『……あれ?』
気付いたら、見知らぬ場所にいた……嘘だ。めっちゃ見覚えがある。白濁した壁に仕切られた広い空間。高くて薄暗いから見渡せない天井。こちらに向かって振り下ろさんとする武器を振り被る人体模型。懐かしきスライムボディに転生した今生における生まれ故郷――オラリオのダンジョン37階層の光景が広がっていた。
『オオオオ!』
『ハイハイ、ちょっと静かにしてねー』
知っている場所な上に、暗視能力を持たない私では見通せない高さなので
そんなわけで、肋骨に覆われているが実質ほぼ剥き出しな魔石を毒液の弾丸で撃ち抜いて灰に変えつつ、自分の状態を確認する。
直近の記憶はご主人が夢から覚めた先で擬人化できるようになった上に発言内容の縛りが解けて自由に話せるようになった事を知らせて、その流れでご主人や先輩後輩に前世持ちな事を告白して、性別を持たないウーズへの転生はTS転生に含まれるのかで議論になって、答えを保留したご主人が転生者の溜まり場に殴り込みに行ったついでで私の紹介と相談をしたところ、か。なるほど。
『ははーん、つまり二週目ですな?』
見た目こそスライムボディのままではあるが、声に出して喋れる上に毒液を生成できるので、能力は初期化されていない。体内の核も四つ存在しているので、記憶にある最新の状態と変わらないと思われる。
つまり現状は分裂して最大四ヶ所で活動できるし、それぞれ魔石が一つずつの分体でも擬人化形態にもなれたので、頑張れば地上での活動も視野に入れて良さそうだ。
『これは……思う存分チート無双をしろと応援されているのでは?』
かつての環境を思い出してみよう。
クラフトチートとアイテムボックス的な魔法を持ち応用として王の財宝に近い用法で
面子が濃すぎる。この中に発言内容がARMORED COREの台詞なだけのスライムがいたところで太刀打ちできるはずがない。
(前世男性の知識とスライムボディを活かしたスケベ技能だって、ご主人のクラフトチートで製作したドスケベスライムのが優れてたからな……いや何作ってんだあの人)
あれで前世から肉体も性自認もちゃんと女性というか女子だったというのだから、世の中は不思議で溢れている。雰囲気とかも含めて脳の作用として捉えてた以上、性別というより性格の問題だとは思うが。性の芽生えが起きていない
(とりあえず自分の現状は把握できたし、ご主人達との念話は……繋がらないな。本格的にお一人様だ)
どうやら本格的に私の思うがままに過ごす事を望まれているようだ。直感くんもそうだと言っています。
元より転生特典が残念寄りなためにほぼ現地人しかも冷遇種族で劣悪環境というハードモードなご主人を憐れみ特典をチートな内容に改造して、夢という形で仮想空間に送り込み実践編として現実時間一夜約八時間の内に体感で十数年過ごさせるような、お節介さと謎技術を有する雲上人の集まりなのだ。しかもまだまだ発展途上で改良の余地ありだとアイデアを出し合っていたところに、私という新しい玩具を見付けた。
実験台にするかしないかで言えば、恐らくするだろう。同じ立場なら私だってそうする。仮想空間でしかない夢の中に転生した、下手をすれば世界ごと消えていた不憫枠とか少しくらい報われて欲しいと思う。私の場合は出番を増やす的な。
『要は異聞帯のエネミーに転生だぞ。絶望しかないわ。現状コヤンスカヤに尾として取り込んで貰ったみたいなもんだしな』
いざ口に出すとあんまりな境遇だ。知らないまま終わっていれば、それはそれで苦しまずに済んだのだろうが。
そこまで考えて、思わず寒気を感じて体を震わせた。たらればを考え始めたら切りはないが、最悪の想定は必要だとご主人も言っていた。滅入るのは馬鹿らしいが、備えないで失敗したら完璧に馬鹿でしかない。
(さて、自分の状態はともかく、周囲の状況確認も必要だな)
早速、私は四つある魔石をそれぞれ拠り所として四体に分裂する。現状の把握には地上で事足りるが、他の『
(残る一体は適当な未確認領域に引きこもって……
そうと決まれば散開。それぞれ目的を果たすために移動を開始だ。
さて、一番近場なここはみんな大好き
『だから殺す』
デフォルミス・スパイダーの太糸やマーメイドの歌で圧倒的多数のモンスターを無力化しつつ、広げた体を津波のように動かして闘技場の上に覆い被さる。普段から血やドロップアイテムで汚れ放題な場所だし、掃除扱いで善行だな!
ご主人に出会う前、暗黒期の時点でも実現が余裕だった環境である。それから七年以上の食っちゃ寝タイムを経た私が苦戦するようなものではない。
体を四分割したので体液の総量は当時と比べ僅かに減っているかもしれないが、能力の数はそれが些事に思える程の豊富さだ。もったいない精神で拾うだけ拾ってしまうが強化種でもないため処分に困っているドロップアイテムを自由に取り込んでいい倉庫の環境は極楽だった。
(えーと、魔石を下の隠し空間に隠さなきゃな。ダンジョンの意思が確かめたかった『
占拠した
――こちら闘技場組。準備完了。後はまったり過ごす
念話の要領で利用者が私しかいないSNSに情報を投稿。これで真に準備完了だ。報連相は大事。
どうせなら当時を思い出して建物再現でもするか。今回は住人も足して現実感マシマシにするぞー。
こちら『
記憶にある限りではご主人が超高純度
折角なので、ヘルハウンドの魔法的な火炎や、アンフィス・バエナの
(いやぁ、さすがに『大樹の迷宮』だけあって良く燃えるなぁ……早く鎮火しなきゃ)
『
本来なら苦手な火炎も、私の場合はなんのその。体を広げて覆い被されば窒息系の安全安心な消化が可能だ。完全に消えて温度も下がってないとバックドラフト現象が起きかねないので時間があるならそのまま待って、時間がないなら体液を撒いて強制的に温度を下げる。
今回は異常を察知した『
――こちら『
それはそれとして、前々から水晶から染み出るモンスター用の栄養補給液は改良の余地があると思っていたのだ。取り込んで体内で生成できるようになるか試して、そこから色々と改良したい。目指せカリカリ超え。
そんな『
(というか、
そういえばダンジョンが生物だとしたら、重要器官は頭や心臓で位置的には深層の深部――本命としては最奥――と考えるのが自然だ。つまり花と一緒で逆さまになってると考えられて、人類が潜る大穴とは人体で言う女性器か肛門、または総排泄腔なわけで……冒険者異常性癖説。人類始まったな。いや、使い古された概念だとは思うんだ。思えば思春期の性的な話でキャッキャしてるところに花は逆立ちして下半身露出させてる自分の精で孕むタイプのふたなりっ娘ですとかパンチが効きすぎでは現代教育。
(なんて事を考えつつ地上なう。擬人化形態を多少隠蔽した上で念能力の『絶』によるステルスで動いております)
目指す先はギルド本部。理由というか選択肢は二つあり、一つは『
(んー、思えば年号や暦の詳細を知らなかったな。手っ取り早いのは有名人の
街の雰囲気に暗さはない。とはいえ暗黒期の前もそれはそれでゼウス・ヘラとエジプシャンな神々がドンパチしてて剣呑な空気なはずなので、終了後だと思われる。そうなると『
(よし、やけ食いしよう!)
ちょうどそこにジャガ丸くんの屋台があるし、買い占めるとしよう。
実は擬人化形態になるとポシェット付属なデザインで、しかも中身は変身前後で変わらない便利機能が備わっているのだ。分裂した場合も中身は共有なので増えたり減ったりはしない……あれ、改めて考えたらこれってかなりチートな異空間収納なのでは?
(えーと、ヴァリスヴァリス……うん、そこそこあるな。小袋に纏めてる過去の私グッジョブ!)
『すみませーん、プレーン味あるだけ下さーい』
「はいはーい、承ったぜ……ってあるだけ!? 全部かい!?」
うーむ、ノリが良い店員さんだ。見た目は黒髪ツインテールの童顔、小柄だけどデカイ、そして謎の紐。
(どうみても
どうやらご主人に拾われていない野生のヘスティアは、屋台で働いて日銭を稼いでいるようだ。ご主人が誘うまでタケミカヅチもジャガ丸くんの屋台で働いていたと聞くし、実は神的にメジャーな仕事なのだろうか。
(しかし、なんだ……どことなく私の知るヘスティアと比べて幼くて幸薄そうな顔をしているような)
「うん? どうかしたのかい? ボクの顔に何か……はっ、まさかボクの眷族になりたいとか!? いや、でも今はベル君と二人きりの時間が……」
一年程度の付き合いでしかないが、経験した苦労の数だろうか? 向こうではご主人から自分に全責任を投げて良いと言われていても、一年未満でLv.7まで到達した逸般人しか眷族にいなかったわけだし。
『あぁ、えぇと、可愛らしい店員さんだなーと。神様なんですか?』
「あ、その感じだと違うんだね。でもその通り! こう見えてボクは神なのさっ!」
『おぉー』
こちらの反応に眷族志望ではないと肩を落とし、しかしすぐに立ち直って片目を閉じて舌を出しながらサムズアップで神様アピールを繰り出すヘスティア。躁鬱の気でもあるんだろうか。
ベルと二人きりらしいし、屋台バイトだし、恵まれた環境には思えない。手助けしてやるのもやぶさかではないが、生憎と私にはご主人のような教導能力は持っていない。どうしたものか。
――地上にてヘスティアを確認、ジャガ丸くんの屋台でバイト。眷族はベル一人。時期的には
とりあえず、ジャガ丸くんはおいしく頂いた。
――こちら極彩色組。現在は50階層にて遠征中っぽい【ファミリア】の