直哉成り代わり♀がいく実力至上主義の教室   作:一夏 茜

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第8話

 「ポイントが入らないって、これからどうするんだよ」

 「私昨日、残りのポイント全部使っちゃったよぉ」

 

 教室は騒然としている。誰もが混乱しているのだろう。どんどん険悪な雰囲気になっていく。ま、当然やね。学校からの評価はともかく、普通の奴が進学先や就職先なんてどうでもいいとはなかなか割り切れないだろう。

 しかし私には関係ないことだ。私はあくびをこぼすと机に突っ伏した。

 

 「……ぜ……さん、禪院さん、ちょっといいかな」

 「……あ? 何やの? こっちは寝ときたい気分やねんけど」

 

 気持ちよく微睡んでいた私に話しかけてくるのは平田の声だ。私はイライラしながら顔を上げた。

 

 「放課後、ポイントを増やすためにどうしていくべきか話し合いたいんだ。ぜひ禪院さんにも参加してほしい」

 「はあ? めんど。なんで私がそんなことやらなあかんねん」

 

 「お願いだ、この通り」

 

 平田は頭を下げた。私はそれを無感動に眺める。こいつはそんな情に訴える方法で本当に私が説得できると思ってはるんやろか。こっちは周りの目だって気にするようなやわな精神してへんっちゅうのに。それか……これくらいしか思いつかなかったのか。

 

 「禪院さん、君は最初からこの学校の制度に気づいていたんだろう? このクラスには君の力が必要なんだ」

 

 見なくても教室中からこちらが注視されているのがわかる。まあどうでもいいが。

 

 「ハア……清隆くんは?」

 

 やる気なさげな態度で頬杖をつきながら私は問う。平田はちょっと戸惑うように私を見る。この言葉だけでは理解できなかったらしい。

 

 「だから、何度も言わすなや。清隆くんは参加するんかって聞いてるねん」

 「いや……綾小路くんは……」

 

 断られる気配を感じて、平田は表情を暗くして言葉を濁す。私はまたでかいため息をこぼした。

 

 「あのな、親切心でアドバイスしたるわ。人を動かしたかったら相手の望むもんくらい予想しとかなあかんで。力ずくが無理なんやったら尚更。利害もないのに人が思い通りに動くわけないやろ? ま、私の場合は清隆くんやな」

 

 逆に言えば清隆くんさえ動かせれば、私も動くということだ。ここまで言ってやったのは、単なる気まぐれにすぎない。興味があるとしたらこの男の過去だ。これだけ社交性があり気配りもできる優等生がなぜDクラスにきたのか。何かデカい厄介ごとを引き起こしたからに決まってる。それでいうと櫛田も気になるな……。

 

 その時、池とかいうカスが口を開いた。

 

 「なあ、知ってたって……ポイントが支給される仕組みが分かってたってことか?」

 「ま、そうやね」

 

 その目に映るのは疑念と反発。池だけではない、この教室にいる何人かは私に生ぬるい敵意のようなものを向けている。私は爪を眺めながら、おなざりに答えた。あ、ささくれ発見。

 

 「ならなんで教えてくれなかったんだよ! 知ってたらこんなことにならなかっただろ。お前のせいで俺たちは0ポイントに……ッ」

 「ッハ、私のせい? おもろいこと言うなぁ」

 

 私は嘲笑を顔に浮かべて池を見る。池はたじろぐように少し後ろに下がった。

 

 「頭の悪いカスに一から説明してやって納得させるのも労力かかんねん。大体こんなことにも気づかん雑魚のカスになんで私がその労力使って足並み合わしてやらんとあかんの? あんなにはっきり言われんと、この学校の仕組みに気づかへんのがお前らの”実力”なんやろ。それを私のせいにするところがカスやっていってんねん」

 

 空気が重苦しく凍りつく。平田は慌てたように拳を握り悔しそうにする池の手を押さえた。「気持ちはわかる。でも落ち着いて」といっているのが聞こえる。

 

 「ひどい……」

 「そこまで言わなくてもよくない?」

 

 ひそひそとクラスメイトの誰かがこぼした言葉が耳に入るが、私は鼻を鳴らして頬杖をつくと窓の外を眺めた。

 

 ◇

 

 

 放課後。平田は教壇に立ち黒板に書き込んで対策準備を進めている。そこそこの人数が参加するらしい。私は教室を出ようと立ち上がった。後ろを振り向くと清隆くんは何やら櫛田と話しているようだった。その時。

 

 『1年Dクラスの綾小路くん、禪院さん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室まで来てください』

 

 教室に取り付けられたスピーカーから効果音の後、そんな案内が流れる。私は首を傾げた。呼ばれる理由が思い至らない上に清隆くんと一緒かいな。

 

 「清隆くんなんか覚えある?」

 「いや、特に思い至らないが……」

 「何やろね。まあ一緒に行こうや」

 「ああ」

 

 櫛田にひらりと手を振り、私は清隆くんと教室を出ると廊下を歩き出した。私は腕を頭の後ろで組み、ニヤニヤしながら話す。

 

 「それにしても、今日の雑魚どもの慌てふためきようっっていうたらほんまにおもろかったなぁ。取っ組み合いとかになったらもっとよかったんやけど」

 「直哉……性格悪いぞ」

 

 清隆くんは呆れたように私に視線をやる。

 

 「そうか? これくらい普通やろ」

 

 私はケロッとして答えた。そうこうしているうちに職員室にたどり着く。清隆くんはそっと職員室の扉を開くと、鏡で自分の顔をチェックしている教師に向かって口を開いた。

 

 「あの、茶柱先生います?」

 「え? サエちゃん? えーっとね、さっきまでいたんだけど。」

 

 振り返った教師は軽くウェーブのかかった髪をしている。顔は整ってる方やね。まあ私には負けるけど。

 

 「ちょっと席をはずしてるみたい。中に入って待ってたら?」

 「いえ。じゃあ廊下で待ってます」

 

 私と清隆くんは廊下に戻ると、茶柱を待つために立ち尽くした。ったく、そっちが呼び出したんだから、せめて職員室で待ってろや。何でこっちが待たなあかんねん。そういうのほんまムカつくわ。

 すると何を思ったのか先ほどの教師が扉から出てきた。

 

 「私はBクラス担任の星之宮知恵って言うの。佐枝とは高校の時からの親友でね。サエちゃんチエちゃんって呼び合う仲なのよ〜」

 

 どうでもよ。私はめんどくさいという態度を隠すことなく首に手をやるとそっぽを向いてあくびをした。さっさとあっちに行ってくれへんかな。

 

 「ねえ、サエちゃんにはどう言う理由で呼び出されたの? ねえねえ、どうして?」

 「さあ、それはオレにもさっぱり……」

 

 めんどくさ。なんやこいつ。私は胡乱な目で上から下までジロジロ眺めた。こんなやつも教師になれるのかいな。何や私でもできそうやん。絶対に教師になんてならんけど。

 

 「分かってないんだ。理由も告げずに呼び出したの? ふーん? 君たちの名前は?」

 「綾小路、ですけど」

 「……禪院」

 

 質問攻めかいな。星之宮はこちらを観察するようにジロジロを眺める。清隆くんに続くように私は腕組みしながらそっけなく言った。

 

 「綾小路くんと、禪院さんかぁ。二人はどう言う関係なの? 恋人?」

 「いや、違いますけど……」

 「じゃあ友達? もったいなーい、二人ともこんなにビジュアルいいのに〜、モテるでしょ〜? ねえねえ、もう彼氏とか彼女とかできたの?」

 

 はー、うざ。鏡を見なくてもわかる、今の私の顔は思いっきり歪んでいるだろう。清隆くんはこのくだらない質問に対してちょっと困ったように、真面目に返事をしている。

 

 「いえ、……あの、別にオレモテないっすから」

 「ふーん? 意外ね、私が同じクラスに居たら絶対放っておかないのに〜。ウブってわけでもないでしょ? つんつんっと」

 

 あろうことかこの女は清隆くんのその頬をツンツンと突き始めた。

 あ? こめかみに青筋が浮かぶのがわかる。私は清隆くんの腕に自分の腕を絡めてぎゅっと引っ張った。突然引っ張ったからか清隆くんの体が私の方に傾いて、星之宮の指から離れる。私はギッと睨んでいう。

 

 「私のなんやけど」

 「ふーん、へえ〜、なるほどぉ」

 

 だから、勝手に触るなや。ニヤニヤと笑う星之宮に私はイラついて舌打ちをこぼしたその時。

 

 「何やってるんだ、星之宮」

 

 現れた茶柱が手にしていたクリップボードでスパン、と星之宮の頭を叩いた。星之宮は痛そうに頭を押さえてうずくまる。

 

 「いったぁ。何するの!」

 「うちの生徒に絡んでるからだろ」

 「サエちゃんに会いに来たって言ったから、不在の間相手してただけじゃない」

 「放っておけばいいだろ。待たせたな綾小路、禪院。ここじゃ何だ、生徒指導室まで来て貰おうか」

 

 歩き出した茶柱の後をついていく。しかし星之宮もついてきていることに茶柱はすぐに気づき、鬼の形相で吐き捨てた。

 

 「お前はついてくるな」

 「冷たいこと言わないでよ〜。聞いても減るものでもないでしょ? だってサエちゃんって個別指導とか絶対しないタイプじゃない? なのに新入生の綾小路くんと禪院さんをいきなり指導室に呼び出すなんて……何か狙いがあるのかなぁ?って」

 

 星之宮は背後に回り清隆くんと私の両肩に手を置く。あ? 清隆くんにベタベタしやがってこいつ私にも喧嘩売ってるんか? そんなにぶちのめされたいんか、舐めとんのか己は。

 ビリビリと重たく険悪な空気が流れる。

 

 「もしかしてサエちゃん、下剋上でも狙ってるんじゃないのぉ?」

 「バカを言うな。そんなこと無理に決まってるだろ」

 「ふふっ、確かに。サエちゃんにはそんなこと無理よね〜」

 

 かなりしつこく星之宮はついてこようとしていたが、一ノ瀬という生徒に呼び止められて職員室に戻っていく。やっと去ったか。私はため息を吐くとふむ、と顎に手を当てて思案した。先ほどの茶柱と星之宮の会話が少し気になる。”下剋上”ね……。何よりもそれを否定する茶柱の表情。何かあるな……多分やけどこれは聞き逃してはあかん会話や。

 星之宮がいう通り茶柱が下剋上を企んでいるとしたら……この呼び出しの意味も何となくわかる気がした。

 茶柱は星之宮を見送り頭を掻いた後、歩き出した。そして職員室の近くにあった指導室に入る。

 

 「で……何なんですか、オレたちを呼んだ理由って」

 「うむ、それなんだが……話をする前にちょっとこっちに来てくれ」

 

 茶柱は指導室の壁にかけられた丸時計をチラチラと気にしながら、指導室の中にある扉を開いた。どうやらそこは給湯室になっているようだ。清隆くんはとぼけた顔でほうじ茶が入った容器を手にとる。

 

 「お茶でも沸かせばいいですかね。ほうじ茶でいいですか?」

 「余計なことはしなくていい。黙ってここに入ってろ。いいか、私が出てきて良いというまで物音を立てずに静かにしてるんだ。破ったら退学にする」

 

 あ? どういうことやねん。清隆くんの抗議の言葉も虚しく遮られて扉が閉められる。

 私と清隆くんは顔を見合わせた。腹立つけど、言われた通り静かにしてみるか。我慢ならんくなったら出てけばええし。退学は流石にはったりやろうしな。一教師が退学の権限を持ってるとは思えん。

 しばらくして指導室のドアが叩く音がした。

 

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