喫茶リコリコの清掃もといトラップの解除作業は難航を極めた。
「なんで罠を解除すると発動する罠があるんだ……」
手始めにと、目の前にあったワイヤートラップを解除したところ、隣にいた隊員が落とし穴に落ちた。
「うっわ、下に槍仕込んである……パンジステーク(落とし穴に竹槍を仕込むスタンダードな罠)とか死ぬタイプの罠は仕込んでないんじゃなかったんですか先生ー!」
下手に歩けば落とし穴や電流トラップにかかるなんてのはまだましな方で、時折、パンジステークやスパイクボール(泥の球体に竹槍等を付けて敵にぶつける罠)が仕掛けられている。
「ここはベトナムじゃないですよ先生……私達をランボーにでもするつもりですか」
そんなわけで罠を1つ解除したら別の罠が発動するといった具合で後片付けもとい、トラップハウス攻略は難航していた。
「楠木指令、人員増強をお願いします。こちらはベトナムも真っ青な罠の見本市です」
「私には90年代のガンガンギャグマンガの様にしか聞こえんが」
「今時の若者に伝わらないネタはやめてくださいよー。それより優秀な人がダース単位で要ります」
「まあ、ミカがここまで仕込んでいるとは想定外だったな。もう1週間そのメンバーでできる限り進めろ。それでもだめなら追加の人員を派遣する」
「私としてはすぐ欲しいんですけどねー」
「そうしたらお前は人員を使い捨てるだろう?」
「サードリコリスってそういうもんですよね?用法は守ってると思いますが」
「ハッハッハ!こんな身内の後始末で死人何ぞ出せるか。たまには死人の出ない作戦を考えろ」
無茶言うなあ……その死人の出る作戦に頼ってきたのはそっちだろうに。
「善処します……」
「そこが終わったら正式にお前をセカンドに昇格してやるから努力しろよ。それじゃあな」
「待ってください。何か大切なこと言ってませんでしたか?昇格とかなにか」
このままサードを主軸にした生活を送るものかと思っていたが意外にもそうではないらしい。
「フーム……まあ実際にはどうなるかは分からないけど、一仕事ぐらい頑張る元気にはなるか。さーて!やってやりますかー!」
そこからは速かった。必要な道具を支部から持ってきて、人員の割り振りを行う。小柄で体重の低い者は多少ではあるが罠にかかりにくいので探知役に任ずる。力がある者は罠を基部の部分から外していく。器用さも当然求められるが膂力も求められることがあるからだ。そして肝心の私はなぜか最前線で罠の感知と解除を並行して行っていた。
「やっぱり私の負担デカいなあ……どっちもできるからしょうがないとはいえ」
分担と危機管理を徹底させたからか、部隊の損耗率は目に見えて下がり、ゆっくりではあるが作業は進んでいった。
そして指令が追加の人員を投入する日にはほとんどの罠を解除し、ついに通常の清掃作業に突入することができていた。
「指令から言われて来た乙女サクラっス!って、これはなんスか!?」
「ああ……罠の解除は終わったんだが、掃除をする体力が無くてねー……それでもすこしずつ進めてはいるんだが、しつこい汚れとかまではー……」
「もうなにやってんすか!道具借りるっスよ!そんなボロボロでやってても意味ないっスから休んでるっス!」
「ごめんねー、サクラちゃん」
「むしろ掃除だけなら楽勝っすよ!手柄が無いのはちょっと不満っすけど」
そんなわけで追加の人員たちに任せて休んでいるとDAと関わりのある業者が荷物を届けに来た。
「えーと、一条フエさんは貴女で大丈夫ですか?」
「あっはい。お疲れ様でーす」
渡されたのは手に抱えられる程度のダンボール。内容物は……食品?
「って送り主、千束じゃん。あいつちゃんとチョコ送ってくれたんだ」
中にはマカデミアンナッツチョコレートが大量に入っていた。
それと手紙が入っており、『掃除ありがとう!』とだけ書かれていた。
「あー美味いなあ。やっぱ本場のやつは美味いなあ」
チョコを食べながらふと思う。
「今のお前には時間がたっぷりあるんだから好きに生きたらいいさ。お前の行きたい場所がお前の生きる場所なんだ」
千束には時間が限られていた。それがリセットされたのだから好きに生きる時間もあってしかるべきだろう。千束が千束らしく生きれる場所があるのならばそこで生きるべきだ。それが千束が立つべき大地なのだ。
「それでも、もう一度くらい会っておきたかったなー」
どこかで逃亡するとは思っていた。しかし、まさか海外とは。戸籍のないリコリスでは海外に行くのは困難だ。私には一生縁のない場所だ。おそらく私の引退前に会うことは二度とないだろうから。
「まあリコリスなんてそんなもんだからなー」
この手紙が最後になるのだろう。向こうはそんな気はないのだろうが。
「じゃあね、千束。私の数少ない友達」