対よろです。
スタンドはすでに黒山の人だかりだった。
どの方向も人、人、人…
しかもその一人一人が異様な熱気を孕みながらレースのスタートを今か今からと待っている。
「やはりこの空気は良いのぅ…」
「あぁ…まさしく暮れのグランプリにふさわしい…」
そんな観客を見ながら海桐花がポツリと呟き、良吾もそれを首肯する。
しかしここで一つ問題が発生した。
「見えぬ!此方からは人しか見えぬ!!」
海桐花の背が低い為にターフどころかターフビジョンさえ見えなかったのだ。
「いつもはスムーズに場所を確保出来ておったと言うのに…
それもこれも全てゲートの警備員の所為じゃ…」
「なら俺の肩に座るか?これなら余裕で見れるぞ」
恨めしそうに呟く海桐花を見て良吾は尋ねた。
方向性は全く違えどグランプリを見に来た同志であり、ギャン中のロリババアとはいえ困っている海桐花を見ているとそう言わずにはいられなかった。
「なんじゃ良吾、さてはお主此方の尻の感触を確かめようと…」
「こんなチンチクリンに欲情するほど落ちぶれちゃいねぇよ!
それに俺の理想の女性は全てを受け止めてくれる様な包容力があって豊満な色気のある年上の人が良いんだよ!」
「冗談じゃよ!気遣いが出来るのう!
この恩はいつか返さぬといかんのう…
そうじゃ!此方の知り合いにその様な者がおるが、紹介してやろうか?」
良い事を思いついた!とばかりに話す海桐花だったが、一方の良吾は冷め切っていた。
「んなもん気にすんなよ
誰に紹介されようと俺が相手される訳ないだろ?
相手方も元総組長の顔立てなきゃいけないって気を使うだろうしな」
「DTもここまで拗らせると大概じゃのう…」
「うっせ
それより始まるぞ!早く乗れって!」
「おぉ!そうじゃな!」
そういうと海桐花は腰を落とした良吾の肩に座った。
「おぉ!絶景かな絶景かな!!
ターフから何から何までよう見えるわ!!」
185cmの大男の肩に乗る制服JSの構図は親戚に連れられて来た少女の構図であった。
しかし周囲の人々はレースの発走を今か今からと待ち侘びており、良吾と海桐花に対する興味を持つ人など皆無であった。
そしてターフビジョンに数々のグランプリの名場面が映し出される。
3強の戯れにも死闘にも見えたレース、
皇帝が日本で最後の競馬を圧勝したレース、
シャドーロールの怪物が3馬身差をつけて他馬を圧倒したレース、
英雄を唯一負かした三冠馬キラーの始まりのレース、
そして英雄の最後の衝撃…
そのどれもが競馬史を彩る名レースばかりで自身が見てきた数々の名レースを海桐花は懐かしみ、今年はどの様なドラマが生まれるのか良吾は胸を高鳴らせていた。
そして名場面の映像が終わると、
いよいよスターターが歩き出した。
「いよいよじゃ!いよいよ始まるぞ!!」
「あぁ!始まるぞ!!!」
海桐花が肩の上から興奮気味に叫び、良吾も熱に当てられたかの様に答える。
そして
パァ~パラパ〜パパパぁ~ (((オイオイ!!)))
パパパ〜(((オイオイ!!)))パパパ~(((オイオイ!!)))
パァッパァパァ~パラパッパ~パパパパぁ~
パ パ パ パ〜!!!!
「「「「「「「「「「うぉおおおおぉおおおおおぉおおおぉおおおおおおお!!!!!!!!」」」」」」」」」」
関東G1ファンファーレが寒空を切り裂く様に鳴り響き、夢、思い、色んな情念が入り混じった凄じい歓声が上がった。
その歓声に押されるかの様に各馬がスムーズにゲートに入っていく。
そして
ガコン!!
ついにスタートが切られた。
「むっ…」
しかしスタート直後、眉を顰めて唸ったのは良吾だった。
自身が本命にした9番が出遅れてしまったからであった。
元々このコースは最後の直線が短い為、最後方からレースを進めることはかなりリスクが高い。
とはいえ元々後ろからレースをする馬であり、このコースでの好走例もある、さらにジョッキーも後ろからの競馬が得意ということもあり絶望するという程でもなかった。
本命は出遅れたものの紐に選んだ2番の3歳牝馬は好位をとり、その他の馬もそれ程悪い位置取りでもなかった。
レースは8番の馬が5馬身程の差でレースを引っ張っていき、1000mの通過は58.6秒と速いペースで流れていく。
しかし残り1000mを切った所で異変が起こった。
『故障発生!10番が故障発生で競走中止です!!』
場内アナウンスにあちこちから悲鳴が上がる。
なんと今年のクラシック三冠の最後の一冠を手にした馬が故障してズルズル後退してしまったのだ。
しかしそんなアクシデントにも関わらず良吾の本命の9番も海桐花の本命の4番も快調に飛ばしていく。
そして勝負所の3コーナー。
特に海桐花の本命は先行しての勝ちが決まりやすいこのコースですでに先行集団に取り付きに行っている。
対して良吾の本命は未だ後方2〜3番手に位置しておりここから勝つにはかなり厳しい位置にいた。
そして遂に運命の4コーナー。
いろんな情念が渦巻いて一昨年にこのレースを勝った馬が先頭に躍り出てきた。
そしてそれを捉える3歳牝馬!
3歳牝馬によるおよそ50年ぶりの暮れのグランプリ制覇がなったかと思った瞬間!!
『外から襲いかかる夢への旅路!!
夢への旅路だ!!夢への旅路1着!!
そして2着に敗れた3歳牝馬!!!』
小柄な馬体を弾ませて凄じい勢いで飛んできた9番が3歳牝馬を飲み込み、
「ぃよっしゃあああぁぁぁぁツッ!!!!!」
「ぎぃやぁぁぁああああぁぁツッ!!!!!」
良吾は雄叫びを上げ、海桐花は悲鳴をあげたのだった。
当時を思い出しつつ書いてますが中々難しいです。
スマホ投稿なので中々字数が行かないですが、次話では原作キャラを出せそうです。
現地観戦もあるので明日・明後日辺りは投稿出来るか不透明です…