転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したら楽園だった件

更に時間は経過し、それなりに人間の集団にも遭遇した。それを追跡して上下の階層についても知識を得られたし、人間の会話を盗み聞きして世界観というか常識にも詳しくなった。

この言葉が通じる事実は非常に助かった点だ。後は発声器官を入手できれば人と接触する事(コンタクト)も視野に入れられるのだが、生憎と入手先は見付かっていない。

そして人間の会話から知識を得た事により、私は大いなる勘違いに気付かされたのである。

 

(まさかここが深層――そこそこ難易度の高い地帯だとはなぁ……この青のスライムの目を持ってしても見抜けなかった)

 

そう、スライム(ウーズ)スケルトン(スパルトイ)を見て序盤のチュートリアルだとか、連携が今一つな若者が数十人単位でやって来るから学園の演習だとか、そういった予想は見事に外れていたのである。これは恥ずかしい。

モンスターの名前も私の呼称とは違って強そうな名前だった。蜥蜴男はリザードマンと直球な……と、思いきや、エリートの称号を冠していたのだから恐れ入る。私にとっては餌だが。

 

(レベルの話をしてて4とか5とか言ってて完全に駆け出しの雑魚じゃんwwwwとか草生やしてたのになー。レベルが一つ違うと一回り以上実力が変わるとか歪すぎないかこの世界)

 

どうやらこの世界、同じレベルの中でもステータスの力とか器用とかの項目が個別に成長するようだ。つまりステータスに大きな差のある新米とベテランが同じレベルの中に混在しているのである。

確かにレベルの意味は水準や段階なので、そこに大きな差がない場合は同じ程度と見なすのが正しいのかもしれない。ゲーマー的には感覚的に受け入れ難いが。

そしてこの世界でレベルの違いとは、そのまま別次元の強さである事を意味している。内容としてはコイキングやヒンバスの進化や、タンクネコやウシネコのクラスチェンジに近いわけだ。実際に呼び名はレベルアップではなくランクアップらしい。ならば最初からレベルではなくランクと呼ばない事にはどんな意図があるのだろうか。謎だ。

 

(なんつーか、独自性を出したい余り奇をてらう形になって外してる感が凄い。どこか規格化の波に乗り遅れて工業品の輸出で競争に負けるどころか参加すらできなかった日本の失敗を見てるみたいだ)

 

もしくは料理の腕は良いのに食材が食べ慣れない物ばかりで手を出せない方が近いだろうか。

どちらにせよ、言ってしまえば方言のようなものなので、住んでいれば馴染むものだ。現に今となっては違和感なく使いこなせている……と思いたい。何せ、使う相手がいないので確認できないのだ。これに関しては発声の候補探しと並行して、文字も学びたいものである。練習だけなら自動で修復される壁があるのだし。

 

(人の死体も見付けたけど文字のサンプルとしては少なかったからなぁ。持ち運びもできなくて形を頭に叩き込むしかないし)

 

数人分の白骨死体を前にして、休憩中の武装骨(スパルトイ)かと思って身構えたのはいい思い出だ。

その際に武器防具をちょっぴり取り込んでもみたのだが、特殊能力を得られそうな感じがしなかった事は残念だった。できない事がわかったのは貴重な情報だったと思うし、人間を積極的に襲う必要がないわけになるので重要な経験だったと言える。

人骨は……もしかしたら魔法や人間への擬態を獲得できる機会だったのかもしれないが、忌避感が勝ったので放置した。現場保存の意味があるようには思えないが、それを言い訳にして避けているのが現状だ。

ちなみに、初めて遭遇した遠征――学園の演習と勘違いしていた行動――の雑魚モンスターに手間取っていた連中は、あれでもレベル3の上位やレベル4の下位らしい。それがここ――我が故郷である白っぽい壁に区切られた迷路の構造を取る37階層の適性レベルでもあるとの事。

それが人類全体から見て高いのか低いのかは会話に出てこなかったので不明だが、ボスを倒した教師陣と思っていた面々はレベル5らしい。そしてボスのレベルは推定6……人数差があったとはいえ、格上狩りを達成していた。それも比較的あっさりと。その前の雑魚相手に苦戦していたレベル3または4と違いすぎて、私は恐怖に震えるのであった。魔法怖いエルフ怖い。

そんな私のレベルだが、付近の雑魚には余裕で勝ててボスには勝てそうにないので、恐らくレベル4の天辺からレベル5の底辺になるのだろう。あのエルフ達との差を考えると微妙だが。きっと向こうは特化型なのだ。そうであって欲しい。

 

 

(さて、そんなわけで久々のボス戦に挑むぞー)

 

やって来たのは因縁深き……というほどでもないボスの部屋。

盗み聞きした限りでは、ボスモンスターには討伐から復活まで大体のインターバルが設定されているらしい。ここのボスは約三ヶ月だと聞いているが、私の時間感覚は微妙なのでその期間が経過したかの判断はつかない。

なので小まめに……とまではいかないが、こうして思い出したタイミングで様子を見に来るようにしている。下の階層に向かっている間に復活されて戻るに戻れない事態は避けたいので。

もっとも、自力でボスを倒せない以上は人間の遠征とタイミングを合わせての移動になっていたのだが。

 

(前回人間の遠征に混じった時はボスの杭が思い切り体を貫通したからなぁ。核は外れてたから致命傷ってほどじゃなかったし、気合入れたら体内の杭は溶かせたから、やり方次第でいけそうな手応えは得たけど)

 

自分では相応に強くなったと思っていたが、相手の攻撃が通る以上は一撃死の恐怖との戦いが待っている。

防御で耐えきれないなら素早さで避ける方向になるのだが、このスライムボディは素早さの基礎成長率がすこぶる悪いらしく、ダッシュやジャンプの速度は出せるが歩行の速度は余り変わらない。

つまり私は高速戦闘をする場合、それらを駆使して移動しなければならず、常に体力を消耗し続けるのだ……そう、疲労は感じなくとも消耗自体はする事が判明している。しかも体力が減っても時間の遅れが出て来る時計のように徐々に調子が落ちるわけではなく、ある瞬間を境に電源が落ちたように突然ピタリと動かなくなる。それなのに意識は落ちないどころかはっきりしているまま。正直な話、二度と味わいたくない恐怖体験だった。

実際には、自分の限界というか消耗の具合を確認するために色々と試し、何度も体験する事になったのだが。モンスターが出現しない隠し部屋を見付けていたからこそできた荒行である。

 

(……出てこないな。まだ時期じゃなかったのか)

 

以前はボスが出現した位置まで到達したが、無反応。肩透かしを食らった気分だが、敗走の可能性が濃厚だった事を考えれば良かったのかもしれない。壁の高さを理解しないまま鍛え続けるのも、それはそれで厳しいのだが。

このまま先に進みたい衝動に駆られるが、帰り道の確保ができない実力のまま雑魚敵が強くなる場所に飛び込むのは勇気が必要だ。

 

(仕方ない、ここのマップ埋めでもして時間を置こう)

 

諦めて広間から出て、覚えきれていない生まれ故郷の地形の把握がてら探索へと繰り出す。

ちなみにだが、人間の遠征に合わせて下の階層に向かった際は火山地帯のようなスライムボディと相性の悪い階層に当たって逃げ帰った。同様に、人間の遠征帰りに便乗して上の階層に行ったら砂地というこれまたスライムボディとの相性が悪い階層があったので逃げ帰った。このダンジョンはスライムに優しくないらしい。

しっかり探索すれば環境を突破できる能力を獲得できるモンスターがいるのだろうが、上下共に心をへし折られて逃避していたので探索はできていなかったりする。優先するべきはボスを独力で倒す事であり、まずは特殊能力を増やすよりも自分の手札を把握しつつボスの情報を得る方が重要で、そのために37階層を離れるわけにはいかないのだ。

 

(なんて誰に向けたわけでもない言い訳してもなぁ……今日はこっちを探索しよう)

 

それでも、明確な乗り越える壁という目的がある事は幸運であると思う。

これで同じ強さを求める場合でも最強とかを掲げていたら、具体性のない果てない道の途中で疲れ果てて心が折れてしまったかもしれない。小目標としてボスを倒す事を設定するだろうから現状と変わらないだろうとの予測は、そっと心のゴミ箱に捨てておこう。

 

(しかし広いよなぁ。スライムボディが鈍足な事を差し引いても階段から階段までで一日以上必要だし、上り階段よりも奥に広がってる地形はあるし、そもそも迷路なんだもんなぁ)

 

このダンジョンでは下の階層ほど面積が広くなるらしいのだが、この37階層は迷路になっている分だけ下手な広くて真っ直ぐに繋がっている下の階層よりも実質的な道程は長いという罠がある。

階層内での上り下りも多いし、見えている場所まで辿り着こうとしたら部屋を一度出てぐるりと回って別の高さにある入り口から入るような事もあるのだ。このスライムボディは壁移動ができるのでその辺は楽をさせてもらえるが、移動速度の面では劣っているので許して欲しい。

 

(なんて言ってたら、何だか騒がしいな。でも人の声はしない……まさか!?)

 

聞こえてくるのは、モンスターの雄叫びや悲鳴。

モンスターの同士討ちは私に向かって来る以外では見た事はないので、相手は人間の可能性が高い。そして今までに見た人間の集団は状況報告のために声を出し合っていたし、この階層は難易度が高めな以上は一人で活動するとも思えない。

つまり、集団であっても声を出せない……死にかけの可能性が高い。このまま襲っている側のモンスターを全滅させたところで私は回復手段を持たないのでどうにもならないが、使わなかった回復アイテムを所持していたりや回復魔法を使える可能性は残っている。

そんなわけで体力と相談しつつもダッシュで現場へ急行した。不思議と騒がしさが変わらないので、高台に避難しているとかの希望的な可能性も見えてきた。

 

(……な、なんじゃこりゃあああああ!?)

 

そして到着した先は、部屋の中央に確保された舞台とそこに続く長い通路――いや、橋と呼ぶべきか。切り立った長い橋から足を踏み外した先は、深い谷底。石筍よりも鋭利な切っ先を持つ岩のトゲが並び、落ちた獲物を串刺しにする事だろう。しかもそこには例の火吹き蜥蜴(ペルーダ)が徘徊している念の入り具合。

そして何よりも中央部、闘技場を思わせる形状をした舞台の上では、なんとモンスターが殺し合っていた。

 

(野生の同士討ちは初めて見たな……人間はいないみたいだし、良かったのやら悪かったのやら)

 

しばらく観察していたが、そこで私は違和感を覚えた。舞台上から数が減らないのだ。

それもそのはず、注目していた地点のすぐそば――舞台の床からモンスターが産まれてきた。視点を移せば、各地でモンスター同士の殺し合いが起きていると同時にモンスターが誕生していた。

端的に言って地獄である。あるいは、狂っている。

瞬間、いつか聞いた人間達の会話を思い出す。この37階層におけるボス部屋と並ぶ危険地帯。モンスターが減った端から補充分されて常に殺し合いを続けるというそこの名は――闘技場。

 

私は、目の前の光景に体を震わせた。

 

(なんだここは……楽園か?)

 

ボーナスステージのような環境との出会いは、私に強烈な喜びの感情をもたらした。ここに陣取れば、強くなるために魔石――核と呼んでいた紫色の塊――を求めてその辺を歩き回らずとも良くなるのだから。

元より私は眠りを必要としないし、判明した活動限界も特殊能力を用いた急激な動きや連続使用による消耗が自然回復量を上回る事で起きる。この辺りで遭遇する雑魚敵が相手ならばその機会は少ないはずで、戦闘を止める時に合わせて脱出するタイミングくらいのもの。つまり私はほぼ無限に戦える。無限に経験値を稼げる。

そもそもの話、まともに戦わずとも圧縮している体を解放して体積を増やし舞台の上を覆ってしまえば、床から産まれたモンスターを自動で溶かし殺し魔石を取り込む永久機関(放置ゲー)が完成するのである。

しかも巨大化してしまえば、私の知る限りこの辺のモンスターで私の魔石に攻撃を届かせる事のできる種類はいないため、怖いのは通路からやって来たモンスターや人間に端から物理的に削られるくらいになる。それだって、自己修復の速度が高まった事からモンスターの攻撃で体が傷付き流れ出る体液は微々たるものであり、瞬殺される可能性には至らない。怖いとしたらやはり人間か。

 

(まぁ、まずは試してみるか)

 

こうして私は運命的な出会いをしたのである。同時に、ふと前世の記憶から作品のタイトルを思い出した。ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか。その答えはこれから明らかになる。

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