剣聖冒険譚   作:拝み二刀

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 薄暗い階段をただただ下る。

 

「はぁー……魔物が出ないのは良いけど、こうまで階段が続くとうんざりしてくるわね」

「背負いましょうか?」

「あ、ごめん。大丈夫だから」

「ブライー、マルシルをあんまり甘やかすなよ。何れ真ん丸になっちまうぞ」

「なっ……!ならないもん!」

 

 ずんずんと力強く階段を下っていくマルシルに、揶揄ったチルチャックが笑みを浮かべブライはうなじを撫でた。

 罠部屋と宝物庫を抜ければ、隠し通路は階段を下るばかり。魔物は出ないが、単調な道というのは肉体以上に精神的に疲弊する。

 

「適度な疲労は、飯を旨くするぞ」

「確かに、動いた後に食う飯は旨いな」

「限度があるでしょ」

 

 冒険者稼業は、体力勝負だ。特にダンジョンに潜るならば猶の事。こまめな休憩を挟んだとしても、やはりベッドで眠るのと比べれば疲労の解消効率は落ち込む。

 会話を交えながら、やがて階段は壁へと辿り着く。

 

「行き止まりか」

「剣貸してくれ」

「ああ」

 

 ライオスから借り受けた剣を手に、チルチャックは壁の一部をその鞘先で強引に押し込んだ。

 すると石造りの壁が上へと引き上げられ、広い空間へと繋がった。

 

「広々としてますね」

「大分、近道が出来たな……ん?」

 

 チルチャックから受け取った剣を腰に差し直している時、ライオスは何かに気付いた。

 見るのは、剣。その鍔の辺りにあった細工が紛失していた。

 

「うーん……まあ、寿命か」

「い、良いの?何か思い出の品だったりとかしない?」

「思い出……思い出と言って良いのか分からないが、この剣はそもそも買ったものじゃないんだ」

「誰かに貰ったのか?」

「貰った……という訳でもない」

 

 いまいち歯切れの悪いライオス。買ったでも貰ったでもないのなら、第三の選択肢が思い浮かぶというもの。

 

「まさか…………」

「!いやいや違う!この剣は、店から盗んだものじゃない!三年前の駆け出しだったころに、動く鎧から失敬したものだ!」

 

 盗人のレッテルを貼られそうになり、慌ててライオスはそれら疑惑を払拭するべく結論から話す事にする。

 

「まだ、ファリンと二人の時だったからな。金剥ぎの一党に混ぜてもらったんだ」

「金剥ぎ?」

「昔はこの城が全面金で覆われてて、ソレを剥ぐのが儲かったんだ。黄金の国の信憑性もそれで増した感じだな」

「もっとも、俺達が参加したころには城表面の金は殆ど剥ぎ取られていたんだが。そこで、金目の物を探して城内に入る事になり、この辺りまでやって来た」

「そこで、動く鎧と遭遇したという事ですか?」

「ああ。元々持ち込んでいた剣は、鎧に叩きつけたら折れて、代わりの剣を奪って応戦したんだが………まあ、心臓を一突きされた」

「負けてるじゃん……」

「初めての死亡だったからな。上で鎧を見る度に一時期ビクついていたもんだよ。ついでに、動く鎧の事もたくさん調べた」

 

 しみじみと思い出を語るライオスだが、中々壮絶な記憶だろう。トラウマになってもおかしくはない。

 しかし、彼の興味は件の動く鎧へと固定されている。

 

「色んな文献を見たんだが、味まで網羅したものは無かったな。センシなら、どう調理をする?」

「うん?鎧は食えんだろう」

「………動く鎧は、魔法で操られてるだけで生き物じゃないのよ?」

「それは知ってるが………ほら、留め具の革とか。革靴なんかも、調理次第では食べられるという話だし」

「ええっと、鞣した革を食べるのは難しいでしょうし、そもそも鎧の留め具程度量を無理矢理調理して食べる位ならば、他の魔物を確保した方が良いかと」

「そうか、動く鎧を食べるのは無理か…………」

 

 魔物食を躊躇なく行うセンシとブライ、そして魔法の見地から意見を述べるマルシル。

 三人の意見に、さしものライオスも大人しく引き下がる。

 休息を兼ねた雑談も切り上げて、一行は次なる部屋へと進むべく扉を僅かに押し開けた。

 

「ゲッ、早速居やがる」

 

 顔を顰めたチルチャック。

 両開きの大扉の奥に繋がっていた部屋には、ずらりと鎧が通路を挟むようにして規則正しく、規律正しく並んでいた。

 

「どうする?流石に、全部の鎧を調べる訳にはいかないと思うけど」

「走り抜けるのはどうだ?アイツら、足が遅いから部屋さえ抜けちまえば撒けると思うけど」

「……そうだな、その案で行こう。皆大丈夫か?」

 

 各々が頷き、ライオスを先頭として突入準備。

 

「よし…………行くぞっ!!」

 

 勢いよく扉を開け放ち、五人は部屋の中へと駆け込んだ。

 同時に、侵入者の出現に動く鎧が動き出す。

 

「ッ!来た!」

「任せろ!」

 

 マルシルが気付き、動き始めた鎧へとセンシが斧を振る。

 剣を握る右腕を飛ばし、間髪入れずライオスが鎧の目線確保のために有る頭部の隙間へと剣を突き入れて頭を奪って投げ飛ばす。

 

「止まるな!そのまま進め!」

 

 ここで、先頭が入れ替わる。

 最後尾を走っていたブライが、チルチャックとマルシルを追い抜き何故だか道を塞ぐように集まった五体の動く鎧と相対するような形となったのだ。

 

「…………シッ!」

 

 斬撃があまり意味を成さないと判断したブライは、先頭の一体に肉薄すると同時にメタルブーツによる鋭い上段廻し蹴りをその頭部へと見舞う。

 勢いよく吹っ飛ぶ頭部。一瞬硬直したそれ以下の身体部分。

 

「?……セイッ!」

 

 僅かな違和感を覚えながら、廻し蹴りで振り上げた足が弧を描いて戻ってきた所で軸足を後退。蹴りの反動を利用した後ろ蹴りがその無防備な胴体へと叩き込まれる。

 後ろ二体を巻き込んで吹っ飛んだ首なしの動く鎧。だが、まだ二体が左右からブライへと剣を振り下ろしてきた。

 

「むっ」

 

 隙無く二刀を引き抜いた彼は、振り下ろされた剣をこれでガード。

 そして、募る違和感。もっとも、後衛職二人を庇いながら増え続ける動く鎧の相手は、いささか骨の折れるというもの。

 

「ちょ、一旦撤退しましょ!なんか変よ、こいつら!」

 

 マルシルの提案。それに従い、一時撤退。元の扉の位置まで戻り、部屋を飛び出して勢いよく扉を閉める。

 

「どうも、今日は様子がおかしい。何か、機嫌でも損ねてしまったか?」

「はあ……!はぁ……!まだ言ってるの?アイツらは、ただ与えられた命令を忠実に熟すだけよ。だから、操ってる奴を倒すのが一番手っ取り早いんだけど」

「そんな奴、本当に居るのか?今まで見た事無いぞ」

「絶対居るって!じゃなかったら、あんな鉄の塊が中身も無しに勝手に動く訳ないもの!」

 

 ぶんぶんと杖を振って力説するマルシル。

 その一方で、二刀を鞘へと納めたブライは、何か物思いにふける様に右手を顎の下に添えて首を傾げていた。

 

「どうかしたか、ブライ」

「いえ……動く鎧が本当に人形なのか、と考えていました」

「!やっぱり、ブライもそう思ったのか!?」

 

 センシの問いに答えたブライの言葉に反応したのは、ライオス。

 鼻息荒く詰め寄ってくる彼に僅かに仰け反りつつ、ブライは苦笑い気味に口を開いた。

 

「ちょ、ちょっとした違和感ですよ。自分が頭を蹴り飛ばした動く鎧は、不自然に硬直しました。でも、それが単なる人形ならおかしくありませんか?センシ殿やライオス殿が崩した鎧も、態々腕を戻し、頭を嵌め直した上でこちらに向かってくるんですよ?」

「それは……」

「俺も、そこは気になった。動く鎧の動きは、明らかにこちらを視認した上で襲ってきてる。現に、頭を戻す時も前後を間違える事もない」

「……視覚共有の魔法でも使ってるのよ」

「でしたら部屋の構造上、出入り口の上部に設けて部屋を見下ろせるようにすれば良いと思います。十以上の鎧と視覚を共有してしまえば情報処理で倒れる方が早いのでは?」

「ぐむむむ……」

 

 二人の言葉は、机上の空論と切って捨てるには具体的な根拠をもって述べられている。

 マルシルが唸る。二人の根拠は、痛切に一石を投じていた。

 

「……まあ、二人の言い分は分かった。でもよ、仮に動く鎧が魔法で動いているモノじゃなかったとしてだ。どう突破するんだ?」

「それなんだが、もう一つ気になる事があった」

「まだあるの!?」

「今回の彼らの動きだ。いつもなら鎧に近づいた所で襲われるのに、今回は道を塞ぐようにして動いていた。つまり、俺達の行く先。あの扉の向こうに何かがあるんだ」

「操っている魔法使い、或いは彼らが守らざるを得ない何か、ですね」

「……で?どうするよ。あの包囲網を突破しないと、そもそも向こうの部屋にも行けない訳だが」

「うーん…………何人かが残って鎧の気を引いて、その内に誰かが先行する、とかか?」

 

 瞬間、三人の視線が二人へと注がれる。

 

「頑張れ」

「………あっ、自分とライオス殿でしたか」

「俺はてっきりチルチャックの方が適任だと思ってたんだが」

「俺はたいして戦えないし。ブライやライオスの話を加味すると、魔物を討伐する可能性もあるんだろ?その点、お前ら二人なら最低限戦えて、尚且つ逃げられる可能性もある。こっちも部屋さえ出れば良いんだし」

 

 作戦は決まった。後は、決行するのみ。

 マルシルが大声を出しつつ、三人が鎧の気を引き。ライオスとブライは、混乱に乗じて左右の壁際に紛れて気配を殺しながら奥へと向かう。

 丁度扉の前で合流を果たし、二人は僅かに開けた扉の隙間へと静かに身を滑り込ませた。

 そこに居たのは、

 

「また鎧、ですね」

「このタイプが動くのは、初めて見るな」

 

 先の部屋に居た動く鎧よりも更に強そうな個体。

 獅子を模したような頭部に、他の鎧が持っていなかった大きな長方形の盾を持ち、明らかにボス級の雰囲気がある。

 

「操っている様な魔術師は……居ないな」

「ですが、あちらはやる気の様ですよ」

 

 ブライが二刀を引き抜き構える。同時に、動く鎧も迫ってきた。

 長身であるライオスよりも、更に頭一つは大きいであろう動く鎧。その一歩もまた大きく、更に腕の長さと長剣の利点を生かした斬撃を繰り出してくる。

 これに対して、ブライは二刀を揃えて振るわれた長剣へと叩きつけるようにして止めに掛かった。

 甲高い金属音と火花が散る。

 

「どうしますか!ライオス殿!」

「とりあえず、時間稼ぎ任せた!」

「分かりました!」

 

 始まる剣戟の応酬。その優勢は、ブライにあった。

 純粋に、彼が強い。二刀を、宛ら舞い踊る様に振るい動く鎧の片腕の膂力と、同じく片腕で渡り合っている。

 こうなると、二刀を振るうブライの方に分がある。

 オマケに、

 

「盾を庇っているのか……?」

 

 冷静に状況を見ていたライオスが呟く。

 動く鎧は、積極的に剣を振るう一方で盾の方は振るう様子が無い。寧ろ、体の後ろへ庇うような動きを見せつつ、逆に胴体などに当たる斬撃は気にした様子が無い。

 部屋の様子を探りつつ、ライオスはその違和感を確かめるべく部屋のほぼ中央で剣を交える両者の周りをじっくりと歩く。

 そして、見つけた。

 

「アレは…………卵鞘か!」

 

 盾の裏側、持ち手の近くに何やら塊のようなモノがへばりついていたのだ。

 遠い記憶を遡ったライオスは、その正体に気が付いた。同時に、彼の魔物含めた生き物への知識を収めた脳ミソがフル回転し始める。

 

(アレが卵鞘なら、ソレを庇うという事は……動く鎧は生き物だ。俺やブライの気付いた動く鎧の行動を照らし合わせれば、この仮説は通る。後は、その正体を見極めるべき。考えられる可能性は、スライムの様な不定形、女王をトップにしたアリや鉢のような群体の昆虫系、後は体の奥の方に潜んで、そこから鎧を操っている場合)

 

 再び戦いに視線を戻せば、やはりブライの一方的な状況だ。鎧も応戦しているが、如何せん盾を防御に回せない以上実質片手縛りの状況。

 直接相対しているブライも、鎧が盾を庇っている事は気付いている。だが、彼の立ち位置からその裏側に何があるのか分からないのだ。

 下手に手を出して手痛いカウンターを受けるのは避けたい。そう考えるブライは、ライオスの指示を守って時間稼ぎに徹していた。

 

「ブライ!」

「何ですか!」

「その鎧の頭をこっちに渡してくれ!」

「了解です!」

 

 事態が動く。ライオスの言葉を受けて、ブライは動く鎧の剣を二刀で石造りの床へと叩きつけ、そのまま切っ先を突き刺す事で固定し、同時に思いっきり右足を振り上げた。

 股割り。主に相撲で見られる開脚姿勢を十分に取れるようにする為の柔軟運動の一つ。

 時間はかかるが、股関節の柔軟性を得る事によって超至近距離の状態からでも上段の蹴りを相手に見舞う事も出来るようになる。

 真上に吹っ飛んだ鎧の頭部。同時に、その体が不自然に硬直する。

 一瞬の隙。ブライは刀の柄から手を放して、戻した足の反動を利用して跳躍。

 一歩目の右足で床を、二歩目の左足で動く鎧の右肩を。それぞれ足場代わりにして、宙を舞う頭部へと手を伸ばし空中でキャッチ。これを、そのまま空中でライオスへと投げ渡す。

 思わぬ曲芸を目の前で見せられる事になったライオスだが、どうにか投げ渡された頭をキャッチ。中を覗き込む。

 

「空っぽ……?」

 

 想定の前提が崩れた。しかし、ライオスが固まってもブライが攻撃を止める理由にはならない。

 あたふたする動く鎧の背後に着地すると、その太い腰へと両腕を回して体の前面で左手首を右手で掴んで固定した。

 

「ッ、オォオオアアアアッッッ!!!」

 

 気合いの咆哮と共に、ブライは鎧を拘束したまま思いっきり後ろへと仰け反っていく。当然、捕まっている状態の動くよりもまた彼の動きに連動して持ち上げられ後方へ。

 ジャーマンスープレックス。頭部のない鎧が、石造りの床へと頭から突き刺さった。

 

「ふっ……しっ………!」

 

 直ぐにその場を転がって離れたブライは、そのまま石床に突き刺さったままの二振りの元へと向かって回収。油断なく構えなおした。

 もっとも、肩の辺りまで埋まった動く鎧は、足をバタつかせるばかりだが。

 

「ブライ!これを見てくれないか!」

 

 そこへ、鎧の頭を持ったライオスが駆け寄ってきた。

 

「何か分かりましたか?」

「ああ、大発見だ!動く鎧は、魔法で動く代物じゃなかった!ほら、これだ!」

 

 興奮隠しきれない様子のライオス。その手には、首の被る部分を上にした鎧の頭部と、それから剣身が折れた剣。

 

「……え、何で剣が折れてるんです?」

「え?ああ、コレは気になった鎧の隙間をこじ開けようと思って、近くの壁で。それより、ここだ、ここ」

 

 ライオスが示したのは、鎧の内部。

 その構造は何故か二重になっており、その内側にはデロリとした軟体生物のようなモノがぴくぴくと痙攣していた。

 

「コレは………」

「これが、動く鎧の正体だ。彼らは、互いに手を繋ぎ合う事で筋肉の役目を果たしていたみたいなんだ。そして、鎧を外骨格にする事で人と変わらない動きを再現していたんだな」

「成程。そして、彼らが手足を吹き飛ばされても何の問題も無く元の形に戻れていたのは、この生物たちが再度繋がっていたから、という事ですね」

「ああ。そして、彼らは卵で生まれる。その卵が産みつけてあったのが、あの盾だ」

「!妙に庇うと思ってましたけど、そういう事でしたか……」

 

 しげしげと鎧の内側を眺めるブライ。そこには、見た事もない生物に対する嫌悪感などは無いらしい。

 だがしかし、ゆっくりと観察している暇はない。

 

「とりあえず、この鎧は仕留めましょう。卵はどうしますか?」

「そっちは俺に任せてくれ、考えがある」

 

 互いの役割を決める。

 ブライは徐に左手の刀を鞘に納めると、右手に持っていた刀の柄を両手で掴んだ。そして、刀を右肩の上に担ぎ上げるようにして構えた。

 起き上がっていた動く鎧。しかし頭部の役割を果たす個体が消えた事で周囲の状況を把握できないらしく、フラフラと覚束ない。

 

「すぅーーー…………ふぅーーー…………」

 

 大きく、呼吸を一つ。

 前へ。

 動く鎧。金属製の鎧は、鉄の塊だ。そんな物を魔法を用いずに、武器で破壊しようと思うのなら相応の得物と、そしてそれを操るだけの技量を持った担い手が必要になる。

 それは、動きだけで言えばただただ、担ぎ上げた刀を上から下へと振り下ろしただけのもの。

 しかしそこには、ブライの全力が込められている。

 踏み込み、間合い、呼吸、刃筋、膂力、気迫、そして振り下ろす剣の重さ。

 それらを集約して放たれる振り下ろしは、例え鍛え上げられた鋼鉄の甲冑であろうとも一刀のもとに両断される。

 

「ふぅ……ま、流石に真っ二つになれば戻りませんよね?」

「…………す、凄いな、ブライ。さっきのは、魔法か?」

 

 思わず声を掛けるライオス。しかし、ブライはその問いに答える前に真っ二つにした動く鎧から盾を毟り取った。

 

「話は、後にしましょう。別段隠す事でもありませんから、皆さんが居る場所で説明させてもらいます」

 

 言われハッとしたライオスは、盾を受け取ると入ってきた扉へと駆け寄った。

 

「皆!早く、こっちに!」

「ちょ、早くって……!」

「ブライ寄こせ、ブライ!」

 

 中々危険な状況。三人は、動く鎧に完全に囲まれて押し込まれてしまっていた。

 

「大丈夫だ!」

 

 言うなり、ライオスは手に持っていた盾をスライドさせる。

 部屋の中央を滑っていく盾。すると、その盾を追って三人を取り囲んでいた動く鎧たちは我先にと盾を追っていくではないか。

 何が起きたのか。ポカンとその行方を見送る事になる三人を、ライオスは手招いた。

 

「な、何だったの?」

「ああ、凄い発見があったんだ」

「発見?――――うおっ!」

 

 瞳を輝かせるライオスに怪訝な表情を浮かべたチルチャックは、入った部屋で真っ二つに割られた鎧と、その傍らで手を振るブライに声を上げた。

 

「え、ちょ、どういう状況?魔術師が居たの?」

「いや、魔術師なんて居ない。動く鎧は、生き物だったんだ」

「皆さんも、こちらに来てください。ライオス殿」

「ああ」

 

 嫌な予感がする。一般的な感性の持ち主である、マルシルとチルチャックの内心が一致した。その一方で、状況が気になる事も確か。

 意を決して歩を進める二人。それから、興味深そうに眺めるセンシ。

 

「この断面を見てください」

 

 ブライが示すのは、真っ二つにされた鎧の断面。

 そこにあるのは鎧の空洞と、それから空洞と鎧表面にあるほんの僅かな隙間。その隙間に、何やら得体のしれないものが挟まっていた。

 

「うぇ……な、何なの、ソレ」

「これが、動く鎧の正体だ。彼らは、一体一体は脆く弱いが鎧という外骨格を纏って、互いの手を繋ぐ事で筋肉の役目を果たし、冒険者にも勝る存在になっていたんだ。存在に気付かれなかったのは、魔法という先入観と、そもそもこの場に冒険者が長居をする事が無かったからだろう」

「…………それじゃあ、この鎧が真っ二つになってるのは、どういう事なんだ?」

「あ、ソレは自分が」

 

 チルチャックの疑問に、ブライが手を挙げる。

 

「といっても、特別な事じゃありません。これは、“兜割り”という技術による結果ですから」

「魔法じゃないの!?」

「自分、魔法に対する適性無いんですよね。いえ、魔法を受ける分には問題ないんですが、扱うとなるとからっきしです」

「それでその、兜割りってのは何なんだ?」

「はい。兜割りというのは、さっきの通り技術の一つです。放つには、相手の間合いを読み、呼吸を読み、適切な踏み込みを行い、萬力の膂力を込め、正確な刃筋をなぞり、膨大な気を練り上げ、そして最後に剣の重みをもって対象を一刀の下に斬り伏せる。極めれば鋼鉄の甲冑であろうとも頭の先から股下迄真っ二つにする事が可能です」

 

 淡々と語るが、そんな技術を早々に使える者はまず居ない。

 少なくとも、同じく剣を主武器とするライオスは、向けられた二つの視線に首を振って否定を返す。

 

「俺は無理だ。何年訓練しても出来る気がしない」

「あはは……それに、言っては何ですが兜割りを習得する位なら他の武器を習熟する方が簡単ですよ」

「それ、自分で言うのか?」

 

 身もふたもない事を言うブライに、チルチャックのジト目が向けられる。

 

「にしても、そんな技があるのなら何で最初から使わなかったんだよ」

「先の通り、前準備が必要、というのもありますが相手の本性が分からなかったからですね。もし仮に、魔術師が操っていたのなら真っ二つにしたところで意味がありませんから」

「それもそうか」

 

 話を聞いた限り、大技。それを乱発するには、相手への情報が無さすぎたのもまた事実。

 さて、ここからが本題。

 

「センシ、この中身は食べられないだろうか」

「「!?」」

「他の魔物を獲るにしても時間がかかりますからね」

「「!?!?」」

 

 馬鹿二人が言い出した。

 

「何考えてるの!?いや、本ッ当に何考えてるの!?こんな得体のしれないもの食べられる筈ないでしょ!?」

「マルシル。誰しも初めて食べるものは得体のしれないものだろう?」

「だとしても、今やる挑戦じゃねぇだろ!?ブライもどうした!お前割と常識人寄りだろ!?」

「大丈夫です。自分、旅してる中でも腹を壊した事無いので」

「お前が壊さなくても、こっちが下すかもしれないだろうが!?」

 

 二対二の攻防。ただ、その勝敗はこの後の食事には一切影響しない。

 

「……うむ、やってみるとしよう」

 

 料理番であるセンシが頷いてしまったからだ。

 抵抗のある魔物食を美味しく堪能できるのは彼の手腕による所が大きい。そして、現状の一行の食事情は彼が握っている。

 

「ありがとう、センシ!」

「しかし、どう調理したものか。わしも触れた事が無いぞ」

「それなんだが、ここを見てくれ。固く閉じた殻だが、この部分を切ると抵抗なく開いた。恐らく、貝の閉殻筋に近い構造があるんじゃないかと思うんだ」

「成程、貝か…………よし、決まった。中身を鎧から外してくれ」

 

 センシが頷き、作業開始。

 力のある作業という事で、センシ、ライオス、ブライの三人が率先して鎧から中身をばらしていく。

 

「うぅ、気持ち悪い……」

「ぶつぶつ言うなー……心を無にしろー……」

 

 剥がされた中身を回収する二人は目が死んでいる。

 

「本当に食べるの?そもそも、食べられるものなの?」

「極論、生き物は大抵食べられると思いますよ」

「でも毒とかあるでしょ」

「…………まあ、最悪の場合は毒消しもありますから」

「最悪のマッチポンプじゃねぇか」

 

 流石に、ブライも無責任な事は言えなかったらしい。この状況になっている時点で、大分無責任ではあるが。

 鎧から中身を外し終わり、次に試すのは砂抜き。

 

「……水での砂抜きは無理か」

「陸生生物ですしね」

「そもそも、砂抜きが必要なんだろうか?」

 

 水を張ったボウルを囲んで男三人頭を突き合わせて、そんなやり取り。

 

「とりあえず、内臓は取り除いておく。内容物も気になる事だし」

「そうですね。味と食感は大切ですから」

「食べられないか?」

「味を気にする前に砂を噛む事になるかもしれませんよ?」

 

 センシに倣って短刀を中身へと入れながら、ライオスを嗜めるブライ。

 

「切り身をスープにしてみるか」

「では、こちらは炒め物をしてみましょう」

「そうだな。後は……うむ、貝という事で定番を一つ」

 

 火の上にかけられたフライパンで食材が踊り、鍋からは良い香りが漂ってくる。

 その中身を知らなければ食欲そそられる光景なのではなかろうか。

 

「兜はどうしますか?」

「……蒸すか」

 

 スープを煮込む鍋の上に兜を乗せる。中々に酷い絵面だ。

 炒め物は時間勝負。一応薬草と炒めるという悪あがきのような事をしながら、出来上がった料理は見た目は悪くないものだった。

 鎧の欠片に中身を乗せてから直焼きしたものも出来上がり、食事の時間。

 

「「「…………」」」

 

 しかし、三人の手は動かない。彼らが見るのは、ライオス。

 

「食べないんですか?」

「まあまあまあまあ、少し待てよブライ。この動く鎧を食べるのは、ライオスの悲願だっただろう?なら、やっぱりこの記念すべき最初の一口はこいつに譲ってやるのが筋だと思うんだ」

「はあ……?分かりました」

 

 早速食べようとしていたブライの手を引き留めて、チルチャックがそんな事を言う。

 勿論、そんな殊勝な気持ちはない。寧ろ、何の躊躇もなく動く鎧を食べようとしたブライに内心引いている。

 

「(もしアイツが死んだら、ここに置いて行こう)」

 

 小さく聞こえない程度にチルチャックが呟き、マルシルが頷く。

 そんな仲間の事情など知る由もなく、ライオスは焼いた動く鎧へと口をつける。

 

「……うっ!」

(((死んだか)))

「旨い!」

 

 完全な毒味役だが、訳の分からないものを食べさせられる側が抱く感情としては適切だろう。

 少なくとも、即死するような毒性も無い事は確認された。

 

「ふむ」

「あっ」

「……貝……蛸?うーん」

 

 魔物食に抵抗のないセンシとブライがそれぞれ、直火焼きを食べてみる。

 マルシルが呆気にとられるが、当の本人たちは少々物足りなかったらしい。

 

「食感は、軟らかいですね。ただ、貝の感覚で食べると少し違う気がします」

「味も素朴で淡白だ。これならば、もう少し濃い味付けでもよかったか」

「出汁が取れる様な感じでもありませんね。干したら、また違ったかもしれませんけど」

「干すか……難しいな。スライムはノウハウがあるが、動く鎧は初見だ。貝に近い性質かとも思ったが、違うようだし。試行錯誤には時間がかかる」

「それもそうですね。今は別の目的もある事ですし」

 

 調理の観点から交わされる討論。ついでに、三人が食べて三人とも無事ならば大丈夫だろうと判断を下したチルチャックは炒め物へと手を付ける。

 

「ん、なるほど」

「ど、どうなの?」

「何か、ねっとりしてる。不味くはない」

 

 空きっ腹の効果もあるのか、一度食べ始めれば抵抗も無くなるというもの。

 目の前で食べる様子を見せられて、我慢し続けるのは忍耐力が要る。そして、マルシルは抵抗があれどもセンシ質の料理の腕前を知っていた。

 意を決してスープを椀へと注いで、一口。

 

「……キノコっぽい味がする?」

「美味しいよな!?」

 

 嬉々として聞いてくるライオスに頷くマルシル。

 調理した二人は少々物足りないようだったが、それでも決して不味くはない。寧ろ、美味しいと言える仕上がりだった。

 

「蒸し焼きも出来上がったな」

「俺が貰って良いか?」

 

 嬉々として、蒸し焼きとなった兜を手に取ったライオス。

 先の美味しさもあって、その期待値はかなりのモノだった。

 だが、

 

「…………黴臭い」

「あー……蒸し焼きの弊害ですね。香草の類があれば、少しは違いました……かね?」

「もしくは、兜その物をもっと綺麗に洗浄すべきだったか」

 

 やはり、元々の調理法を確立していない弊害か失敗もしてしまう。

 しょぼしょぼと項垂れるライオスから兜を受け取って一口食べたブライも、その黴臭さに眉根を寄せた。

 元がシンプルな味だからか、余計にニオイの悪さがダイレクトに伝わってくるのだ。

 そんな騒がしい食事を終えて後片付けの時間。

 

「これ、自然に還るの?」

「一応は生物由来のモノですし、大丈夫だと思いますけど……」

 

 マルシルとブライが見るのは、動く鎧の外殻であった鎧の残骸。とりあえず、調味料などが付いた場所は拭っておくが、それでもこれらが自然に還る光景を想像するのは難しい事だった。

 

「ブライの言うように、魔物とはいえ生物由来の身体。問題は無かろう」

「そういうもの?」

「流石に、粉々に砕くのは難しそうですね。部品で別けられる分を分解して、胴体へと詰めておきましょう」

 

 ガチャガチャと鎧の外れる部分をバラしながら、真っ二つに叩き切られた胴体へと詰めていくブライ。

 彼に倣って、センシとマルシルも突っ込んでいく。

 一方で食器などを片付けていたチルチャックとライオスはというと、

 

「前の剣、折ったんだな?」

「必要な事ではあった。何より、手入れをしていたとはいえ三年使い続けてきたからな。装飾もガタガタだったし」

「なら、この鎧が持ってた剣を貰っちまえよ。まだ先は長い事だし、流石にお前も素手で戦う訳にはいかないだろ?」

「うん………そうしようか」

 

 チルチャックの提案を受けて、ライオスは転がっていた剣を拾い上げる。

 ついでに考えるのは、件の卵鞘の事。

 彼は、言わずもがな魔物の根絶を掲げるタイプではない。故に、普通の冒険者なら嬉々として排除するであろう卵をそのままにしていた。

 

(ちゃんと孵ると良いが…………ん?)

 

 剣を握って物思いにふけっていると、不意に気付く。

 それは翼のような装飾の鍔の部分。そこから剣身に向けて二本の触覚のような部分がにゅるりと伸びてくるではないか。

 

「ライオスー。その剣を使うのなら、呪われていないか鑑定してあげようか?」

 

 背後から掛けられたマルシルの声に、反射的に触手を押さえ込みつつ隠しにかかるライオス。

 

「だ、大丈夫だ!この呪われていないと俺には分かる!」

「どこから来るの、その自信は……変な呪い貰っても知らないからね?」

「ああ」

 

 鞘へと剣を納めた彼に、マルシルもそれ以上突っ込まない。

 準備を終えて、一行は再び旅路を進む。

 

 その道のりに、新たな一匹が加わっている事を他四人は知る由もない。

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