「ふぅ、やはり良いのぅ!
この鉄火場の熱気と師走の冷気が合わさったヒリつく空気!
最高じゃ!!」
「あんたなぁ…ちっとは自分の見た目を考えろよ…」
周囲を気にせずに絶叫する見た目10代のロリババアに先程まで感じていた畏怖や恐怖の念は完全に消え失せていた。
良吾の目の前に居るのはただの元魔防隊総組長のギャン中ババアだったのだから。
「てかその見た目で馬券買うのは流石に無理があるだろ
また警備員に取り押さえられて出禁にされるのがオチだぞ?」
「そういう時の良吾じゃ!
此方が塗り絵をするから馬券を買って、払い戻しの時も窓口で金を受け取ってきて欲しいのじゃ!」
「窓口で払い戻しって…お前そんな大勝負する気なのか?」
普通ならば買いたい馬券の種類や購入額をマークシートに記入して自動発売機にお金と共に入れる事で購入が出来る。
そして馬券が当たったら再度発売機に入れる事で払い戻しを受け取る事が出来るのだ。
しかしその方法で払い戻しを受け取れない事がある。
払い戻し金が100万円を越える場合である。
その様な場合は窓口に行きそこで係員に換金してもらうのだ。
これは競馬ファン誰もが憧れる帯の払い戻しであるが、その様な事は滅多に無い。
相当の穴党か凄じい額の馬券を購入しなければいけないからだ。
「うむ!此方の馬券の買い方は決まっておる!
超大穴への単勝とそれを軸にした3連単フォーメーション、3連複の軸流し各1万円じゃ!!」
「お前馬鹿か!?」
もう元魔防隊総組長など関係ない。
ただの超重度のギャン中ロリババアの言葉に呆れるしか無かった。
「暮れのグランプリでこれが来たの、『これはびっくり』意外ほとんどねぇじゃねぇか!そんな事してたら幾ら総組長とは言ってもあっという間にオケラだそ!?」
そんな良吾の言葉にもギャン中ロリババアは不適な笑みで以て答える。
「良吾もわかっておらぬのぅ…
暮れのグランプリだからこその大勝負よ!!
この1年の総決算!大博打をせずしてなんとする!!
それにじゃな…」
海桐花は言葉を区切ると肩からかけていた鞄のチャックを開けてみせた。
するとそこには帯で纏められた諭吉が5個入れられていた。
「軍資金はたんまりあるのじゃ!心配するで無いわ!!」
「たんまり過ぎるわ!こんな現ナマ持ち歩く馬鹿がいるか!
居るなぁ!俺の目の前に!!」
どストレートに馬鹿と言われても海桐花は余裕の相好を崩さない。
「ふふん、なんとでも言え!
この500人の諭吉様が帰りに何倍になるのか、今から楽しみじゃわい!」
「はぁ…わかったよ…買ってきてやる、それでいいんだろ?」
もはやこのギャン中に何を言っても通じまい…
良吾は完全に白旗を掲げた。
「うむ!よくぞ申した!では購入は頼んだ「だけど一つ教えてくれ」なんじゃい」
機嫌がますます良くなる海桐花の言葉を遮る様に良吾は最も大切な事を尋ねた。
「この金ってクリーンな、なんの後腐れもない金なんだよな?」
「ウム、モチロンジャヨ…」
良吾の問いかけに海桐花は先程までのテンションの上がり方はどこへやら。
急に片言になった上に目がピチピチと泳ぎ出し、ヒューヒューと音の出ない口笛を吹き始めた。
「テメェ!ゴルァあぁ!!俺に犯罪の片棒を担がせようってのか!?
この金は何だ!?詐欺か!?ロンダリングか!?どんだけ手を汚して作ったんだ!?」
「その様な事!元魔防隊総組長である此方がするわけなかろう!!
この金は正真正銘此方が汗水流して稼いだ金じゃ!
此方が稼いだ金を幾ら、どう使おうと此方の勝手じゃ!!」
「ならさっきの反応はなんだ!?
ひと昔どころかよん昔前の疚しい時の反応しやがって!」
「疚しいも何も!このグランプリの為にコツコツ貯めた金じゃ!!
その金を1日で使い果たすという行為に少し躊躇を覚えたというか何というか…」
「そんなわけわからん金で俺に馬券を買わせようとするな!!
そんな事するならお前とはここでおさらばだ!!
警備員を呼んでお前のギャン中を根本から矯正してやる!!」
そんな良吾の言葉に海桐花は良吾の脚に縋り付いた。
「そ、そのような事を言わんでくれ!!
魔防隊と東家に誓ってこの金は疚しい金ではない!!
だから馬券を買ってくれ!!
もし当たった時には払い戻しの半分を分けてやるから!!」
「んな事言ってもダメなもんはダメだ!!
さっさと離れろ!!」
「いーやーじゃー!!!」
身長にして30cm以上、体重ではダブルスコア程も差があるにも関わらず良吾の脚に縋り付く海桐花の粘りは凄まじかった。
だがこの光景、側からみれば悪人顔の大男がJSを拉致しようとしている様に見えなくもない。
次第に2人の周囲に人が集まり出し、
「え?誘拐?」
「ロリコン?」
「臓器売買?」
等とあらぬ噂が囁かれ出した。
「ちょっ!俺は何もしてないですって!!
コイツが脚から離れないんですって!!」
良吾は慌てて反論したが悪人顔の大男と見た目いたいけなJS、どちらの味方をするかとなると十中八九後者の方であろう。
それにこの隙を逃す海桐花ではなかった。
チャンス襲来とばかりにニヤリと笑いトドメを刺しに更に大声で叫び出した。
「どんな事でもするから!!
あんな事もこんな事も受け止めるから!!
後生じゃあ〜!!」
「分かった!
分かったから落ち着け!!」
この場に警察がいたら100%連行される言葉を大音量で泣き叫ぶ海桐花に良吾も自身の身の安全を考えて折れるしか無かった。
こうして周囲の人を巻き込んだ海桐花の作戦はまんまとハマり、良吾は犯罪者の烙印を押されかけるという人生最大の汚点を残したのだった。
出資馬が1勝クラスで好走してくれました。
上のクラスには上がれそうな内容だったので今後が楽しみです。