転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したら檻の中だった件

さて、場所を提供してくれたウラノスにお礼を告げてからガネーシャ達に連れられ【ガネーシャ・ファミリア】の本拠へ。さすがにギルド内でモンスターの姿を晒すわけにはいかないので、ガネーシャの服に被さって体色を合わせて移動する事に。

 

 

 

そして何事もなく到着した。いや、嘘だ。途中でガネーシャが民衆相手に足を止めてアピールしまくってた。シャクティに先を促されては民衆に謝りつつその場を去る流れが何度も。知ってはいたが、大人気だった。

 

(何度見てもでかいなー)

「帰って来たぞ子供達よ! 俺がガネーシャだ!」

「ガネーシャ様、お帰りなさい!」

「団長、特に問題は起きていません」

「そうか、引き続き頼んだ」

「はい!」

 

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠(ホーム)は、腕を組み胡座を掻いた巨大なガネーシャ像という、良くも悪くも目立つ建物だった。その名もずばり『アイアム・ガネーシャ』で、その主張の強さから観光名所(ランドマーク)の一つと化している。

群衆の主を標榜する変だけどおもしろい神という人気者の立場を得ている主神を持ち、憲兵でもある【ガネーシャ・ファミリア】なので治安的にも安心できるらしく、人々の待ち合わせ場所にされる事もしばしば。独り身の団員は仲睦まじいカップルを眺めて涙を流すのだとか。

本気なのかは不明だが、神の中にはこのガネーシャ像が有事の際に動き出して戦うと主張する者もいるくらい状態が良い。ご主人は否定していたが、どことなくソワソワしていたのを覚えている。

なお、胯間が出入口なせいか団員からの評判は非常に悪い。

 

 

「さて、ここまで来れば安心だろう。シャクティ、ラピス運搬用の檻と首輪を頼む」

「わかった」

 

そうして用意されたのは、調教(テイム)済の証にもなっている発信器(プレート)魔道具(マジックアイテム)が付いた首輪と、カーバンクルの体格に対して大きめな檻だった。

 

『クキュウ……』

「……戸惑いは伝わるが、細かい内容はわからんな」

「うむ、今は普通に喋って構わんぞ」

『あ、そう?』

 

個室とはいえ、緊急案件でノックもなしに駆け込んで来てバレる可能性はある。むしろ王道ですらある。故にそれを警戒してカーバンクルの鳴き声で反応したのだが、当の団長と主神からは発言を許可された。

何かの間違いで【装核語録(スキル)】が発動しないかの確認をした部分もあったが、そちらは無事不発に終わったようだ。少しだけ、残念ではある。

 

『こんな広いと逆に萎縮するんだけど……』

「カーバンクルの魔力壁は物理も魔法も防ぐからな。内側から檻を破壊される可能性を考えた」

『そういう事か。じゃあ後は適当に寝た振りでもして過ごすよ』

「後で調合用の道具を差し入れる」

『ん、ありがとな』

 

こうして私は十分な広さが確保された檻に居を構え、新たな【ガネーシャ・ファミリア】の一員(?)としてオラリオでの生活を開始(スタート)したのであった。

 

 

 

『クキュウ……』

 

そして三日で飽きた。

稀少種(レアモンスター)であるカーバンクルは、まず珍しさから注目を浴びた。そして見た目が愛玩鼬(フェレット)に似ると描写されるだけあって人間の感性からしても愛らしい上に、私が人間に――隔意を持たない程度に抑えているが――友好的な事もあって、私見では【ガネーシャ・ファミリア】の面々からも好意的な形で受け入れられたように思う。

 

(掴みは完璧だったな。完璧過ぎた部分もあったけど)

 

模倣元が私の記憶にある最新の先輩なだけあって、その毛並みは魔性と呼んでも差し支えのない魅惑の手触りを誇る。そのため、私を撫でた一部の団員と主神が暴走する事件もあったが……あの騒動を収めたシャクティの冷たい視線(ジト目)が私の心を熱くしたものだ。カーバンクルに擬態していたのでしっかり悶える様も見られてしまった。

 

(まぁ、今は閑古鳥が鳴いてるわけだが)

 

悲しい事に、美人は三日で飽きるの言葉通り空前のカーバンクルブームは下火になってしまったらしい……冗談ではあるが。

やはり大規模な行事(イベント)である怪物祭(モンスターフィリア)の準備が大詰めとあって相当に忙しいようだ。暴走事件の折に団長から渇を入れられた事もあって、私の檻の前で足を止める団員はいなくなった。通りすぎる際に手を振ったり声を掛けていく者は引き続きいるのだが。

 

(しかし、本当にいないんだな、アーディ)

 

どこからともなく真っ先にやって来て、合流した主神と共に騒ぎまくり揃って姉に叱られる。そんな天真爛漫を地で行く心優しき少女の姿は確認できなかった……ご主人の夢では生存して二十歳を過ぎていたにも関わらずその振る舞いから少女としか表現できなかった事実は今だけでも忘れておこう。

実は遠征に向かっている班がある等の希望がないのは、世間話の中でシャクティが「このタイミングなら怪物祭(モンスターフィリア)の関係で全員が揃う」と言っていた事から判明している。してしまって、いる。原作と同じか非常に近い分だけ私の過ごした物とは違う世界である事は重々承知しているが、それでもやはり寂しいものだ。

とはいえ、推定の没年からは七年の計算。さすがに周囲も立ち直っているようだし、私も気持ちを切り替えねばなるまい。何しろ世界が違えどアーディならば立ち上がり前を向いて進む事をこそ願うだろうし。

 

(そうと決まれば……調合だ!)

 

ちやほやタイムが終わってからシャクティが差し入れてくれた食器代わりの乳鉢と、遊び道具に扮した乳棒や各種石材や鉱物。そして乳鉢に備え付けられた音の出る玩具扱いな火打ち石プレート。そこに対応する火打ち石素材でできた飲み水用の容器(ボウル)……完璧だ。しかも食生活が知られていないのを逆手にサラダと称してホワイトリーフを入れておくとは親切が過ぎるぞ。この時期は品薄になっているんじゃなかったか……あっ。

 

(そういや怪物祭(モンスターフィリア)の直後って【ガネーシャ・ファミリア】の団員殺されるじゃん!)

 

何ということでしょう。当事者として現場で動いていなかった事と、一年が濃密過ぎたせいで記憶が曖昧になっていました。

犯人は怪人(レヴィス)で、事件の経緯はフェルズから依頼を受けた【ガネーシャ・ファミリア】の第二級冒険者が……何階層かは忘れたが、精霊の分身(デミ・スピリット)の胎児が入った卵のようなアイテムを回収させて、それを取り戻そうとしたレヴィスに狙われたはず。しかも物は【ヘルメス・ファミリア】の運び屋に渡した後だから殺され損という救われなさ。これは防ぎたいところだが……【ロキ・ファミリア】が怪人(クリーチャー)精霊の分身(デミ・スピリット)と因縁を持ち人造迷宮(クノッソス)闇派閥(イヴィルス)残党に到達するためのイベントフラグでもある。

 

(フェルズにダンジョン内の異変って事で伝えておくのもありか。なんならこっそり補助に回りそうな『異端児(ゼノス)』に合流している私が動いてもいいし)

 

そもそもレヴィスがアリア――アイズを意識しなくても、いずれ【ロキ・ファミリア】は到達階層を伸ばすために59階層へ向かったはずだ。

遠征のタイミングがずれて精霊の分身(デミ・スピリット)の羽化に立ち会えなくなるが、事前に羽化前の個体と遭遇してアイズが単独撃破していたのだし、確信を得るまでもなく類似性から関係に予測を立てられるだろう。何しろ羽化前の個体と出会ったタイミングは例の襲撃と同じであり、極彩色組の私が居合わせていたのだから。

 

(リヴェリアの魔法でキモ虫諸共消し飛んだ振りをしたから存在が明るみにはなってないはずだけど……)

――ヒャッハー見つけたぜぇぇぇぇぇ! 胎児の宝玉はしまっちゃおうねぇぇぇぇぇ! 周りの極彩色も魔石を寄越せぇ! 後でまとめて搾って精製して精霊を生み出すぞぉぉぉぉ!

(あぁうん。今日も元気に深層探索して極彩色モンスターの邪魔してるな)

 

私にはオブシディアン・ソルジャーの魔法威力を減衰させる能力もあるので、下手に巻き込まれると盾の役割を果たしてしまいかねなかった。それを避けるべく地面に穴を掘って隠れ潜んだので難を逃れる事はできたし、その後に続く女体型とかいうデミスピの幼虫が現れてリヴェリアの探索に応用できる魔法を使われずに済んだのは不幸中の幸いだった。

後々に不自然な現象を思い出し正体不明の何かが存在していた可能性を推測される事もあるかもしれないが、既に後の祭で真相に辿り着く事はないだろう。深層だけに。急に冷えて来やがったな。

 

(……気を取り直して、調合しよう)

 

極彩色組の私が何やらとんでもない事を口走っていた気もするが、そこはそっとしておいてあげるのが優しさである。自分相手に何を言っているのかという話ではあるが、自分だからこそ同じ条件下では同じ状態になるのが見えていたので。

 

(しかし微妙に材料不足だな。いっそ軟膏や丸薬にしておくか)

 

この世界において、回復薬(ポーション)や解毒薬は基本的に液体だ。体を動かす分だけ水分補給したい側面もあるのだろうが、容器に硝子製の試験管が使われているため地面に落としたらアウト。攻撃を受けて割れてもその場で持ち主に効果を発揮して終わりとなる。

早い話、管理は割とシビアで、荷物持ちを兼ねたサポーターの役割が重要度を増す訳だ。なお扱い。

その点、軟膏や丸薬といった粘性を持っていたり固体だったりする場合は、地面との接地面を削れば衛生上の問題はなくなる。緊急時の使用には適さないが、容器の材質に幅も出せて持ち運びや管理が楽になる利点もあるため、一長一短だろう。

 

 

 

「え? お、おい、あれ……」

「あぁ? なんだよいきなり……へぁっ!?」

「か、カーバンクルが……」

「「何か作ってる~!?」」

 

そんな騒ぎがあったものの、私の集中力は途切れない。力強く、しかし丁寧に乳鉢の中の素材を砕き、擂り潰し、どこまでも細かく。そして一旦取り出して別の素材を投入したら同じようにご~りご~り。さっきの素材を戻して混~ぜ混~ぜ……できた!

 

『クキュ!』

「「「おぉ~!」」」

 

いつの間にか集まって眺めていた団員達(ギャラリー)の拍手を受けながら、私は残すところ乾燥を待つだけの丸薬を天に掲げる。明らかな異常事態(イレギュラー)なのだが、何故か受け入れられているような。

 

「あ、団長」

「……なるほど。確かに異常事態(イレギュラー)だな。よく知らせてくれた」

「はっ!」

 

内心で首を傾げていると、人混みを割ってシャクティが姿を現した。

こちらの様子を確認し、告げ口(ほうこく)したらしい団員を労うと、改めて檻の前に仁王立ちしてこちらを見下ろす。

その目は養豚場の下りを思わせる冷たさを宿していた。その場合、出荷先はどこになるのだろうか。フェルズか、ダンジョンか。

 

(いやでも君やん、差し入れしてくれたの。調合も許可したやん?)

 

まさか夜な夜なこっそり作るとでも思っていたのだろうか。暇潰しなのだから日中するとわかりそうなものだが。夜は眠る時間帯ですよ団長さん。そんな風に心の中で言い訳したところで、シャクティには通じるはずもない。

まずは現実と向き合おう。私の今のこの状況……少なくとも、これだけは言える。

 

「さて、どうしたものかな……」

『クキュウ……』

 

プランD、いわゆるピンチですね。

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