転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したら中途半端だった件

黄色い粘液をほんの少しだけ取り込んでも、能力を得た感じはしなかった。だが、それとは別に体の変化が起きたというか、大雑把に少しだけ強くなった実感が湧いて来た。

よくある力が溢れて止まらない的なパワーアップではないが、まぁ上限が9999なレベルが1から2になったくらいの違いはある。

 

(試してみるか)

 

良く良く見たら、壁には様々な色のスライムがへばりついている。誰かがペンキをぶちまけたと言われたら信じてしまいそうな光景だ。つまりここがイカとタコが陣取り合戦をするというスプラなんとかの世界……なわけないか。

 

(とりあえず体は大丈夫そうだし、残さず頂こう)

 

黄色い粘液を取り込むと、今度こそ酸の能力を得られたように感じた。生み出せるのはお肌に優しい弱酸性が精々気もするが。

今のところ、この~な気がしたとか、~だと感じたってのは大抵が的中している。信じるには回数が足りないが、参考にはしてもいい気がする……まただよ。

私にそんな能力はないはずなので、スライム自体に直感でも備わってるのだろうか? もしくは転生特典とかいうやつなのか? どちらでも使えるなら使うべきだろう。まだまだ余裕がないし。

 

(しかし敵を倒すだけじゃなく、倒された敵の落とした核を取り込んで強化か……核は経験値アイテムって感じかな?)

 

そんな考えが正しいかどうかの証明をするため、私は壁に張り付いて動かないスライム達に狙いを定めるのであった……黄色い奴を優先でな!

 

 

 

(いやぁ、死ぬかと思った)

 

壁のスライムを撃ち抜いては核の破片や灰にならない残骸を取り込んでを繰り返してみたが、予想は当たっていたらしい。体感数時間前の誕生当初と比べれば、ハッキリ段違いだと断言できるほどの強さにまで成長したはずだ。

もっとも、途中でスライム狩りに夢中で骨や愉快な仲間達から不意を突かれてしまったのだが。それまでに色々なスライムの粘液を取り込みまくったマイボディの体液が前世の常識では考えられないくらい強い酸と毒を備えていたおかげで、武装骨や蜥蜴人間の武器は瞬時に溶かされたため、私の核へ届く事はなかった。

実はこれ、獲得した能力の使用感を確かめていたから体液がそれらの性質を持っていたのであって、特に意識しないときのマイボディに詰まった体液は中性かつほぼ無毒である事が発覚している。核や残骸を取り込む能力はまた別口らしい。

つまり別の能力を試していたら不意討ち即死もあり得たわけで、これには正しく九死に一生を得た気分だ。もしも心臓があったら暴れに暴れていた事だろう。心臓相当であろう核は微動だにしていないが。ありがとうスライムボディ。

まぁ、この時に傷口から体液が漏れて焦ったのは内緒だ。筋肉を締める感じで気合入れたら止まったから筋肉は偉大。このスライムボディには筋肉ないけど。そして力を抜くと傷口が開くんでしばらく力む必要があった。自己再生能力が高くて塞がってくれたのは非常に助かったと言える。凄いぞスライムボディ。

 

(しかし、襲撃であんまりにも焦ったせいで取り込んだ核の数が分からなくなったのは痛いなぁ……壁や床の修復も辛い)

 

目下最大の問題がこれだった。

スライム狩りの最中、頭の中で数えながら並行して壁に酸で正の字を書いていたのだが、気がついたら文字が消えて綺麗な壁に戻っていた。

もしやと思って確認したら、骨が出るために破った大きめな壁の傷も同様。更には床も。まさか建築物や自然物っぽいのに修復機能があるとは思わなかった。

 

(いや確かに修復されない壁から骨が出て来るのは不自然かもだけどさ、でもあれは一度きりだけど部屋を出入りするとリセットされるタイプの罠だとばかり)

 

そんな言い訳をしたところで事態が解決するわけでもなく、そこからは頭の中だけが頼りになった。そして取り込んだ核の計数(カウント)という頭脳労働により周囲への警戒に割く意識が散漫になっていたのは確かだ。

更には核や残骸を取り込む度に強くなる実感を得られるのは紛れもなく快感だった事から、狩りを続ける内に周囲への警戒を一層疎かにしてしまったのは明確な失敗だったと言えよう。

 

(過ぎた事は仕方ない。今後気を付けるのは勿論として、ちょうど襲撃のおかげでレベルアップ的な強くなるタイミングに全快するわけでもないのが分かった。法則性を見出だすのは意味が薄いかも知れないから、次に進もう)

 

そうと決まれば経験値稼ぎを兼ねて移動の開始である。

部屋の出入り口は正反対な位置に二ヶ所。襲撃して来た群れの方向と、その逆。

風の向きでもあれば良かったのだが、生憎と感じられはしなかった。

 

(うーん、木の棒でもあれば倒して決めれたんだけどなぁ。移動速度は最初とは比較にならないけど、そこまで速いわけでもないし。近い方でいいか)

 

一度決まってしまえば後は体を動かすだけだ。

念のため安全確保に壁を上って高さを確保してから通路を目指し、通路は天井の端を進む。

 

(よーく狙って、発射!)

『ガッ!?』

『ギェッ!?』

『――!?』

 

何度か通路と広間を経由したが、どちらも規模が大きくて移動には時間的な意味で一苦労。

その途中で何度かモンスターとすれ違ったのだが、いずれも気付かれる事は無かった。検知の方法は主に視覚か? 思えば骨も目線を合わせていた。眼球ないのに。

しかし狼頭などは嗅覚が優れているはずだし、そうなるとこのスライムボディのにおい自体は野生のスライムと変わらないのかも知れない。

ちなみに、モンスターの数が少ない場合は天井から酸の弾丸で頭を撃ち抜いて全滅させてから核を抉り出して取り込んでる。経験値うまうま。

 

そうこうしていると、何やら下り階段のある部屋に到着した。

 

(いや、普通に考えたらここって上に登る塔とかよりは地下に潜っていくダンジョンだよな)

 

つまり外れである。しかしここで私は進退について迷った。

このまま地上に出た所で、スライムごときが生きていけるかは微妙である。というか単純に人間が怖い。スライムがいるくらいだし、魔法とか使ってくるファンタジー路線なはずだ。

物理攻撃には強くても魔法攻撃には滅法弱いのが私の知るスライムの傾向なので、どうせなら深く潜ってモンスターから能力を獲得していった方が生存目的に合致している。一応、この辺りに出没する黒くて艶々なゴーレムっぽいモンスターの残す石ころが魔法防御を上げてくれるようなのだが、それほど出会わないのが難点だった。

移動して場所を変えれば出現率も変わるかもしれないが、どうせなら欲張って新種にも挑戦したいのが本音だ。

 

(最奥に帰還の魔法陣があるのも定番なんだよな……)

 

先へ進もうとする気持ちを後押ししたのが、この知識である。どちらに進んでも最終的に地上へ出られるなら、少しでも強くなってからの方が良い。エーテルの風が吹く土地のかたつむりの様に目の敵にされる可能性もあるわけだし。むしろ人間とモンスターが友好的な場合の方が少数派だろう。

そんなわけで階段に向かって進んでいたわけだが、中央に近い辺りで地響きが起きた。

 

(何だ? いや、この音は……マズイ!)

 

私はその場から撤退を決め込んで必死に体を動かした。便利なスライムボディは向きに関係のない移動速度と視界を提供してくれるが、おかげではっきりと事態を見届けてしまう。

 

(デカアァァァァァいッ説明不要!!)

 

床を突き破って姿を現したのは、巨大な骨の親玉みたいなモンスターだ。妖怪のがしゃどくろとかそんな感じ。何か頭から立派な角が生えてたりしてて洋風ではあるが、とにかくヤバい事だけは理解できる。現状敵う相手じゃない。

 

(どう見てもボスモンスターだよな。というかボスがいるんだな。上に進むのも難しかったりするのか?)

 

考えを巡らせるが、逃げる速度は緩めない。這うよりも跳ねた方が速く、表面を硬質化させると地面と反発が生まれてもっと速い。形状を球に近付けてまとまるようにすれば転がり移動も発生して動作間が円滑に。

日本でも有名な経験値の多いメタルな同胞が素早い理屈はこの表面の質感なのだろうか。何かの動画で見た時はスライド移動している様に見えたが。

 

(なんだ? 何かこっちに振りかぶって……攻撃!? この距離からでも届く手段があるのか!)

 

ありがちなのは原理不明なビームや炎辺りか。骨であれば無限に生えてくる骨の矢とかもあるな。

とりあえず逃走ルートを真っ直ぐから左右に緩急を付けておこう。出入り口が大きいから多少のズレは脱出に問題ない。

 

(って下から来たぁぁぁぁ!?)

 

何と、骨の親玉は地面から尖った杭の様になった骨を生やしてきた。勢いは良いが、地面から抜けてこないという事は本体と繋がっているのだろうか。不思議な生態だ……スライムが言う事ではないが。

 

(この分だと出入り口を抜けてもめっちゃ長い杭が外まで届くかも。視線を切るまで油断できないぞ)

 

なんて事を考えながら逃走成功。被弾なしは上等な成果ではなかろうか。最中は生きた心地がしなかったが……生きているって素晴らしい。

 

(いやー、焦った。けど何とかなるもんだなー。あ、蜥蜴男だ、こいつ能力らしい能力ないからうま味少ないんだよなぁ)

 

天井に張り付いて移動しながら、通りがかったモンスターを狙撃して核を取り込む。あのような巨大ボスが存在すると判明した以上、今まで以上に強さを求める必要が出て来たわけだし。

とはいえ、骨の親玉だけあって弱点の核は剥き出しだったから、素早さを上げれば意外とあっさり倒せそうな気もする。その辺はやはりここが()()()()()()()()()()なのだろうと教えてくれる点だ。

出現モンスターはスライムやスケルトンで、そのほとんどが物理攻撃しか手段を持たない。人型が多いのも動きの予測しやすさという意味でゲーム序盤を思わせるし、武器を持っているという事は攻撃手段がそれだと宣言しているようなものだ。突飛な手段で驚かせて来たのはスライムの酸飛ばしくらいだったが、それもマンネリを嫌った製作側のお茶目に見えて来る。

きっと武器攻撃と相性の悪い、酸で防御を下げてくる相手を配置する事で魔法使いや僧侶の必要性を教えるんだろうな。そして逆に魔法中心に組んだパーティーを黒光りゴーレムが絶望に叩き落とすのだろう。

そういえばびっくりモンスターに骨羊がいたな。何故か黒いマントみたいな部位があって薄暗い周囲に溶け込むし、槍や弓矢の突属性に強い骨ボディの癖に体の一部っぽい骨を射出して――中距離程度だが――間接攻撃をしてくる。弱点の核もマントで位置を隠しているし、他の素直なモンスター達と比べて随分な意地の悪さに感心したものである。残骸を取り込んで迷彩効果をゲットできたので喜んだのも束の間、確認してみたら黒くなるだけだったので明るい場所では逆に目立つ事が判明した。あの骨羊だけ悪意の煮こごりみたいなんだが、元ネタはあるんだろうか。

後はダンジョンなのに宝箱もないし、薬草やポーションのような回復アイテムすら落とさない。きっとオープニングで挑むけどあのボスが負けイベントで、その先にはゲーム後半にならないと進めない感じのダンジョンなのだろう。

 

(しかしそういうのを見るとレベルを上げて無理矢理倒してしまいたくなるのがゲーマーってやつなんだよな。核も丸出しだったからやり方次第でどうにでもなりそうだし。魔法で巨大化するイベントの前にタイミングよく卵を投げると倒せちゃう花みたいな感じで裏技的な倒し方に対応してるだろあいつ)

 

正攻法では太刀打ちできなさそうな巨大ボスの存在に、私は命の危機を覚えると同時にテンションが上がっていた。

 

(よし、とりあえず戦法は後で考えるとして、まずはこの辺で手に入る特殊能力をカンストさせるか。そしたら核も取り込めてレベルも上がってるだろうし)

 

こうして私はボスの撃破を目標に掲げて、ダンジョンへの滞在を決意した。

 

 

 

そして、判明した事実が一つ。

 

(……ここめっちゃ広くて景色も似た感じてすげー迷うんだけど。全然上り階段にも辿り着かないし、地味に蜥蜴男じゃない恐竜みたいな蜥蜴がめっちゃ針飛ばしたり火を吹いてたし。もうドラゴンじゃんね、あれ。普通に逃げ切れたけど)

 

これもうラスダンかチャレンジ用のおまけダンジョンだろ。クリスタルなタワーとかアララトスの遺跡だろ。

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