雑多なアサルト短編   作:ですティニー

7 / 8
もう何も語るまい、当たり前のような背景のみにキレて衝動的SSダブルツインマークトゥセカンドシーズン。


ないから作ったたづりりナイトの話

──月が綺麗だね。

 

 外征中の夜営……というよりは比較的形の残っていた建物で二手に別れて休むことになり、夜中の見張り番をしていた時に梨璃が意味も知らずに言ったのだろう空を見上げてのその言葉が、梅たちと交代して建物の中に戻り二人で休もうとしてからもずっと、鶴紗の意識の端に残って仕方ない。

 

(なのに言った本人は呑気に寝ちゃってるし、多分あっちの意味を梨璃が知ってるはずないんだろうけど)

 

 「月が綺麗ですね」なんて“アイラブユー”のロマンチックが過ぎる訳し方、知っていたら……いや、梨璃なら言うか。なんて鶴紗の膝の上に頭を置きながら体を丸めて眠る我らが隊長を眺める。

 

「んにゅぅ……すぅ……もう飲めないよぉ……むにゃ……」

 

「夢の中でもラムネ?」

 

 そこまで好きなのか。と思わず笑ってしまうが、身動ぎした梨璃を起こす訳にはいかないと声は抑え気味にしながら少しズレた毛布を梨璃に掛け直す。

 そうしていると、意識せずとも目に入るのは二人が着ているお揃いの隊服〈アラウンドザウィロー〉青空のような上着がレギオン内でも好評なそれ。勿論普段から制服でお揃いといえばお揃いではあるが、レギオンの仲間とだけの『特別』な服装だと、やはり他とは違う感じ方になる。

 

(そうなれたのも、梨璃がわたしのことを諦めないでくれたから……)

 

 ゲヘナによる非道な実験に駆り出された鶴紗を、必死に追い掛けて来た梨璃。そんな彼女の側にいるから、ペアルック……というにはお揃いな人数が多すぎるが、こういったことを嬉しいと感じる心の余裕を持てているのだ。

 それへの感謝代わりという訳ではないが、鶴紗は眠る梨璃の髪を優しく撫でる。ふわふわと危なっかしい行動の多い少女の桃色の髪は、同じように優しくふわふわとした手触りだった。

 

「梨璃、わたし……今ここに、一柳隊にいられて良かったって、心から思ってる」

 

 だからか普段なら、面と向かってなら恥ずかしくて言えないような言葉も、つい口をつく。

 

「それに何より、何より梨璃と一緒にいられることが本当に嬉しい。なにもかも失くしてしまったわたしに、みんなと生きる意味をくれたから」

 

 梨璃だけでなく他の一柳隊の仲間からも色々と貰っているが、一番の決め手は彼女の言葉だった──「生きることを諦めちゃダメ」だと、全てを諦め死という救済を受け入れようとしていた鶴紗の元へ駆け付けながら梨璃がそう言ってくれたから、鶴紗は前を向いて進めるようになったのだ。

 だから、この広い世界に一人きりなんだと思っていた迷い猫(ストレイキャット)も、もう帰る場所を見失うことはない。

 

「おやすみなさい、梨璃」

 

「んみゅ……おやすみ、なさい……たづ……ん……」

 

 今度は自分との夢でも見ているのだろうか、返事を返すようなタイミングでの梨璃の寝言に表情だけで笑いながら、朝に備えて鶴紗も目を閉じる──

 

◆◆◆

 

「……ふーみん?」

 

 交代の時間になったからと携帯のバイブレーションで仮眠から覚めた雨嘉が見張りのポイントに着いた時、前の担当な二水がどこか一点を見つめているのを発見し、つられてその先を見てみるとそこには、つきあかりに照らされながら向かい側の建物の窓際のベンチで寝ている──

 

「あ、梨璃と鶴紗」

 

「うぇ、ゆゆゆ雨嘉さん!?」

 

 今になって雨嘉に気付き挙動不審になる二水の手には結構な大きさのカメラ。確か取材用だと前に言っていたそれも、今回の外征に持ってきていたようだ。

 

「梨璃も鶴紗も、寝ちゃってるね」

 

「あはは、つい絵になるなぁとカメラが……」

 

「うん。二人とも、とっても気持ち良さそうだから」

 

 悪戯がバレた子供のように縮こまる二水だが、その様子を見付けたのが雨嘉でも多分そうしただろうから咎めることはしない。

 

 そんな二人の見つめる先で壁に立て掛けられた梨璃のグングニルのコアがキラリと光った気がしたのは、つきあかりの悪戯なのか。




─暗い夜空に別れを告げてこの手をはなさない─
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