そんなわけで数日飛んで、始まりました
私は先輩に擬態して、さいかわカーバンクルとしてトリにサーカスっぽい感じの芸を披露する手はずとなっております。モンスター脱走で出番が繰り上がるか、それとも中止になるか、目が離せません。
ちなみに私の檻は
でもって寝た振りをしていたのでフレイヤの魅了には巻き込まれずに済んだ。代わりに檻を開けられもしなかったが。
(声でも魅了振り撒いてるのヤバイな。さすがに意識のない相手には効かないっぽいけど)
私のいる檻の前に来るとき少し驚いた風だったのは、私の見た目が
「ラピス、起きろ」
『クキュ?』
そして事件が発覚し、慌ただしくなる中で方々に指示を飛ばしてから、シャクティは事情を確認するため私の檻の前までやって来た。
「犯人の顔は見たか?」
『キュ!』
「……似顔絵は」
『クキュ』
さすがはシャクティ、話が早い。とりあえず檻の床部分に尻尾でフレイヤのバストアップを描く。画材は擬態した血液なので、ちょっとホラー。
「神フレイヤ……何が目的だ?」
どうやら判別できたらしい。画力に自信はなかったが、魅了の文字を入れたのが良かったのかも知れない。
「お前を証人扱いするわけにもいかんしな……他の証拠が残っていない以上は追及できんか」
『クキュウ……』
こればかりはどうしようもない。強いて言うなら出し物で実践お絵描きと檻の前で呟いてた台詞起こしでもしてみるか?
変に注目を集めるのも、無駄に狙われるのも、この際だから甘んじて受けていい。私は割とやさぐれ始めているのだ。
先日こっそり見届けたトマト野郎の誕生と、酒場でのトマト野郎発言、そこからベル少年が挑んだ蛮行。
世間知らずの無垢な少年が、導く大人もなしに一人で動けばこうもなるかと理解も納得もできてしまったが……戦争のない国で衣食住に苦労した覚えもない子孫や後継者に恵まれさえした環境を生きた者の価値観が、非常に気に入らないと叫んでいる。
というかヘスティアは現状を放置するな。知
他の神が上手くできるのは苦労や失敗、後悔を重ねた後だったり天界での経験を応用しているからであって、天界で怠惰を極めた堕神が全能すら手放して真似できる難易度ではない。それを自覚していないようなら、どう考えても全知まで手放している。全知の知は知識だけで知能や知性は含まれないからセーフ扱いなのだろうか。辞書を持っているが引けない馬鹿を全知と呼ぶのは無理があるのだが。ラジエルもびっくりだよ。ゼタビームで焼かれてしまえ。
ちなみに、全知全能の知は本質を見抜く力で能は物事を成し遂げる力なのだとか。要は勘が鋭く幸運であれば大体全知全能を名乗れる、かも。
むしろ真に零能となったのならば、それは知っている事を出力する能力すらも失った人間未満に成り下がるので、下界に存在する神は生きているだけのゴミである。成し遂げる力が零ならば成長すらもできないのだから。
ベル少年に独占欲を抱いて
未知に触れる喜びを感じて失敗をも楽しめると書けば前向きで良さげに聞こえなくもないが、困った事に
かなりマトモとされるヘスティアですら実に神――最低倫理観のゴミクズであると発覚し、私は世界に失望した。
今は立派なガネーシャですらも下界降臨直後は
そんなわけでやさぐれラピスさんは割と真剣に世界滅ぼしたくなっている。言っては悪いがどうせこれも夢なのだろうし。
とはいえそれだと『
私の持つ原作知識はご主人由来の比較として出されたもので、私自身に原作への思い入れやリスペクトの精神はない。だからこそ、声を大にして言おう。この世界は実質ARMORED COREだ。
さて、気合を入れ直したところで、話を私が見届けたベル少年の『憧憬』を抱く場面について戻そう。
(紙一重ってレベルじゃねーぞ!?)
普通に死ぬわ。なんであのミノタウロスあんな元気なんだ。疲れ知らずか。ベル少年でもある程度は逃げ切れるなら疲れきってるのかと思ったら普通に消耗なかったわ。
むしろあれは逃げ出す前の恐怖に加えて逃走する内にランナーズハイを発症して脳内麻薬ドバドバのリミッター故障かつ死を身近に感じて子孫を残そうとする本能が刺激され昂った状態で童顔のベル少年を見て発情したから元気一杯だったまであるわ。
ベル少年も火事場の馬鹿力で動いていた気配はある。見極め前に見切りを付けて逃げ出さない辺りに正常性バイアスは見られたが、そもそも知識も経験も不足している駆け出しなので責めるのはお門違いかもしれない。
事態を認識してからはパニックを起こして体の動きもぎこちなかったが、むしろ
あとミノタウロスは素手だった。頼みの綱だったご主人の記憶も当てにならない事が判明し、私はやさぐれ度がアップした。そして修正力の程度によらず正史を参考程度にする事を決めた。
何なら魔石三つ分の状態で黒竜に挑もうかと持ちかける所存。私、行き詰まったらナレ死させて打ち切りエンドにするんだ……。
その後の豊穣の女主人は
いや死ぬわ。死にかけで済んだけど。それにしたって頭おかしかった。なんかウォーシャドウのドロップアイテム握り締めて傷付きながら二刀流とかやり出したし。あれで意味深な独り言とか口にしてたら完璧に
確かに一周目のベルも大概『あたおか』だったが、あれは
逆に言えば原作の紙一重具合と、その途方もない厚さを垣間見た気がした。あれは原作の修正力扱いで良いのだろうか。まるでどこぞの動画サイトで見かけた女性SUMOUレスラーを思わせる、後1ミリが削れない安心感だった。
その確認の意味も込めて現在進行形で食人花成り代わりによる介入を試みているわけだが、こちらの成果は上々らしい。頑張れ
だらだらと愚痴を溢してしまったが、今は現実の――モンスター脱走に関する対応をしなければならない。外に関しては避難誘導と冒険者への協力依頼で対処するらしい。
そして
「
故に、シャクティの言葉通り、私の出番が早まった上に時間も延長されるわけだ。何度か失敗して再挑戦することで時間稼ぎすればいいだろう。
『クキュッ!』
私は元気良く二本足で立ち上がり、手を振り上げて返事をした。もう理知を隠していないが、団員は全く意に介していなかった。みんな『
なお、予定時間の三割増しで芸を披露する事になって大変疲れた。反響も非常に大きかったのだが、今にして思えばお絵描きはやりすぎだったと反省するポイントだろう。
事後報告されたのだが、フレイヤの似顔絵を購入したいと――身なりからして信者の商人が――持ちかけて来たらしく、シャクティからガネーシャと相談の上で売却したそうだ。三百万ヴァリス一括払いだったらしい。高くない?
「それじゃあ次は私ねー」
「ずるーい! 私の方が先に並んでたのに!」
『クキュ……』
そして出番が終わって
(おかしい……食人花成り代わりとロキ派の足止めが成功したし、結果さえ伴えば修正力そのものは大したことがなさそうだと結論付けたから書き置きを残して【ガネーシャ・ファミリア】を去るつもりだったのに)
まさかこれが原作ならぬこの世界の修正力だったりするのだろうか。人々の原作での性格はほとんど知らないが、一周目の性格と比較して不自然な場合は介入を想定した方が良いのかも知れない。抗う方法は知らないが。
(おお、オラリオの夜明けぜよ……眠る必要ないし疲労感も特にないから別にいいけどさ。太陽が黄色い現象はもう見ないで済むな)
結局、私が解放されたのは明け方だった。まさかお疲れ様会があるとは……街の見回りには大丈夫だったのだろうか。そしてフェルズの依頼に関してはシャクティ自ら直々に選んだ第二級冒険者が出発済らしい。ぴえん。
――こちら地上組。脱走は失敗。脱走は失敗。どうぞ
――こちら『
――こちら
――こちら極彩色組。58階層を餌場兼罠にしつつ59階層で
――みんなして自由すぎん? 私と代わるつもりは……
――足掻くな、運命を受け入れろ
――諦めて、お願い!
――作戦に変更はない。予定通りだ
――これは……面倒なことに……なった……
日が上り始めた現在。宴に参加しなかった若い団員が起きて来て、酒瓶や皿に残飯をそれぞれ分別しながらまとめていた。
その辺に転がる酔っ払い共は無視している。
とりあえず寝落ちせず未だに構い倒して来るご機嫌な
あくまでもカーバンクルを演じなければならないので。不貞寝ではないぞ、決して。
UA10k超え、感謝。