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「これはしくじったかなあ……」
今回の任務は簡単な護衛任務だった。どこぞの金持ちのボンボンをどこかの施設で一定時間護衛して引継ぎのメンバーと交代するという楽な任務になるはずだった。
「ザッケンナコラー!スッゾコラー!」
そこに突如、ヤクザが襲来して乱戦に突入、大気中のメンバーが駆け付けるまで対象を死守するという難易度ハードコアな任務へと早変わりした。そして不幸なことに相方だったサードリコリスは早々と名誉の戦死を遂げた。南無三。今は高そうな机を盾にして耐えているが時間の問題だろう。
「さて、どうしたものかね~」
今時のヤクザは健全化したか有力者の子飼いとなっているので敵になると厄介な絶滅危惧種だ。
加えてここは施設の上層。移動にはエレベーターか階段を使うが階段はおそらくリコリスとヤクザの戦闘が起こっているだろう。であれば大気スペースのあった1階に直で行けるエレベーターしかない。
「おい!お前!これからどうするんだよ!もうお前しか僕を守れるのはいないんだぞ!」
知るか!と言ってやりたくなるのを抑えて、相方の遺品から装備を拝借していく。相方だったものから制服をはぎ取りボンボンに投げつける。
「とりあえずこれ着といて。多少の防弾効果はあるから」
「女物じゃないか!」
「死にたくなきゃ着ときな。死んでもいいなら着なくてもいいけど」
「くっ!あとでお父様に言いつけてやるからな!」
好きにしてくれ。死なれて困るのは私とて同じなのだ。それに比べれば多少の反省文程度は苦でもない。
「服は着たな?じゃあこの鞄持ってあそこのエレベーターまで走れるな?エレベーターさえ閉まればお前だけはたぶん助かる」
「お前はどうするんだ!僕一人じゃ死んじゃうじゃないか!」
「アホか。囮が居なきゃあそこまで行けないだろ。男なら頑張って走れ」
「……!分かった……」
「いい子だ。じゃあ合図したら全力で走れ。3、2、1、今!」
同時に別方向へと駆け出す。優先順位はボンボンに銃を向けた奴ら。弾数を考えると無駄にはできないが諦めてマガジンにあった弾を全て撃ち切る。防弾チョッキを着ているであろうヤクザに単発での対処は難しい。正直早くボンボンには退避してほしいし、救援にも早く来てほしい。こんな大立ち回りはもっと上のランクのエースどもの仕事であって、最近までドサ回りをしていたような人材にやらせることではないのだ。
「それでもやらなければならないのが現場担当の辛い所だ!」
標的は倒せないまでも数発は当たったためかこちらを向いた。ボンボンがエレベーターに乗ったのを確認してすかさずスタングレネードを真上に投げる。すかさず相方だった物を引っ張り上げ自分の上にかぶせる。耳を両手で抑えて最低限の防護をする。すぐ後に、爆音と閃光が部屋中に広がる。流石にわたしも無事ではなく、視覚はともかく聴覚があまり効かない。
「あー流石にキツイな……やるんじゃなかった」
しかし、ヤクザの大半はこれで戦闘不能になった。相方も最後に役に立ってくれた。しかし、もう少し優秀なら生き残れただろうに。
「まあ盾になってくれたおかげで私は生きてるわけだけども」
まあ、後にちゃんと墓参り程度は行ってやろう。そう思いながらヤクザを処理していくと、奥の方から拍手の音が響いた。
「お見事ですな。まさかお一人で全員倒してしまわれるとは。リコリスを過小評価しすぎたようですな」
「こんなところで黒幕気取りですか?冗談は髭と格好だけにした方が良いですよお爺さん」
現れたのは燕尾服を着た老人。こちらが銃をもっても驚く様子もないことからかなりの手練れと推測できる。
「これでも長年執事をしているものでしてな。今回も本来は秘密裏に私が処理する予定でした。あなた方が来たので別のプランにしましたが……いやはや手を引いた方がよかったですね」
なぜ敵を前にしてペラペラと喋っているのだろう。こちらが撃たないとでも思っているのだろうか。
「そんなのんきに計画を喋って大丈夫なの?もうすぐ私達の味方が来るのだけれど」
「いえいえ、ちゃんとあなたは始末しますとも。真島とかいうチンピラにもできたのですから一人ぐらいはわたしでも殺せますのでっ!」
突然老人が踏み込んできたので後ろに飛んで回避する。構えと動きからしてして中国拳法の類だ。
「ほう、今のを避けますか。そこそこ本気だったのですが」
「老人の奇襲くらい避けられなきゃリコリスなんて務まりませんからね!」
返す刀で射撃を行う。が、ヤクザを盾にして防がれてしまう。
「一応仲間なんじゃないの?盾にしたらマズくない?」
「仲間の服を剥いだあなたほどではありませんよ」
今の攻防で一気に距離を詰められてしまった。かくなるうえは!
「ほう!ナイフですか!そして中々達者のようだ!これは食いでがある!」
ナイフを避けながら的確に攻撃を繰り出す老人に対して、こちらはあまりよい状態ではない。ローファーによる蹴りは当たれば大きいが相手を考えると当てるのは難しいだろう。であればナイフと銃による攻撃がメインになるだろう。しかし、それこそ相手が最も警戒している攻撃だ。つまり、実質詰んでいる。生き残るには救援が来るまで耐える事なのだがさて、あと何分で来るだろうか。後、3分で来てくれないとこちらが困る。
「そろそろ、限界のようですね。あなたほどの人間が多いようなら計画は練り直さないといけませんね」
「いや、まだまだイケるからね!」
「ほっほ!威勢がいいようで!」
しかし、実際キツイ。攻撃も避けきれなくなってきていてそろそろ限界だ。
「それそれ!攻撃が当たるようになっておりますぞ!」
ついにギリギリの回避もできなくなってきた。敵の拳が首を掠め、激痛が走る。そのまま拳は髪をまとめていたゴムごと撃ち抜いた。
「いったー!!てか髪抜けたんだけど!どうすんのよ!髪は女の命って知らないの!」
「ほっほ、敵に向かってなにを……っ!!」
なぜか敵が攻撃を止めた。まさかロングヘアフェチだったのだろうか。
「ハッハハハ!!まさかこんなところで貴女様にお会いできるとは!」
なにを言っているのだろうか。こんな強い老人と会ったことはないのだが。
「いやはや、であればすべてに納得がいく!そういう事だったのですね!」
「ど、どうしたお爺さん、頭でも打った?」
「いえいえ、長年の疑問が解決したもので。それに状況が変わりました。私はここでお暇させていただきます。それではごきげんよう、お嬢様。再びお会いできる日を我々は心待ちにしております」
何を言っているのか全く分からん。何も説明せずに納得だけして去られてもこちらは意味不明だ。
「いや、なにも分かんないんだけど!せめてあんたの名前くらい教えなさいよ!」
「そういえばそうでしたな!私、とある家にて執事長をしております、竹林と申します!それではまた!」
そう言うと竹林は落ちていたヤクザの銃で窓ガラスを割るとそこから飛び降りた。
急いで下を覗くが、既に誰もいなかった。
「何が何だか意味が分からん……」
いろいろなことが起きすぎたせいか、体が限界を超え、緊張の糸が切れた瞬間、私は意識を手放した。