BLUE ARCHIVE -SONG OF CORAL-   作:Soburero

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ようやく秋らしくなってまいりました今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
ようやく温かい飲み物と中華まんが美味しくなってきましたね。
投稿者はあんまりにも長く居座ってきた夏に中指を突き立てたい気分ですが、それをやるとまた帰ってきそうなのでやめておきます。


55.墓参り

 重苦しい空気の中、7人全員が食堂に集まり、少し冷めた食事をとる。

 話すことは少なく、先生とレンゲ、ユカリが場を温めようとするも、効果は今一つ。

 特にナグサの消沈具合が酷く、食事を半分以上残し、アザミに頭を下げていた。

 夕食の後、再び囲炉裏を囲んで作戦会議。

 俺が寮を離れる前とは異なり、アザミを含めた7人が座布団の上に座っていた。

 

 「まさか、ここにまで怪異が現れるとは……。」

 

 恐らく、怪異をここに引き寄せたであろうアザミが、顔を伏せそう呟く。

 サッサと頭を撃ち抜いてしまいたいが、グッとこらえて話を合わせる。

 

 「俺達、というより、百花繚乱に引き付けられた。そう考えた方が良いだろう。」

 

 「でも、どうして委員長のカッコしてたんだ?もっと強い妖怪とか、いくらでもいるだろ?」

 

 「怪談ならよくある文脈でしょ。もう死んでたり、行方不明になった人の姿で、残された者の前に現れる。」

 

 「あの怪異がそうだとするのなら、アヤメ先輩本人は、一体どこに……。」

 

 囲炉裏の炭がパチパチと燃え、雪が時折カタカタと窓を揺らす。

 腕を組み、顎に手を添え、目をつむり、それぞれ思い思いの姿勢で考えに耽る。

 だが、誰も答えにたどり着くことは無い。判断材料が少なすぎる。

 炭が折れ、カタンと音を鳴らした時、目を伏せていたナグサが口を開いた。

 

 「……彼岸邸に行くしか、なさそうだね。」

 

 ”そうだね。あの“アヤメ”が言った事を信じて良いかは分からないけど、今は手掛かりが少ない。行ってみよう。”

 ”今この場には、百花繚乱のみんなに、レイヴンだっている。きっと上手く行くよ。”

 

 妙に自信満々な先生に呼応するように、百花繚乱全員が唇を絞り頷いた。

 その景色を見ているアザミは、ただ静かに微笑んでいる。

 俺はふと、失踪したアヤメの捜索をナグサが行っていた事実を思い出した。

 

 「そういえば、アヤメが失踪した時、何が起きていたのか聞いていなかったな。ナグサ、話してくれるか?」

 

 「何で、聞くの……?」

 

 「少しでも手掛かりが欲しい。覚えている限りを話してくれ。」

 

 「……分かった。少し、長くなるけど……。」

 

 ナグサはまた泣きそうになりながら、ぽつぽつと話し始めた。

 この寮から北に存在する黄昏の寺院という場所に、アヤメはいたという。

 アヤメは預言者クズノハを探して寺院に赴き、しかし会う事は出来なかった。

 そこで唐突に現れた誰かに、アヤメは連れられて行った。

 その際、アヤメはナグサにこう吐き捨てたという。

 私はあんたを友達だと思った事なんてない。

 

 その後、ナグサは何故か預言者クズノハと出会い、先生宛の手紙を託された後、百鬼夜行へと返された。

 それが、事の全容だという。

 目じりに涙を溜めているナグサの背中を、先生がそっとさする。

 

 ”そっか……。話してくれてありがとう。辛かったよね。”

 

 その横で、俺はある可能性が脳裏に浮かび、頭を抱えていた。

 アザミは勿論、アヤメも黒だ。

 燈籠祭の件で、奴らが戦闘を開始するまで完璧に潜伏できた理由が、これで説明できる。

 裏切者が、情報を与えていたから。

 ため息を隠さない俺に気づいた先生が、不思議そうな顔を俺に向ける。

 

 ”クロハ、どうしたの?”

 

 「何でもない。可能性が1つ増えただけだ……。」

 

 「その可能性って、アヤメ委員長が裏切ってるかもしれない、ってこと?」

 

 流石はキキョウ、作戦参謀の肩書、伊達では無いらしい。

 目線を合わせて頷けば、やっぱりとでも言いたげに、キキョウは顔を伏せてため息をついた。

 同時に、ナグサが涙も拭かずに顔を上げてまくし立てる。

 彼女らしからぬ大声に、隣にいたレンゲの肩が大きく跳ねた。

 

 「そんな事ある訳ない!アヤメは、私の事は嫌いでも、責任を投げだすなんて……!」

 

 「そうです!きっと、寺院にいた悪い人に騙されているだけですの!」

 

 ナグサの叫びに、すかさずユカリが同調する。

 それに釣られず平静を保っていたレンゲとキキョウが2人をなだめ、一呼吸置いてから口を開いた。

 

 「でもやっぱ、本人に聞いた方が良いよな。じゃなきゃ、本当の事は分からない。」

 

 「レンゲの言う通り。早く委員長を捕まえて、洗いざらい話してもらわないと。」

 

 「先輩はきっと、彼岸邸にいらっしゃるはずですわ!そこでお話しして、みんなで連れ戻しましょう!」

 

 「……そうだね。きっとそう。アヤメを、連れ戻さなきゃ。」

 

 ユカリの鶴の一声で、百花繚乱は、1つの目標に決意を固めた。

 花鳥風月部を打倒し、アヤメ委員長を奪還する。

 当然、先生は百花繚乱を手伝うつもりであるだろうし、俺も仕事を投げだす気は無い。

 ただし、本当に彼岸邸なる場所が存在すればだが。

 

 「問題はまだある。その彼岸邸の場所、誰が知っている。」

 

 「それなら私が。」

 

 姿勢を正したアザミが、真剣な表情でそう言った。

 私は皆さんの味方ですよと言わんばかりに。

 良い度胸だ。精々利用させてもらおう。

 

 「この町より北、雪原を越えた先にある廃墟です。かつて一帯を治めていた名家、その栄華の名残だとか。」

 「差し支えなければ、私がご案内いたします。」

 

 ”いいの、アザミ?かなり厳しい道のりになると思うけど。”

 

 「元よりここで育った身です。多少の雪ならへっちゃらですよ。」

 「それに、大切なご友人を連れ戻すのでしょう?この自治区の長として、私にも手伝わせてください。」

 

 いつもの先生の心配に、たおやかな笑みを返すアザミ。

 こいつがこうも協力的だと、彼岸邸に罠が張ってあると考えたくなる。

 そして、この予想は十中八九当たっているだろう。

 必要なのは、それを無力化する手段だ。

 あらゆる可能性とそれを潰す方法を考える俺の横で、ナグサがアザミの提案を了承した。

 

 「アザミさん、案内をお願い出来る?」

 

 「はい。お任せください。」

 

 「……人質が要るな。」

 

 ”えっ、人質?”

 

 唐突な言葉に、この場にいた全員が見開いた顔を俺に向ける。

 無論、何の考えも無くこの言葉が出てきたわけではない。

 俺達が使えるリソースを最大限に利用する手段が出来たのだ。

 

 「仮に、彼岸邸が花鳥風月部の本拠地だとするのなら、アヤメと同時に、頭であるコクリコがいる可能性が高い。」

 「力でねじ伏せても良いが、怪書を使われると厄介だ。交渉材料も持っておきたい。」

 

 ”まさか……。”

 

 「……あんた、本当に容赦がないよね。」

 

 「容赦で戦場を生き残れるなら、苦労はしない。」

 

 誰を連れてこさせようとしているのか、先生とキキョウは察したようだ。

 残りはポカンと口を開け、それぞれ顔を見合わせていたが、アザミ以外は答えにたどり着き、苦虫を嚙み潰したような表情へ変わった。

 連れて行きたいそいつは今、陰陽部の牢の中に囚われている。

 花鳥風月部の本拠地が見つかったと言えば、配達してくれるだろう。

 事前に把握していた陰陽部の通信回線に繋ぎ、手短に用件を告げる。

 

 「陰陽部、レイヴンだ。捕虜の輸送を頼みたい。」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 雪が止んだ翌日。

 俺達はアザミと共に、商店街近くの駅で列車を待っていた。

 列車に乗るためではなく、降りてくる者を迎えるために。

 陰陽部のエンブレムが描かれた3両編成の列車は予定通りに到着。

 窓の無い客車からは、まず陰陽部の制服を着た生徒が降りた。

 その生徒がロープを引っ張ると、頼んでおいた『荷物』が腰から引きずられるように客車から降りる。

 その『荷物』は小さい両手を縄で縛られ、腰から伸びた2本のロープが陰陽部2人のベルトに繋げられていた。

 『荷物』は背中を押され渋々歩き、俺達の前で膝を突かされた。

 

 「お疲れ様です。頼まれていた――。コラ、逃げるな!」

 

 陰陽部が敬礼をするために、『荷物』の肩から手を離した瞬間、そいつは立ち上がって逃げ出そうとする。

 だが、予め短く握られたロープにより逃げる事は敵わず、再び俺達の前に跪かされた。

 背中を平手で叩かれ、ようやく大人しくなった『荷物』から、頭の黒い袋が外された。

 

 「何なんですかぁ、あなた達!手前をこんな寒い所まで――!」

 

 袋が取られた瞬間から、自分を引きずった陰陽部に牙を剥き、キャンキャンと鳴き喚く。

 だが、そいつが目線を前に向け、俺の姿を見た瞬間、牙を収めてフルフルと震え始めた。

 

 「よう。久しぶりだな、シュロ。」

 

 燈籠祭襲撃事件の主犯、箭吹シュロ。花鳥風月部の1人。

 牢の中で“可愛がった”効果は、しっかり残っているようだ。

 俺がシュロに1歩近づくと、当然シュロは後ろに下がろうとする。

 だが、陰陽部によって両肩を押さえられていて、逃げるどころか身じろぎすら許されない。

 真っ青な顔を逸らしたシュロの前にしゃがみ、顎を掴んで強制的に目を合わさせる。

 

 「聞きたい事がある。正直に答えろ。良いな。」

 「コクリコは、何処に居る。」

 

 「こっ……!答えるわけないでしょう!この修羅!大人しく、よっ、黄泉の国に帰ったらどうですかぁ!?」

 

 ひっくり返った声でそう吠えるシュロ。

 どうやら、俺が見ていない間に、随分元気を取り戻しているらしい。

 健気な事だが、同時に腹立たしい。

 

 「彼岸邸。」

 

 そう呟いた途端、シュロは面白い位に目を泳がせた。

 つまり、当たり。コクリコは、彼岸邸にいる。

 これで、聞きたいことは聞けた。ほぼ用済みだ。

 

 「なるほど。コクリコはそこだな?」

 

 「……ち、違いますよぉ!?あんな廃墟にいる訳――」

 

 「俺はただ彼岸邸と言っただけで、そこが廃墟になっているとまでは言ってない。お前、彼岸邸を知ってるんだな?」

 

 息が浅くなり過ぎて、もはやしゃくり上げているシュロに、更に顔を近づける。

 頭を傾けさせ、わざと声を低くし、あえてゆっくりと、目をつむるシュロの耳元で囁く。

 

 「良く聞けシュロ。これからお前を、コクリコに会わせてやる。彼岸邸まで、大人しくついてこい。良いな?」

 

 シュロの返事を待たず立ち上がり、陰陽部から受け取った2つのカラビナをハーネスに繋げる。

 一部始終を見ていたアザミを含む先生達が、全員渋い顔をしていた事実は、見なかったことにした。

 

 「助かるぞ、陰陽部。あとは俺達が引き受ける。」

 

 「……日暮れまでには、お返しを。それを超えると、誤魔化すのが難しくなりますので。」

 

 「覚えておこう。」

 

 リボルバーを右手に握り、シュロの背を突き飛ばして歩かせる。

 コソコソと俺の所業を想像する声を乗せ、列車は百鬼夜行に戻っていった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 駅を離れて、北に歩き続ける事数時間。

 横顔を照らしていたはずの太陽はてっぺんに上り、しかし雪が溶ける様子はない。

 足を進めるたび、雪が柔らかく、そして深くなっていく。

 アザミが言うには、足元は彼岸邸までずっとこの調子らしい。

 行軍を阻む、天然の足止め。実に効果的だ。

 

 「ここからです。ここから彼岸邸まで、怪異が良く出るとの事です。どうか、お気をつけて。」

 

 先頭を歩くアザミが足を止め、俺達に振り返ってそう警告した。

 目の前には、エビスを囲む山以外何もない雪原が延々と続いている。

 身を隠すことも、逃げる事も難しい。

 もし出くわしたら、やるしかないだろう。

 

 「レイヴン、確認だけど、本当に怪異に格闘術が効くんだよね?」

 

 「確証ではないがな。だが、カードは多い方が良いだろう?」

 

 「……百花繚乱、着剣!」

 

 「銃剣術の稽古が役に立つ日が来るなんてな。」

 

 僅かに悩む様子を見せた後、ナグサは懐から銃剣を取り出し百蓮を構える。

 残りの3人も同じように銃を掲げ、銃剣を長銃の先端に取り付けた。

 そして、銃剣から鞘を取り外し、全員臨戦態勢。

 先生もシッテムの箱を取り出し、指揮システムを立ち上げたようだ。

 

 「はぁ~あぁ~。銃剣で怪談と戦えるだなんて、そんなの信じて――」

 

 「黙って歩け!」

 

 良く回るシュロの口を背を突き飛ばして閉じさせ、アザミの横を歩かせる。

 全員口を結び、ゆっくりと、着実に、彼岸邸に向かう。

 俺達8人の足跡が、風に吹かれた粉雪で覆われていく。

 歩みが遅くなったシュロの背をまた突き飛ばした時、長距離レーダーに何かが引っ掛かった。

 握った拳を振り上げて、全員に立ち止まるよう指示。

 

 『レイヴン、周辺に敵性反応多数。早速来ました。』

 

 ミメシス特有の、揺らぎを伴った微弱な生体反応。

 シュロの手綱を2本とも先生に押し付け、ナイフを逆手に握り最前線で立つ。

 箱のシステムにも引っ掛かったか、先生が百花繚乱に向け扇状に展開するよう指示を出した。

 アザミは先生の隣で背負っていた銃を握る。

 

 「迷いを捨てろ。銃剣は殺すつもりで使え。」

 

 「怖い事言うなって……!」

 

 怪異を倒すコツを伝えた俺に、銃剣付きの槍を構えるレンゲが反論。

 歩みを止めてから程なくして、雪原を挟む林から、目玉をいくつも生やした傘や提灯がぞろぞろと現れる。

 ほぼ同時に、百花繚乱は引き金を引き、俺は地面を蹴り上げた。

 

 まずは、適当に傘から。

 スキャンを実行してマーキング、同時に右手の50口径を1発撃ち込み牽制。

 目玉に直撃し怯んだ所を、ダッシュの勢いを乗せたナイフを振りぬいて両断する。

 傘の怪異は上下に分かれ、雪の中で靄を吐き、ただの傘に戻った。

 生き物は殺し、物は使い物にならなくすることで、排除できる。

 予想は当たっていたようだ。

 

 真横に加速して、提灯をナイフでぶった切り、その奥にいたダルマの顔面に鉛玉を喰らわせる。

 俺の背中を見て油断したか、先端を向ける傘を後ろ蹴りでへし折る。

 大きく口を開け飛び込んできた提灯を両断し、右の2体に1発ずつ撃って攻撃を阻止。

 足元に寄ったダルマを蹴り上げ、落ち始めた所を踵落としで粉砕。

 動きを止めていた2体をナイフで切りつけ、真横一閃でいっぺんに切断。

 とめどなく現れる数に囲まれかけた所を、アサルトアーマーで一掃。

 光の中でナイフを指2本で挟み、上から振り下ろすように投擲。

 眼球に突き刺さったナイフ目掛けて急加速、怪異ごと地面に押し付ける。

 

 「消えた……!効いてる!いけるぞ!」

 

 「身共もです!やりました!」

 

 「こんなのが本当に効くとは、ねッ!」

 

 百花繚乱も陣形を崩さず、だが怪異に1歩踏み込んで、銃剣で薙ぎ払う。

 傘を上下に割り、ダルマを2つに切り裂き、提灯を穴だらけにして、怪異を祓っていく。

 灯籠祭の時はアヤメじゃなきゃと嘆いていた百蓮も、ナグサはしっかり使いこなしている。

 事実、ナグサが撃ち抜いた怪異だけ、銃創から樹皮や雪が見えている。

 

 「なら、どうして百蓮だけが倒せる、なんて……。」

 

 「考えるのは後だ。目の前に――」

 

 怪異を粗方片づけ、リボルバーから弾を捨てた時、林からパキパキと音がする。

 他の怪異と比べ、より大きく不安定な反応が、林の中からゆっくりと近づいてくる。

 頭は白、体は黒の体毛に覆われた、2m級の熊。

 ただ、右前足が肘から先が無く、左も骨が折れていて、肉と皮だけで釣り下がっている状態。

 何より、首が90度ねじれており、動くたびフラフラと揺れている。

 俺達の前に現れたそいつは、後ろ足で立ち上がり、左肘で頭を支え、天に向かって大きく吠えた。

 

 ”あれは一体……!?”

 

 「昨日仕留めた奴じゃないか。また来るのなら、何度でも殺してやる。」

 

 リボルバーを背中にしまい、後ろ足でノロノロと近づく熊に、体を屈めて急加速。

 鞭のように振り上げられた左腕を潜り抜け、すり抜けざまに後ろ足を斬りつける。

 両足で速力を横に流して、熊を軸に走り再度接近。

 首を傾けたままの噛みつきを飛び蹴りで迎撃。

 追撃の噛みつきを左にかわして、鼻にナイフを突き立てる。

 そのまま顔面を引き裂こうと持ち手を引き寄せるが、熊は鼻で俺を持ち上げ振り飛ばす。

 一瞬天地がひっくり返るが、空中で大きく手足を振って、両足から着地。

 クマは吠えも逃げもせず、ねじれた頭で俺をじっと見つめている。

 1度死んで、痛みすら無くしたらしい。

 面倒だ。一気に仕留めるとしよう。

 

 またヨタヨタと近づいてくる熊に全力疾走。

 迎撃の噛みつきを懐に飛び込み回避。

 同時に背中を叩きつけて大きく押し戻す。

 姿勢を崩した隙に追撃の蹴り。ナイフの2連撃と右ストレートにつなぐ。

 それを意に介さず上から降る左腕を、ナイフを順手に持ち替えて迎撃。

 突き刺したナイフと毛皮を握り、噛みつく下あごに足をかけ、全身の力で左腕を引きちぎる。

 塵に変わる腕を投げ捨て、大きく数歩下がった熊の顔面に飛びかかり、ねじれた上あごに手をかけ、体重と重力で200キロの巨体を地面に押し付けた。

 そのまま右手で開きっぱなしの口を強引に閉め、下あごから脳天に向けてナイフを突き立てる。

 千切れた両腕でしようとする熊へ更に深く押し込んでから、コーラルを左手に這わせるように充填。

 群知能に指示を出し、ナイフ越しにコーラルアークを発動。

 痙攣する熊を押さえつけながら、コーラルの奔流で脳をカリカリに焼く。

 10秒かけて、記憶を失う程度ではすまない量を、たっぷりと。

 コーラルの流れを止めても、熊はピクリとも動かなくなり、足先から塵へと変わり始めた。

 耳鳴りと共に大きく息を吐き、ナイフを引き抜いて立ち上がる。

 百花繚乱の方も丁度仕事が終わったようで、怪異の最後の1体をナグサが撃ち抜いていた。

 

 「覚悟は認める。だがそれだけだ。」

 

 「熊に勝っちゃうんだアイツ……。コワ~……。」

 

 「流石はれいぶんさん……!生ける伝説の戦い……!」

 

 ナイフの靄をコートの袖で拭い、右肩の鞘へしまう。

 空のリボルバーに弾を込めながら、呆れと畏怖が半々といった顔をしている百花繚乱の元に戻った。

 先生はいつもの苦笑い、アザミとシュロはさっきの熊のように、開いた口が閉じなくなっている。

 念のため自分のレーダーも確認しつつ、ストーカーで上空を旋回しているエアに偵察を指示。

 

 「エア、どうだ?」

 

 『一帯に反応なし。クリアです。』

 

 ”みんな、怪我は無いね。気を付けて進もう。”

 

 先生からカラビナを受け取り、再びシュロにアザミの隣を歩かせる。

 さっきの景色が効いたのか、1回強く背中を押せば、後は大人しく歩いてくれた。

 俺達はまた、アザミの先導で雪原を北に向かう。

 戦闘中、アザミから灯籠祭の時のシュロと同じ反応があった事を確かめながら。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 更に歩くこと1時間。

 雪原のど真ん中で、ようやく目的地が見えた。

 かつて家々があったであろう土台や、段々造りの畑の跡地。

 それらに囲まれた、古びた外観の屋敷。

 エアからの情報によると、ロの字型の母屋と、その近くに離れがある構造になっている。

 

 「こちらが、彼岸邸です。」

 

 だが、廃墟という割には、荒れ方が随分大人しい。

 窓や障子が破れておらず、中に埃や雪が溜まっている様子もない。

 誰かが日常的に手入れをしていなければ、こうはならない。

 予めシュロの手綱を屋敷を見上げている先生に押し付けておく。

 

 「結構広そうだね。中を探るなら手分けしないと。」

 

 「そうだな。だがその前に、やる事がある。」

 

 「……そうだったね。」

 

 キキョウがそう言いながら、俺達に向かって振り返る。

 その時、目線を合わせながら軽く頷けば、キキョウは背負った銃を両手で握る。

 俺もリボルバーの撃鉄を起こし、何も分かっていない顔をするアザミに詰め寄った。

 

 「……?私に何か――」

 

 アザミに有無を言わせず、胸の中央を狙って射撃。

 当然、アザミは胸を押さえて屈むが、次の瞬間、被った傘の奥から白蛇の頭が飛び出してきた。

 キキョウがアザミに2撃目を放ち、同時に俺がナイフを抜いて蛇を迎撃。白蛇の頭を切り落とす。

 更に多くの白蛇が襲い掛かってくるが、キキョウが銃剣で2匹、俺がアザミの腹に1発入れながら3匹叩き落とす。

 アザミが膝を突いた衝撃で、頭の傘はこぼれ落ち、白蛇の正体が露わになった。

 意外にも、それはアザミの髪の毛。怪書の力で自身を変質させたのだろう。

 再び顔を上げ、俺達を睨むアザミの目は、先程までの緑色から一変し、黄色の蛇の眼へと変わっていた。

 

 「案内ご苦労。あとは人質として役に立ってもらう。」

 

 「いつから……。いつから気づいていたんです?」

 

 後頭部にリボルバーを突き付ける俺と、正面から銃剣の切っ先を向けるキキョウとを、アザミは交互に睨む。

 止める間もなく終わった事態に、先生と百花繚乱は目を剥いていたが、髪から吹き出る黒い靄を見て納得したようだ。

 俺は先生からの、キキョウはレンゲからの視線を浴びながら、尋問を続ける。

 

 「ほぼ最初から。花鳥風月部の一員かどうかは、さっきまで分からなかったけど。」

 「でも、今回の案内で気づけた。何の目印も無い雪原を、迷いなく先導されたらね。日常的に通ってないとああはならない。」

 

 「そしてシュロが教えたように、彼岸邸にはコクリコが、花鳥風月部がいる。この廃墟に迷いなく通える奴は、自然と限られてくる。」

 

 「相手が悪かったね、アザミ。王手だよ。」

 

 キキョウはそう言うと、どこからか取り出したロープで、ギリギリと歯ぎしりしているアザミの手を縛る。

 先生は『事前に教えて欲しい』とでも言いだげな顔で俺を見つめるが、それはお門違いというものだ。

 

 「お前、知ってたなら教えてくれても良いだろ……!」

 

 「ダメ。あんたとユカリは、どんなに隠してても顔に出るから。信用してない訳じゃないけど、今のナグサ先輩に伝えるのも、マズそうだったし。」

 

 詰め寄るレンゲの疑問に対し、丁寧にそう答えるキキョウ。

 ユカリはいつものように目を輝かせ、ナグサは意気消沈し、レンゲは渋い表情でキキョウを睨む。

 キキョウがアザミの手を縛ると、服の中に隠していたアザミの怪書『稲亭物怪録(とうていぶっかいろく)』を抜き取り、銃を背負って立ち上がる。

 

 「公開範囲の限定は情報戦の基本だ。恨むなよ。」

 

 「そういう事。ほら立って。」

 

 シュロのカラビナを先生から受け取り、1本だけハーネスに繋ぐ。

 もう1本は根元から切り、アザミを立ち上がらせたキキョウに渡して、手のロープと結ばせる。

 そうして出来上がったアザミの手綱もハーネスに繋ぎ、背中を押して彼岸邸に向かわせた。

 

 「このっ、糞ガキめ!お前がしくじらなければ、こんな事には!」

 

 「手前は関係ないでしょぉ―!?手前(てめぇ)の失態を手前(てまえ)に押し付けないで貰えますぅー!?」

 

 「黙れッ!!」

 

 正体が割れた瞬間、互いに噛みつき合う駄犬共に、脳天から拳骨を食らわせる。

 2人の顔面は雪の中へ押し込まれ、クッキリとマスクを残した。

 僅かに地面が揺れるほどの威力だったからか、先生以外の全員が2人から目線を逸らしていた。

 

 ”優しくしてあげてね!?人質なんだから!”

 ”それじゃあ……。彼岸邸、中を探ろう。”

 

 先生は俺の肩に手を添えて進言した後、一呼吸置いて彼岸邸の前に立った。

 コクリコのものであろう人影は、母屋の奥で待っている。

 雪に顔を埋めているアザミとシュロの首根っこを掴んで引きあげ、背中を突いて歩かせた。




ふと考える、レイヴンと怪書の相性。
欲望を写す『稲生物怪録』=「殺す」という欲求が全面的に押し出され全員怖気づいて死
恐怖を写す『稲亭物怪録』=レイヴンがほぼ恐怖そのものなので相性最悪どころか利用される可能性大
生みの親だけどさ、やっぱルールブレイカーが過ぎるよこの傭兵。

次回
忌子
ビジュと話し方はホント好き

次回も気長にお待ちくださいませ……。
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