元総組長と俺と競馬と   作:対ゴドルフィン特効兵器

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花粉と疲労でふらふらです。


絶望の距離

「到着しました」

しばらくして車が完全に停車して風舞希が助手席から声をかけた。

 

「おぉ!ようやくか!」

「ありがとうございます」

その声に海桐花はドアを元気に開け放って走り出し、良吾は運転手に礼を言って降車するとそこには長大な塀が聳え立っていた。

 

「おぉい!海桐花ちゃんのご帰還じゃ!門を開けい!」

その声に反応するかの様に巨大なギギィ…と音を立てながら開け放たれた。

その先には

 

手に手にモップや箒等の得物を携えた使用人であろう人々が待ち構えていた。

「ファ…?」

あまりの光景に海桐花が固まっていると先頭に立っていた女性が叫んだ。

 

「海桐花様!今日という今日は許しません!!

金庫から大金を持ち出すなど何をされていたのですか!?」

 

「そ、それはじゃな!此方は昔ながらの友人との旧交を温めておったのじゃよ!」

 

使用人の剣幕に押されて海桐花は答えるが当然その程度で収まる事はなかった。

「競馬場で旧交を温めるなんで斬新な発想ですね…?」

その言葉を合図に後ろに控えていた人々が凄まじい形相で海桐花を取り巻き手に持った得物を一斉に振りかぶる。

 

「ちょっ、ちょっと待ていお主ら!待ってくれ!!

馬が!4番の馬が『僕に賭けろヒヒーン、僕に賭けろヒヒーン!』と言うておったのじゃ!

これで応援してやらねば無礼と言うものではないか!?」

 

ブチン!!

 

確かに良吾の耳にはその様な音が聞こえた。

 

そして

「「「「「問答無用!!!」」」」」

 

「ぎぃやぁぁぁああああぁぁ!!!」

馬券が外れた時の様な本日2度目の悲鳴を聞いたのだった。

 

 

 

 

しばらくして、

「申し訳ございません、良吾さん

母は今日競馬に行く前に金庫から勝手に500万円を抜き出して行きまして…

この様な事は過去に何度もあったので遂に使用人達も我慢の限界だったのでしょう」

 

「あのお金にはそういう経緯があったんですか…」

ボコボコにされて気を失った海桐花を背負い、風舞希に案内されながら良吾は広大な屋敷内を歩いていた。

屋敷は二階建てで外観・内装共に品の良い洋風な造りであったが成金趣味の様な嫌味さは感じられ無かった。

中庭は枯山水など和風な要素も取り入れられており、何処と無く明治・大正時代の面影が思い起こされる造りであった。

 

「以前から母は5.6.12月になると金庫のお金を勝手に持ち出していたので私がそれを止めていたのですが、今回に限って組長会議と重なってしまいこの様な事になってしまったのです」

 

「また間の悪い時に会議があったんですね…」

そう良吾は返したが、風舞希の言う海桐花が金庫から金を持ち出す時期は競馬民としては心当たりがあり過ぎた。

5月は競馬の祭典、そして6.12月はそれぞれ上半期と下半期のグランプリが開催される時期なのである。

ギャン中発言が際立つ海桐花の事だから毎度今回と同じくらいの額を勝手に使い込んでいる事を考えると風舞希や使用人達の日頃の苦労は如何程かと推察したのだった。

 

「此方の部屋に母を寝かせてください」

 

「了解です」

風舞希はそう言うと障子を開けた。

中は畳敷になっており、その中心には柔らかそうな布団が敷かれていたのだった。更に床の間には立派な掛け軸と大小の刀が飾られており魔防隊での重要なポストを歴任している東家の力をひしひしと感じていた。

 

そして布団に海桐花を寝かせると良吾はようやく一息ついたのだった。

意識の無い海桐花(ギャンブル中毒)を背負った事による疲れは無かったが、女神と見紛うばかりの美女の家にお呼ばれされた事に起因する気疲れの方が大きかった。

 

「良吾さん、この度は本当に母がご迷惑をお掛けしました

改めてお詫び申し上げます」

 

「いや、もう本当に気にしてないですから!

頭を上げてくださいよ!

自分も途中で倒れてしまってご迷惑をお掛けしたんですから!」

 

そう言った所で良吾はふと疑問に思った。

「そういえば気を失ってからどうやって車まで運んでいただいたのですか?

見ての通り自分はかなり重かったと思うのですが…」

 

「それでしたら心配はありません

車は母様の傾向を考えてすぐ近くに待機させていましたので」

娘にも有り金を全てスってくるであろうと予想される海桐花もたいがいである。

「それに」

 

「貴方位の男性でしたら私も抱えられますしね」

 

「誠に申し訳ございません…」

惚れた女性に抱えられる等という大失態に良吾は床の間に飾られている脇差を手に取って腹を掻っ捌かんばかりの羞恥心を覚えた。

これがもし屋外であればそのまま躊躇なく腹に脇差を突き立てていたのであろうが、室内である事とお呼ばれした他人の家を汚すわけにはいかないと言う最後のブレーキが良吾の暴走をすんでの所で止めていたのだった。

 

「いえいえ、それくらい鍛えていないと魔防隊の組長は名乗れませんから。それに子供達が小さい頃を思い出しましたしね」

 

「子供!?お子さんが見えるんですか!?」

風舞希の言葉に良吾は思わず聞き返してしまった。

 

「えぇ、3人女ばかりだから男の子も欲しかったです」

良吾の事など気にも留めず風舞希は言い切ったのだった。

しかし一方の良吾はというと風舞希の答えに目の前が真っ暗になっていた。

彼女に子供がいる事では無く、もし自分が彼女に思いを伝えたとしてもそれは不義密通にあたり決して叶わぬ恋である事を知らされたからである。

 

「そ、そうなんですか…

あ、あぁもうこんな時間だぁ…

明日も仕事ですしもうそろそろお暇しますねぇ…」

絶望感に打ち拉がれつつも良吾はなんとかそう言って席を立った。

 

後ろから何か話す風舞希の声とポケットに何かを入れられる様な感触がしたがそんな事を気に留める事も出来ず良吾はふらふらと東家を後にしたのだった。




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