転生したらスライム(通称)だった件   作:夜月工房

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転生したらエンディングだった件

あれから時は流れ、気が付けば世界で一番強いと思われるモンスターは討伐の目処が立ち、我が生まれ故郷のダンジョンも一番奥まで辿り着いて母たる存在と友好的な関係を築ける準備をほとんど整えた者が現れた。

具体的にはご主人(ラジルカ)その妹(リリルカ)様、そして秘密兵器(ベル)君である。当然先輩(エイジャ)も力になっていた。

一方で私はと言えば、出番なし。

 

出 番 な し!

 

(はー、やっぱりキャラを間違えたかなぁ)

 

焼肉inダンジョン37階層玉座(ボス)(へや)という狂気の沙汰をきっかけに末席に加えてもらった私だが、ボディランゲージの限界を感じてもいた。ご主人は考え事や作業中は周りを気にしなくなるため、気付いてもらうためのハードルが高いのだ。考え事の最中に無意識かつ片手間で階層主(ウダイオス)を葬ったように、自動迎撃機能も完備だし。

故に、限られた対象のみとはいえ念話による意志疎通ができるようになる提案に私は一も二もなく飛び付いた。仮に過去へ戻れるとしても同じ選択をする満足具合ではあるのだが、割と致命的な問題が一つ。

実はその手段には互いの魂を繋げる効果があり、記憶や思想の交換も起きる副作用があったのだ。

前世の記憶という知られるとまずそうな内容は――やり方は思い出せないが――必死に伏せ、スライムとして生きて来た時間をアピールする事でやり過ごせはしたのだが、向こうから送られてくる情報は懐かしき前世で見聞きした内容がどっさりだった。頑張り損というか、言い出すきっかけを失った感が凄い。

 

(まさかの向こうも転生者だもんなぁ。今にして思えばご主人ってあの場面だけでも明らかに、そして相当におかしかったし、気付けてる可能性はあった……のか?)

 

そしてその流れ込んでくる情報の中で、私は三度運命に出会った。ロボゲーは地雷の法則から手を出さなかったARMORED COREシリーズのMADを含めた動画の数々だ。私はその魅力にあっさり屈した。

そして、生来の言葉が足りない欠点により念話が可能となってもバッドコミュニケーションをしてしまってはまずいと思って『言いたい事が齟齬なく伝わる能力』を欲し、効果を強めるために発言内容はARMORED COREシリーズの台詞から抜粋するという制約と誓約を考え出したのだ。

想定外だったのは、能力やら制約と誓約は思い付きのネタだったはずがしっかり実装されてしまった事だ。しかも能力の解除ができない。私は絶望した。念能力が存在していた事も含めて……周りにそれらしい能力者はいなかったので、私が開祖になるのだろうか。

ドロップアイテムから能力を獲得していたのも無意識に開発した『発』の可能性が非常に高い。なお、正確には無意識に発を開発していただけで能力に目覚めたわけではなかったのでオーラは見えていなかった。そして言葉を濁してご主人に報告してもみたが、現時点では会得できていない――多忙なので瞑想とかする時間がないせいかもしれない。

 

(危惧する内容は回避できるようになったから狙い通りではあるし、実際に魂で理解するから齟齬がなくて便利なんだけどさぁ)

 

しかしながら選択肢の量が限られているだけに伝えられる内容の幅は狭く、お陰でご主人や先輩からは天然物のゼノス――理性を持ったモンスターやその集団――であり主従契約をした事で流し込まれた情報を元に意思を表明するようになった個体だと思われている。賢さのハードルが下げられたので、結果的には助かっている面もあるのが悲しい。

 

(それにしたって、こう、活躍する機会が欲しい)

 

ご主人は表に裏に暴力に権力に幅広く活躍しているし、先輩も愛らしい見た目と計算三割天然七割な仕草でマスコット的な立場を獲得しているだけでなく、モンスターでありながらその気になれば表を出歩く事もできる。羨ましい。後輩になるルビスだって、クノッソスとかいう人造ダンジョンの巡回警備や近くの港町で海の平和を守っている。

対して私はと言えば、ご主人の魔法である実質アイテムボックスの内部でお留守番である。これでもボス骨(ウダイオス)の復活する骨を参考にして体内に魔石(いのち)を複数宿したり、それを使って分裂を実現させて全員同時撃破しないと復活するなどの強化はされているのだが。回復薬の生成なども可能になったので日常生活にもそれなりにお役立ちだと自負している。

 

(まー平和になったから手伝える事も少ないけど。結局、自由に喋れないのが足を引っ張ってる部分あるんだよなぁ)

 

ご主人が言うには私が懐に切り札として控えている事で心理的に余裕が持てて助かっているそうだが、基本的に追い込まれないよう根回しをしているのがご主人なので、私に出番が回って来る事はないのであった。

もっとも、先輩も基本的にはこの倉庫内でのんびり過ごしているのだが。こちらは主に性格的な問題で。

 

『今日も平和っすねぇ』

――そう願うよ、ネスタ(本当に。このまま続くといいですね)

『あれ、ラピスは出番欲しいって言ってなかったっすか?』

――じょ、冗談じゃ……(いやいやまっさかー、ちょっとしか思ってませんよ)

『そっすか? なら別にいいっすけど』

 

このようなやり取りをしながら、先輩はお気に入りのハニークラウドなるダンジョン産の果実を食べている。先輩はマイペースだが協調性は高く他社を尊重できるよくできた性格のゼノスである。あとモンスター的な美醜感からするととんでもなく美人。

ラピスというのはお察しの通り私が与えられた名だ。ちょうど見た目から石を意味する言葉を並べて選び始めた時はどうしたものかと内心頭を抱えたものだが、授かり物なので大事にさせてもらっている。

なお、その見た目に関しては意識を失う機会があって初体験に焦り驚き興奮して落ち着いた辺りで自己紹介がてら能力アピールしただけなのだが、タイミング的に魔石を取り込んで変異を起こしたと誤解されてしまい、訂正するのも気まずいので以来そのままを保ち続けている。当時は地味にいい訓練になっていたが、いつからか能力を発動している意識を持たないレベルで慣れてしまった。

なお、先輩は平和と仰っているが、この倉庫は不可侵領域を除けば割と殺伐としていたりする。見た目的には幅はあれど大体手のひらサイズでファンシーなのだが、その実態はダンジョン37階層と比較しても火力の高い攻撃やエグめの状態異常が飛び交う魔境だ。

まずガチャボーグなる存在はGFコマンダーなる者の勇気を力に変えて戦う地球外の機械生命であり、材質的に同じボーグでないと傷つけられない強度を誇る。先輩の結界であってもダメージを与えることはできないので、倉庫の外に出せた場合は最強の武器にして防具となるのではなかろうか。サイズは可変だし直接戦ってもらった方が早いのは言ってはいけない。

一応、先輩も私もGFコマンダーに任命されているので、戦いのサポートはできる。一番上手く戦いを進められるのは妹様。

そしてピクニン……ピクミンにニンジャソウルがディセンションして生まれた謎生命体である。存在そのものが頭痛の種みたいな連中だ。

戦闘の際はカラテシャウトが飛び交い非常に喧しいし、死亡時は体が爆発四散するのでやはりうるさい。そして死亡後数日も経てば収穫待ちのピクミンにディセンションして復活する。収穫時のシャウトは例によって遠くまで響き渡るくらい声がでかい。無駄に良い声揃いなのは果たして救いなのだろうか。

ピクニンと原生生物の生存競争は激しいが、ソウル憑依者は神の恩恵を得た冒険者に近く、しかも最初から高レベルの場合もあるので同士討ちや不意討ちを除けば爆発四散する事は少ない。割と食物連鎖ピラミッドの上に位置している謎生命体なのだ。なおボーグにはどうやっても勝てない。

 

『さて、と。僕は散歩して来るっすけど、ラピスはどうするっすか?』

――この感覚……行くぞ!(絶対何か起きるのでお供します)

『りょーかいっす。んじゃ、行くっすよー』

 

こうして散歩に出たが、案の定途中で戦闘に巻き込まれたりお使いを頼まれたり退屈しない時間を過ごした。日常の域を出ない内容ではあったので、平和と言えば平和である。

 

 

 

そんな日々を過ごしていたら、更なる衝撃の事実が私を襲った。

曰く、この世界はご主人が見ている夢の中なのだそうな。イメージとしてはシミュレーションのようなもので、誰かの手で夢を見せられている状態らしい。

夢から覚めた際には夢の中から持ち出せるものがあるらしいので、普通の夢でない事は確かなのだが……それはそれとして私にとっては死活問題である。

 

(転生先が夢の中ってどういう事なんだろう)

 

本来であれば私はご主人が夢から覚めたら見終わった夢と共に消えてしまうのだろうか。割と存在を否定されたような、自我が崩壊しそうな内容である。

生命に関してはご主人と主従契約を結んでいれば持ち越せるらしいので間一髪ではあるのだが。

 

(うーん、しかしタイムアップしてからネタばらしはエグいよなぁ。ご主人にも人付き合いはあるわけだし、ヘスティア・ファミリアのメンバーとか大好きだろうに)

 

しかしながら、今度は夢と一緒に消えてしまう命について思いを馳せる事となった。縁の深いヘスティア・ファミリアはもちろん、ご主人がファミリアの垣根を越えて思いを寄せられている……女性陣。

 

(いや、なんで同性にモテてるんだろう。前世のバ美肉こそが男性の好みに合致する性的シンボルだって主張に近いんだろうか。だからって別に異性からモテないわけじゃ……恐怖の象徴扱いだったわ)

 

当のご主人は普段から人間部門ナンバーワンの妹様と人外部門ナンバーワンの先輩に首ったけであると明言しており、それ以外の人物はビジネスライクな付き合いであるため感情的な面では頓着してない風もある。

 

(でも、実際には気にしてないわけないんだよなぁ)

 

人当たりが良いとは口が裂けても言えないし、やってる事は弱者からの搾取と呼ばれそうな行為で勧誘も弱味に付け込んだり選択肢が事実上一つしかない強制だったりと非人道的な流れではあるんだが、実態は救済に他ならなくて当事者から軒並み感謝されるのがご主人である。

恐らくは今回の話を聞いて投資分を回収できないと口にしながらも、連れて行く条件を満たしていないので消えてしまう友好的な相手を思って落ち込んでいる事だろう。

私にできる事は少ないし、考え付く内容は滑るか外す未来が見えるので迂闊に動けない。ここはやはり妹様と先輩に任せるしかないと思う。

 

(せめて恒久的な別れを経て人間的な成長に繋がってくれる事を祈るくらいだなぁ)

 

あるいはご主人に夢を見せている犯人にもそんな狙いがあってこんなタイミングと終わり方を決めたのだろうか。

 

(何故だろう。久々に直感が働いたけど、犯人が大切な内容なのにうっかり言い忘れてた事実に気付いて顔を真っ青にしながら震えてるような気がしたぞ)

 

 

 

そうしてある日の夜。疲労を知らず睡眠を必要としない私の意識が遠くなる感覚。以前はネタばらしだったが、果たして今回はどのような内容だろうか。穏やかな感覚なので寿命ではないと思う。少なくともそう祈る。

やがて意識が覚醒したのを感じるが、視界に映るのは……ご主人の記憶の切り抜きだろうか。開かれたアルバムに収納された写真が拡大して、少し動画が流れると停止してセピア調になったと思ったら、再び写真として奥のアルバムに収納されていく。やけに壮大な音楽も聞こえてくるし、これはもう間違いないだろう。

 

『エンディングだこれ!?』

 

叫んでから、自分が声を出している事に気付いた。そして同時に自分の姿も見慣れたスライムボティとは似て非なるどころか非て非なる、はっきりと人の形をして服まで着た――そう、擬人化という表現がしっくりする姿である事にも。

 

『……よし、泣こう』

 

かの名作のキャッチコピーも言っていたではないか。エンディングまで、泣くんじゃない、と。

 

私は声を上げて泣いた。

 

声を出せる体を手に入れた事に泣いた。

 

無性別で十数年やって来たスライムボディから、つるんぺたんすとーんな体型のすべすべなのにぷにっぷにな幼女ボディに変化していた事に泣いた。

 

前世は肩と腰の痛みに悩み始めた壮年から老年に移行中の男性だった事を思いながら、ただただ泣いた。

 

何よりも出番は終わりな事を察して、私は涙が枯れるまで泣いたのだ。

 

 

 

なお、先に目を覚ました先輩に発見された時点で体液を流し過ぎて死にかけていた模様。




別の世界線では異端児に合流するルートや闘技場に原作時間軸まで居座り続けホワイトパレスがスライムパレスになるルートなんかがある。
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