まれた後、ポイントをどう使おうがお前たちの自由だ。好きに使ってくれ。仮にポイントを使う必要がないと思った者は誰かに譲渡しても構わない。だが、無理やりカツアゲするような真似だけはするなよ? 学校はいじめ問題にだけは敏感だからな」

 

 どうも胡散臭い説明だ。持ち上げるようなことを言って何か誤魔化していないか? 私は机に肘を立てたその手で口元を覆いながらも思案してた。

 

 「質問はないか?」

 

 しばらく考えたあと、私は手を挙げた。ニヤと口角を上げて口を開く。

 

 「今さあ、佐枝ちゃん先生、支給額は実力で測られるって言うたやんな」

 「そうだ」

 

 「ほんまに”このクラス”に10万の価値があるってことやんなあ。ここで一つ疑問なんやけど、来月もおんなじようにその価値があると下されるんやろか?」

 

 茶柱は腕を組んで少しニヤニヤし始めた。この反応は当たりやね。少し教室がざわめく。これでわかるやつはわかるやろな。これでわからんのは救いようのない馬鹿だけや。

 

 「その質問には答えられないな。それと、取ってつけたように先生とつけても教師をちゃん付けで呼んだ事実は覆らない。茶柱先生と呼べ」

 「ほーん、なるほどなあ。大体わかったわ、佐枝ちゃん先生」

 

 茶柱は教室を出て行った。ザワザワとし始めた教室に私は顔を顰める。雑魚は嫌いだが、口やかましい雑魚はもっと嫌いや。斜め後ろの女が「どう言うこと? ……まさか、いや……そんな」とぶつぶつ言っている。その時、一人の声が響いた。

 

 「皆、少し話を聞いてもらってもいいかな」

 

 スッと手を挙げて言葉を紡ぐのは好青年と言った感じの優男だ。見る限り強くもなんともない顔だけ男やな。

 

 「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 「賛成ー! 私たち、まだみんなの名前とか全然分からないし」

 

 アホくさ。私はあくびを噛み殺した。馬鹿馬鹿しい。なんで私が雑魚どもと気色の悪い馴れ合いなんざしなくちゃならんや。

 

 「僕の名前は平田洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから、気軽にしたの名前で呼んで欲しい。趣味はスポーツ全般だけど、特にサッカーが好きで、この学校でも、サッカーをするつもりなんだ。よろしく」

 

 しかし本人はもうすらすらと自己紹介を始めている。クラスの女どもはすでにこの男にほの字のようだ。何がいいのだろうか。さっぱり分からんわ。

 

 「もし良ければ、端から自己紹介を始めて貰いたいんだけど……いいかな?」

 

 次々と自己紹介が進んでいく。私は頬杖をつきながらそれを聞き流していた。はあ、どうでもよ。この時間があるのなら鍛錬に当てたいところだ。

 

 「じゃあ次────」

 

 促すように次の生徒に視線を送る平田だが、次の生徒は強く平田を睨み据えた。髪を真っ赤に染め上げた、不良って感じのやつだ。

 

 「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねえよ。やりたい奴だけでやれ」

 

 それもそうやね。私は頷く。頭がお花畑の連中はそいつらだけでつるんでいたらいいのだ。

 

 「僕に強制することは出来ない。でもクラスで仲良くしていこうとするのは悪いことじゃないと思うんだ。不愉快な思いをさせたのなら、謝りたい」

 

 平田は頭を下げる。私は白けた目でそれを見た。人畜無害の好青年って感じやね。こんなにもつまらなさそうなやつがいるとは。大体こいつは、今この時点で自分が謝ったら逆に赤髪の方が周りに追い詰められる立場になるとわかってないのか。分かった上でその選択を取ったのならとんだ腹黒だと褒めてやろう。

 

 「自己紹介くらいいいじゃない」

 「そうよそうよ」

 

 平田を謝らせたことで完全に女子の顰蹙を買ったらしい。ほら見たことか。

 

 「うっせぇ。こっちは別に仲良しごっこするためにココに入ったんじゃねえよ」

 

 赤髪は席をたった。それに続くように何人かが席をたつ。私も立ち上がったその時、固まる。背後の清隆くんが動いていないのを見たからだ。私は口を押さえて尋ねた。

 

 「え、清隆くんは自己紹介に参加するん?」

 「あ、あぁ。まあな」

 

 私はそれを聞いて椅子に座り直す。なんや、清隆くんが自己紹介すると決めたんならそう言ってや。そうしている間にも次々と自己紹介は進んでいく。

 

 「あの、自己紹介をお願いできるかな────?」

 「フッ。いいだろう」

 

 手鏡を見ながら長い前髪を櫛で整えていたその生徒を視界に入れた私はハッと驚いた。あっち側や。こんなところにもあっち側がおる。息を呑むのはその完成された肉体。清隆くんの方が上とはいえ、こんなにも早くあっち側の人間と出会えるなんて今日は最高の日や。彼は机の上に両足を乗せると自己紹介した。

 

 「私の名前は高円寺六助。高円寺コンチェルンの一人息子にして、いずれはこの日本社会を背負って立つ人間となる男だ。以後お見知りおきを、小さなレディーたち」

 

 私はニコニコと拍手をした。しかし拍手をしたのは私だけのようだ。皆、変人を見る目で見ている。

 

 「それから私が不愉快だと感じる行為を行った者には、容赦なく制裁を加えていくことになるだろう。その点には十分配慮したまえ」

 「えぇっと、高円寺くん。不愉快と感じる行為、って?」

 

 平田が聞き返す。

 

 「言葉通りの意味だよ。しかし一つ例を出すなら────私は醜いものが嫌いだ。そのようなものを目にしたら、果たしてどうなってしまうやら」

 

 六助くんは長い前髪をかきあげた。

 

 「あ、ありがとう。気を付けるようにするよ」

 

 そうして清隆くんに順番が回ってきた。

 

 「えーっと、次の人────そこの君、お願いできるかな?」

 「え?」

 

 どうやら清隆くんは考え事でもしていたらしい。虚をつかれた顔をしている。すぐに立ち上がって、清隆くんは口を開いた。

 

 「えー……えっと、綾小路清隆です。その、えー……得意なことは特にありませんが、皆と仲良くなれるように頑張りますので、えー、よろしくお願いします」

 

 私は満面の笑みで清隆くんを見ながら拍手をした。周りもパラパラとまばらに拍手が送られる。

 

 「よろしくね綾小路くん。仲良くなりたいのは僕らも同じだ、一緒に頑張ろう」

 

 平田は爽やかにそう言った。しかし清隆くんは頭を抱えている。なぜだろう……まさか自己紹介を失敗したとでも考えているのかもしれない。強者からしたらそんなもの、どうでもいいだろうに。次は私の番だ。私は首に手をやるとめんどくさいという態度を隠すことなく言い放った。

 

 「禪院直哉や。好きなんは強い奴。嫌いなんは雑魚とポンコツ。雑魚と仲良しこよしするつもりはないけど、ま、せいぜいよろしゅう頼むわ」

 

 

 

 

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