イマジナリーワイバーンの処理も済んだので話の続きをしよう。えーと、まぁ私を置くのは危険って話だったな。でも事を起こすつもりならステルス状態のまま奇襲してダンジョン解放さよなら人類ルートなんだよなぁ。ここの警戒薄すぎるからウラノス自身に何かしらの対策を持たせてあるんだろうけど。
『逆に言えばダンジョン内の目が届かない場所にいる方が怖くないか? 恩恵が減っても誰か確認するだけでも時間のかかる規模の大きな【ファミリア】や、
「
『詳しくは後でな。それで、どうする?』
気持ちはわかる以上、選択を後押しするためにメリットを提示しておこう。半分以上は脅しに聞こえるが、きっと気のせいだ。ほら、フェルズだって頭を抱えてる。
「……難題だな。近くに置けば命の危険、遠くに置けば世界の危機か」
『んな大袈裟な』
「そうでもない。都市外には三大
軽く頭を振って立ち直ったかと思いきや、未だに悩む。ついでに何故か強化パーツの情報を流して来た。
(釣りか? 釣りだな? そんな餌で私が釣られスラーーって釣られんけどな。知ってるし)
ご主人に許可を貰って黒竜の鱗を端っこだけ食わせてもらったが、神威のような魔物や人に忌避感を与える効果のある黒いオーラを出して終わりだったから期待外れすぎて泣いたのも今となっては忌まわしき記憶である。アクシズ教徒と共に滅びれば良いのに。
しかし学区のヒレを伏せたのは、影響力の違いだろうか。同じ
『それで、答えはいつ出そうなんだ?』
「俺は構わんぞ!!」
早っ!? まさかの即答だった。ちゃんと話聞いてたか心配になる。
「……良いのか?」
「ここに姿を現した時点で何か起きたときの容疑者にされてしまうし、下手をすればこの瞬間にも排除される
お、男前や……頭の中ではガネーシャとローマの関係性について考察が始まってるけど。
「もっとも、『
『あぁ、それで十分だよ。よろしくな』
握手を求めて手を差し出して見たら、まるで分かっていたかのような早さでがっちりと握られ、その引き締まった体から繰り出される予想に違わぬ力の強さで上下に揺らした。うーん、これは既に
「はぁ……無いはずの胃が痛む思いだ」
「だが、これが新たな一歩となるのやもしれぬ」
そんな私達を見て、一人は今後の問題に思いを馳せたのか、そして一柱はこの場で問題が起きず終始穏やかに進んだ安堵なのか、それぞれ深く溜め息を吐いていた。
『とりあえず
「う~む、う~~む~、う~~~~む~~~」
『めっちゃ悩むじゃん』
「当然だろう……」
むしろ人なら当たり前にできる事であっても、モンスターがそれを行えば勝手に楽しんでくれそうでもある。目指す方向としてはお使いができるウーズの地位だろうか。
だが、一定以上の知能を見せた場合は騙す選択肢を疑い始めるのが人間だ。つまり最悪は危険視されて処分を下されそうでもあるのが悩ましい。その最悪を込みで動いた結果が今回のウラノス直訴なので、問題は然程ないか。
いや、今後も警戒させてしまうからダンジョンで懸命に生きる『
(そう言えば怪物祭の日はベルの試練とやらに食人花の暴走が重なって騒がしいんだっけ)
ふと、怪物祭でフレイヤがやらかす事件を思い出し、そこから彼女の魂の輝きだったかが見える能力も思い出し、今の自分がどう映るのか気になった。
ご主人の夢では、ご主人がシルに働きかけて調整していたのもあってかベルに一直線でシルとして動いていた方が多かったらしいし、そのシルですらこちらとは縁が薄く問う機会も無かった。
(オッタル襲撃は安易な展開だからな。立つんじゃないぞフラグ……)
仮に襲撃されてもカーバンクルの魔力壁を展開する能力はあるから無事に済むとは思うが、先輩ほどの強度は無いのが懸念材料だ。
(街中で魔法と獣化は無いとは思うけど、心配だから常にバベルを背にしながらバベルに向かう形で相手しよっと)
そして今度はオッタルから連想されたのだが、原作でベルと死闘を繰り広げた片角のミノタウロス――後のアステリオス――はオッタルに鍛えられていた。あれは
そう考えるなら、都市最強の前衛はそのまま最高の調教師にもなる。もっとも、彼のように無口で作法に疎い武人肌の大男の場合、不思議と力尽くで従えるよりも心を通わす形で動物に好かれそうな気もする。犬や馬からの人気が凄そうだ。
(オッタルと愉快な森の仲間達とかいう謎ワードが思い浮かんだせいで、森の開けた場所の中心になってる切り株に腰かけてオカリナを吹くオッタルとそれを聴きにやって来て囲む動物達の図が浮かんだわ)
思考が横道に逸れていたが、腕を組み視界を上下左右に忙しなく動かして悩むガネーシャの唸り声が止んだ。
「よし、決めたぞ!」
『おぉ!』
「それでは神ガネーシャ、結論はどのように?」
「うむ、それはだな……!」
「と、言うわけで連れて来た!」
『ドーモ、ラピスです』
「……はぁ、シャクティだ」
はい、こちら引き続きギルド最奥『祈祷の間』になります。ガネーシャに連れられて、やって来たのは青髪の凛々しい女性。【ガネーシャ・ファミリア】の団長を務めているシャクティ……ごめん、名字は覚えてない。
「それで、このぽやぽやした幼女がそうだと?」
「うむっ!」
『まぁ、百聞は一見にしかなんとやらさ』
「そこまで言ったのなら最後まで言えばいいものを……」
溜め息を吐いて頭を押さえる様が妙に似合うシャクティは、ガネーシャの話を信じてはいるが外れて欲しいと思っていそうな様子だった。気持ちは非常によくわかる。
ひとまず擬人化形態で挨拶をしたものの、逆にインパクトは弱かったかもしれない。律儀にツッコミをしてくれる辺りに人の良さは表れているのだし、この分ではウーズとして挨拶して反応を伺う方が正解だったようにも思ってしまう。
そんな事を考えながら擬人化形態を解除する。今後はこちらで通すのだし、順番的には間違っていないはずだ。改めてインパクトを与えるべく、私は声を上げた。
『これが私の本体のハンサム顔だ』
「逆になくなっているぞ!?」
元ネタが通じないのは承知の上でボケてみたら、間髪いれずガネーシャからツッコミが飛んできた。
ちなみにだが、フェルズは表向き存在しないギルドの
立場的には既に面識を持っていそうなものだが、仕事の付き合いだけで真面目な部分しか見せていない相手に私を介してキャラ崩壊を起こす瞬間を目撃されたくないと私は見ている。直感さんもそうだと言っている。
「なるほど、確かに『異端児《ゼノス》』のようだ」
『……くっ、外したか』
肝心の
「どうだ、シャクティ。中々にユニークな奴だろう?」
「そうだな。できれば
何故かシャクティはジト目でこちらを見詰めて来る。なんだろうか、この、高揚感は。いけない扉を開いてしまいそうだ。今ならご主人の気持ちが良く分かる。ジト目は……いいものだ!
『大人しいの程度次第ではあるな。
それはそれとして主張しておく。他のモンスター同様に檻の中で静かにしているだけでは、人に受け入れられ大手を振って表を歩ける日は来ないだろうし。
「そんな事が?」
「信じがたい話だがな。先程こっそり依頼して実際に作ってもらった
私が出しました(長机も)。疑うシャクティにドヤ顔を決めるも、今はウーズ形態なので表情がなかった。鼻っぽく上向きに伸ばしておくか……いや、なんか卑猥だな。止めておこう。
「……ふむ。使っても?」
『どうぞ。なんなら今から新しく作るけど』
「そうか、ならそちらを頼もう」
『りょーかい……どうぞ』
「……早いな。ふむ、なるほどな……数はどれくらいまで作れる?」
私から作り立ての
ところで、私はある事に気付いた。
(自分の体から出たものを嗅いだり飲んだりされるのって妙な羞恥心があるな!?)
思考するのも憚られる話ではあるが、ほんの少しの興奮も覚えてしまった。シャクティが美人で、私が前世の記憶から男性的な感性を残しているのもあるのだろう。しかしウーズ形態を取っていて良かった。擬人化していたら顔に出ていたかもしれない。
さて、考える振りで答えを先延ばしするのも限界だろうし、質問に答えておこう……少し控えめに申請しておいた方が受け入れやすそうなので、そのように。
「あー、一日百個くらいが限界かな。実際にやりたくはないけど、それを不眠不休で一ヶ月分くらい。栄養を供給できれば延ばせるけど」
「……規格外だな」
言いながら、今度は自らの腕に手刀を走らせ付けた傷に薬を振りかけて効果を確めている。これくらい覚悟が決まっていなければ、
しかし過小報告したのだが、これでもまだ規格外なのだろうか。ご主人は
(ところで作製だと搾精と同音だから口に出すのが躊躇われるよね。口に出すの意味までそっちに思えてくるし)
目に見える速度で傷が癒える様を見届けて、シャクティは満足そうに頷く。これは仕事を課せられる感じかな?
「ラピスといったな?」
『あぁ』
「しばらくは待機だ」
『えぇぇぇぇ!?』
意外! それは待機命令ッ!
とても良い笑顔が見られて満足なのだが、それはそれとしてハデに動けないのは困る。どうにか妥協点を探らなければ。
『な、なんで!? 理由は!?』
「目立ち過ぎる。お前と同じ事ができると考えて真似をしようと企み命を落とす馬鹿が現れんとも限らん」
『えー、ウーズって深層のモンスターだぞ? そこまで来られる冒険者がそこまで馬鹿かぁ?』
「深層まで行ける実力があるなら回復薬《ポーション》に困窮などすまい。問題は安く
「俺としては【ディアンケヒト・ファミリア】の主神辺りが怖いぞ!」
『それほぼ言っちゃってるよな? しかし、そうか。そういうもんかぁ』
他ならぬ憲兵として街を守って来た者達の言葉である。説得力が違う。とはいえ、だ。人間の欲望とは、そこまで短慮に走らせるものだっただろうか。
なまじ付き合いの深いご主人が自力で何もかも済ませていたので、認識がズレていた面もあるかもしれない。
(シャクティって確か第一級冒険者だよな? そんなやつから規格外判定を貰ったというか食らったのは相当な事じゃないのか?)
信じるに値する人物からの発言ではあるため、改めて自分の出来る事を振り返る……そう、比較対象の人間をご主人にするから駄目なのだ。よって矛先をその周囲にずらす。
(……駄目だ、ご主人の周囲って事はご主人が揃えちゃうから何ができるのか全くわからん。もっと離れた相手でないと……今度は情報が足りなくて何ができるのかわからん。前世で考えるか。薬の自作かぁ、バレたら捕まるな! 高校化学の実験で
無念な事に試みは失敗してしまったので、ここは素直に尋ねよう。
『えーと、しばらくってどれくらい?』
「……現段階では明言できんな」
『……マジかー』
シャクティの答えに、思わず体が溶ける。今なら簡単に魔石を破壊されてしまうくらい体が床に流れ出している。衝撃の度合いは伝わってくれるだろうか。
「うーむ。シャクティ、どうにかならんか?」
『ガネーシャ!』
「こればかりはな……いくらダンジョンが未知に溢れているとは言え、さすがに上手い説明が思い付かん」
『あー、数を制限するんじゃ駄目なのか? 加減を間違わないよう事前に確認するからさ』
「すまないが、突発的な事態に一刻を争うからとやらかす未来しか見えない」
『う゛っ!』
「それに、だ。情けない限りだが、モンスターの活用方法を考えさせる機会を与えるだけでも、人間同士の争いを起こす火種になってしまうのだ。私の立場ではこれを見過ごすわけにはいかない……どうか理解してくれ」
ガネーシャの助け船も入ったが、シャクティは小さく首を横に振る。私も食い下がって見たが、とてもあり得そうな事例を上げられて閉口せざるを得なかった。
更には駄目とばかりに恥を忍んでのお願いと来た。どうやら数を聞いては来たものの、彼女の中ではモンスターが回復薬の類を作れる可能性を知られる時点でアウトらしい。
(確かに使えるものは使う派と使う事を許さない派にわかれて争う可能性は高いな。現状だと前者のが少数派だろうけど。それに使う派のせいで深層まで潜れる貴重な戦力を失ったら目も当てられないか。あいつら普通の檻じゃすり抜けるし、下手に触れないし、そもそも命を惜しむ感じがしないから敗北を理解して命惜しさに従う
そう考えると、私という存在の異質さが際立つ。
あるいは、勝機がなくても命を惜しまず向かって来る理由は、姿形が同じ『
しかしこのままでは私の要望が通りそうにない事実は覆らない。そうなると擬人化形態で動いて実績を作ってしまう方が手っ取り早いだろう。
『あー、それじゃさ。一つ試して欲しい事があるんだけど』
「試す……何をだ?」
『決まってるだろ……『
訝しむシャクティの問いに答えるべく、擬人化形態を取り終えて、私はキメ顔でそう言った。