それは、穏やかな春の日差しを浴びながらのんびりまったり丸まっているときだった。
――こちら『
どうやら派遣されていった団員は作戦の第一段階をクリアしたらしい。後は
護衛付きなら途中でレヴィスの襲撃があっても無事に済む……と、思いたい。
――ほうほう、朗報だな。
レヴィスが先回りしてリヴィラの街で張ろうとしていた場合の対策も取ってある。途中で合流するパターンは『
向かった団員は三名。18階層と28階層でそれぞれ離脱、待機しており、回収したブツをタスキに駅伝競争するので今日の夜には結果が出るだろう。死者無しで終われるといいのだが。
――こちら極彩色組。動きは変わらず。極彩色モンスターは魔力
こちらも良い報告か。今までは地下水路の極彩色モンスターを暴走させる危険があったから警戒して外を歩き回れなかったが、魔力の隠蔽……完全なものでなく人並みに抑える程度にして歩けば良さそうだ。
さて、次はこちらの報告に移ろうか。気が乗らないが。
――地上組。魔石削って子供作ってみたけど自分じゃないから役に立たなくて泣いてる
――何してんだお前
――貴重なデータではある
――生まれたのはウーズ? 擬態先?
――ウーズだったわ
――ほう、つまりスライム出産ですか
――止めろ馬鹿
――
――ちゃうわ! ウーズ状態からの細胞分裂だっての! 檻の中にモス・ヒュージの能力でガワだけのデコイ置いて抜け出したから安心しろ
同じ失敗を繰り返さないためにも報告したらこの始末。こいつらだって暇になったら試すと思う。私は実際軽率だった。だが考えて頂きたい。ここまでされる謂れはない!
――つーかそれだと
――そう、それが言いたかった。とりあえず今後もちょくちょく夜に抜け出して散策するわ。ダイダロス通りなら野良
――そういや戦後の
――ギルドで管理だろなぁ。基本は放置になりそうだけど
――壊すにも手が足りないもんな。確かフェルズが幽霊屋敷なんて言われて工房を引き払ったりしてたし、代わりの作業場にするんじゃないか?
――それもありそうだな
そんな感じで方針を固めた。
今回の依頼が無事に終わった場合、戦利品をフェルズがウラノスに見せて判断を仰ぎつつ、自分でも解析するだろう。賢者の本領発揮となりそうだが、果たしてどんな結果になるのだろうか。期待半分、嫌な予感半分だ。
直感さんがあたふたしているような……だが気のせいって事にしておこう。他の私が言及しないって事は、そういう事なのだ。
しかしリヴィラの街でレヴィスとアイズの因縁が生まれない場合、アイズの強さを求める気持ちが改まる機会を逃してしまいウダイオス単独討伐による【ランクアップ】やその先の影響が消えてしまう。ベル育成RTAを考えれば憧憬に先を行かれる事態を起こさないのは向上心というか早熟スキルの効果が比較すると弱くなるわけだ。控え目に言ってこれはまずい。
だが手遅れでもある。今更レヴィスと合わせる調整とか面倒だ。心の中のスティンガーさんが一つになったファンタズマごと燃えてしまう。
とはいえ、そう時間を置かず24階層で異変が起きていると冒険者から報告が上がるはずだ。
そこにアイズがねじ込まれるかはタイミング次第になりそうだが、フェルズが卵の解析結果から精霊関連だと伝えればワンチャン軌道修正されそうな気もする。なお【ランクアップ】前なのでレヴィスがいたら負ける模様。助けが必要だろうか。
というか今更だが、極彩色組はこういった関連事件に対して奔走する役割だったはずなんだが。何故深層でモンスター狩りながら59階層を見守っているのか。
代わりに安全な場所で待機する係だったはずの
次の日には無事に引き渡しが終わり、死傷者ゼロでの任務完了となった。これには私だけでなくガネーシャ達もにっこり。
なお、リヴィラの街での殺人も起きず、足止めを受けず情報も得られなかったロキ派は素材や魔石を売ったらそのまま先に進んだらしい。そして深層で稼いだ帰り道に全身ローブの推定
――魔石一個でも制圧余裕でした
――そら(魔法効果減衰に加えて物理含めた各種属性耐性爆盛したら)そう(リヴェリアとレフィーヤどころかアイズも実力半減以下になって戦闘がかなり有利になる)よ
――単純にLv.6二人とLv.5三人に一応戦力に計上できるLv.3(なお魔力)じゃオッタル一人でも返り討ちしかねないからなぁ
はい、犯人は私です。
ウダイオス討伐せんでも【ランクアップ】せんかなーという淡い希望も添えたんでアイズは割と徹底的に叩いたんだとか。これもうレヴィスとの因縁が明後日の方向に飛んで行った気がするぞ。
そしてタイムリーな名前が出たので、こちらも情報を解禁しておこう。
――そのオッタルが【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に来てるんだよなぁ
――なんて?
――フレイヤ絡み?
――知らん。けど多分そう
――惜しい奴を亡くした
――まだだ、まだ終わらんよ!
――そこはARMORED COREの語録を使えよ、なぁ
オッタル、というかフレイヤの目的は恐らく私だと思うが、果たしてどのような理由だろうか。魂関連か、ガワの稀少性か。
(あるいは……いや、さすがに
とはいえ、フレイヤも
断ると魅了。気に入られても魅了。危険視されても魅了……魔力壁は物理も魔法も遮断できたが、権能はどうだろうか。
(落胆されるのが一番穏当に済むかね。軽く凹むけど)
「…………こいつだ」
「そうか」
『……クキュウ?』
私の檻の前で足を止めた二名は、短いやり取りを交わしていた。シャクティの目は死んでるが、気のせいかオッタルも疲れて見える。タイミング的にミノタウロス指導はまだなはずだが、女神の無茶振りに対する気疲れだろうか。
「それでも俺はガネーシャだあああ!」
遠くで象神が主人公のような台詞を叫んでるのは、フレイヤの要求に屈した結果だろうか。下界に降臨している男神はフレイヤに食い散らかされているらしいので、強気に出られず押し切られたのではと推測する次第。
する事が無くなったら
その意味では、
私にはどうでもいい話ではある。何しろ【ステイタス】が意味を持たないのだ。私には神の存在がむしろ害でしかない。人類圏の維持に一役買ってはいるが、それも一長一短かもしれない。
(神がいなかったらモンスターを殺し人間を助けるモンスター界の裏切り者として堂々と活動するのに……あれ、別に今からでもその路線でいいのでは? 人間が混乱して『
とりあえず議題としてぶん投げておこう。他の私は動くのに忙しくて目的と離れた無駄を考える時間は少ないので到達していない可能性が高い。
それ以前に、これを思い付かなかったのは前世の事なかれ主義を残している部分が大きい。人間への配慮が過ぎるのだ。成功例である
人間側の視点に立つ事自体は前世記憶から理解も納得も賛成もしている。モンスターは文字通りの生まれ立てでも動ける以上、虫や機械と変わらないプログラムに従う存在であり、ほぼ確実に敵対オンリーから覆る事はない。必然的に対応を考えるべきなのは人間だ。
ここで文化的な背景として、数千年単位でモンスターに蹂躙されて来た人類という歴史がある。
極一部の例外を除いた人間は何故か英雄のような例外になろうとすらしない。半端な知能が半端な努力で自分に見切りを付けて諦める。
この世界の人間は常に命の危険と隣り合わせに生きて来たから、知的好奇心に全てを任せる狂人に理解を示す余裕がない。だから今日この日まで、そしてこれからも、小さくまとまった
そうなると『
笑える事に、階層主の強さや強化種といった個性と長に率いられる群れを作る習性、武器を扱い技と駆け引きを行い成長する事実、人間側の
ダブスタ最高ーイエーイ知性極まってるぅー。
ちなみにその『
ぶっちゃけ『
穢れた精霊の本体やアルテミスを取り込んだアンタレスの例から、モンスターには補食した相手の魂を捕まえておく檻の機能が備わっていると思われる。これは仮定であり前提だ。あるいはモンスター自体に魂と呼べるものがなく、
ここで穢れた精霊の本体という、補食した相手に乗っ取られる恐ろしいような笑えるような事例が存在している。その過程で在り方が反転したらしいものの、それはさておき。
完全に乗っ取られるまではいかずとも、部分的に乗っ取られたり融合したりの影響を受ける可能性は比較的高いと考えられる。もちろん数字としてはかなり低い確率だとは思うが。
影響の内容としては、やはり人間のような感情を抱きやすくなるのではなかろうか。敵対されて憤り、仲間を守ったり逃がしたりする姿に心を動かされる。
そんな人間の魂を捕獲し影響を受けたモンスターが死を迎えたとしよう。普通ならば魂は解放される。だがここで影響を受けて人間に近くなった――あるいは融合した部分を持つ場合を考える。ダンジョンに魂を洗浄する機能が備わっているかは不明だが、モンスター用の洗浄で人間部分が残ったらどうなるか。人間的な部分を残し強い感情が持ち越された魂を持つ『
この場合、リドやレイは比較的穏当な善人を、グロスは善人だが敵対者には容赦しないタイプを補食したのかもしれない。悪人は『
そして僅かにだろうと人間の魂を持つが故に、ダンジョンに生まれるモンスターは『
そうなると、私も直接このスライムボディにインしたわけではなく、ご主人のような転生した現地人を経由してモンスターに殺されて食われた可能性がある。後で思い出せないか試してみよう。
もっとも、モンスターに見切りを付けている私が言うのもおかしな話だが、基本的にダンジョン内で出会うモンスターは生まれて日が浅いので本能に従って動く。種類や個体によっては高い知能があっても、考える時間が持てないまま戦闘に入り殺される。この辺りは逃げたミノタウロスの集団は最たる例か。
ここで人間に勝った、あるいは逃げ延びた個体を考えると、そいつには時間が生まれる。そのままでは考える選択肢は空腹や疲労、怪我などだろうか。しかし偶然が重なって長く生きればそれ相応の成長を遂げるし、知能も磨かれる事はあるだろう。
元の才能や経験で個体差は激しいだろうが、長い時間をかければいずれは人間と遜色ない倫理観を持った社会を形成して、損得勘定から引きこもり系エルフよりも近しい相手として共存できる可能性すらある。
遥か未来には魔石が欠片も見当たらない、他のファンタジー作品にあるような亜人枠として受け入れられるモンスターだって存在するかもしれない。あるいは既に未開の地で凄腕
話を世界の縮図たるオラリオとダンジョンに戻そう。
そんな将来の可能性を多分に含むモンスターの知能事情だが、残念ながら当然な事に、相手の知能を見分ける能力や機会を持ち合わせる人間は少ない。モンスター側も長生きな場合はほぼ確実に強化種で、生まれながらに人類は敵だと刷り込まれている上に実際向こうから攻撃して来るわけなので、人間は敵であるという認識を抜け出す機会は早々得られない。
そんなわけで基本的に双方とも初手敵対を選んでしまい、
ここで神を嫌う引きこもりエルフが
そんな感じに現実逃避を終えたわけですが、私は今、布を被せた檻ごとオッタルに運ばれております。
行き先はもちろん
……