転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したら悩みの種だった件

「調査は確実に行うが、処遇に関してはガネーシャと相談の上で決める。調合の真似事をするモンスターなど前代未聞だ、相応の知能があるものとして考え、こいつの前では下手に情報を漏らすなよ」

「「「はいっ!」」」

 

そういう事になった。

想定される中では一、二を争う軽い対応だ。最悪の場合でも分裂した私が一体消されて魔石を一つ失うだけだったが、決して軽い損害でもないので助かった。

 

「では非番以外の者は解散しろ! 怪物祭(モンスターフィリア)が近くなって街も浮わついたところがある。神の動向には注意を払え!」

「「「はいっ!」」」

 

いい返事だ。感動的だな。だが無意味だ……神の起こす馬鹿騒ぎを止められない的な意味で。

 

「……はぁ、全く油断も隙もない」

『キュウ?』

「チッ!」

 

団員が――恐らくは集まった中にいただろう非番の者も含め――去って行った後で、シャクティが短くも万感の思いが込められた溜め息と愚痴らしき言葉を溢す。

誤魔化しがてら首を傾げて鳴いてみたが、返って来たのは舌打ちだった。行儀の悪い真似に驚いたが、私以上に本人が驚いた顔をしていた。無意識に出るほど苛立たせたのだろうか……これは偉業では? ガネーシャを呼んで【ステイタス】の更新を試してみるべき。

 

ちなみに、この後ガネーシャが合流して説明をしたのだが、シャクティは夜中にこっそり調合をすると本気で思っていたらしい。あのガネーシャが真面目なトーンで「ちょっとそれは都合良く考えすぎだろう……」と駄目出しをする程だった。シャクティはこの世の終わりみたいな顔で落ち込んでいた。

調合するのは胃薬にするべきだったかと思いながらも、とりあえず体内で生成した万能薬擬き(エリクサーモドキ)を渡しておいた。ラベルには原材料と効能――傷は治るが体力の回復は少ない旨――が記載されているのだが、それを見たシャクティの表情は能面のように抜け落ちていた。何故だか飲まずにしまいこんだし。

 

それはそれとして、ボディーランゲージと鳴き声でガネーシャにアピールして近付いてもらったところで赤髪の女調教師(テイマー)食料庫(パントリー)を塞ぐ謎の緑肉というダンジョン内の異常を――ウラノスにも共有して欲しいと念押しした上で――伝えておいた。

これで秘密裏の調査を諦めて巻き込む規模を大きくするなら良し。逆に秘密主義を拗らせて私に依頼が来るようならなお良しだ。

 

 

 

――地上組としての報告は以上。それっぽい階層(ばしょ)に心当たりある? ついでに荒らせる?

――こちら『異端児(ゼノス)』組。お前が覚えてないなら私らも覚えてないと思うんだ。現在23階層にて遭遇した【イケロス・ファミリア(みつりょうしゃたち)】を全滅させちゃったから探して荒らす時間はあるZE☆

――何してくれてんの!? あー、こちら闘技場(コロシアム)組。怪人(クリーチャー)闇派閥(イヴィルス)闘技場(ここ)は避けているようだし、暇ではあるから動こうか?

――こちら極彩色組。忙しいからパス。以前の報告通り、精霊関連じゃないなら胎児の寄生を誘発する事なく回収できる事を確認してるから参考にしてくれ。いくつか現物がポーチに入っているけど取扱いには注意しろよ。しかし極彩色モンスター多すぎて無理矢理テンション上げんとやってられん。まだまだいけるぜ! メルツェェェル!

――そいじゃーすまんが頼む。許可が下りたらこっちも向かうし、情報が入るなら階層の詳細とかここに上げるわ

――了解

――りょ、乙

――りょつ

 

 

「――それで、どこまで知っている?」

食料庫(パントリー)を隔離して、中でロクでもない事をしてる奴がいる。食堂が一ヶ所潰れてアテが外れたモンスターの移動が起きてるから大量発生に見えるはずだ』

「目的は?」

『さぁな。闇派閥(イヴィルス)の残党が調教(テイム)済モンスターを養ってるのかもしれんし、大昔に敗北して食われたけど自分を食ったモンスターを乗っ取ったはいいが在り方が反転して人も同胞も等しく襲うようになった大精霊が托卵みたいな真似をしてるのかもしれん』

「後半の情報が具体的すぎる!?」

『ただの予想だよ。現場は見てないし確証はないぞ』

「なんて白々しい……」

「だが、嘘は言っていない。あくまでも予想らしい」

 

そんなわけで場所は変わってギルド最奥である。

ガネーシャから「そういう事は直接伝えるべき」と実に真っ当なお言葉を賜り、気を遣って運んでくれた。時期的に怪物祭(モンスターフィリア)の打ち合わせとしか思われないのが幸いか。

しかもそうするだけの理由――特別な事をするという周囲への言い訳(カバーストーリー)から、今回は調教(テイム)済の特別な訓練を積んだカーバンクルによる(サーカス)が祭のプログラムに追加される線が濃厚になって来た。私にとっては良い事尽くしであるが、返せる物の大きさが相手の胃痛を引き起こす規模になっているのが困り物だ。なんとも贅沢な話ではあるが。

 

人造迷宮(クノッソス)の情報を渡すのも手かな。存在が発覚しても扉を開ける鍵(ダイダロスオーブ)がないなら無理に攻め込む事もないだろうし……『異端児(ゼノス)』組で密猟者を狩ったなら複数個所持してるか?)

 

そもそも現物が一つあれば、解析して複製可能なのではなかろうか。鍵として成立する仕組みは知らないが、核となる材料は過去の偉人というか奇人であるダイダロスの血を引く者の眼球らしい事はご主人の一粒で二度おいしいという説明にドン引きした記憶が忘れさせてくれない。

つまり科学的な網膜パターンか、ファンタジー作品あるあるな魔力波形辺りだろう。計測できるなら模倣する事も……そもそも事実確認はできていないが、神が人を作ったと人は信じている世界だし、神秘持ちの錬金術師なら短期間でクローンを培養できそうな気がする。賢者の石の件からするに、神の御技判定で破棄されるだろうか?

 

さておき、攻略について別の視点から考えてみよう。人造迷宮(クノッソス)はダンジョンを囲むように建造されている分だけ一周が広く、階層間の最短ルートが長い。つまり進行速度は相対的に遅くなる。

しかも随所に設置されている最硬金属(オリハルコン)製の隔壁で進路を制限されるため、鍵があっても横道や背後から奇襲を受け兼ねない難所だ。

おまけに大半が自決装置(ばくだん)呪武具(カースウェポン)頼りな闇派閥(イヴィルス)残党はまだしも、怪人(レヴィス)率いる最低でもLv.3相当な極彩色モンスター群が巡回または待機しているため、防衛力も決して低くない。

現時点であれば精霊の分身(デミ・スピリット)の準備前な可能性もあるが……中位精霊(ネーゼ)幼竜(ジータ)になった隠し玉(ニーズホッグ)だけは既に用意されていそうだ。時期にもよるが、早すぎると精霊側の支配が残って普通に戦闘が起きる可能性もあるため、慎重になった方が良いかもしれない。それとも、数ヶ月程度では変わらないだろうか?

 

困った事に、その場合でもオッタルに防御魔法の一つでも与えてやればソロで解決してしまう気がしてならない。物語の都合と言ってしまえばそれまでだが、黒竜以外の出て来る敵が彼より劣っている問題は、現状が軽く詰んでいる証明に近いのだが。

というか『神の恩恵(ファルナ)』の機能から逆算して、人間の可能性が狭すぎる。特にエルフ。

レフィーヤ大明神やリューの成長速度が他種族に劣っていない以上、本来なら長命なエルフは数十年単位を現役で戦い続けてLv.10前後の者が複数人は出て来なければおかしいだろうに。実態は森に引きこもって周囲を見下す見た目は良い種族……戦わなければ生き残れない世界でこれは、消極的な人類の裏切り者とさえ言われかねない。ウドの大木とは正しく森の一部である連中のためにある言葉だ……ウドは山菜か。

もっとも、この世界の始祖エルフは霊峰アルヴ山脈に暮らす山の民だったらしいが。大穴と呼ばれていた頃のダンジョンから無限に湧いて来るモンスターに蹂躙され、人類の生存圏が狭まっていく一方な古代の話だとか。

黒妖精(ダーク・エルフ)は限界ギリギリまで勇敢に戦って数を減らし、白妖精(ホワイト・エルフ)は早々に見切りをつけて山を降りたらしい。エルフの誇り(笑)と見るか、多くの命を繋いだ賢者と見るかは人次第だろう。なお現在も逃げている(ひきこもり)

他種族を精神的に見下すのも、かつて山から物理的に見下ろしていた環境が関係しているのだろうか。神時代に突入して『神の恩恵(ファルナ)』由来の魔法にお株を奪われてしまった恨みや僻みもあるのかもしれない。どうにも器の小さく見えがちな種族である。

好意的な解釈から予想するならば、外に出て戦う高潔なエルフであればあるほど、認めた仲間を優先して自分の身を盾または囮に使い命を散らした可能性はある。なおオラリオで見られる標準的なエルフの性格。

連中、性格がアレなので森にいたら若造扱いでいつまでも権利を認められないから新天地に逃げたという、流民の亜種にしか見えない。先祖も山から逃げたわけだし、多くは森に引きこもって現実から逃避しているし、基本的に逃げてばかりである。魔法が得意な種族特性的に引き撃ちさせるためすぐ逃げる性質も与えられているのだろうか。

そう罵ったところで「所詮獣の戯言、オレの心には響かない(キリッ」されるだけで成長が早まるわけではないし、不毛なので考えるのも止めよう。

 

オッタル突撃による解決は手段の一つだが、しかし原作は言ってしまえばベル育成RTAバグなしチャートらしいので、下手な介入はしない方が良さそうでもある。踏み台が高くなって越えられずゲームオーバーは中々に居たたまれない。

 

(【ガネーシャ・ファミリア】の世話になる事を拒否しなかったのは、憲兵で中立だからってのがあるもんな。主人公(ベル)は事件の中心にいるから問題児扱いで頭を抱えてそうだが)

 

その意味では、ベルの壁が小刻みになるのも成長速度を緩めてしまう可能性がある。【ステイタス】や【経験値(エクセリア)】が相対評価なせいで本気で匙加減が非常に難しい。敵の強さが連動してくれない上にシームレスマップで移動は徒歩のみなのも相当なストレスだ。

その割に千年間で土木工事による短縮の可能性を追求、実現できているのが人造迷宮(クノッソス)くらいな点も謎だ。アルゴノゥト時代ですら王国に地下迷宮が存在するのだから、オラリオとて下水道を敷く頭があるのだから、そのまま掘り進めてダンジョンと接するような地下都市を築くくらいはして欲しいものである。ダンジョン内の地図と照らし合わせて繋ぐのを階段の近い階層のみに絞るだけでも安全確保と移動コスト低減を両立させられるだろうに、頭冒険者極まりない。ウラノスの祈祷が届かないとか他の神にはできない(モチベ的な意味で)とか言い訳されたのだろうか?

相対評価に関しては永遠に存在する神だからこそ結果の見えている地道な努力(ゴブリンだけでカンストできるシステム)を否定した可能性がありそうで、娯楽目的(ヒトデナシ)の本領発揮なのだろう。しかしながらやっている事は無料石による単発ガチャを回すだけのリセマラに近いのだから、暇潰しに対する姿勢が低すぎて恐れ入る。もっと眷族が成長しやすい環境作りを推進する神はいなかったのだろうか。

その意味では、恐らくは最初期に降り立ち君臨していたゼウス・ヘラに挑む神々という蟲毒環境が最適解として浸透していたのが不幸だったのかもしれない。というか蟲毒は近くに街を作ってやれと。ダンジョンで稼ぐ連中の邪魔をして可能性を無駄に食い荒らした馬鹿集団とかいう闇派閥(イヴィルス)の前身が混じってたのはほぼ確実だろう。

結局は長生きなだけで計画性もなく刹那的に楽しむだけで満足できてしまう神々を、私は心底尊敬(けいべつ)する。スマホゲー戦国時代に突入した平成後期以降の日本を見ているようだ。貧乏人ならぬ貧乏神しかいない。貧乏神なら大して人の役に立ってないのも納得か?

思えば、一族を呪ってでも計画を遂行する奇人(ダイダロス)の狂気こそが最も神を喜ばせる可能性だったのではなかろうか。神にとって千年は一瞬なのだから、瞬き一つしただけでダンジョンを取り囲む人造の迷宮が18階層まで生まれているのだ。

その間に犠牲となった人々など、神からすれば見分けのつく犬猫程度の価値しかないのだし、自分の飼った個体でもなければ欠片程度の愛着も持つまい。ゼウスやゴブニュの例はあるが。

どうせ黒竜を討つに至らない過渡期でしかないのだから、人類一丸となって推し進める事業にしていれば数百年で深層スタートも可能となりより多くのガチャを回す機会を得られたかもしれないのに、全知とは無知の知を意識できない連中の戯言に過ぎないではなかろうか。

 

(ていうか未知を求める全知とか何文字で矛盾すれば気が済むんだ。しかも実際に下界でそれを目の当たりにして喜んでいるし。ボーボボか?)

 

そんな無駄に終わった千年と微かな成果を残している千年を評価したところで後の祭ではあるため、話をベルの育成に戻そう。

とはいえ、こうなると彼に関しては放置安定かもしれない。いっそ発想の転換で私が天に立つルートを走って黒竜もダンジョンも攻略してしまう方が私個人の感情としては楽しいようにも思うのが何とも度し難い。考えるのは後にしよう。

 

『それで、解決にはどう動く予定だ?』

「ふむ……可能であれば【ガネーシャ・ファミリア】に動いてもらいたいが、時期が悪い」

「うむ、怪物祭(モンスターフィリア)があるからな」

 

フェルズの言葉に対して、ガネーシャが同意を返す。確かに丁度悪い時期ではあるのだ。怪物との友愛(モンスターフィリア)は時代の転換期として作用する爆弾であり、そのための気長な計画でもある。どうしてこれができて土木工事の以下略。

そんな目的とは関係なく、祭は街に経済効果をもたらす。開催時期を通知してしまっている以上、既に露店の配置も決まり、そこに向けた食材等の調達についても手配が済んでいる。時期を後にずらそうものなら、何軒かの店が畳まれ、数人が首を吊る話にまでなりかねないのだ。それを許容してはギルドの管理能力が疑われてしまう。

 

「ダンジョン内の異変であれば『異端児(ゼノス)』に頼むのも手ではあるが、対価を用意できるかの問題がある。交渉はしてみるが、な」

 

そう語るフェルズの背中は、どこか煤けて見えた。

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