「なるほど、こうなるか」
「くっ、ガネーシャが至らぬばっかりに! すまないラピス。俺は、俺は……ガネーシャじゃなかった……!」
物は試しだとガネーシャに依頼した結果、擬人化形態で『
念のため、羊皮紙に書いてもらった結果がこちら。
ラピス
Lv.000
力:000 耐久:000 器用:000 敏捷:000 魔力:000
《魔法》
【】
《スキル》
【
・
・重ねた数に応じて微強化。
・限界到達時、第二技能獲得。
【
・圏外につき休止中。
【
・成就しろよ、お前の答えを。
・人類に……黄金の時代を……。
・そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが。
【
・
・
・
お分かり頂けただろうか。ご覧の通り【ステイタス】が意味をなしていないのだ。ガネーシャの言う事には、私には膨大な【
その原因は間違いなく四つ目の『スキル』に含まれている
そうなると気になるのは残る
なお、一つ目の『スキル』はほぼ確実に私が無意識に開発した念能力である。メモリの概念を考えれば魔法の枠に振り分けされる方が適切にも思えるが、
『おぼぼぼぼぼぼぼぼげげげげげ!』
「ラッ、ラピィーーーース!?」
「何やら擬態が解けた上に沸騰している湯のように泡立っているが……大丈夫なのか?」
(ちょっと大丈夫じゃないです)
擬態ではなく変身なのだが、人間から見て違いがあるかと言われれば疑問ではある。一応、変身シーンは謎の光に包まれてほぼ一瞬で終わるためグロテスクな途中の姿でお目汚しすることはないのだが……思えば獣人の獣化スキルはシームレスな変身だな。一方で
もっとも、私の場合は不定形なモンスターだ。擬態にしか思えないと言われれば私自身でも納得してしまう。
『……ふぅ、落ち着いた』
「そうか。ならば確認だが、お前の【ステイタス】は機能不全を起こしているらしい」
なんとか平静を取り戻したが、シャクティの言及が待ち構えていた。思えば仕事が滞ってるわけだし、非常に心苦しくなって来た。化粧水や乳液を作って渡すべきだろうか?
「うむ、手応えがかなり違ったな。果たしてこれが『
実行したガネーシャにわからないのなら、誰にもわからないだろうな。それならば、別の事に時間を使う方が有意義だ。
『て、事は初めての試みだったのか』
「はっはっはっ、それはそうだ! 何しろ神がダンジョンに入る事は禁じられているからな!」
『あー、うん。納得だわ』
前例について確認してみたが、答えは皆無。憲兵が規則を破っては外聞が悪すぎるので、予想できた答えではあった。
逆を考えたとして、やはり『
「ひとまず、明らかな異常が見受けられる以上、そのまま活動させるわけにはいかん」
『えー』
【ステイタス】の詮索はご法度な世界なのだし、背中に刻まれている事実だけあれば良さそうなものだが。普段は
「当然だろう。大神ウラノスの祈祷を潜り抜けたばかりか、冒険者にも発見されず自力で地上へ進出して来たモンスター。その時点で強さは保証されたようなものだ。それが『
果たしてそうだろうか? 攻撃を避けるだけなら偶然を装えば良いし、反撃しなければ大丈夫だと思うのだが。避けた場合に背後の人間を巻き込む場面もあるだろうが、その時は襲撃者を悪者にして囲んで叩けば良い。何よりも、だ。
『そんな……神から『恩恵』をもらってもいないのに破落戸冒険者にサポーターとしてダンジョンへ潜らされて、囮として捨てられた所を運良く助けられ保護された孤児ってバックストーリーまで考えたのに』
恐らくだが、孤児に限らず『
【ソーマ・ファミリア】は悪質だがグレーな範囲に収まる派閥といった認識をギルドにされていたわけだが、換金所でごねる冒険者は――特に長年上層で燻っているような層には――そう珍しくもない。
【ソーマ・ファミリア】の場合は単に
そんな
「却下だ」
「スマン、ガネーシャが力不足なばかりに……うおおおおおん!」
「うるさい、黙れ」
すげない。どことなくやさぐれた風に感じてしまうのは、私の考えた設定に似た境遇で実在している弱者に手の届かない自分の無力を嘆き憤っての事だろうか。
『ところで『
言いながら自分でも探してはみたものの、どうにも見付からない。ちょっと傘みたいな形状になったりもしたが、全く見当たらない。
「……私には探せないな」
「ガネーシャ、恩恵の数はどうなっている?」
「減っていないな。発見できないならそれでいいのではないか?」
発見できずに首を傾げる一同。ウラノスの疑問に対する答えからすると、この状態でもガネーシャの恩恵は生きているはずなのだが……謎だ。
『いやー、変なところで浮かんで見えてガネーシャに迷惑かかると申し訳ないな……それこそ別の派閥――【ソーマ・ファミリア】辺りに偽装するか?』
「やめろ」
『はい』
同じインド神話だし、派閥は世紀末仕様だし、迷惑をかけても許される候補ナンバーワンだ。却下されたが。
しかし困った。見当たらないのはもういっそ魔石にこっそり背景色で刻まれてるのではなかろうか。ちょっと色変してみよう。
「そんな事まで……器用な奴だな」
『どう?』
「同じだな。残念だがガネーシャ・アイには映っていないぞ」
『マジかー。いや、待てよ。よく考えたら擬人化形態だと魔石なくなるっぽいんだよな』
「……は?」
いやはや、失念していた。擬態ではなく変身だと認識する最大の理由だというのに。おかげで擬人化形態では即死の恐怖がかなり軽くなるのだ。しないとは言っていない。
『いや、だからさ。同じ理屈でウーズ形態だと恩恵がなくなってるのかもって話』
「……ガネーシャ?」
「いや、全くわからん。ウラノスは?」
「私も知らぬ。完全な未知だな」
何故だか困惑する一同。さっきからものすごい一体感だね君ら。この分だと実は『
未知を求める神としては異世界由来で大はしゃぎしそうでもあるが、生憎と私自身はその世界についてほぼ知識を持たないので説明できないのが残念だ。
『まー手は尽くしてこれだし、擬人化形態は無理って結論は覆らないんだろ? だったら
「それはそうだが……いかんな、冷静になれ私」
「俺も一瞬だが誰のせいでこんなに悩む事になっているのかと言いたくなったゾウ」
「………………」
『アッ、ハイ。スミマセン』
先を促したら思い切り不満を持たれてしまった。解せぬ……そうか、これが感情か。
「しかし実際どうする、シャクティ?」
「難しいな。ウーズは深層種。
頭を悩ませる【ガネーシャ・ファミリア】の
『んー、
「五年前だな」
『てことは今年は第六回か……惜しいな。五回なら節目として目玉に持って来られたかもしれないのに』
「技術的に不可能だと言ったが?」
『それこそ新技術でっち上げとか原理不明を理由に経過観察とか言い逃れできるだろ。でも神に嘘は通じないんだったか……そうだ!』
「おい馬鹿止めろ」
『まだ何も言ってないだろ!?』
だからこそ、力になるべく質問と思案を繰り返していく。そして閃いたアイデアを発表しようとしたら、シャクティに遮られた。まさか彼女も直感持ちなのだろうか。同族意識で好感度の高まる音がする――。
「それでラピスは何を思い付いたのだ?」
「ガネーシャ!」
「まぁ落ち着けシャクティ。まずは聞いてみなければ始まらんぞ!」
『うむ、ズバリだね――《大きすぎる……修正が必要だ……》』
まさかの圏外宣言により休止しているらしい二つ目の
この能力は開発時点だと
風化した記憶から発が変化する事例は果たしてあっただろうか、と思い出そうとするも、そう都合良くはいかなかった。だが、念能力は本人の本質が反映される傾向を強く持つ。私の場合は単なる『
(あれ、でも制御って話なら単なる成長と見る方が自然か? まぁいいやどっちでも)
重要なのは、意味深な内容や微妙に噛み合わない内容でも、言いたい事が過不足なく相手に伝わる点だ。
これを使って犬猫が「おはよう」や「ごはん」と聞こえる鳴き方をする感じにして知性を誤魔化せば、
実を言えば、ご主人が考えるだけ考えて時間がないし頼める人材もいないとしてお蔵入りした考えを拝借しているのだが。
「ふむ、もっと浅い層のモンスターに擬態か……シャクティ、どうだ?」
「そうだな……情報の余り知られていない種類ならば、あるいは」
ご覧の通り、【
『それなら、これでどうだ?』
「これは……あれか!」
「カーバンクルか……確かに生態は詳しくわかっていないな。ダンジョン内で見掛けても、戦うより逃げるのを優先する個体も多いと聞く」
カーバンクル。小柄な体躯に魔力壁の防御力と俊敏な逃げ足を持った
『これなら戦闘に巻き込まれても立ち向かわないで、防戦や逃走でも不自然じゃないだろ?』
「ふむ……」
「だがカーバンクルと言えば、そのドロップアイテムがとんでもない値段で取引されると聞くぞ。面倒事にならないだろうか?」
ガネーシャの指摘は鋭い。ご主人が夢の中で先輩を
背後を洗ったら
『生態を詳しく観察する事で今後の討伐や捕獲が楽になるって言っておけば商人は黙ると思うぞ? 目先の利益に飛び付く三下が人質を取るとかで交換条件にしたら……まぁその時は大人しく引き渡せばいいさ。口は封じさせてもらうがな』
夢でのご主人は冒険者として、それ以上に芸術家と商人として名前が売れていたのに、その庇護下にある先輩の身を狙う
だが、逆に言えば知ってる大人は手を出さなかった。苛烈な報復振りはリヴィラの街を中心に広く吹聴されていたのだし……想定漏れで自爆したり深読みしすぎて盛大に空回ったりといったお茶目だったり愉快だったりする面も相当に広まってはいたが。
翻って、ご主人の庇護を持たない私の場合はどうだろうか。決して【ガネーシャ・ファミリア】の名前が持つ力を軽視する訳では無いが、それでも上手く行けば儲け物の誠心で狙って来る輩が現れる可能性は高いと見ている。
「ふむ、妥協できる範囲ではあるが……その場合、
『手作業でやってもいいぞ? 『調合』持ちにも負けない腕はあるし。カーバンクルの姿なら前足と尻尾が使えるからな』
「……数は?」
『一日八時間労昼休憩ありなら……五十が限界かなぁ』
主に集中力的な意味で。
「そうか……ならばそれでいこう。ガネーシャ、それでいいか?」
「うむ! 改めてよろしく頼むぞラピス。俺がガネーシャだ!」
『よろしくな。細かい決まり事の打ち合わせは後って事で。それまでは喋らないし野生の個体を真似ておくよ』
そういう事になった。
ちなみにだが、最後まで【