転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したら打ち合わせだった件

「なるほど、こうなるか」

「くっ、ガネーシャが至らぬばっかりに! すまないラピス。俺は、俺は……ガネーシャじゃなかった……!」

 

物は試しだとガネーシャに依頼した結果、擬人化形態で『神の恩恵(ファルナ)』を授かる事には成功した。したのだが……結果は四つん這いになって慟哭するガネーシャの様子から察して欲しい。

念のため、羊皮紙に書いてもらった結果がこちら。

 

ラピス

Lv.000

力:000 耐久:000 器用:000 敏捷:000 魔力:000

《魔法》

【】

《スキル》

桃玉跳躍(チャンピオン・ロード)

技能複写(スキルコピー)

・重ねた数に応じて微強化。

・限界到達時、第二技能獲得。

繋魂高次(ソウル・ファミリー)

・圏外につき休止中。

装核語録(フォー・アンサー)

・成就しろよ、お前の答えを。

・人類に……黄金の時代を……。

・そちらにとっても、悪い話ではないと思いますが。

越境魂絆(レガーメ・アルマ)

超越界律(ネオ・イレギュラー)

神理崩壊(ステイタス・バグ)

異魂加護(アルマ・イロージョン)

 

お分かり頂けただろうか。ご覧の通り【ステイタス】が意味をなしていないのだ。ガネーシャの言う事には、私には膨大な【経験値(エクセリア)】が眠っているのだが、そのほとんどを何故か取り出せないらしい。

その原因は間違いなく四つ目の『スキル』に含まれている神理崩壊(ステイタス・バグ)なる効果だと考えられる。あるいは超越界律(ネオ・イレギュラー)の可能性もあるが、こちらはモンスターの魔石を食して強くなる仕組みを表しているように思える。

そうなると気になるのは残る異魂加護(アルマ・イロージョン)についてだが、これはこれでご主人の夢から覚めた後に突撃した場所で受けた説明が該当しそうだ。なんでも心を得たモンスターが人の姿になる現象を起こした個体をアルマと呼ぶ世界があるらしい。効果の詳細は不明だが、加護とあるので決して悪い効果ではあるまい……この場合、同業他社的な感じでガネーシャの恩恵を弾かなかった事を喜ぶべきなのだろうか?

なお、一つ目の『スキル』はほぼ確実に私が無意識に開発した念能力である。メモリの概念を考えれば魔法の枠に振り分けされる方が適切にも思えるが、精神力(マインド)の消費が必須ではない事が決め手だろうか。彼の【千の妖精(サウザンドエルフ)】レフィーヤ大明神が発現させていたとされる召喚魔法(サモン・バースト)に近い特性を持っていると言えよう。名前が完全に世界を何度も救ってる英雄(ヒーロー)の格闘王への道な事には目を瞑って頂けると幸いである。めっちゃ好きな作品なんだよスパデラ。あぁ、思い出したら【ステイタス】の000が0%0%0%(みんなのトラウマ)に見えて来た。

 

『おぼぼぼぼぼぼぼぼげげげげげ!』

「ラッ、ラピィーーーース!?」

「何やら擬態が解けた上に沸騰している湯のように泡立っているが……大丈夫なのか?」

(ちょっと大丈夫じゃないです)

 

擬態ではなく変身なのだが、人間から見て違いがあるかと言われれば疑問ではある。一応、変身シーンは謎の光に包まれてほぼ一瞬で終わるためグロテスクな途中の姿でお目汚しすることはないのだが……思えば獣人の獣化スキルはシームレスな変身だな。一方で妹様(リリルカ)のように変身魔法の使い手も存在するが、やはり一般的な変身は獣化を思い浮かべるだろう。

もっとも、私の場合は不定形なモンスターだ。擬態にしか思えないと言われれば私自身でも納得してしまう。

 

 

『……ふぅ、落ち着いた』

「そうか。ならば確認だが、お前の【ステイタス】は機能不全を起こしているらしい」

 

なんとか平静を取り戻したが、シャクティの言及が待ち構えていた。思えば仕事が滞ってるわけだし、非常に心苦しくなって来た。化粧水や乳液を作って渡すべきだろうか?

 

「うむ、手応えがかなり違ったな。果たしてこれが『異端児(ゼノス)』共通なのか個人特有なのか、スマンが俺にはわからん!」

 

実行したガネーシャにわからないのなら、誰にもわからないだろうな。それならば、別の事に時間を使う方が有意義だ。

 

『て、事は初めての試みだったのか』

「はっはっはっ、それはそうだ! 何しろ神がダンジョンに入る事は禁じられているからな!」

『あー、うん。納得だわ』

 

前例について確認してみたが、答えは皆無。憲兵が規則を破っては外聞が悪すぎるので、予想できた答えではあった。

逆を考えたとして、やはり『異端児(ゼノス)』が地上に来るのは難しい。例え怪物祭(モンスターフィリア)のタイミングに合わせるとしても、多くの『異端児(ゼノス)』は強化種でもある。事情を大っぴらにできない以上、常識的に考えれば危険視されて地上へ連れ出す許可は下りそうにない。

 

「ひとまず、明らかな異常が見受けられる以上、そのまま活動させるわけにはいかん」

『えー』

 

【ステイタス】の詮索はご法度な世界なのだし、背中に刻まれている事実だけあれば良さそうなものだが。普段は(ロック)されていて【神聖文字(ヒエログリフ)】を解読できる者にも内容は隠せるのだし。

 

「当然だろう。大神ウラノスの祈祷を潜り抜けたばかりか、冒険者にも発見されず自力で地上へ進出して来たモンスター。その時点で強さは保証されたようなものだ。それが『神の恩恵(ファルナ)』を授かったばかりの新人を真似るなど出来るはずもない」

 

果たしてそうだろうか? 攻撃を避けるだけなら偶然を装えば良いし、反撃しなければ大丈夫だと思うのだが。避けた場合に背後の人間を巻き込む場面もあるだろうが、その時は襲撃者を悪者にして囲んで叩けば良い。何よりも、だ。

 

『そんな……神から『恩恵』をもらってもいないのに破落戸冒険者にサポーターとしてダンジョンへ潜らされて、囮として捨てられた所を運良く助けられ保護された孤児ってバックストーリーまで考えたのに』

 

恐らくだが、孤児に限らず『神の恩恵(ファルナ)』自体は授かっている条件だが、相当数のサポーターが近い形で命を落としていると思われる。要は原作における妹様(リリルカ)の立場だ。

【ソーマ・ファミリア】は悪質だがグレーな範囲に収まる派閥といった認識をギルドにされていたわけだが、換金所でごねる冒険者は――特に長年上層で燻っているような層には――そう珍しくもない。

【ソーマ・ファミリア】の場合は単に主人公(ベル)と関わりを持ったヒロイン(リリ)が所属する派閥だからこそ描写されただけであり、他の無名派閥だって内情は似たような物。オラリオにおいて、サポーター軽視は一種の文化である……なお極めて稀ではあるが、【ランクアップ】を経験している専業のサポーターもいないわけではない。名を上げる機会には決して恵まれないが。

そんな弱者(サポーター)を装う事で、お人好しの多そうな憲兵達の感情へ訴えかける作戦ではあったが、反応はここまでの流れから予想される通りだった。

 

「却下だ」

「スマン、ガネーシャが力不足なばかりに……うおおおおおん!」

「うるさい、黙れ」

 

すげない。どことなくやさぐれた風に感じてしまうのは、私の考えた設定に似た境遇で実在している弱者に手の届かない自分の無力を嘆き憤っての事だろうか。

 

『ところで『神の恩恵(ファルナ)』をもらったけど、ウーズ(この)状態だとどこに刻まれてるんだ?』

 

言いながら自分でも探してはみたものの、どうにも見付からない。ちょっと傘みたいな形状になったりもしたが、全く見当たらない。

 

「……私には探せないな」

「ガネーシャ、恩恵の数はどうなっている?」

「減っていないな。発見できないならそれでいいのではないか?」

 

発見できずに首を傾げる一同。ウラノスの疑問に対する答えからすると、この状態でもガネーシャの恩恵は生きているはずなのだが……謎だ。

 

『いやー、変なところで浮かんで見えてガネーシャに迷惑かかると申し訳ないな……それこそ別の派閥――【ソーマ・ファミリア】辺りに偽装するか?』

「やめろ」

『はい』

 

同じインド神話だし、派閥は世紀末仕様だし、迷惑をかけても許される候補ナンバーワンだ。却下されたが。

しかし困った。見当たらないのはもういっそ魔石にこっそり背景色で刻まれてるのではなかろうか。ちょっと色変してみよう。

 

「そんな事まで……器用な奴だな」

『どう?』

「同じだな。残念だがガネーシャ・アイには映っていないぞ」

『マジかー。いや、待てよ。よく考えたら擬人化形態だと魔石なくなるっぽいんだよな』

「……は?」

 

いやはや、失念していた。擬態ではなく変身だと認識する最大の理由だというのに。おかげで擬人化形態では即死の恐怖がかなり軽くなるのだ。しないとは言っていない。

 

『いや、だからさ。同じ理屈でウーズ形態だと恩恵がなくなってるのかもって話』

「……ガネーシャ?」

「いや、全くわからん。ウラノスは?」

「私も知らぬ。完全な未知だな」

 

何故だか困惑する一同。さっきからものすごい一体感だね君ら。この分だと実は『異端児(ゼノス)』ですらないアルマの可能性、いやさ存在を示唆したら大混乱だろうな。

未知を求める神としては異世界由来で大はしゃぎしそうでもあるが、生憎と私自身はその世界についてほぼ知識を持たないので説明できないのが残念だ。

 

『まー手は尽くしてこれだし、擬人化形態は無理って結論は覆らないんだろ? だったら調教(テイム)の設定とか決めておかないか?』

「それはそうだが……いかんな、冷静になれ私」

「俺も一瞬だが誰のせいでこんなに悩む事になっているのかと言いたくなったゾウ」

「………………」

『アッ、ハイ。スミマセン』

 

先を促したら思い切り不満を持たれてしまった。解せぬ……そうか、これが感情か。

 

「しかし実際どうする、シャクティ?」

「難しいな。ウーズは深層種。怪物祭(モンスターフィリア)のために捕獲して来るのは不自然だ。そもそも普通のウーズは知性を感じない単調な行動しか報告されていないから、技術的に可能だとも思えない」

 

頭を悩ませる【ガネーシャ・ファミリア】の主神と団長(トップ)だが、なんのかんの受け入れ自体は決めてる辺り、こちらとしては嬉しい限りである。

 

『んー、怪物祭(モンスターフィリア)って何年前から始めてるんだっけ?』

「五年前だな」

『てことは今年は第六回か……惜しいな。五回なら節目として目玉に持って来られたかもしれないのに』

「技術的に不可能だと言ったが?」

『それこそ新技術でっち上げとか原理不明を理由に経過観察とか言い逃れできるだろ。でも神に嘘は通じないんだったか……そうだ!』

「おい馬鹿止めろ」

『まだ何も言ってないだろ!?』

 

だからこそ、力になるべく質問と思案を繰り返していく。そして閃いたアイデアを発表しようとしたら、シャクティに遮られた。まさか彼女も直感持ちなのだろうか。同族意識で好感度の高まる音がする――。

 

「それでラピスは何を思い付いたのだ?」

「ガネーシャ!」

「まぁ落ち着けシャクティ。まずは聞いてみなければ始まらんぞ!」

『うむ、ズバリだね――《大きすぎる……修正が必要だ……》』

 

まさかの圏外宣言により休止しているらしい二つ目の主従契約(スキル)はさておき、三つ目の【装核語録(フォー・アンサー)】は一つ目のスキルと同様に念能力である。その内容はARMORED COREシリーズで確認されたセリフしか発言できなくなる代わりに、聞いた側には齟齬なく理解してもらえるという便利なものだ。

この能力は開発時点だと常時発動型(パッシブ)だったが、ご主人が夢から覚め私達が持ち越しされた戦利品となった際にオンオフを制御できる能力と変化していた……正確に言うと、オフになって自由に発言できる喜びに舞い上がり存在を無かった事にしていたのだ。つい先程【ステイタス】を確認するまでは。

風化した記憶から発が変化する事例は果たしてあっただろうか、と思い出そうとするも、そう都合良くはいかなかった。だが、念能力は本人の本質が反映される傾向を強く持つ。私の場合は単なる『異端児(ゼノス)』なだけでなく擬人化形態に変身できるアルマという存在にも変質したため、連動して内容が変わったのかもしれない。

 

(あれ、でも制御って話なら単なる成長と見る方が自然か? まぁいいやどっちでも)

 

重要なのは、意味深な内容や微妙に噛み合わない内容でも、言いたい事が過不足なく相手に伝わる点だ。

これを使って犬猫が「おはよう」や「ごはん」と聞こえる鳴き方をする感じにして知性を誤魔化せば、調教(テイム)モンスターの教育も視野に入る。そうすれば狼から犬に品種改良されていく歴史を辿るように、モンスターの家畜化や愛玩化も夢ではなくなる。地上なら繁殖で強さも抑えられて、赤子から育てれば性質にも干渉できるかも知れない。

実を言えば、ご主人が考えるだけ考えて時間がないし頼める人材もいないとしてお蔵入りした考えを拝借しているのだが。

 

「ふむ、もっと浅い層のモンスターに擬態か……シャクティ、どうだ?」

「そうだな……情報の余り知られていない種類ならば、あるいは」

 

ご覧の通り、【装核語録(フォー・アンサー)】により私の考えはしっかりと伝わっている。選択肢の幅は限られているし、乱用は禁物だが。

 

『それなら、これでどうだ?』

「これは……あれか!」

「カーバンクルか……確かに生態は詳しくわかっていないな。ダンジョン内で見掛けても、戦うより逃げるのを優先する個体も多いと聞く」

 

カーバンクル。小柄な体躯に魔力壁の防御力と俊敏な逃げ足を持った稀少種(レアモンスター)だ。先輩(エイジャ)の種族なので見た目や仕草の模倣は完璧な上、その特徴から危険視される事も少ない。

怪物祭(モンスターフィリア)調教(テイム)ショーに出演するのは難しいが、された事にする場合は最適解の一つと言って良いのではなかろうか。

 

『これなら戦闘に巻き込まれても立ち向かわないで、防戦や逃走でも不自然じゃないだろ?』

「ふむ……」

「だがカーバンクルと言えば、そのドロップアイテムがとんでもない値段で取引されると聞くぞ。面倒事にならないだろうか?」

 

ガネーシャの指摘は鋭い。ご主人が夢の中で先輩を怪物祭(モンスターフィリア)で発表した際は【ガネーシャ・ファミリア】預りと明言したのだが、実際にそれを狙う不届き者が現れた。憲兵相手に喧嘩売る馬鹿は精々が闇派閥(イヴィルス)くらいだと考えていたのに、その辺の三下冒険者が徒党を組んで陽動と潜入を実行したのだ。

背後を洗ったら賭博場(カジノ)関連で来訪していたついでに怪物祭(モンスターフィリア)を見学した某国のお偉いさんのお(ガキ)様が愛玩動物(ペット)に欲しがったんだとか。親御さんに内緒で場末のとある【ファミリア】が経営している酒場に自ら赴き依頼を出したと言うのだから恐れ入る。依頼を受けた連中は成功したらお嬢様を人質に金をせびり、失敗したらお嬢様に責任を押し付け減刑を願い出るつもりだったらしいが。

 

『生態を詳しく観察する事で今後の討伐や捕獲が楽になるって言っておけば商人は黙ると思うぞ? 目先の利益に飛び付く三下が人質を取るとかで交換条件にしたら……まぁその時は大人しく引き渡せばいいさ。口は封じさせてもらうがな』

 

夢でのご主人は冒険者として、それ以上に芸術家と商人として名前が売れていたのに、その庇護下にある先輩の身を狙う身の程(せけん)知らずな馬鹿(ガキ)は現れた。

だが、逆に言えば知ってる大人は手を出さなかった。苛烈な報復振りはリヴィラの街を中心に広く吹聴されていたのだし……想定漏れで自爆したり深読みしすぎて盛大に空回ったりといったお茶目だったり愉快だったりする面も相当に広まってはいたが。

翻って、ご主人の庇護を持たない私の場合はどうだろうか。決して【ガネーシャ・ファミリア】の名前が持つ力を軽視する訳では無いが、それでも上手く行けば儲け物の誠心で狙って来る輩が現れる可能性は高いと見ている。

 

「ふむ、妥協できる範囲ではあるが……その場合、回復薬(ポーション)だのの話はどうする?」

『手作業でやってもいいぞ? 『調合』持ちにも負けない腕はあるし。カーバンクルの姿なら前足と尻尾が使えるからな』

「……数は?」

『一日八時間労昼休憩ありなら……五十が限界かなぁ』

 

主に集中力的な意味で。

 

「そうか……ならばそれでいこう。ガネーシャ、それでいいか?」

「うむ! 改めてよろしく頼むぞラピス。俺がガネーシャだ!」

『よろしくな。細かい決まり事の打ち合わせは後って事で。それまでは喋らないし野生の個体を真似ておくよ』

 

そういう事になった。

ちなみにだが、最後まで【装核語録(フォー・アンサー)】の効果に言及される事は無かった。俺は外で泣く。

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