雑多なアサルト短編   作:ですティニー

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同じ名義で上げている長編のように、他所で書いていた短編をこちらにも置いておこうかなとなりまして。

火を点けろ、ひばふみ村の全てに。な感じのをお出しされたからには、こちらも書かねば…無作法というもの。
みたいな感じの、ミームに塗れた思考で浮かんだやつです。ひばっ。


山梨日羽梨が二川二水を看病する話

「今遠くても~♪ふんふーふーふん♪」

 

 夜も深まってきた頃、旧校舎は地下にある週刊リリィ新聞の編集室の主である二川二水は、一人作業をしながら歌いだすくらいにご機嫌であった。

 その理由とは日中、たまたま訓練が一緒だった憧れの上級生と今夜リリィ談義の約束を取り付けていたからで、普段のメンバーである伊東閑や金箱弥宙が家の用事やレギオンの任務で各々出ている時に悪いとは思うが、こちらも今夜は寂しくなるところだったのだからおあいこだろう。

 

「理由ならひとつだ……け?」

 

 地下だからだろうか、気付けば少し暑苦しく感じて、暖房の温度を下げようとリモコンに手を──

 

(あ、れ……?)

 

 伸ばそうとしたのに、急に世界が回るようになって空を切るどころか体まで引っ張られるようにして、そのまま二水は椅子から転げ落ちる。

 

「二水ッ!」

 

 しかし、いつの間に入ってきていたのか若草色の髪をした件の先輩──山梨日羽梨が彼女を受け止めており、床に叩き付けられるのだけは避けられた。

 

「ぁ……日羽梨、様……」

 

「どうしたのよいったい……まさか」

 

 二水の顔が妙に赤い。抱き止める形になっているとはいえ、恐らくその前からずっと──そう判断すると日羽梨は二水の額と自分の額を引っ付けて、温度差がかなりあることを確かめる。

 

「熱が……なんでこんな体で」

 

「だって……日羽梨様を、待たせちゃ……」

 

 ここまで二水が体調を崩している理由は……色々と思い浮かぶが、一番は単なるオーバーワークだろうか。最近彼女の所属レギオンである一柳隊も忙しくしていたとはいえ、その辺りの自己管理はしっかりしていると思いたかったが。

 

(それとも、あたしのために無理して?)

 

 このことを個人的に喜ぶべきなのか、先輩として叱るべきなのか……どうにも常の毒舌が彼女相手にだけは鈍ってしまうように、この臆病なのか図々しいのか判断に困る後輩相手には、日羽梨もペースを崩されがちだ。

 

「ともかく、一旦ソファに寝かせるとして……多分二水のことだから泊まり込みで執筆とか平気でやるでしょうし、何かしら用意してあるわよね。なら……」

 

「いか……ないで……」

 

 さて、意識が大分弱っているような様子に反した力強さで手を握られては、無理矢理引き剥がすことも病人相手にはしたくないのだから、観念して二水をソファに降ろす前、日羽梨が先んじて腰掛け、二水の頭を自身の太腿の上に乗せる。

 

「ん……」

 

「ふぅ、まったく世話が焼けるんだから」

 

 そうしてしばらく二水の頭を撫でていると、少しずつ落ち着いたのか静かな寝息が聞こえ、手の力も弱まるなら今の内だとソファを抜け出して……このままにするのもどうかと思った日羽梨は制服の上着を脱ぎ、ひとまずはこれでと二水の体に上から被せておく。

 

 ともかく適当に編集室内のドアを開けてみれば、仮眠のためだろう折り畳み式の簡易ベッドは見付かった。ならソファに寝かせておく必要もないだろうと、二水の元へ戻ると上着を回収してから彼女の首と膝の裏にそれぞれ腕を通し、抱き抱えるようにしてそちらの部屋へ──

 

「日、羽梨……お……様……」

 

「……っ」

 

 運ぼうとした時、寝言なのか普段と違う具合の呼ばれ方に、日羽梨の足は止まる。止まって、しまう。

 分かっている。二水に()()()()するつもりがあるのならとっくに自分へ猛アタックしてきているだろうし、だからせめて夢の中だけでも……なんて、実に可愛らしいではないか。

 

「……やめてよ」

 

 だが、山梨日羽梨にとって『お姉様』とは、シュッツエンゲルとはそんな軽々しいものではないから、二水が眠っていて誰にも聞かれていないこともあって、俯きながら弱々しい言葉が漏れてしまう。

 

「あたしに……日羽梨にはもう誰の姉妹になる資格も、そうする勇気もないのよ……」

 

 あれは事故だと、誰も悪くはないのだと頭では理解している。しかしシュッツエンゲルだからこそ、大切な相手だからこそ一番近くにいたが故に起きたかつての『お姉様』との悲劇の記憶もあって、どうしようもなく心が拒んでしまう……折角得た大事な〈繋がり〉が壊れてしまう感覚は、二度と味わいたくなどないのだから。

 

「…………」

 

 だがそれは、今はまだこの子には関係のないことだ。

 『まだ』などと付けてしまうように、自分から言い出すことは決してなくとも、お互い少なからず意識しているのは理解しているのだ──いずれその場面が訪れた時、はたして日羽梨は彼女との関係を壊さずにいられるのだろうか。

 

 答えは出ない、だがほんの少し歩けば目的のベッドに着くのだから、二水を優しく寝かせ毛布を掛けてあげると仮眠室なのだろう部屋の明かりを消してドアを閉め、編集室の方へ戻って棚や辺りを探る。

 

「流石に冷却シートの類いはないか。他にもいくつか欲しいのあるし……購買部ね」

 

 二水もしょっちゅうリリィ新聞のために缶詰めになってるからか最低限の備えはあれど、微妙に足りないのだから日羽梨は買い出しが必要な物を脳内にメモして、一先ず部屋を出て地上を目指す。

 

◆◆◆

 

「ん、ぅ……」

 

 朝……かどうかは窓のない部屋故に分からないが、それなりに長く寝ていたと、二水が時間を確かめようと懐から携帯を取り出そうとして、自分の状況に気が付く。

 

(あれ、パジャマ……? それに、おでこがひんやりする……わたし、どうしたんだっけ……)

 

 着ている感覚が制服のそれでなく、額に何かを貼られている。それに寝ていたのも寮室の二段ベッドではなく、編集室の方の折り畳み式──

 

「あっ……」

 

 そこまで自分の状況を分析して、まだボーッとする頭でも昨夜地下で日羽梨を待っていたら、急に意識が朦朧としたところで記憶が途切れていると二水は理解する。

 

「どうしよう……日羽梨様に、ううん、それより今日は朝から訓練が……」

 

 ともかくベッドから起き上がると、暗い中でも配置は覚えていると灯りを点け、やはりこちらに置いておいたパジャマを着せられてると再確認。そのままスリッパを履いて編集室へ出ると、彼女を待っていたのが一人。

 

「起きたのね、身体は大丈夫?」

 

「へっ……あっ、はい!」

 

 壁の時計を見れば今は6時、多分朝だとしてもそんなに長い間待たせてしまったのかと、日羽梨に返事をしながら申し訳なさが込み上げて来るが、顔に出過ぎていると鼻先を指で押される。

 

「流石に一度部屋に戻ってるわよ、朝練ついでに様子を見にきただけ」

 

「で、でもこれは……」

 

 流石にあの有り様な二水が自力で寝る支度を出来るはずもなく、買い置きもなかったはずの冷却シートまで貼られているのは、日羽梨にいらぬ出費を強いてしまったと……

 

「なら、今度休みが合った時に街で何か奢りなさい。それでチャラにしてあげるわ」

 

「は、はい!」

 

 ──お詫びにしたって極自然にデートの約束を取り付けた形になっているが、生憎この二人は揃ってその辺りは無自覚だからこそ、日羽梨の過去を知るはずな所属レギオン(サングリーズル)の主将、近藤貞花であってもド直球にはよ契れと促さざるを得ない訳で。当然、二人きりでは気付くはずもなかった。

 

「じゃあ迷惑ついでにベッドで待ってるように、今温めて来るから」

 

「え、でも今日は朝からレギオンの訓練が……」

 

「そんな身体で何を鍛えるのよ、当然そっちの隊長さんに話は通してあるわ。『ごゆっくり』、だって」

 

 それは「喰っちまいますわよ」と某レギオンの問題児に迫られてものほほんとしていられるほど、こと人間関係に関しては相当なにぶちんである一柳隊の隊長、一柳梨璃にすら日羽梨と二水のちぐはぐな距離感がバレバレである。ということでもあるのだが、やはりこの二人がその辺りに気付けるのならとっくにブーケトスまでいっているはずなのだから、盛大に何も起きない。

 

 ともかくベッドへ押し戻された二水が上半身は起こした状態で待っていると、日羽梨がトレーを抱えて仮眠室へ入ってくる。備え付けの簡易キッチンで何かしら用意したのだろうか?

 

「それって……」

 

「お粥よ。とりあえず有り合わせで作ったから卵ぐらいしか入れてないけど、食欲は?」

 

 言われてお腹を押さえてみるが、夕食から何も食べてはいないし、体調もまた倒れる程悪くはない。そう告げるとベッドの横に置いた椅子へ日羽梨が座ると、トレーを足の上に乗せてスプーンを手に取る。

 

「ふー……ふー……」

 

 そうしてお粥を掬うと湯気の立つそれに息を吹き掛けているのだから、これはもしや──

 

「ふー……ふー……ふー……ふー……」

 

「……え、えっと、日羽梨様? も、もう大丈夫かなぁと」

 

「いいえ。二水が火傷なんかしたら大変だもの、まだまだよ。ふー……ふー……」

 

 ──そういえば、日羽梨について情報を集めた中に彼女は重度の猫舌である。という物もあったなと思い出し、加えて過剰に心配を掛けたのは自分なのだからと、これ以上は二水も口を挟めずにいると、大体一分は冷ましたお粥がスプーンに乗せられて二水の口元へ運ばれてくる。

 

「……あ、あーん」

 

 しかしここまで来て日羽梨も状況に気付いたのか、今更に照れが入ってしまうがもう破れかぶれだと言わんばかりに、視線は微妙に逸らし切れていない。

 

「あ、む……んぐんぐ……」

 

「ど、どう?」

 

 味も温度もちょうどいい、濃すぎず薄すぎず、熱すぎず冷た過ぎず……と伝えるため口を開こうとして、日羽梨の後ろに二水の視線が釘付けになる。

 

「二水……?」

 

「そ、その、これは……えっと……」

 

 そして、二水が誰かに言い訳をしているのなら日羽梨もつられて振り向いて──

 

「あー、こりゃわたしたちのお見舞いは必要なかったみたいねー」

 

「……馬に蹴られる趣味はないし、向こうの部屋に置いて帰らせてもらいますね。日羽梨様」

 

 つまりは二水が体調を崩したことを聞いて昨日一緒にいられなかった責任を感じてか、見舞い品なのだろう物を抱えて二水の様子を確かめに来た弥宙と閑、二水のリリィオタク仲間二人に今のを見られてしまったと、そういうことのようだ。

 

「ち、違うのよ! これは二水が倒れてたから……」

 

「えーそーですねー」

 

 先程から弥宙の言い種はどうにも白々しく、明らかに何かを企んでいる風だが今の日羽梨はトレーを足に乗せていて咄嗟に動けないのだから、そのまま二人が去っていくのを見送るしかなかった。

 

 

 

 ──その後、二水が復帰してからしばらくの間日羽梨が妙にソワソワしていたことから、閑はともかく弥宙の方が言いふらしたのか彼女が散々に弄られていたのだろうことは想像に難くなく、二水の申し訳なさも限界突破してしまい日羽梨を避け続けた結果、出掛ける約束をした日はそれぞれレギオンメンバーに引き摺られての待ち合わせになってしまったのは、また別の話。

 




─いたくないですっ!!─
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