10分程して風舞希の香りと感触、多幸感を十二分に堪能した良吾はようやく切り出した。
「あの、風舞希さん。そろそろ…」
「あっ…」
このままいつまでも風舞希を抱きしめていたい気持ちは山々だったが、良吾の息子も山を張りそうな事になってしまっては幻滅されかねないと泣く泣く風舞希を離した。
残念そうに眉をひそめて呟く風舞希に良吾は庇護欲が掻き立てられたが、それでも自身の失態を晒すよりはマシだと判断していたのだった。
「良吾さん、私達は恋人同士なんですから恥ずかしがることはないんですよ?
そうなってしまうのも生理現象ですし…」
「そ、それでもいい加減ずっとこうしているのもアレですし!?」
「クスッ、そうですね。家人達にも伝えないといけないですしね」
しかしそこは風舞希の方が一枚上手であった。
見透かされた良吾も慌てて取り繕ったがそんなところも可愛いと言わんばかりにクスリと微笑んだのだった。
そうして風舞希は机の上に置かれたボタンを押した。
コンコン
しばらくすると執務室のドアがノックされた。
「入ってちょうだい」
「失礼します」
風舞希の言葉にガチャリとドアが開くと、先日良吾が海桐花を屋敷に送ってきた時に顔を合わせた西田と名乗った使用人が入ってきた。
「西田、改めて紹介します。
私の恋人の龍海良吾さんです」
風舞希の端的過ぎる紹介であったがたったこれだけの言葉で西田は目を輝かせた。
「まぁ!まぁまぁまぁ!!
お嬢様にもようやく佳き人が出来たのですね!!
これはお祝いしないといけませんわね!!
丁度年の瀬ですしお嬢様方にもお呼びしましょうか!!」
「えぇ、任せるわ」
「かしこまりました!
では大急ぎで支度をしますわね!!」
初老の女性らしくその様な話は大好きらしい。
風舞希の許しも出たとあって目を星の様に輝かせながら西田は執務室を飛び出して行ったのだった。
しかしそんな彼女を見て良吾は不安に苛まれていた。
「あの、風舞希さん。
今更なんですがお子さん達との顔合わせは慎重にした方が良いのではないでしょうか?
3人がお幾つかは知りませんが、母親が急に恋人を連れてきては流石にショックでしょうし…」
良吾の言葉に風舞希は首を横に振った。
「心配いりません。
子供達は一番下の子も18歳です。色恋沙汰の一つも聞かないですし私が手本を見せてあげないと。
それにこれくらいの事で動揺していては魔防隊員としても東家の人間としても未熟者というだけですよ」
「そ、そうですか…」
通常の子育てでは考えられない理論だが魔防隊の事も東家の事も全く知らない良吾は風舞希の言葉に口をつぐむ事しか出来なかった。
「もしかしたら一番下の日万凛が少しヤンチャをするかもしれませんが、その時は容赦なく相手をしてあげて下さいね?」
「分かりました。って、え?
ヤンチャするかもって…」
「上の2人は肉体的にも精神的にも比較的成長していますが、一番下の日万凛だけはまだまだ未熟者で…
今後任務で大怪我をする事もあるでしょうし、他人に庇われて怪我人を増やす様な事もあり得ます。
あの子が自身の現在地を知る為にも、あの子に良吾さんを認めさせる為にも、もし闘いを挑まれたら真っ向から受けてあげて下さい。
これは魔防隊員として、母として、貴方の恋人としての頼みです」
そう言うと風舞希は頭を下げた。
危険の多い魔防隊は時に命の危険が伴うこともある。
そんな修羅場に未熟な娘を置きたくないと思うのは母として当然であろう。
風舞希のおそらく娘達からは理解され難いであろう愛情を良吾は感じていた。
「…分かりました。もし万が一そうなったらお相手させていただきますが…
18歳の女性に30過ぎた大男が挑んでいっても大丈夫ですか?」
良吾の言葉に風舞希は首肯した。
「勿論です。
それに忘れているかもしれませんが、男性が女性より強いと言われていたのは過去の話ですよ?
如何に日万凛が未熟者とはいえ、良吾さんも全力を出さないと厳しいかと…」
カチリ
風舞希の挑発的な言葉に良吾の頭の中でスイッチが入った。
愛する人にこうまで言われて10代の小娘に負けては自身の立つ瀬がない。
「…そうですか、そうまで言うのであれば自分も久々に全力を出すとしましょう
丁度長い休みですし、どこか壊しても多少リカバリー出来そうですしね…」
そこにはつい先程まで風舞希に揶揄われていた良吾の姿はなく狼の様に鋭い目つきに変貌した漢の姿があった。
人は30を超えると途端に無茶が効かなくなります。
そして壊したところからの回復も段違いに遅くなるのでお気をつけ下さい。