転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したら面倒事だった件

それは、穏やかな春の日差しを浴びながらのんびりまったり丸まっているときだった。

 

――こちら『異端児(ゼノス)』組。無事に【ガネーシャ・ファミリア】の団員が精霊の卵を回収していった。念のため後を追うぞ

 

どうやら派遣されていった団員は作戦の第一段階をクリアしたらしい。後は安全階層(セーフティポイント)で受け渡してリレーしながら地上に向かうだけだ。

護衛付きなら途中でレヴィスの襲撃があっても無事に済む……と、思いたい。

 

――ほうほう、朗報だな。闘技場(コロシアム)組は変わらず19階層側で待機し(スタンバっ)てる最中。途中で何度かローブ姿の集団が通ったんで始末してる

 

レヴィスが先回りしてリヴィラの街で張ろうとしていた場合の対策も取ってある。途中で合流するパターンは『異端児(ゼノス)』組が対応するからこれで何とかなるかな?

向かった団員は三名。18階層と28階層でそれぞれ離脱、待機しており、回収したブツをタスキに駅伝競争するので今日の夜には結果が出るだろう。死者無しで終われるといいのだが。

 

――こちら極彩色組。動きは変わらず。極彩色モンスターは魔力隠蔽(ステルス)でスルーできるっぽい。

 

こちらも良い報告か。今までは地下水路の極彩色モンスターを暴走させる危険があったから警戒して外を歩き回れなかったが、魔力の隠蔽……完全なものでなく人並みに抑える程度にして歩けば良さそうだ。

 

さて、次はこちらの報告に移ろうか。気が乗らないが。

 

――地上組。魔石削って子供作ってみたけど自分じゃないから役に立たなくて泣いてる

――何してんだお前

――貴重なデータではある

――生まれたのはウーズ? 擬態先?

――ウーズだったわ

――ほう、つまりスライム出産ですか

――止めろ馬鹿

――先輩の(カーバンクル)姿でなんてことしてんの君

――ちゃうわ! ウーズ状態からの細胞分裂だっての! 檻の中にモス・ヒュージの能力でガワだけのデコイ置いて抜け出したから安心しろ

 

同じ失敗を繰り返さないためにも報告したらこの始末。こいつらだって暇になったら試すと思う。私は実際軽率だった。だが考えて頂きたい。ここまでされる謂れはない!

 

――つーかそれだと闇派閥(イヴィルス)に擬態させた分身体の侵入無理って事?

――そう、それが言いたかった。とりあえず今後もちょくちょく夜に抜け出して散策するわ。ダイダロス通りなら野良闇派閥(イヴィルス)いるだろうし、そのまま人造迷宮(クノッソス)探索もするかも

――そういや戦後の人造迷宮(クノッソス)って扱いはどうするんだ?

――ギルドで管理だろなぁ。基本は放置になりそうだけど

――壊すにも手が足りないもんな。確かフェルズが幽霊屋敷なんて言われて工房を引き払ったりしてたし、代わりの作業場にするんじゃないか?

――それもありそうだな

 

そんな感じで方針を固めた。地上組(わたし)としてはできる事がないので完遂を祈るだけとなる。

今回の依頼が無事に終わった場合、戦利品をフェルズがウラノスに見せて判断を仰ぎつつ、自分でも解析するだろう。賢者の本領発揮となりそうだが、果たしてどんな結果になるのだろうか。期待半分、嫌な予感半分だ。

直感さんがあたふたしているような……だが気のせいって事にしておこう。他の私が言及しないって事は、そういう事なのだ。

 

しかしリヴィラの街でレヴィスとアイズの因縁が生まれない場合、アイズの強さを求める気持ちが改まる機会を逃してしまいウダイオス単独討伐による【ランクアップ】やその先の影響が消えてしまう。ベル育成RTAを考えれば憧憬に先を行かれる事態を起こさないのは向上心というか早熟スキルの効果が比較すると弱くなるわけだ。控え目に言ってこれはまずい。

だが手遅れでもある。今更レヴィスと合わせる調整とか面倒だ。心の中のスティンガーさんが一つになったファンタズマごと燃えてしまう。

とはいえ、そう時間を置かず24階層で異変が起きていると冒険者から報告が上がるはずだ。食料庫(パントリー)の調査は……よく考えたら【ヘルメス・ファミリア】の巻き込みフラグが消えているのではなかろうか。いや、レベル詐称自体は事実なので変わらず脅せるか。

そこにアイズがねじ込まれるかはタイミング次第になりそうだが、フェルズが卵の解析結果から精霊関連だと伝えればワンチャン軌道修正されそうな気もする。なお【ランクアップ】前なのでレヴィスがいたら負ける模様。助けが必要だろうか。

 

というか今更だが、極彩色組はこういった関連事件に対して奔走する役割だったはずなんだが。何故深層でモンスター狩りながら59階層を見守っているのか。

代わりに安全な場所で待機する係だったはずの闘技場(コロシアム)組が動き回ってるし……ガバガバだな、私。

 

 

 

次の日には無事に引き渡しが終わり、死傷者ゼロでの任務完了となった。これには私だけでなくガネーシャ達もにっこり。

なお、リヴィラの街での殺人も起きず、足止めを受けず情報も得られなかったロキ派は素材や魔石を売ったらそのまま先に進んだらしい。そして深層で稼いだ帰り道に全身ローブの推定闇派閥(イヴィルス)とかち合って戦闘を行い、アイズの【エアリアル】を確認したローブ姿から健闘賞として穢れた精霊の情報を触りだけ与えたそうな。

 

――魔石一個でも制圧余裕でした

――そら(魔法効果減衰に加えて物理含めた各種属性耐性爆盛したら)そう(リヴェリアとレフィーヤどころかアイズも実力半減以下になって戦闘がかなり有利になる)よ

――単純にLv.6二人とLv.5三人に一応戦力に計上できるLv.3(なお魔力)じゃオッタル一人でも返り討ちしかねないからなぁ

 

はい、犯人は私です。闘技場(コロシアム)組が一人でやってくれました。アリアってキーワードを漏らしたり、59階層で面白い事が~とかそれっぽい内容を伝えたのでヨシ!

ウダイオス討伐せんでも【ランクアップ】せんかなーという淡い希望も添えたんでアイズは割と徹底的に叩いたんだとか。これもうレヴィスとの因縁が明後日の方向に飛んで行った気がするぞ。

そしてタイムリーな名前が出たので、こちらも情報を解禁しておこう。

 

――そのオッタルが【ガネーシャ・ファミリア】の本拠に来てるんだよなぁ

――なんて?

――フレイヤ絡み?

――知らん。けど多分そう

――惜しい奴を亡くした

――まだだ、まだ終わらんよ!

――そこはARMORED COREの語録を使えよ、なぁ

 

オッタル、というかフレイヤの目的は恐らく私だと思うが、果たしてどのような理由だろうか。魂関連か、ガワの稀少性か。

 

(あるいは……いや、さすがに怪物祭(モンスターフィリア)で披露した芸を他の神から聞いて、見られなかった事を揶揄されたからではないと思いたい)

 

とはいえ、フレイヤも超越存在(デウスデア)なのでそう低い確率でもなさそうなのがなんとも言えないところではある。

断ると魅了。気に入られても魅了。危険視されても魅了……魔力壁は物理も魔法も遮断できたが、権能はどうだろうか。

 

(落胆されるのが一番穏当に済むかね。軽く凹むけど)

「…………こいつだ」

「そうか」

『……クキュウ?』

 

私の檻の前で足を止めた二名は、短いやり取りを交わしていた。シャクティの目は死んでるが、気のせいかオッタルも疲れて見える。タイミング的にミノタウロス指導はまだなはずだが、女神の無茶振りに対する気疲れだろうか。

 

「それでも俺はガネーシャだあああ!」

 

遠くで象神が主人公のような台詞を叫んでるのは、フレイヤの要求に屈した結果だろうか。下界に降臨している男神はフレイヤに食い散らかされているらしいので、強気に出られず押し切られたのではと推測する次第。

する事が無くなったら性的快楽の(そういった)方向に血迷う(はしる)可能性はあると思うので、非難するような真似はできない。したところで過去は変わらないのだし、永遠に存在し現時点でも酸いも甘いも味わい尽くした後であろう神々にとっては若気の至りでしかないはずだ。何しろそれすらも飽きたから現在は下界に降臨などと縛りプレイに走っている。

その意味では、救界(マキア)とやらの大義名分を掲げる割に積極性が見えないのは何故だろうか。言葉を尽くしても変わらない上に寿命が短い人間への諦めか、それとも神の言葉で命令や依頼をしては過干渉に相当してしまうためか。

私にはどうでもいい話ではある。何しろ【ステイタス】が意味を持たないのだ。私には神の存在がむしろ害でしかない。人類圏の維持に一役買ってはいるが、それも一長一短かもしれない。

 

(神がいなかったらモンスターを殺し人間を助けるモンスター界の裏切り者として堂々と活動するのに……あれ、別に今からでもその路線でいいのでは? 人間が混乱して『異端児(ゼノス)』の扱いで割れても私に都合の悪い事って何がある? 全員潜在的な敵だと仮定してれば偽りの依頼(騙して悪いが)されてもデスヨネーで済むし、殺さずにあしらって【経験値(エクセリア)】撒く方が目的に合致しているような)

 

とりあえず議題としてぶん投げておこう。他の私は動くのに忙しくて目的と離れた無駄を考える時間は少ないので到達していない可能性が高い。

それ以前に、これを思い付かなかったのは前世の事なかれ主義を残している部分が大きい。人間への配慮が過ぎるのだ。成功例であるご主人(にんげん)のやり方を参考にしているのでそうなった部分もある。

人間側の視点に立つ事自体は前世記憶から理解も納得も賛成もしている。モンスターは文字通りの生まれ立てでも動ける以上、虫や機械と変わらないプログラムに従う存在であり、ほぼ確実に敵対オンリーから覆る事はない。必然的に対応を考えるべきなのは人間だ。

 

ここで文化的な背景として、数千年単位でモンスターに蹂躙されて来た人類という歴史がある。

極一部の例外を除いた人間は何故か英雄のような例外になろうとすらしない。半端な知能が半端な努力で自分に見切りを付けて諦める。

この世界の人間は常に命の危険と隣り合わせに生きて来たから、知的好奇心に全てを任せる狂人に理解を示す余裕がない。だから今日この日まで、そしてこれからも、小さくまとまった世界(いど)の中で満足する。大海のような波風を嫌う。それを求めている神とは真逆な事に。

そうなると『異端児(ゼノス)』のような例外が人間に歓迎されないのも仕方がない。

笑える事に、階層主の強さや強化種といった個性と長に率いられる群れを作る習性、武器を扱い技と駆け引きを行い成長する事実、人間側の調教(テイム)という技術すら認めながらも、人類はモンスターをモンスターという枠でのみ分類し、理解し合えない対象としてしか見ない。『神の恩恵(ファルナ)』で可能性を無理矢理に抉じ開けられた霊長として、自力で可能性を切り開く怪物(えいゆう)など認められないという気持ちが見えるのは気のせいだろうか。なお私が人間側に与すると決めた理由。

ダブスタ最高ーイエーイ知性極まってるぅー。

 

ちなみにその『異端児(かのうせい)』だが、一つ疑惑がある。

ぶっちゃけ『異端児(こいつら)』って、それまでに食った人間の魂から乗っ取られかけた存在だろ。

穢れた精霊の本体やアルテミスを取り込んだアンタレスの例から、モンスターには補食した相手の魂を捕まえておく檻の機能が備わっていると思われる。これは仮定であり前提だ。あるいはモンスター自体に魂と呼べるものがなく、(うつわ)だけがあるのかもしれない。

ここで穢れた精霊の本体という、補食した相手に乗っ取られる恐ろしいような笑えるような事例が存在している。その過程で在り方が反転したらしいものの、それはさておき。

完全に乗っ取られるまではいかずとも、部分的に乗っ取られたり融合したりの影響を受ける可能性は比較的高いと考えられる。もちろん数字としてはかなり低い確率だとは思うが。

影響の内容としては、やはり人間のような感情を抱きやすくなるのではなかろうか。敵対されて憤り、仲間を守ったり逃がしたりする姿に心を動かされる。

そんな人間の魂を捕獲し影響を受けたモンスターが死を迎えたとしよう。普通ならば魂は解放される。だがここで影響を受けて人間に近くなった――あるいは融合した部分を持つ場合を考える。ダンジョンに魂を洗浄する機能が備わっているかは不明だが、モンスター用の洗浄で人間部分が残ったらどうなるか。人間的な部分を残し強い感情が持ち越された魂を持つ『異端児(ゼノス)』が誕生する。そう考えられはしないだろうか?

この場合、リドやレイは比較的穏当な善人を、グロスは善人だが敵対者には容赦しないタイプを補食したのかもしれない。悪人は『異端児(ゼノス)』にも敵対して処分されている可能性が高いので除外。

そして僅かにだろうと人間の魂を持つが故に、ダンジョンに生まれるモンスターは『異端児(ゼノス)』を襲う。

そうなると、私も直接このスライムボディにインしたわけではなく、ご主人のような転生した現地人を経由してモンスターに殺されて食われた可能性がある。後で思い出せないか試してみよう。

 

もっとも、モンスターに見切りを付けている私が言うのもおかしな話だが、基本的にダンジョン内で出会うモンスターは生まれて日が浅いので本能に従って動く。種類や個体によっては高い知能があっても、考える時間が持てないまま戦闘に入り殺される。この辺りは逃げたミノタウロスの集団は最たる例か。

ここで人間に勝った、あるいは逃げ延びた個体を考えると、そいつには時間が生まれる。そのままでは考える選択肢は空腹や疲労、怪我などだろうか。しかし偶然が重なって長く生きればそれ相応の成長を遂げるし、知能も磨かれる事はあるだろう。

元の才能や経験で個体差は激しいだろうが、長い時間をかければいずれは人間と遜色ない倫理観を持った社会を形成して、損得勘定から引きこもり系エルフよりも近しい相手として共存できる可能性すらある。

遥か未来には魔石が欠片も見当たらない、他のファンタジー作品にあるような亜人枠として受け入れられるモンスターだって存在するかもしれない。あるいは既に未開の地で凄腕調教師(テイマー)集団がモンスターの育成に力を注ぎ、共存を実現させている可能性すらある。現在の技術水準とモンスターの脅威で開拓が難しい状況ならば、隠れ潜む場所には事欠かないだろう。モンスターを味方に付けられるなら尚更だ。今はダンジョンとオラリオの話なので割愛するべきだったかも知れない妄想だが。

 

話を世界の縮図たるオラリオとダンジョンに戻そう。

そんな将来の可能性を多分に含むモンスターの知能事情だが、残念ながら当然な事に、相手の知能を見分ける能力や機会を持ち合わせる人間は少ない。モンスター側も長生きな場合はほぼ確実に強化種で、生まれながらに人類は敵だと刷り込まれている上に実際向こうから攻撃して来るわけなので、人間は敵であるという認識を抜け出す機会は早々得られない。

そんなわけで基本的に双方とも初手敵対を選んでしまい、客観(じじつ)主観(しんじつ)に塗り潰され判明も進展もしないまま溝ばかりが深まって行く。こればかりは数千年規模の風習であり極めて常識的な獣の理屈(はんのう)なので、どうにもならない部分がある事は理解できる。

ここで神を嫌う引きこもりエルフが処女厨(ユニコーン)を飼う辺り、何だかもう色々と滅茶苦茶で考えるのが嫌になる。なった。

 

 

そんな感じに現実逃避を終えたわけですが、私は今、布を被せた檻ごとオッタルに運ばれております。

行き先はもちろん戦いの野(フォールクヴァング)。何故なら私もまた特別な存在だからです。

……こういうの(どうしてこうなった)はご主人の役目なはずなのだが。

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