「ふーっ……ゲホッゲホッ!」
夜も静まった頃支部の屋上でタバコを吸っているといつも通り咽た。こんなののどこが良いのだろうか。そう思ってると後ろから声をかけられた。
「なーにやってんスか、ってかタバコなんてどうやって手に入れたんスか?」
「おーサクラちゃん、これは前にターゲットからチョッパったやつ。たまーに吸うのよ」
「それが許されるのはフエ先輩くらいっスよ。それにむせるくらいなら吸わなきゃいいのに」
相変わらず遠慮がないというか失礼な後輩だ。でもフキが気に入るのもなんとなく分かる気がする。こういう子を見ているとじぶんの悩み事がどうでもいいことに思えてくるのだから。
「悩み事がある時に吸うのよ。そうすればいい考えが浮かぶ気がしてね」
「そうっスか?悩みがあるなら相談すればいいじゃないっスか」
「ハハハっ何事も相談すればいいという訳じゃないさ。それに私にはもう身近に相談できる人もいないからねえ」
「?フキ先輩とかいるじゃないっスか。それに指令とかじゃダメなんスか?先輩って直属の部下だったスよね?」
「うーん、難しいねえ。おそらく糸引いてるのは楠木指令だし。黒幕に真実を問えるのは最後の最後だけだよ」
「なっ!?指令ってなにか隠してるんスか!?」
あっこの子はそこまで賢くないタイプだ。それでもちゃんと正しい解決法に行きつくという事は教育者が良いのだろう。頑張ってるなあフキ。
「あの人は隠し事ばかりだよ。私達では思いもつかないようなことばかりしているからね」
多少事情を知っている私でさえその全ては知らない。正直興味もないので自分のこと以外はさほど調べていないからという理由もあるが。
「はえー、そうなんスねえ。もしかしてそこに踏み込めばファーストに昇格できたりするっスか!」
「んなわけあるかい!むしろ降格されて捨て駒にされるわ!」
「そ、それだけは嫌っス!どうしたらいいっスか!?」
「なにも詮索しない、知っても話さない、このふたつを守ってればそういったこととは無縁でいられるよ」
実際下手に知ると捨て駒として消耗させられて処分される。一思いに殺してくればいいものを。リコリスにかかる金を考えれば即処分という事も出来ないのだろうか。
「分かったっス!それで先輩はなんで悩んでるとタバコ吸うんスか?」
「強引に話戻してきたな……まあ昔先生が吸ってるの見たからかなあ」
「?先生ってタバコ吸ってたんスか?」
「私が見た時は付き合いで吸ってた時かなあ。あの時の先生はカッコいい大人!って感じがしたから、わたしも大人の真似して悩むときは吸うんだよ」
「へー、先輩も先生のこと好きなんスね!」
「フキ程じゃないけどねー。まあ恩師だし、私達の味方でいてくれる大人は少ないからね。千束が来てからは程度をわきまえていれば甘えさせてくれたし」
そんな恩師も今は遠い異国の空の下だ。それが嫌という訳ではないがタバコの消費量は増えたのでそこは多少恨んでもいる。
「まっ大人の真似すりゃいい考えも浮かぶかなーって思って吸ってるだけだから真似すんなよ」
「そんな体に悪いもん吸うわけないじゃないっスか!当たり前っス!」
「ハハッ、そうだな。じゃあタバコはやめて夜の食べ歩きでもするか」
「えっ!?でもお金と服はどうするんスか?こんな夜じゃ制服は目立つっスよ?」
「私服のひとつくらい持ってるだろ。後金は私が出すから心配するな」
「おおっ!ただ飯っスね!ごちになるっス!」
こういう先輩風を吹かせる私はカッコいいのではないか。そんなことを考えていると悩みがどこかに行ったのを感じた。またすぐに同じことで悩むだろうが、今だけは忘れていよう。これだけはおそらく悩んでもどうしようもないだろうから。