雑多なアサルト短編   作:ですティニー

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デュエリストが大体古の殺戮呪文思い出す、例のメモリアより。


『レスキューキャット』って聞いて頭が痛くなるのはシンクロ次元民の特徴って話

 安藤鶴紗は猫が好きである。どれくらい好きかと聞かれれば、とりあえず隙あらば愛玩動物か何かのように扱おうとしてくるクラスメイトの郭神琳よりは間違いなく好きだ。

 

「……先輩、本当にこんなところに猫がいるんですか?」

 

「おう、まあ見てろ」

 

 その鶴紗は今同じガーデンの先輩である吉村・Thi・梅に連れられて、先日戦場となり結構な量の破壊跡が見える廃墟の中を歩いていた。

 流石にこんな状態では何故か百合ヶ丘の近辺にやらためったらいる猫だろうと既に逃げ出しているだろうと思わないでもないが、今から引き返したところで特にやることもないのだから構わないかと、流れに身を任せることにする。

 

「もう、海目の前ですけど」

 

「そうだゾ、なんせここら辺で見かけたからナ!」

 

 隅っこまで来たぞと訝しげな様子を隠しもせずぶつけるが、どこ吹く風だとあっけらかんと答えられては怒る気にもならないし、梅も悪戯に人をからかうような人柄でもないから混じり気のない本音なのだろうと鶴紗が溜め息を吐いていると、下がった視線の先に何かがいるのに気付く。

 

「この子……」

 

「おっ、そいつだそいつ。ようミケ、元気してたかー?」

 

 その猫は黒、白、茶の毛並みないわゆる三毛猫だからってそのまんまミケとは安直な。なんて考えも野良猫相手なら分かりやすい方がいいかと、梅がその猫に駆け寄って屈みながら挨拶するのを眺めている鶴紗だが、手の動きだけは既に落ち着きがなかった。

 

「……………………」

 

「おいおい、そう焦るなって。なあミケ、今日はお友達を連れてきたんだゾー、後輩の鶴紗だ!」

 

 鶴紗が猫相手に『そうなる』のはもう慣れた物だと、そのまま猫を抱えた梅は鶴紗の目の前までじゃーんと持ってくる。

 

「……さ、触っていい?」

 

「猫パンチされなきゃナ。まあ前にここで昼寝してた時も全然警戒されなかったし、こいつも大概人に慣れてるとは……お?」

 

 梅の話の途中でもう我慢の限界を迎えた鶴紗は手を伸ばし、出来る限り優しく猫を撫でる。撫でる。撫でる。

 

「なーお……」

 

「……うん、いい」

 

「アハハ、そりゃよかった」

 

 近頃上手く行くことがそんなに無かったからか、久しぶりに猫を愛でられて鶴紗はご満悦だ。

 

 ──そしてそんな時こそ邪魔が入るというのが世の無情さなのもまた、百合ヶ丘のリリィとしてよく知っていた。二人の背後にある瓦礫の山の中で何かが動いている、そんな音がする。

 

「……これって」

 

「こないだの生き残りかもナ……っておいミケ!?」

 

 警戒する二人を他所に梅の腕の中からスルリと抜けた猫は瓦礫の方へと進もうとするが、それよりも鶴紗の右腕が猫を捉えるのが早かった。

 

「捕まえた」

 

「まったく、好奇心は猫をも殺すっていうけど……実演はゴメンだゾ!」

 

「同感……来る!」

 

 その直後瓦礫を散らしながら姿を現すのは予想通りのヒュージ、丸い胴体に刃のような三本の足を持つテンタクル種のミドル級。

 その体には所々CHARMによるのだろう刀傷や銃創があることから先日の戦闘で埋もれたまま放置されようやく動けるまでに回復したか、天敵であるリリィの気配に慌てて出てきたか──どちらにせよ、運がないヒュージなのは確かだろう。

 

「……邪魔された」

 

「そうだナ、折角の猫セラピーで癒されようって時に出てきたんだ……お仕置きじゃ済まないゾ?」

 

 二人のリリィは背中合わせになりながらそれぞれにCHARMを──梅はタンキエムのグリップを両手で持ち地面と水平に構え、鶴紗は右腕に猫を抱えながらも器用に左手でティルフィングをCHARMケースから引き抜く。

 

「梅様……行くぞ!」

 

「フルスロットルで行くゾ、付いてこい鶴紗!」

 

─縮地─

 

 瞬間疾風(かぜ)が駆け抜けた──と言って差し支えのない速さで梅が突撃するとヒュージの足が一本、二本、三本と立て続けに根元からタンキエムの刃にもぎ取られて宙を舞うと、顔なのだろう部分から再度瓦礫に落ちる形になるヒュージの前にはティルフィングを上段に振り上げる鶴紗がいた。

 

「つぇぁっ!!」

 

 そのままスイカ割りか何かのように振り下ろされたティルフィングが縦にヒュージを両断し、梅の発したフルスロットルの言葉に何の偽りもない瞬殺が今の戦闘の全てになる。

 

「ま、ざっとこんなもんだゾ」

 

 初手でほとんど全てを決めたような梅だが、そんなことはなんでもないように息のひとつも切らさず威風堂々とタンキエムを肩に担いでいるのは流石に歴戦のリリィかと、今になって鶴紗は感心する。

 あるいは普段まるでそうは見えないリリィ程、本気を出せば凄いということなのか。どこぞの・J・とか。

 

「騒いで悪かったな。えっと、ミケ」

 

「んなぁー」

 

 そんな猫は「気にすんな」とでも言いたいのか鶴紗に頬擦りしてくるが、少し髭がチクチクするのはご愛敬。

 

「ふふ……」

 

「さてと、とりあえず報告のために戻るか?」

 

「あっ……はい」

 

 名残惜しいが仕方ない。偶発的にせよヒュージと交戦したのだ、報告ついでに追加の哨戒も頼んでおいた方がいいのは鶴紗にも分かる。リリィとしての義務だけでなく、猫の安全のためにも。

 

「そんな顔すんな、またいつでも会えるんだから、ナ?」

 

「にゃー!」

 

 何故自分は先輩どころか猫にすら励まされているのかとなんとも言えない顔になる鶴紗だが、まあ悪気はないのだろうと最後に一撫ですると、寂れた建物の中に猫が入って行くのを見届けて学院への帰路につく。その途中、話題を振るのは鶴紗から。

 

「結局、どっちが本命だったんです?」

 

「流石の梅も鶴紗と違って未来までは見えないからナ、ヒュージはたまたまあそこにいただけだゾ。今日はあいつが戦闘に巻き込まれてなかったかの確認と、ついでに鶴紗に会わせてやりたかっただけだ」

 

 わたしはついでなのか……とまたもや微妙そうな顔になるが、あの人懐っこい三毛猫に会えて悪かったかと聞かれると否なので、文句という程にはならない。

 そう、悪い気はしない。この気紛れな猫のような先輩の行く先には、時々鶴紗の予想もしない出来事が待っている。かと思えば本当に隣で寝っ転がって昼寝をしているだけの日もあったり、多分『ファンタズム』で未来を読んでもこの人のやることはわたしには読み切れないんだろうなと、そんな予感がする。

 だからなのかもしれない、灰色になってしまった鶴紗の人生に近頃緑色や、それにつられた桃色が差すようになったのは──

 

(それもやっぱり、悪くないな)

 

「どうした鶴紗ー、置いてくゾー?」

 

「今行きます」

 

 先を行く梅に小走りで追い付く、少し傾いてきた陽に照らされる鶴紗の表情が随分晴れやかなそれだったのは、当分梅だけの秘密になった。

 




─何気ない日常は窓辺に寄りかかる静かな木漏れ日のようで─
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