直哉成り代わり♀がいく実力至上主義の教室   作:一夏 茜

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第5話

 学校二日目。授業初日ということもあって授業方針などの説明が主だった。教師や授業の様子を見る限り厳しそうな感じではない。居眠りする奴も何人かいたが、教師たちは叱るどころか注意することもなかった。私は頬杖をついて監視カメラを見上げる。やはり、『これ』があるからなのだろう。わざわざ教師が注意するまでもないのだ。授業態度が悪い生徒、いやクラスはすぐに地獄へ叩き落とされるのだから。

 昼休みになり、生徒がそれぞれ散っていく。私は振り向くと満面の笑みで清隆くんを見た。

 

 「一緒に昼ごはん食べへん?」

 

 清隆くんはきっと”友達”に誘って欲しいのだろうと思い至ってのことだった。想像通り、清隆くんはちょっと表情を明るくして頷く。それを見ていたらしい清隆くんの隣の席に座る堀北が冷笑を浮かべながら言い放った。

 

 「従順に付き従ってまるで犬ね。こんなのが何がいいのか分からないけど、相当趣味が悪いのね。哀れでならないわ」

 

 こちらに寄越される視線を見る限り私に言っているようだ。頭の中でゴングが鳴った。まあ清隆くんに言っていたとしても言い返さないという選択肢はないけど。

 

 「えー……鈴音ちゃんやっけ? 構ってちゃんもほどほどにせえや。その年でやっても寒いだけやで。痛々しくてほんま見てられへん。誰もあんさんに話しかけてないのにようやるわ。清隆くんの価値がわからんポンコツの雑魚のくせして黙っとくこともできへんのかいな。……立場を弁えろや」

 

 最後の言葉はドスが効きすぎてえらい低い低音になってしまった。しかし堀北は一切怯まない。

 

 「言わせてもらうけれど、”この人”のどこに価値を感じているのか甚だ疑問だわ。まあ懇切丁寧に説明されたとしても誰も理解できないでしょうけど。私が誰をどんなふうに評価しようと私の勝手よ。あなたの価値観を押し付けないでくれるかしら。不愉快よ」

 「はあ? 脳みそ足りてるんか? これだからポンコツは困るねん。一目見ればわかるやろ、清隆くんは────」

 

 言いかけたその時、私はハッとした。清隆くんがこちらを少し睨んでいたのだ。私は口を閉じた。

 

 「清隆くんは……何かしら」

 

 勝ち誇ったように言葉を続ける堀北。私はピキピキとこめかみに青筋を立てた。まじでコイツ泣くまで殴り倒したろか。

 

 「堀北さんも禪院さんも落ち着いて」

 

 思わず拳を握ったその時。強引に割って入った奴……確か名前は平田だったか。仲裁するように間に入ると私の肩を持って強制的に距離を取らされる。私はゴミでも見るような目でその手を見下ろすとはたきおとした。見回すとクラスの皆がこちらを注視している。注意深くこちらを観察するその目に宿る感情は決していいものだけではない。私はため息をついた。

 

 「はあ、まあええわ。……ほな、行こか。清隆くん」

 

 

 ◇

 

 

 食堂にやってきた。それなりに生徒がいて、賑わっているようだ。私はニコニコと清隆くんの顔を覗き込んで話しかけた。

 

 「清隆くんはなに食べるん? 私は鯖定食にでもしとこかな。和食が食べたい気分やねん。実家では和食しか出んかったから家出てから色々食べてみたんやけど、最後にはやっぱ和食に落ち着くわ。洋食も美味しいけどなんか落ち着かんのよな」

 「オレは……山菜定食で」

 

 山菜定食。この食堂に唯一あった無料メニューだ。山菜の天ぷらに味噌汁。それに白ご飯。まあ普通に食えそうやんか。味はどうなんやろか。

 

 「清隆くんもう節約始めるつもりなんか。真面目やね」

 「直哉が言ってただろ? それを聞いてオレも気をつけようと思ってな」

 

 よう言いはるわ。私は目を細めた。清隆くん私がそれ話した時少しも驚いてなかったやん。予想はしとったんちゃうんか。食堂のおばちゃんに注文してそれぞれ受け取った私たちは適当に席を探すと、向かい合わせに腰掛けた。

 

 「……なかなかいけるやん。この焼き鯖美味いわ。そや、清隆くんも一口いる? 山菜定食もどんなもんか知っときたいから交換しようや」

 

 私は鯖定食に舌鼓を打ちながら、清隆くんの山菜の天ぷらを指さして聞いた。なぜかそれを聞いた清隆くんは「え」と固まる。

 

 「ええやんええやん。一つもらうで」

 

 清隆くんの皿から山菜の天ぷらをかっさらう。一口齧って見て私は顔を顰めた。

 

 「苦味がえぐいな。食べれるっちゃ食べれるけど……こりゃ進んで食うもんちゃうで。もしかしてこの苦味もわざとなんか?……まあええわ、一口焼き鯖とってええで。……どうかしたんか? もしかして私の”あーん”がないと食べれんのやろか?」

 

 私はニヤニヤしながら人差し指で清隆くんの頬をつつく。清隆くんは困ったように私を見ると、遠慮がちに箸を伸ばした。

 

 「じゃあお言葉に甘えて……いただくからな」

 「どうぞ?」

 

 清隆くんは焼き鯖を箸を使って器用に一口分に割ると、口元に運ぶ。咀嚼して飲み込んだ清隆くんは告げた。

 

 「美味しいな」

 「やろ? なかなかいけるやろ? 清隆くんにも食べてみてほしかってん!」

 「直哉の”なかなかいける”が評価として分からないが、十分美味しい方だと思うぞ」

 

 そうしている時。食堂の天井に取り付けたれたスピーカーから音楽が流れてきた。

 

 『本日、午後五時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日────』

 

 清隆くんは少しそわそわしながら口を開いた。

 

 「なあ直哉……」

 「ええで」

 

 清隆くんは目を瞬かせた。

 

 「まだなにも言ってないだろ」

 「言われてなくてもその様子見ればわかるわ。部活動の説明会やろ。私もちょっと興味あってん。一緒に行こか」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そう言うわけで私と清隆くんは放課後、体育館に来ていた。もう一年生たちがザッと見る限り100人ほどは集まっている。清隆くんは体育館に入る際に配られたパンフレットを眺めていた。私は清隆くんに尋ねた。

 

 「強いとことかあったん? どうせなら強いとこに入りたいわ」

 「どの部活動も高いレベルらしい。全国クラスの部活や選手も多いみたいだ」

 「へえ、それは期待やね」

 

 ふと清隆くんはパンフレットから目を離すと私の目をみた。

 

 「直哉は入るとしたらなんの部活に入りたいんだ?」

 「ま、そうやね。剣道か、柔道部か、空手か、あるならボクシングとか……とにかく強者が集まるとこやね。私は強くなることが目的やから。スポーツやからルールがあるのはめんどいけど」

 「なるほど。直哉らしいな」

 

 

 「一年生の皆さんお待たせしました。これより部活代表による入部説明会を始めます。私はこの説明会の司会を務めます、生徒会書記の橘と言います。よろしくお願いします」

 

 先輩らしい、橘と名乗る女子生徒の挨拶の下、舞台上にずらりと部の代表者が並ぶ。柔道着や弓道着を着ていたり、着物を着ていたり、様々な格好をした上級生たちだ。

 私はそれから無感情に舞台上での部の紹介を見ていた。順番にその部の者が説明をするが、それを眺めていた私はため息をつきたい気分だった。

 

 「なんや、一人もあっち側がおらんやないか」

 

 まあ強者と呼べなくもない者が一人いるが……清隆くんには全く届かないレベルだ。

 Dクラスに二人もあっち側がいたことから、この学校にはあっち側の強者が集ってきているのかと思っていたが、単なる思い込みに過ぎなかったらしい。あのクラスに二人もいたのは完全なるまぐれで、やはりあっち側の者とは簡単に会えるようなものではないのだろう。その中で会えた幸運を喜ぶべきか、変わらずあっち側がいないことを悲しむべきか。

 

 説明を終えた先輩たちから順に舞台を降りて簡易テーブルの方へ向かう。一人、二人、三人、次々人が去っていき、残っているのが一人になった。その男を見た私は眉を動かした。さっき確認した男だ。清隆くんには遠く及ばないが……何か油断できない男だと私は漠然と思った。

 細みでさらりとした黒髪。メガネをかけたその男はじっと黙って動かない。緩んだ雰囲気を持っていた一年生たちだったが、次第に緊張を孕んだ空気が伝染するように静かになっていく。そうして静寂が三十秒ほど続いたその時。男は口を開いた。

 

 「私は、生徒会長を務めている、堀北学と言います」

 

 堀北……あの女と同じ苗字やな。偶然か、はたまた兄弟か。まあどうでもええけど。

 その男は生徒会の勧誘のために壇上に立っているようだった。一年生からの立候補者を募ると言っている。しかしその口調は柔らかいものの、肌を突き刺すような緊張感がその場を制していた。

 

 「それから────私たち生徒会は、甘い考えによる立候補を望まない」

 

 ”我が校の生徒会には、規律を変えるだけの権利と使命が、学校に認められ、期待されている”だと。私はあくびを噛み殺しながら話を聞いていた。心底どうでもいいし、そう言う規律だとか誇りだとか信念だとかの話はどうも肌に合わない。

 くだらんのや。私は首に手をやると気だるげにため息をついた。

 そう言う目に見えないものは信じない。例外としてあるとしたら強さだけだ、信じるのは。強さだけが自分を裏切らない。強さ以外の全てが無意味で無価値なのだ。

 

 彼は演説の中で念入りに釘を刺すと、壇上を降りた。その間も張り詰めた静寂が、司会者が話し出すまで続いていた。

 

 

 

 

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