機動戦士ガンダムSEED New desTiny   作:ジェド・アリッサム

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5. 再びの戦場

 シン・アスカ。その名前を、ギルは知っていた。その遺伝子に宿る戦士の才にずっと目を付けていた。そんな折、レイからアカデミーでの様子を聞いた時には落胆と同情を覚えたものだ。

 精神的な傷から、モビルスーツに乗ることができない。それは戦士として致命的な欠陥だった。己が戦う力を得ることを望んでいるのにも関わらず、自らの進むべき道を正しく進もうとしているのにも関わらず、それを拒まれる。その苦しみの一端を、ギルは知っていたから。

 しかし、それでもシンは諦めなかった。敵と戦う力を持たずとも、自分のできる限りのことを探し続けた。その姿に、ギルもまた彼を諦めることをやめた。シンがミネルバにいることが、その証左だ。

 何より、ギルはシンに戦士と、それに加えてもう一つの可能性を見ていた。そちらの方こそが、彼を諦めなかった最大の理由なのかもしれない。

 かつて己が携わった研究。それに、ラウから聞いた彼についての言葉。それらが言っていた。シン・アスカにはコーディネーターの”先”が秘められていると。

 故に、ギルは待っていた。シンがその力を目覚めさせるのを。捻じ曲げられた運命を、切り拓くのを。

 

 

 

 受話器を手に握りながら、タリアはこの数瞬の間に次々となだれ込んできた情報を必死に整理しようとしていた。

 まず、アーサーからの報告。彼にはアグネスから状況を聞くように指示していたはずだ。実際につい先ほどまであの場所で戦闘を繰り広げていたパイロットからの情報は、敵のことなど含め、事態を打開する一助になりうる。

 しかしながら、アーサーが聞き出したのは操縦していたのはアグネスではないということ。しかも、実際に操縦して戦っていたのはメカニックのシンだと言う。

 一体どういった経緯でメカニックがMSに乗って戦うことになったのかなど、聞きたい事は色々とある。しかし、ここで何よりも重大なのは、アグネスの言が真実だとすれば、シンはザクファントムでカオスとアビス、二体の機体と渡り合ったということだ。

 それはつまり、シンが赤服クラスのパイロット能力を有しているということを意味していた。

 そして、もう一つは……

 

『援軍をお願いします!このままじゃ、レイが!』

 

 このシンからの内線だ。彼はザクに乗って戻ってきてから、メカニックであるからに機体の整備に取り掛かっていたはず。この状況ともなれば、格納庫内での作業に掛かりきりで外の様子を伺い知ることなどできないはずだ。

 それをどうして、シンはこのように断定的に言うことができるのか。タリアの脳内に、疑問符が浮かぶ。

 だが、その疑問に拘泥しているわけにもいかない。現状、彼の言う通りレイが苦しい戦いを強いられているのは間違いのないことなのだ。そして、お誂え向きにシンからやってきたこの内線。

 タリアはひとつ唾液を呑み込むと、シンに問いかける。

 

「……シン。アグネスのザクファントムに乗って戦っていたのは貴方ね?」

『っ…………はい。すみませんでした。……でも、アグネスが!』

「いいわ。この非常事態の際、多くは聞きません」

 

 彼からの返答は、是。これで先ほどの推論は正しかったことになった。

 

『っ、それで、艦長!誰か出せないんですか!?機体はまだ残ってます!』

「……パイロットが残り少ないの。それに、あの敵と互角に戦えるのは……」

 

 だが、そのことを確かめられてもなお、タリアは迷っていた。敵と渡り合っていた事実があるのならば、ここでシンを出すのが最適解のはずだ。ミネルバの守りも残すことができるし、レイを十分に援護することもできる。

 しかしながら、そのために送り出すシンはメカニックなのだ。アカデミーでは操縦の訓練も受けてはいるだろうが、パイロットに求められるものはMSを動かすことだけではない。戦うことのできる精神力もまた求められるのだ。

 状況を鑑みて、彼が自発的にザクに乗ったとは考えられない。何かやむを得ない事情があったと考えるべきだろう。

 なら、そのようにして巻き込まれた彼にもう一度戦うことはできるのだろうか?それより、確実に優秀なパイロットであるルナマリアを待った方がいいのではないか?

 タリアの中に、そんな逡巡が生じる。

 その時、握った受話器から声が聞こえた。

 

『……なら、俺が出ます!俺が、レイを助けます!』

「!」

 

 シンの言葉に驚くタリア。更に、彼女の背後からも声が掛かる。

 

「……タリア。彼を、シン・アスカを出すというのはどうかな?」

「……議長?」

「奪われた三機の性能については私も知っている。ザクでそれと対峙したとなれば、彼の才能は明らかだ。彼ならば、この状況を打開できるのではないか?」

『艦長!お願いします!』

 

 議長という立場の人間からの、後押し。シンから聞いた、本人の意思。

 それで、タリアの心は決まった。今、何よりも優先すべきは残ったインパルスを守りきることなのだから。

 

「……シン。出撃を許可します。レイの援護をお願い」

『っ、はい!』

「メイリン!ザクの発進準備を!」

「はい!」

 

 そこまで指示を出してから、タリアは制帽を深くかぶりなおした。

 どうやら、この艦長という立場はこうした決断を迫られるものらしい。慎重さを欠けば艦は沈み、慎重になり過ぎれば艦は沈む。それも、多くのクルーを巻き添えにして。

 頭ではわかっていたつもりなのだが、こうして人の命が直に失われていく実戦となるとどうしても鈍る。

 果たして、今回の自分は間に合うことができたのだろうか。タリアは自分を戒めるとともに、レイとインパルスの無事を願った。

 

 

 

「いいか、シン!元々パワー負けしてるんだから、格闘戦なんかやるんじゃないぞ!」

「これ以上機体をぶっ壊したらただじゃ置かねえからな!」

「ふざけんな!俺にも乗らせろ!」

 

 ミネルバの格納庫では、激励とも罵声ともつかない怒鳴り声が鳴り響いていた。本日二度目のこんな光景の発端は、艦長からの許可を得て再びザクに乗り込むことになったシンだ。

 突然ザクの発進準備をさせろとのお達しがあり、皆誰が出るのかと思っていたところにのこのことやってきたのだから、ある意味必然だろう。着方の分からぬパイロットスーツを着る時間も惜しみ、緑色の作業着のままシンがコクピットに乗り込むと、彼らの声量は最高潮に達する。

 

「ケガするなよ!」

「ちゃんと帰って来い!」

「死ぬなよ、シン!」

 

 口々に発せられるのは、自分の身を案ずる言葉。最後のはヨウランのものだ。それらの一つ一つが温かく背中を支えてくれるようで、シンは強張っていた自分の表情が柔らかくなったのを自覚する。

 レイのことを守って、絶対にここに帰ってくる。己の中にあったそんな決意を一層大きなものにすると、シンは彼らに向かって一度親指を立てて見せ、座席に腰を沈めた。

 

 ハッチを閉じれば、外の喧騒は遠のいていき、自分の息をする音がやけに大きく聞こえてくる。今コクピットの中にいるのは一人だけ。そう、シンだけだ。アグネスを乗せていた時とは違う。

 シンは、先ほど艦長に向かって言ったことを思い返す。ハンガーの時のように巻き込まれるのではない。今度は、自分の意志で戦場に赴くのだ。

 操縦桿を握れば、自分がモビルスーツに乗っているという実感が湧いてくる。戦争に使われる、人の命を容易く奪ってしまえる兵器。それに乗っていると。

 でもこれは、この力は、誰かを守ることのできる力だ。先ほど自分がアグネスを守れたように。

 だから今度は、レイも救って見せる。自分の一等大切な友人のことを。

 

『ブレイズザクウォーリア、カタパルトエンゲージ。発進どうぞ!』

「…………シン・アスカ、ザク、行きます!」

 

 カタパルトから飛び出したザクは、スラスターの光を噴き出して一直線に進んでいく。その視線の先には、激しい戦闘の光があった。

 

 

 

 いける。スティングの中に、そのような一種の確信が広がりつつあった。情報にない新型が現れたことには驚いたが、それでもやはり多勢に無勢、3対1でかかればやれる。既に外で待機しているネオから早く戻って来いと催促を受けてはいたが、新型の確保は遅れるのに見合う成果だ。

 だが、こちらのバッテリー状況もそこまで余裕があるわけではない。特にアウルに関しては、先ほどから雑魚を蹴散らしている分かなり減ってきてはいる。それこそ、もう一機や二機、腕の立つ敵がいれば、撤退を視野に入れていたことだろう。

 だからこそ、ここで一気に仕掛ける。ちょうど寄ってくる有象無象の数も一段落し、あの邪魔だった緑のも撤退した。今が絶好の機会だ。

 

「アウル、ステラ!」

 

 スティングは二人に向かって叫ぶと、インパルスへと吶喊する。その意図を察して、カオスとアビスもまた動き出した。

 

 

 

 状況は極めて悪い。レイは自身の背中を濡らすじっとりとした冷たい汗を、確かに感じていた。

 先ほどから続く防戦。もはや機体の奪還など望むべくもなく、むしろ残ったインパルスまでもが奪取されそうな状況は一切変わることなく、それどころか付近の味方機が払底したのか、限りなく純粋な3対1の戦いに持ち込まれつつある。

 もうじきルナマリアが来るのではないかという僅かな期待はあったが、今のレイにそれを当てにする余裕はなかった。

 まともに食らえば容易く装甲を貫かれるビームが飛び交う、極限の集中を強いられる戦場。優れた空間認識能力を持つレイでなければ、これまでにインパルスはとうに腕の一本や二本を失っていただろう。

 だが、そのレイをもってしても、未だ直撃を食らわずにいたのはアビスが他の味方機の相手をしていたからだ。実際、先ほどアビスが攻撃に加わってきたときはそのコンビネーションに態勢を崩され、危うくやられるところだった。あの時はザクがカバーしてくれたが、その影響で片腕を失い離脱してしまっている。

 それが意味するところは、次に三機が同時にかかってくれば、無事では済まないということだ。

 そうして今、その危惧が現実のものになる。

 

「来る……!」

 

 自分に向かって一直線に迫りくるカオス、それと同時に動く他の二機の気配を感じ取ってレイは短く叫ぶ。

 ビームサーベルを構えたまま突っ込んでくるカオスであるが、その背後からはアビスが迫りつつある。しかし、レイの頭には射線が隠されたビーム砲の姿がちらついていた。同じ手を何度も使うとは思えないが、その読み合いこそが狙いにも思える。敵に付き合うことを嫌ったレイは即座に横に飛び退き、そしてそれに反応したカオスのサーベルをエクスカリバーで受け止めた。

 

「やはりな……!」

 

 予想通り、敵の狙いは迷いを生じさせることのようだった。ビーム砲の一撃はなく、代わりにカオスと反対側に回り込んだアビスがビームランスを突き出してくるのを見て、レイは独り言ちる。もし迷って回避が遅くなっていれば、サーベルを防いだ隙をランスで貫かれていただろう。

 一歩先んじて回避をしたことによって、レイは余裕をもってアビスの攻撃をシールドで防ぐ。だが、忘れてはいけない。敵は三機居るのだ。

 コクピットにアラートが鳴り響き、背後から敵機が接近していることを告げる。当然、その正体はガイア。腕が二本しかないインパルスでは、もう一本のビームサーベルを防ぐことは叶わない。レイは素早くスラスターを噴かし、上空へと逃れる。

 そこに鋭く迫るアビスのビーム砲。回避を余儀なくされるレイは、視界の端でガイアが空中へと突進してくるのを捉えた。回避をしてしまったがために、優位な頭上からの攻撃の機会を逸してそのまま空中戦へと持ち込まれる。

 

「……くっ!」

 

 カオスの突撃をシールドでいなしながら、敵の手のひらの上で転がされている感覚に、レイは歯噛みした。

 相変わらず、アビスは地上からこちらに牽制するかのようなビームを放ってくる。あれは地上にはもう降ろさないという意思表示だろう。それを裏付けるように、カオスまでもがスラスターを噴かして上昇しようとする。

 レイは見過ごすわけにはいかないとビームブーメランを放とうとするも、ガイアからのビームがそれを咎める。投擲の間際故にシールドで受け止めるしかないレイは、続くアビスからの迎撃の予感に、大きくスラスターを噴かした。

 事ここに至っては、レイは自分が誘い込まれたことを認めざるを得なかった。ここまで意図的に避けていた、空中戦へと。

 一対多の状況下において、障害物の無い空中に出ることはその数の利を敵に与えることだ。これまでは警戒せずによかった足元方向からの攻撃に加え、より三次元的な戦闘を強いられることになる。サーベル戦などは、敵と自分の高度を頭に入れて戦わなければ話にならないだろう。

 こうした空中での不利を挽回するには機動力が必要なのだが、生憎と今のインパルスは格闘戦用のソードシルエット装備だ。自軍の工廠が戦場だということ、元は機体の奪還が目的だったことを思えば適した選択だったが、こうなってしまっては高機動戦用のフォースシルエットの方が良かったように思える。

 一瞬、レイはシルエットを換装をすることも考えたが、この状況ではその時間を作り出すことすら難しいと即座に切って捨てた。この三機を相手取りながらそんなことをしようとしたところで、撃墜されるに決まっている。機密を漏らしてまでも撃墜されるのならば、換装などしない方がマシだ。

 敵の攻撃は熾烈極まりない。アビスのビーム砲をどうにか回避したところに迫るガイア。ビームサーベルとエクスカリバーの鍔迫り合いに割り込むようにして放たれるカオスのビーム。上昇してくるカオスが真っすぐに突き出したサーベルの突きを、ガイアに押し込まれる力を利用して後ろに引いて避ける。次の瞬間、コクピットの表面が削られ、それでレイは本命がビームクローによってパイロットを焼き殺すことだったとわかって戦慄した。

 そして湧き出た冷汗を拭う暇もなく下からやってくる、アビスからの光。PS装甲を以てしても無力化できないそれは、当たれば容易にインパルスを撃墜しうるのだ。

 スラスターから光を振りまいて緑色の奔流から逃れるインパルス。しかしそこに、またもやガイアがサーベルともに襲い掛かる。四つ足に変形することも含めて、まるで獣のような印象のガイア。その荒々しさはしかし、確実な脅威だ。エクスカリバーでその重い一撃を受け止めたレイは、次いで来るであろうカオスへと意識を向ける。連射されるビーム、それをシールドで受け止めた隙をつくような足元からのアビスのビーム。

 一瞬、しかし確かに下に意識を割かれたレイは、カオスへ向き直ってはたと気付く。目の前の緑色の機体。その背部にあったはずの二基のポッドの姿が見えない。確かあれは、ビーム砲を備えた一種のドラグーンであるはず。では、ポッドはどこへ?

 レイの思考に生じた、一瞬の空白。その代償は大きかった。インパルスの頭上。死角に位置するそのポッドに寸前で気付いたものの、回避にはもう遅い。逃げ切れなかった機体の右腕を二発のビームが貫く。

 

「ぐっ……!」

 

 破壊された右腕と、落下していくエクスカリバー。それらの姿に、レイは己が空中に誘い出された本当の理由を悟る。カオスに装備されたドラグーン。あれは重力下では使えないものだ。しかしながら、回転によって疑似重力を得ているコロニー内では上空、すなわち回転中心に近づけばその疑似重力は小さくなる。

 つまり敵が空中戦に持ち込んだのは、ドラグーンを使うためだったのだ。残った左腕にビームライフルを構え、ドラグーンへの一応の対抗手段を用意しながら、しかしレイはこの戦闘の終わりが近づいてきたことをひしひしと感じとる。

 何故なら、地上にいたアビスまでもが空中に飛びあがったからだ。ライフルでの牽制を試みるも、ドラグーンとカオス、ガイアからのビームを受ければ回避に専念する他なく。気付けば、レイは三機に包囲されていた。腕が一本しか残っていない以上、順番に三機に格闘を仕掛けられるだけで容易に詰む。

 

「ギル…………!」

 

 レイが呟いた、その時だった。

 

『レイ!!』

 

 ビームの嵐がカオスに、ガイアに、アビスに襲い掛かる。攻撃の元、見上げた先にレイが見たのは、ブレイズウィザードを装備したザクウォーリアだった。

 だがしかし、この声は。

 

「シン……!?」

 

 

 

 スラスターを全開に噴かし、戦場に急ぐシン。そんな彼の眼に映ったのは、片腕を失ったインパルスと、それを取り囲む三機の姿だった。

 ドクン、と心臓が大きく波打つ。何となく、レイが危ないと思った。それで、艦長に無理を言ってザクに乗って、ここまでやってきて。そうして今、まさに目の前で、一つの命が消えてなくなろうとしていた。

 シンは、操縦桿を握る手に力を籠める。この手の中にあるのは、守るための力だ。失われる生命を守るための。大切な人の命を、守るための。

 だから。

 

「…………戦うんだ、俺は!」

 

 シンは叫ぶ。自分を奮い立たせるように、決意が曇らぬようにと。

 シンは呼ぶ。友の名前を。自分が守りたい命のことを。

 

「レイ!!」

 

 そうして、シンは引き金を引き絞った。何度も、何度も。その度に放たれる緑の光の奔流は、まるで吸い込まれるようにして敵機に直撃する。シンの攻撃に怯んだのか、敵はレイの周りを離れて散開した。

 

『シン……!?』

 

 インパルスから、驚愕の表情をしたレイの通信が入る。シンはそんな彼の声をまた聴けたことに、心底ほっとした。

 

「レイ!無事でよかった!」

『シン、お前がなぜ……』

「レイが危ないって思ったんだ。っ、それより!」

 

 だが、そんな通信も束の間、カオスの放つビームが二人に襲い掛かる。スラスターを噴かして避けたシンはしかし、突き刺すような気配に咄嗟にシールドを構えた。どうやらその判断は正しかったようで、弾かれるビーム。その攻撃がやってきたところを確認しようとして、シンは目を見開いた。

 

「ドラグーン!?」

 

 答えを口にしたところで再び放たれるビームから逃れつつ、シンは状況を確認する。直撃したと思ったビームだったが、どうやらシールドで受け止められていたようで敵は三機とも無傷だ。対して、こちらは数で劣っているばかりか、インパルスも右腕を失っている。間に合ったとは言え、依然として不利なことには変わりない。

 そんな中、何かを決意した様子のレイから通信が入る。

 

『……シン。少しだけ時間を稼げるか』

「……?」

『インパルスのシルエットを換装する。そうしなければ、二人ともやられて終わりだ』

「……わかった!」

 

 接近するガイアをビームライフルで牽制しつつ、シンは応える。この三機相手に自分がどこまでやれるかなどわからないけれども、レイに任されたのだ。やれるだけやるしかない。

 

「……うおおおおおお!」

 

 雄叫びと共に、シンはビームを放つ。移動する敵の気配、その直感に従って撃ちだされた光は、一直線にアビスとカオスに向かっていく。その正確な狙いに両機ともシールドで防がざるを得ず、空を駆ける足を止めた。

 自らに向かってくる、鋭い殺気。しかしシンは自らを奮い立たせてその敵意と相対する。

 接近しようとするカオスに向かってライフルを放ち、殺気を感じ取ってスラスターを全開、アビスからのビーム砲を回避。その勢いで死角となったZ軸方向からのドラグーンによる攻撃までもを躱しきる。ブレイズウィザードの機動力がなければ食らっていたであろうコンビネーションにシンの額を汗が流れ落ちるも、敵は待ってはくれない。

 回避の隙をついて、距離を詰めようとするカオスとアビス。格闘戦の恐怖に、シンは距離を取ろうと再びスラスターを噴かす。加速する機体、それら三機の間で互いにビームの応酬を繰り広げる中で、しかしシンは自らの役目を果たすべく、レイに向かうガイアへと銃口を向ける。

 放たれたビームの光は確かに敵機へと向かっていき、直撃こそせずともインパルスにひと時の猶予を与える。しかしその代償に、シンは漆黒の機体にまでも目を付けられたようだった。くるりと身を翻したガイアが、ビームサーベルを振りかぶって襲い来る。

 前方からは緑色の光と共にカオスとアビス、後方からはガイア、頭上と足元からのドラグーン。完全に囲まれた状況で、しかしシンは諦めてなどいなかった。前方からのビームを躱しながら素早くビームトマホークを取り出すと、勢いそのままに背後へと放り投げる。無造作に投げられたようにも見えたビームの刃はしかし、吸い込まれるようにしてガイアが辛うじて突き出したシールドに直撃した。

 衝撃によって体勢を崩されるガイア。それによって、包囲網に綻びが生じる。そこに飛び込もうとシンが機体を翻せば、咎める様にしてドラグーンがビームを放たんとする。

 瞬間的に反応したシンは、頭上にシールドを掲げると、ライフルの銃口の先にドラグーンを捉えた。がしかし、一手遅く、引き金を引く寸前でライフルがビームに貫かれる。

 

「くっ……けど!」

 

 だが、一手遅いのは敵も同じだった。ミネルバから飛来した二機の航空機が、インパルスへと合体する。そうして現れた、失われた腕までもを取り戻したフォースインパルスの姿に、敵は唖然とした様子を見せた。

 さらに良いことは続くとでもいうのか、敵に向かうビームがシンでもレイでもない、第三者によって放たれる。思わずそちらを向いたシンの目に入ってきたのは、真っ赤に塗装されたザクの姿だった。

 

「ルナ!」

 

 これで頭数は同じ3対3。しかも、戦闘に加わったばかりのシンとルナマリアのことを考えれば、エネルギー的にはこちらが有利だ。敵も不利を悟ったのか、カオスがビームを放ちながら後退を始める。更に、アビスがコロニーの壁面に向かって胸部ビーム砲を放った。

 急激に殺意が遠のいていったことに戸惑うシン。そこに、敵の行動の意味に素早く気付いたレイから通信が入る。

 

『シン!ルナマリア!脱出されたらお終いだ!その前に捕らえる!』

「……!」

『……え?ちょっとレイ、シンってどういうこと!?』

『その話は後だ!行くぞ!』

 

 困惑した様子のルナマリアをよそに、フォースシルエットの大推力を生かした加速で敵の後を追うレイ。慌ててその背中を追うシンに、ルナマリアからの通信がやってくる。

 

『シン!後でちゃんと説明しなさいよ!』

「わ、わかったよ……」

 

 鋭い語気の彼女に対して、シンはたじろぎながらも言葉を返した。どうにも、ルナマリアにはアカデミーの時から頭が上がらない。世話になっていることが相当あるし、色々と事情も知られている。きっとあんなふうに言ってきたのも、自分がモビルスーツに乗れないことを誰よりも知っていた一人だからだろう。

 なんと説明すればいいのか。戦闘後のことに遠い目をしたシンは、しかし余計な雑念を追い出す様に首を振ると、先行する二人を追う。

 ビームライフルを失ってしまった以上、自分にできることは僅かだ。一応武装としてはグレネードとミサイルが残っているものの、グレネードが当たるとは思えないし、ミサイルもPS装甲相手では大した攻撃にはならない。寧ろ外壁を背にされている以上、そちらを傷つけてしまうリスクの方があるように思えた。そんな中で自分にできることは何か、考えていたシンは次の瞬間、目の前の光景に目を疑った。

 

「ええ!?」

 

 スラスターから黒煙を噴き、ルナマリア機が徐々に高度を下げていく。あっという間に彼女を追い越してしまったシンは暫しの間、開いた口が塞がらなかった。ピンチに颯爽と現れた同期の腕利きが、いざこれから戦おうというところで速攻戦場を去っていく。地上に墜ちていく赤いザクを後ろ目に見ながら、シンは形容しがたい気持ちを抱いた。

 ……何はともあれ、これで2対1。しかも、先行していたレイはガイアにつき纏われている。グレネードでどうにかすべく接近するも、頭上から撃ちおろされるカオスとアビス、二機がかりのビームの雨を掻い潜ることはできず、フリーハンドのドラグーンが外壁を集中砲火する。

 

「クソッ!」

 

 悪態をつくも、状況を変えることは叶わず。やがてコロニーに穴が開き、顔を覗かせた宇宙空間へと三機は逃れていった。

 

「はあ……はあ……」

 

 もう自分の手ではどうにもできないと分かったところで、シンは操縦桿から手を放し、荒い呼吸を繰り返す。いつの間にか、手は汗でびしゃびしゃに濡れていた。

 どうにかなった。どうにか生き残って、レイを助けることができた。敵は取り逃がしてしまったけれども、それだけで十分だとシンは思う。

 だが、この状況はまだ終わってはいないようだった。コロニーの外。宇宙空間に、シンはどこかで感じたことのあるような感覚を覚える。そして、敵はただコロニーから出ていっただけ。いなくなったわけではないのだ。

 

『……インパルスのエネルギーも少ない。……シン。一度ミネルバに戻るぞ』

「……あ、わかった」

 

 守りたい。ただその一心で、自分はこの操縦桿を手に取った。そうして、守りたいものを守ることができた。

 だが、戦いはまだ続いている。続く戦いの中で、これからもたくさんの生命が失われていくはずだ。

 一度手にした力。自分は、これからどうすればいいのだろうか。迷いの中で、シンは機体をミネルバへと向けた。

 

 

 

 

 

 




久しぶりのアグネス出ない回、たぶん医務室に居るんだろうけど
そしてやっとまともにルナマリア登場 なお出オチ
原作ではシンとレイは何を思ったんだろうか……

それといつも感想ありがとうございます。とても励みになります。
全部に返信はできていないのですが、頂いた感想にはすべて目を通しています。ちまちま返信したいとは思っていますので、これからもよろしくお願いします。
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