剣聖冒険譚   作:拝み二刀

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 ダンジョン地下二階。ここから、この迷宮の真骨頂と言える。

 村の地下墓地と接している一階と違って、より超常的な光景が広がるからだ。

 地下二階は、巨大な樹木とそれぞれを繋いだ足場によって構成された、アスレチックの様な構造。

 

「何度見ても凄いですねぇ」

 

 手を庇に巨木を見上げるブライは、感嘆の声を零していた。

 そこにマルシルが声を掛ける。

 

「ブライは、ここまで来たことが無かったの?」

「いえ、来たことはありますよ。といっても、ここら辺までですけど。そもそも、自分はダンジョンに潜り始めて一週間ほどですから」

「そうだったの!?ち、因みに、何か目的があったりしないの?」

「いえ、特には?元々、興味はあったんですけど。その折に行商人の護衛依頼があったので、ついでに連れてきてもらったんです」

 

 黄金の国を目指して潜る冒険者ばかり、と思われがちだがダンジョンにやって来る冒険者の目的は個人によって違う。

 冒険者を生業として、仕事としてくる場合。或いは、もっと後ろ暗いもの。ブライの様に好奇心で訪れる者も居た。

 

「マルシル殿は、どうなんですか?やはり、黄金の国に興味が?」

「ううん。元々ダンジョンには興味があったんだけど、私は――――ぎゃん!?」

 

 得意げに語っていたからか、足元が疎かになっていたらしい。板橋の足場の一部が割れてできた亀裂に足を引っ掛けてマルシルが転んでしまう。

 咄嗟の事で反応できなかったブライが慌てて、傍らに膝をつくと手を添えた。

 

「だ、大丈夫ですかマルシル殿」

「う、うん。橋の隙間に引っかかったみたい」

「おいおい、大丈夫かよ。幾らまだ二階とはいえ、気ぃ抜き過ぎんなよ?」

「疲れが出たんだろう。随分歩いたからな」

 

 上を見回して、ライオスは今日の野営地を探す事にしたらしい。

 この巨大樹が乱立する区画は、その木の洞で野営をする事が可能だ。最低限の設備が備えられてもいる。

 

「完全に暗くなる前に夕食用の魔物を狩るとしようか」

「お昼が鍋でしたから、お肉とかですか?」

「肉か……そういえば、昔こういった木のウロで豚のスープを作ろうとして火傷したな」

「あったあった。まあ、簡単なスープも料理を普段からする訳じゃない奴が下手に手を出せるもんじゃないって事だよな」

 

 盛り上がる男性陣。一方で、マルシルはげんなりとした目をしている。

 

「どうした?マルシル」

「……魔物、食べるのかぁ……って思っただけ」

「でも、あの鍋は美味しかっただろ?」

「それは……!そう、だけど……」

 

 ライオスに指摘されれば、強く反論は出来ない。事実として、大サソリ鍋は美味しかったのだから。

 しかし、如何に実食したとはいえ魔物を食べる事には抵抗がある。

 

「……それじゃあ、出来るだけマルシルの要望に添える様なものにしよう」

「でも、魔物でしょ?」

「…………」

「はぁ………ごめん。我儘言ってられる状況じゃないのは分かってるんだけど………」

「因みにさ。この辺で出てくる食えそうな魔物ってどんな奴なんだ?」

 

 話題を変えるように、チルチャックがライオスとセンシに問う。

 ちょっと待ってくれ、とライオスが鎧の内側から取り出したのは彼の愛読書である魔物について多くが記された本。

 

「えぇっと、この辺なら大蝙蝠や大ネズミ」

「不衛生なのは却下!」

「森ゴブリン」

「亜人系はNO!」

「動く鎧」

「………金属は食べられないでしょ」

 

 悉く却下を下すマルシルに、チルチャックの白い目が向く。

 

「居るよなぁ。何でも良いって言っときながら、こっちが出す案には軒並み反対してくる奴」

「私、そんな我儘言ってるかな!?チルチャックだって、流石に亜人系は嫌でしょ!?」

「うっ……」

「ですが、マルシル殿。この辺りは、ゴミを捨てられている様子もありませんし、毛皮を剥いで確りと熱消毒をすれば衛生面も問題ないと思いますよ?」

「精神的に、無理」

「あ、はい」

 

 チルチャックとブライの説得も、いまいち上手く行かない。

 因みに、魔物を食べる事に抵抗が無いのは、センシ、ブライ、ライオスの三人。チルチャックも、食べれない事は無いが、率先して口をつけるタイプではなかった。

 

「もっとこう、鳥とか木の実みたいな、普通のモノってないのかな……」

「居ない事は無いが……その手の魔物は、基本的に人を襲って来ない。狩ろうと思うなら、野生動物を狩る様に専用の準備をしなくちゃならない」

「そっかぁ」

 

 がっくりと肩を落とすマルシル。しかし、先の通り候補に出された魔物たちは食べる気にならない。

 時間は刻一刻と過ぎていく。この場に留まり続けても生産的ではない。

 

「なあ、ブライ。昼の時みたいに保存食は無いのか?」

「うーん……ない事もない、ですけど五人で食べるにはとてもではないですけど心許ないものです。流石に、空腹のまま休むのは体に悪いと思いますよ?」

「だよなぁ……なら、マルシルに保存食回して、俺達の方が魔物を食う、か?」

「いや、木の実や果実ならこの時期収穫が可能だ」

 

 そう言うのは、状況を静観していたセンシだ。

 彼の声が聞こえたのか、マルシルが希望に満ちた表情を浮かべる。

 

「ほ、ホントに?」

「ああ、勿論だ。味も良く、栄養価も高い」

「そ、それじゃあ、それにしましょう?ねえ、良いでしょう?ライオス」

「うん?まあ、マルシルがそれで良いのなら」

 

 リーダーであるライオスが頷き、一同はセンシの先導する収穫?できる場所へと向かう。

 

「なあ、ブライ。魔物だよな?」

「恐らくは」

「はぁ…………ぬか喜びにならないと良いけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「騙されたァああああああ!!!」

 

 チルチャックの懸念から数分後のマルシルの叫びである。

 センシに案内されたやって来たその場所は、人喰い植物の群生地。

 

「人喰い植物の木の実なんて食べられるの!?」

「マルシル、ソレは俗称だ。アレを見てくれ。あの植物は、パラセリアといって主に獣道に自生する。蜘蛛の糸にも似た粘液を張り巡らせて、そこに生物が掛かると一気に引き寄せるんだ。でも、パラセリア自身に消化能力は無く、そのまま自分でたい肥を作るんだ」

「………で?」

「だから、好んで人を襲う訳じゃない」

「でも、ゼロじゃないんでしょ?何だったら、人を堆肥にして成長したのかもしれないじゃん!!」

 

 地団駄踏むようなマルシルだが、如何せんここから別の魔物をターゲットにするには時間がかかり過ぎる。

 駄々をこねるエルフを宥めるように、チルチャックがその背に手を置いた。

 

「心配するなって、マルシル。ダンジョンの深層は兎も角、ここはまだ地下二階だ。早々死体を肥料にした植物は多分居ねぇって。寧ろ、人喰い植物の根元ほど死体探しにうってつけの場所はないしな」

「蘇生屋さんでしたっけ?やり口が、ハイエナ染みてますね」

「気を付けろよ、ブライ。ぼったくりも珍しくないし、何なら生きてる冒険者を後ろから襲って魔物の仕業に見せかけてから蘇生するような奴らも居るからな」

「世も末じゃないですか」

 

 半ば脅しの様なチルチャックの言葉に、ブライの頬が引き攣る。

 とはいえ、彼の言葉は嘘でも脅しでもなく、事実。金というのは、それだけ人を狂わせるのだ。

 

「うむ、あそことあっちと、そこだな。黄色い実は熟していないから取らないように」

「ああ。といっても、掠め取るのは無理そうだ」

「そこは心配しなくて良い。ブライ、頼んでも良いだろうか」

「了解です。一株、斬り倒しても?」

「根が残れば、また育つ事が出来る」

「分かりました」

 

 センシに任される形で、ブライが一行の前に出た。

 同時に、その腰の左側へと差した二振りの柄へと触れる。

 

「ブライ、一人で大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ。そうですね、今回の件を自分の試金石にしてもらえませんか」

 

 ライオスの問いに答えながら、ブライは抜刀。

 両手それぞれに握られた剣。というか、刀。

 その刀身は浅い反りがあり、片刃。何より特徴的なのが、その色合い。

 まるで黒曜石の様な、滑らかな漆黒。

 

「センシ殿は、食料関連で貢献しておられますが、自分は体を動かす事しか能のないもので。ですので、旅路についていく上で実力を予め見てもらおうと思った次第です」

 

 言いながら、ブライは脱力した格好で、前へ。

 倒れ込むように移動するのは、純粋な脚力による加速では無く、重心を利用したものであるから。その違いは、初速に現れる。

 

「速ッ!?」

 

 驚いたのは、チルチャック。彼は、種族柄五感に優れているのだが、その彼をしてブライの初速を完全に目で追う事は出来なかった。

 突っ込むブライに対して、人喰い植物が獲物を捕らえんと蔦をうごめかせる。

 だが、

 

「――――これにて、終幕」

 

 突っ込んだブライの腕がブレたかと思えば、両者は交差し、その直後に人喰い植物はバラバラになって崩れ落ちていた。

 ポカンと口を開けて目を点にする三人。この光景を見慣れているセンシだけが軽やかな足取りでブライの、切り刻んだ場所へと足を踏み入れる。

 

「うむ、見事な切り口。その上、木の実には一切の傷が入っていない」

「これだけが自分の取柄ですから」

 

 そんな会話を交わしながら、刀を鞘へと納めたブライもセンシに倣いつつ木の実を収穫していく。

 一方で、再起動を果たした三人。

 

「…………凄かったな」

「ぶっちゃけ、シュローやナマリより強いんじゃないか?というか、ライオスも前衛廃業か?」

「いや、ブライと俺やセンシの立ち位置は別だ。彼は前衛の中でもアタッカー。一方で、俺達は壁役としてのタンクが主な仕事、という事になるかな」

「必死か。いや、間違ってるとは言わねぇけど」

 

 つらつらと言葉を連ねるライオスに若干引きながら、チルチャックは前へと視線を戻す。

 そこでは、ブライが何かに気付いたのかウツボカズラ型の人喰い植物へと近付き、その膨らんだ部分へと鋭い打撃を見舞っていた。

 外部からの衝撃を受けて、人喰い植物はその消化液と共についさっき含んだであろう死にたてほやほやの死体をゲロる。

 

「ほらーーっ!死体あるじゃない!?というか、食べられてるじゃん!?」

「いや、消化機能が全ての植物に無いとは言ってないだろ?というか、いい加減手伝いに行こう。二人だけに任せるのは良くない」

「だな。マルシルも手伝えよ。木の実はお前のリクエストなんだから」

「人喰い植物の木の実はリクエストしとらんわ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騒がしい夕食を終え、就寝前に見つけた死体で一悶着ありながら、静かになった夜。

 

「ライオス殿は眠られないのですか?」

「うん?まあ、もう少し。寝ずの番も必要だから。ブライも休んで大丈夫だぞ」

「自分は、少々整備がありますので」

 

 本を読むライオスの対面で、ブライもまた自身の得物である二振りの刀の刀身を磨いていく。

 その最中に、ふとブライは見られている事に気が付いた。

 

「どうしました?」

「え?あ、いや……ブライの使う剣は、刀、だよな?前にギルドに参加していた男が使っていたんだ」

「あー、成程。ですが、自分の得物は見た目だけで中身は全くの別物ですよ。こちらの刀身は、知り合いのドワーフの方に打ってもらいました。彼曰く、百年振るっても刃毀れ一つも起こさない、とか」

「へぇ……ドワーフの国に行った事があるのか?」

「はい。このダンジョンにやって来たのも、旅路の途中に縁があって寄ったんです。あ、勿論、ライオス殿たちの目的を果たせるように、自分も力を尽くす所存です」

 

 トン、とシャツの上から自身の胸を拳で叩いたブライ。

 片鱗とはいえ、その実力の一端を垣間見たライオスとしても、心強い事だ。

 

「ああ、頼りにしている」

「ええ、お任せを」

 

 静かな夜が更けていく。

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