さて、場所を提供してくれたウラノスにお礼を告げてからガネーシャ達に連れられ【ガネーシャ・ファミリア】の本拠へ。さすがにギルド内でモンスターの姿を晒すわけにはいかないので、ガネーシャの服に被さって体色を合わせて移動する事に。
そして何事もなく到着した。いや、嘘だ。途中でガネーシャが民衆相手に足を止めてアピールしまくってた。シャクティに先を促されては民衆に謝りつつその場を去る流れが何度も。知ってはいたが、大人気だった。
(何度見てもでかいなー)
「帰って来たぞ子供達よ! 俺がガネーシャだ!」
「ガネーシャ様、お帰りなさい!」
「団長、特に問題は起きていません」
「そうか、引き続き頼んだ」
「はい!」
【ガネーシャ・ファミリア】の
群衆の主を標榜する変だけどおもしろい神という人気者の立場を得ている主神を持ち、憲兵でもある【ガネーシャ・ファミリア】なので治安的にも安心できるらしく、人々の待ち合わせ場所にされる事もしばしば。独り身の団員は仲睦まじいカップルを眺めて涙を流すのだとか。
本気なのかは不明だが、神の中にはこのガネーシャ像が有事の際に動き出して戦うと主張する者もいるくらい状態が良い。ご主人は否定していたが、どことなくソワソワしていたのを覚えている。
なお、胯間が出入口なせいか団員からの評判は非常に悪い。
「さて、ここまで来れば安心だろう。シャクティ、ラピス運搬用の檻と首輪を頼む」
「わかった」
そうして用意されたのは、
『クキュウ……』
「……戸惑いは伝わるが、細かい内容はわからんな」
「うむ、今は普通に喋って構わんぞ」
『あ、そう?』
個室とはいえ、緊急案件でノックもなしに駆け込んで来てバレる可能性はある。むしろ王道ですらある。故にそれを警戒してカーバンクルの鳴き声で反応したのだが、当の団長と主神からは発言を許可された。
何かの間違いで【
『こんな広いと逆に萎縮するんだけど……』
「カーバンクルの魔力壁は物理も魔法も防ぐからな。内側から檻を破壊される可能性を考えた」
『そういう事か。じゃあ後は適当に寝た振りでもして過ごすよ』
「後で調合用の道具を差し入れる」
『ん、ありがとな』
こうして私は十分な広さが確保された檻に居を構え、新たな【ガネーシャ・ファミリア】の一員(?)としてオラリオでの生活を
『クキュウ……』
そして三日で飽きた。
(掴みは完璧だったな。完璧過ぎた部分もあったけど)
模倣元が私の記憶にある最新の先輩なだけあって、その毛並みは魔性と呼んでも差し支えのない魅惑の手触りを誇る。そのため、私を撫でた一部の団員と主神が暴走する事件もあったが……あの騒動を収めたシャクティの冷たい
(まぁ、今は閑古鳥が鳴いてるわけだが)
悲しい事に、美人は三日で飽きるの言葉通り空前のカーバンクルブームは下火になってしまったらしい……冗談ではあるが。
やはり大規模な
(しかし、本当にいないんだな、アーディ)
どこからともなく真っ先にやって来て、合流した主神と共に騒ぎまくり揃って姉に叱られる。そんな天真爛漫を地で行く心優しき少女の姿は確認できなかった……ご主人の夢では生存して二十歳を過ぎていたにも関わらずその振る舞いから少女としか表現できなかった事実は今だけでも忘れておこう。
実は遠征に向かっている班がある等の希望がないのは、世間話の中でシャクティが「このタイミングなら
とはいえ、推定の没年からは七年の計算。さすがに周囲も立ち直っているようだし、私も気持ちを切り替えねばなるまい。何しろ世界が違えどアーディならば立ち上がり前を向いて進む事をこそ願うだろうし。
(そうと決まれば……調合だ!)
ちやほやタイムが終わってからシャクティが差し入れてくれた食器代わりの乳鉢と、遊び道具に扮した乳棒や各種石材や鉱物。そして乳鉢に備え付けられた音の出る玩具扱いな火打ち石プレート。そこに対応する火打ち石素材でできた飲み水用の
(そういや
何ということでしょう。当事者として現場で動いていなかった事と、一年が濃密過ぎたせいで記憶が曖昧になっていました。
犯人は
(フェルズにダンジョン内の異変って事で伝えておくのもありか。なんならこっそり補助に回りそうな『
そもそもレヴィスがアリア――アイズを意識しなくても、いずれ【ロキ・ファミリア】は到達階層を伸ばすために59階層へ向かったはずだ。
遠征のタイミングがずれて
(リヴェリアの魔法でキモ虫諸共消し飛んだ振りをしたから存在が明るみにはなってないはずだけど……)
――ヒャッハー見つけたぜぇぇぇぇぇ! 胎児の宝玉はしまっちゃおうねぇぇぇぇぇ! 周りの極彩色も魔石を寄越せぇ! 後でまとめて搾って精製して精霊を生み出すぞぉぉぉぉ!
(あぁうん。今日も元気に深層探索して極彩色モンスターの邪魔してるな)
私にはオブシディアン・ソルジャーの魔法威力を減衰させる能力もあるので、下手に巻き込まれると盾の役割を果たしてしまいかねなかった。それを避けるべく地面に穴を掘って隠れ潜んだので難を逃れる事はできたし、その後に続く女体型とかいうデミスピの幼虫が現れてリヴェリアの探索に応用できる魔法を使われずに済んだのは不幸中の幸いだった。
後々に不自然な現象を思い出し正体不明の何かが存在していた可能性を推測される事もあるかもしれないが、既に後の祭で真相に辿り着く事はないだろう。深層だけに。急に冷えて来やがったな。
(……気を取り直して、調合しよう)
極彩色組の私が何やらとんでもない事を口走っていた気もするが、そこはそっとしておいてあげるのが優しさである。自分相手に何を言っているのかという話ではあるが、自分だからこそ同じ条件下では同じ状態になるのが見えていたので。
(しかし微妙に材料不足だな。いっそ軟膏や丸薬にしておくか)
この世界において、
早い話、管理は割とシビアで、荷物持ちを兼ねたサポーターの役割が重要度を増す訳だ。なお扱い。
その点、軟膏や丸薬といった粘性を持っていたり固体だったりする場合は、地面との接地面を削れば衛生上の問題はなくなる。緊急時の使用には適さないが、容器の材質に幅も出せて持ち運びや管理が楽になる利点もあるため、一長一短だろう。
「え? お、おい、あれ……」
「あぁ? なんだよいきなり……へぁっ!?」
「か、カーバンクルが……」
「「何か作ってる~!?」」
そんな騒ぎがあったものの、私の集中力は途切れない。力強く、しかし丁寧に乳鉢の中の素材を砕き、擂り潰し、どこまでも細かく。そして一旦取り出して別の素材を投入したら同じようにご~りご~り。さっきの素材を戻して混~ぜ混~ぜ……できた!
『クキュ!』
「「「おぉ~!」」」
いつの間にか集まって眺めていた
「あ、団長」
「……なるほど。確かに
「はっ!」
内心で首を傾げていると、人混みを割ってシャクティが姿を現した。
こちらの様子を確認し、
その目は養豚場の下りを思わせる冷たさを宿していた。その場合、出荷先はどこになるのだろうか。フェルズか、ダンジョンか。
(いやでも君やん、差し入れしてくれたの。調合も許可したやん?)
まさか夜な夜なこっそり作るとでも思っていたのだろうか。暇潰しなのだから日中するとわかりそうなものだが。夜は眠る時間帯ですよ団長さん。そんな風に心の中で言い訳したところで、シャクティには通じるはずもない。
まずは現実と向き合おう。私の今のこの状況……少なくとも、これだけは言える。
「さて、どうしたものかな……」
『クキュウ……』
プランD、いわゆるピンチですね。