共和暦三六七年 サンマグノリア共和国 第一区
ムーンヘアというプロセッサーの少女との出会いは、去年の初雪が降った頃だったと思う。
その隊に着任した時の夜に、これまで同様に着任挨拶のために同調したら、彼女は、彼女だけになら同調してきてもいいと言ってくれて。これまでの隊では着任挨拶に同調すると必ずと言っていいほど邪険に扱われたから、彼女が終始優しい声音で接してくれたことが、私にはどうしようもなく嬉しかった。
第九戦区で共に戦っていくうちに、彼女のことについてたくさんのことを知った。
同調するたび、彼女は何かしらの本を読んでいた。何の本を読んでいるのか尋ねると、彼女は嬉々としてその内容を教えてくれた。それは時には情緒あふれる民謡集で、時には私にもよくわからない学問の専門書で、また時には勇ましくて楽しい冒険譚だった。
たまに読書を邪魔したことに対して愚痴を言われたりもしたけど、その口の吐き方も芝居がかった感じで、彼女なりの冗談なんだとわかった。
彼女の話はいつも面白かった。ある時彼女は、極東では月にうさぎが住んでいると考えられているんだという話をしてくれた。それが自分のパーソナルネームの由来だと彼女は言っていて、とてもロマンチックな由来ですねと返したら、そうだねと言ってくれた。
その時の彼女の、残念そうな、少し悲しそうな雰囲気のことは、なぜかとても重大なことのように思えて、でもその理由は分からなくて。次の朝になったら、記憶から消えてしまった。
一度戦場に入ると、彼女は勇ましい軍人に変貌する。
ワイヤーアンカーで空中を飛び回り、戦場を俯瞰して、他の戦隊員のカバーと囮役。それが彼女の戦い方だった。確かに、彼女自身のキルスコアはそれほど高くなくて(それでも毎回一番だったけれど)、レギオンの注意を自分の方へ引きつけてから味方に撃破を任せている場面が多く見られた。
時々私が管制に入るよりも早くに配置が完了していることもあったから、なぜかと聞いたらちょっと困ったような声で「女の勘です」と答えられてしまって、はぐらかされてしまった。
戦闘中には、いろんな情報を共有すると感謝されることが多かったから、必然積極的にそうすることが増えて行った。その度に注意されたり、時には私が的外れなことを言ってしまったりして。でもそれは、私にとっては、確かな学びだった。
そんなやりとりの間でも、彼女は私に対して明確な線を引いて接しているようだった。あの時の私は、それもエイティシックスと私たちの間に立場上引かれてしまっているだけだろうから、いつか私はあなたたちの味方なんだとわかってもらえたら、その線引きも自然に無くなるだろうなんて、呑気に考えていた。
私は、彼女との間に、良好な関係を作れていると思っていたから。
スピアヘッドの、笑う狐のパーソナルマークを持つ少年の声が蘇る。
「そもそもアンタは、僕たちの本当の名前さえ、一回だって聞いたことがないじゃないか!」
叩きつけられた激昂に、意識が白濁して、自分の愚かと卑怯がわかってしまって。
ああ、と思った。
彼女があの時怒っていたのは。
…あのとき、少し悲しそうにしていたのは。
◆ ◆ ◆
バン、バンと、夜空に銃声が響き渡る。
今日は空の半分ほどに雲がかかっていて、そのせいで月は見えなかった。代わりとばかりに小さな星々がスピアヘッド戦隊の騒がしい夜を、雲の隙間から顔を覗かせて見守っていた。
「はい、くま王様に一発うさぎ騎士二発。ハルトくんは合計7点でありまーす」
「あぁー二発外したかー…やっぱりハンドガンいまいち苦手なんだよなー」
今隊舎前の広場では、的当てのゲームが行われていて、同じ小隊のトウザンくんがそれを仕切っているらしい。
ポリポリと頭をかきながら悔しそうにするハルトにトウザンが点数を告げて、次の番らしいカイエが拳銃を構えた。
隊舎前の階段に陣取って、今日の献立の骨付き肉を頬張る。手についたベリーのソースを舐めとって、スープを一匙掬って口に含んだ。今日もスピアヘッド戦隊のご飯は美味しい。特に担当がアンジュだから、味付けも繊細で私は大満足です。
…みんなはさっさと食べ終わって遊んでるけど、私はライデンの家事の手伝いをしてたから、食べ始めるのは今からだ。せっかくアンジュが作ってくれたんだからもうちょっと味わって食べればいいのに。
「お前らどう思う」
「ん?」
肉を口に含んでいると、ライデンがそんなふうに切り出した。
「ポイント208…そう言ったよなあの女ハンドラー」
「…あの時点から展開するなら、最良の迎撃地点た」
「だよなあ」
「ん、あの人優秀なんですよ。私もあんな若いハンドラーに管制されたこと今までなかったし、いろんな情報渡してくるから割と助かったりしてました」
「優等生丸出しのところは反吐が出るが、ただのお嬢ちゃんじゃないってことか」
そういって口を動かすライデン…食べるの早くない?私が遅いのかな…
「おーいライデン、次だよー。ルゥはその次ねー」
「おーっし」
「わかったー」
プレートを地面に置いて、ライデンが立ち上がる。
それからポケットに手を入れて、ただまあ、と続けた。
「どこまでついて来れるかな」
そう言い残してライデンは歩き去った。
広場の賑やかさが一層増すのを眺めていると、シンの上に乗っていた黒猫が軽快に飛び降りて、後ろから歩み寄ってきていた陰に近寄る。
「こら、キティ!」
後ろからアンジュの叱るような声が聞こえて、釣られてそちらに目を向ける。
「はい、どうぞ。ルゥちゃんも」
「ああ」
「ん、ありがとアンジュ。ご飯美味しいです」
「ふふ、それはよかったわ」
二本の足で立って、精一杯体を伸ばしてアンジュの抱えるパウンドケーキに触れようとする黒猫を躱しながらトングでこちらにその一切れを渡してくるアンジュ。快くお礼を言って受け取って、齧り付いてみるとほんのりベリーの味がした。
「アンジュ」
「ん?」
声の下方を振り向けば、金髪の長身の青年が身を屈めて、本人はかっこいい顔を作れていると思っているんだろうけど、みるからに強張った面差しでアンジュの方へ手を差し出していた。
「手伝うよ」
精一杯声を作って、キリリとした雰囲気を演出するダイヤ。
どうするんだろうと思って眺めていると、アンジュは持っているパウンドケーキの乗っているプレートをダイヤの方へすっと差し出した。
「え。」
「お願いね?」
「…あ、ハイ」
「んふっ」
「笑うなよ!」
「おーいルゥー」
「あ、今いくー!」
「アンジュのケーキ配るよー」
「うわーやったー!」
情けなくプレートを受け取ってすごすごと退散していくダイヤのことを笑うと、涙を湛えた目で睨まれた。ごめんごめんとジェスチャーをして、自分の拳銃を懐から取り出す。
「ライデン何点ー?」
「豚女王一発にうさぎ騎士一発、くま王様二発で12点だ」
「そか。…では、わたくしの射撃技術の腕前を見せてあげましょう!」
「うおーいいぞー!」
「期待してるよー!」
「よーし!」
狙うは豚の王女の絵が描かれた缶。…というかあれあのお嬢様ハンドラーじゃない?…まあ、いっか。くらえ!
ばん、ばん、ばん、ばん、ばん。
「えーっと。…うさぎ騎士二発とくま王様二発とかえる僧侶一発で合計11点。すげーなルゥ!」
「いや、うん。あはは…」
本当は豚のやつ狙ったんだけど…まあ、86区じゃ拳銃の出番なんて自殺する時くらいしかないから、拳銃の腕前は別に必要ないから別にいいです。
「シンーお前の番ー!」
「ん」
ハルトのよく響く声が明るい広間に響く。アンジュと何事か話していたらしいシンが本を閉じて、ポケットから拳銃を取り出して、おもむろに五連射。
からんからんと、ファイドが縦に積み上げていた缶が上から順に転げ落ちた。
「…せめて立ちなよ可愛くないなぁ…」
「えぇ…」
確かにこれは可愛くない。
嘆息して、ハルトたちが缶を拾い集めるのを手伝っていると、不意にレイドデバイスが起動する音がした。広場にいる全員の動きが止まって、さっきまで響いていた笑い声の一つも聞こえなくなった。
『戦隊各員、今、よろしいですか?』
「お、記録こーしーん。一週間連続〜」
ハルトの茶化すような、バカにするような小声が聞こえて。でもそれは相手のハンドラーの耳には入っていなかったし、たとえ入っていたところで誰も咎めはしなかっただろう。
「問題ありません。ハンドラー・ワン、今日はお疲れ様でした」
『ええ、あなたたちもお疲れ様です。何だか、とても楽しそうでしたが?』
「ただの時間潰しです。お気になさらず」
『…そうですか』
そんなやりとりを、私は無表情で聴いていた。
シンは特に表情一つ変えず、ぱらりとまたページをめくった。
『ところでアンダーテイカー、今日は少しお小言があります』
「何でしょうか」
『哨戒と戦闘の報告書、あなたがスピアヘッド戦隊に配属されてからのものを読もうとしたら…全部同じでした』
ちらりと横目で伺うと、あからさまに面倒くさそうな顔をしていた。まあ私もしっかり書くように言われてから書くようにしてたけど、確かに面倒臭いものは面倒臭い。
全部同じ書面で送るというのは、86区じゃよくある話で、実際それで何か言われたことなんて、本当に数えるほどもない。
その後もハンドラーのお小言は続いて、アンジュのケーキを齧りながら、シンはそれを聞き流していた。
『これからはきちんと作成してください。私は読みますから』
「…読み書きは苦手なので」
じゃあ貴方が手に持ってるそれは何ですか。
手の甲でペシリとアンジュに叩かれながらも、シンは悪びれずにまた本のページをめくった。
「まあ、強制収容所に学校なんてなかったからねー」
『あ、ごめんなさい。…では、ムーンヘアに手伝ってもらいながらでもいいですから…』
おっと面倒くさそうな気配が。
「ところでアンダーテイカー、私が貸した『星の王子さま』は面白かったですか?」
空気が凍りついた。
『…アンダーテイカー?』
声音はいつもとあまり変わらず、微かに笑っているような気配さえするのに、スピアヘッドの精鋭たちでも身震いするような迫力がそこにはあった。
ム、とシンに睨まれて、ひらひらと手を振って返す。
「わかりました」
『これまでのものも送ってください、全部』
「ガンカメラの映像ファイルでも…」
『ダメです。ムーンヘアが戦隊長だった隊では毎回しっかり書いて送ってくれましたよ?』
シンの悪あがきも一顧だにせず、戦闘報告書をしっかり書くことの利点を滔々と語るハンドラーに、シンはため息をついて本をぱたんと閉じた。
このハンドラーのこういうところは、頭でっかちというか真面目さんというか。…他のハンドラーに比べたらマシかもしれないけど、面倒だ。
そんなふうに考えていると、シンからツンツンと突かれた。
別に文句を言われる筋合いはないよと見返すと、親指で整備場の方を指すシン。そこには、白髪の混じった黒髪の整備班長が手招きしていた。…あー、今日、ワイヤーアンカーも足回りも派手に酷使したからなぁ…お小言か。第九戦区第三部隊での整備班長にもよくどやされていたから、慣れたものだ。
憂鬱だ、と考えていたら、ライデンのつぶやきが耳に入る。
「若えなぁ」
『いえ、同じぐらいですよ?みなさんと』
はあ、とため息をつて、やっぱり真面目ちゃんだよなあ、と考える。
『従軍してもうどれくらいになるのですか?』
「みんな四年目、と言ったところかな」
「アンダーテイカーは一番長くて、今五年目だ。…ああ、ムーンヘアもそうなんだっけか」
「ん、そうだね」
『では、任期満了まで後少しですね!』
パラレイド越しに嬉しそうに弾む声を聞きながら、そういえばそんなことになっているんだったな、と思い出した。
共和国の、六年従軍すれば共和国市民に戻れるという偽りの希望を抱かせて、エイティシックスを徴兵するための。…戦場から最終的に生きて帰ってきたエイティシックスなんて1人もいなかったから。…父も、母も。
そんな感じだから、もう半分忘れかけていたな。
『…退役して、共和国市民に戻ったら、何かやりたいことはありますか?…行きたいところや、見たいものとか』
「…さあ。考えたこともありませんね」
『…そう、ですか』
「あ、でも、私はもし退役できるなら本がいっぱい読みたいですね。共和国には戻りたくないですけど」
シンと一緒に整備場の方へ歩いて行く途中で、後ろについてきていた黒猫を抱き上げて、優しく撫でる。
その金色の眼で不思議そうにこちらを見上げる彼。…そういえば、この子は、私たちがいなくなったらどうするのだろうか。
『それはいいですね!…みなさんも、今から考えておいてもいいかと思いますよ。何か思いつくかもしれませんし、きっと、楽しいと思います』
そんな言葉に、彼はいつもは動かないその表情を動かして。…よく見えなかったけれど、笑みの形になっていたような、そんな気がした。
「そうかもしれませんね」
「おいコラてめえらシン、ルゥ!お前ら二人してまた派手にぶっ壊しやがって!足回り弱えんだからもっと大切に扱え!そしてルゥお前ワイヤーアンカーの使い方どうなってんだコラ、このアンカーはな、元々射出と巻き戻しを繰り返してバカみてえな三次元機動をすることは想定して作られてねえんだから……」
「ひぃ」
「……」
ここの整備班長は、だいぶ怖い人だった。
私がスピアヘッドに来てから、だいたい一ヶ月が経過した。
その間も出撃は何回かあったけど、損耗はだいぶ少ないまま、私もまだ五体満足で生きている。
今日は洗濯当番の日だったから、私たち女子組は河原で洗濯兼水浴びに来ていた。
「それー!」
「わっつめたーい!」
「お返し!」
「あはははは!」
上着を脱いでタンクトップの姿になって、水を掛け合いながら笑い合う。
ここは川のおそらく中腹のあたりの、小さな滝があって池のようになっている浅瀬だ。レギオンの攻勢が開始されてから後は、無防備な共和国民は皆殺されて都市は放棄されて。生き残った人々は、アサルトライフルで追い立てて収容したエイティシックスにレギオンの相手を任せて、グラン・ミュールの壁の中に閉じこもったから、皮肉にも自然は豊かになって、水はきれいになった。
水をひと掬いしてみると、キラキラと太陽の輝きを反射して、水滴に濡れた私の顔が映った。…水も滴るいい女、ってね。ちらりと視界の端を何かが通りがかって、見てみると小さな魚がいて、すっかり人間の脅威も忘れたのか、足を止めて動かない私の周りをクルクルと泳いでいた。
そんな魚を眺めていたら、パシャリと顔に水がかかった。
「わぷっ」
「なーにぼーっとしてるの!戦場では一瞬の油断が命取りだぞー?」
「んもー…やったな、くらえ!」
「きゃー!」
魚を見ていた私の顔に水をかけてきた青髪の少女、三月うさぎのパーソナルネームを持っていたから話す機会の多かった、マイナに水をかけ返す。
「カイエも見てないでこっち来なよー」
「いや、これはこれで艶かしい格好だな、と」
「どゆことー?」
「見方を変えれば…天国だ」
その少し前、隊舎の近くの森の中。
「つまり水浴び。ただいま河原は——」
「「この世の天国!」」
グッと真顔でサムズアップをする男子陣と、それを止めようとする1人の欲望に塗れた男子がいたとかなんとか。
「しかし、私たちだけいいのか?こんなことしてて」
「いーのいーの。シンだってわかってて許可くれたんでしょー?」
「こういうところは気が回りますよね彼。いっつも無表情で何考えてるかわかんないのに」
カイエがズボンの濡れる面積ができるだけ少なくなるようにと、膝下くらいまで捲り上げてから水に足を入れる。心地良さそうにしている彼女を尻目に、レッカがクレナの方を見て口を開いた。
「ごめんねー気が回らなくてー?あんたもシンも当番ないんだから、口実作って2人にしてあげればよかったわよねー?」
「違うもん!私別にそんなんじゃないもん!」
バシャバシャと水を掛け合いながら、恋バナに熱をあげる彼女らを横目に、確かに顔はいいよな、と物思いに耽る。私としてはまあ…本について語り合えるようになればいいかなー…ん?
わずかな違和感を感じて、なんだろうと辺りを見渡すと、近くの草むらに怪しげな影があった。
ウサギとかの小動物よりは大きくて人形…自走地雷?いや、あいつ物陰に潜んで忍び寄るなんて高尚な頭脳積んでないし…あぁ。
艶のある金髪が、ちらりと見えた。多分、ダイヤの。
「お前ら何度言えば…やべ、なんか今ルゥと目があった」
「マジで?」
「なんかめっちゃ笑ってる」
「うわほんとだ…」
「あ、でも見逃してくれ…ダメだハンドガン持ってる!」
「ちなみにルゥちゃんはシンのことどう…って、なんでハンドガンなんか取り出してるの」
「シンですか?…うーん、かっこいいとは思うけど。趣味も合うし、あれで本をもっと好きになってくれれば言うことないかなー」
「ちょちょ、ちょっとルゥ!?」
「カイエちゃんは?」
「悪くないと思うぞ?寡黙なところとか、ストイックでいいな」
「カイエも!?」
ハンドガンを取り出して、弾倉内の弾を確認する。所詮自決用のお粗末なハンドガンだから、セーフティなんかはついてないし、代わりとばかりに引き金はすごく硬いから、暴発の危険はないとはいえ、一応弾は抜いておこう。
「あれ?でも別になんかしてくるわけじゃないっぽいな」
「もしかして…本当に見逃してくれた?」
「確かにルゥってば、あんまそういう事気にしなさそうだしねー」
「そうかそうか、別に誰も思いをよせてないのなら、私が狙っても構わないわけだな?なら早速今晩にでも東方伝統のヨバーイに…」
「楽しそうだね。私もお付き合いしますよ」
「ちょっと、二人とも!」
ニヤニヤとした表情で、全員がクレナの方を見つめる。
そういうのはよくないだの、大和撫子の嗜みがどうのこうのと、私は別にシンはどうとも思ってないけど、というお決まりのセリフ付きでゴニョゴニョと述べ出したから、彼女の言葉が途切れたタイミングで、こちらもお決まりのセリフを唱える。
「「「「「「クレナかーわいい!」」」」」」
「…もー!」
さて、と。
「どうする?ルゥ以外にはバレてないっぽいけど」
「…まあ、決まってるよね」
「?どういう…」
「目標多数…構え」
「撃てー!」
「お、お前ら正気か…どわ!?」
がさりと、ダイヤが倒れ込むように出てきて。私たちはエイティシックスだから、どれだけ気を抜いていようとも、近くに茂みが不意にガサガサしたらすぐさま臨戦体制に入る。
全員どこかにしまっていたハンドガンを構えて、私もそれに倣って一緒に構えた。
「え、ちょ…待て、ウソッ!?」
出てきたのがダイヤだと知ると、みんな揃って銃を下ろして、いつの間にかその手には投げるのにちょうどいい大きさの石ころが握られていた。
川の、流れの緩やかな部分だから、ここにはそんな形の石がごろごろ転がっていて、つまり、武器ならいくらでもある。石の雨に襲われたダイヤは、逃げるために後ずさっていく。
「ちょ、いた、やめ…」
「「来んな!」」
「どわっ…ヒィィヤァァ!?」
森の中に逃げ込もうとして、もう一度蹴り出されてダイヤは地面に手をついた。…森の中にもまだいるのか。
誰かが投げたアーミーナイフがダイヤの頬を掠めて横に木に刺さって、危うく殺されかけたダイヤが顔を真っ青にして尻餅をつく。そこへスッと刺す黒い影に、ダイヤが顔を上げた。
「それで?…どうしたの?ダイヤくん?」
「そこは可愛く、『大丈夫?』って聞いてくれていいところだぜ、アン……ジュ」
「ん???」
「ああああああ」
「まあ大丈夫かしらダイヤくぅん?」
ついに迫力に負けて涙と鼻水を流し始めるダイヤを見ながら、川底から適当な石を摘み上げた。
「残りも隠れてない出てきな…さい!」
「イテっ」
「セオ!?…あ。」
ピシッと小石をダイヤの後ろの茂みに投げつけると、ちょうど良くセオの金髪にヒットしたのか茂みから出てきて、それとともにクセのある赤髪の少年も飛び出してきた。
「なんだよルゥは見逃してくれたんじゃねーのかよー!」
「いやぁ、他の人がどう思うかは別でしょー?」
そうしてその後はカイエとアンジュ主導のもと、尋問が行われたのだった。
「洗濯物持って帰らないとー」
「ダイヤ、あそこ!」
「運んでくれますよねダイヤ?」
「あ、いや…」
「運んでくれる?ダイヤくんー?」
「ハイ…」
「ぷっ…あはは、あはははは」
平和な日々は、続いていた。
明日死ぬかもしれないから、私たちは日々の生活を、精一杯楽しく生きるのだ。
アニメ2話のカイエちゃんがパン咥えて謝るシーン、あれめっちゃ可愛いですよね。
お読みいただきありがとうございました。
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