ブルアカダイスオリキャラもの 作:後方キヴォトス傍観者
「随分と長いおしゃべりだったみたいだけど、話はまとまった?」
少女はくすんだ金髪のポニーテールを靡かせて、ゆっくりと二人の対面に向かう。
小柄でありながらどこか優雅さを感じさせる足取り。
おそらくは二人よりも年下であろう少女は、余裕を感じさせる態度で席に着くと静かに伏せた瞼をあげた。
「――ようこそ、グラトニー・ムーブメントへ。
<システムメッセージ>
リーダーの名前を決定します。
名前の決定のために、所属学園と出自を決定します。
【所属校】
1 : ゲヘナ
2 : ミレニアム
3 : トリニティ
4 : アビドス
5 : 山海経
6 : 百鬼夜行
7 : ヴァルキューレ
8 : その他
9 : 無所属
結果 : 1 : ゲヘナ
【出自】
1 : 企業の令嬢
2 : 万魔殿の関係者
3 : ゲヘナの名家の令嬢
4 : 上記のうち1d3つ
結果 : 4 抽選 : 1d3 = 2 抽選 : 2d3 = 1 : 企業の令嬢 かつ 3 : ゲヘナの名家の令嬢
<システムメッセージ>
リーダーの所属学園、出自が決定しました。
所属組織である『グラトニー・ムーブメント』、および出自の情報からの連想により名前を決定します。
【名前】
<システムメッセージ>
次にユキコとの面識を決定します。
ユキコは非常に高い名声値を保有しているため、各組織の長などの情報が入手可能な地位の人物に認知されている可能性があります。
相手からユキコへの認知は、名声値の半分の値を参照しダイスロールによって決定します。
また、ユキコは超越等級の情報能力を保有しているため、相手が一定以上の地位にいる人物、または何らかの理由で注目する理由がある人物である場合、相手のことを認知している可能性があります。
ユキコから相手への認知は、情報の値を参照しダイスロールによって決定します。
双方がお互いに認知していた場合、それまでの面識の有無を判定します。
【認知】
ユキコの名声値 : 173 (半分の値 86)
ユキコの情報 : 97
相手からの認知 : 1d100 = 37 認知している
ユキコからの認知 : 1d100 = 89 認知している
<システムメッセージ>
お互いに認知しているため、面識の有無を判定します。
お互いの認知の数値の合計を参照しダイスロールによって決定します。
【面識】
認知の合計 : 126
結果 : 2d100 = 55 + 76 = 131 面識なし
<システムメッセージ>
追加で判定を行います。詳細は後で開示します。
【判定①】
結果 : 1d100 = 35
【判定②】
結果 : 1d100 = 79
【判定③】
結果 : 1d100 = 89
【判定④】
結果 : 1d100 = 18
「――壱鬼ハミよ。それで、あなたが今回の話し相手なの?――『
少女――ハミの視線の先にはユキコの姿。
ユキコのことを知っている様子で――興味深そうに翠の瞳を向けている。
「おや、私のことをご存知でしたか。それならば名乗らずとも知っているでしょうが――改めまして、私は輝木ユキコ。ヴァルキューレの一生徒です」
「ふふ、おかしい。あの名高き『
「そうでもありません。私など生まれも育ちも凡人ですから――『
まずは腹の探り合い。
相手がユキコを知っているように、ユキコもまた相手を――壱鬼ハミを知っていた。
だが、予想以上のビッグネームの登場――いきなりフブキに任せるには難しい相手に、ひとまず自分が場を持たせることを決める。
ユキコの想像通り――突然の空気に馴染めずに取り残されるフブキ。
そんな彼女をよそに、軽いジャブとばかりにお互いが牽制を始めた。
「代々
「まあ、とってもお上手なのね!話に聞いていた以上に、あなたとのお話は楽しめそう」
「――どんなお話を耳にされたかは存じませんが、私如きが貴女を満足させられるとは思いません」
「あなたほどの人間がそう謙遜するものではないわ。それでは本当の凡人たちの立つ瀬がないでしょう?」
「私の功績や名声は、誇るようなものではありませんよ。私はたまたまそれを掴み取る機会に恵まれたというだけです――まあ、私の話は置いておきましょう。それよりも」
「何かしら?」
ユキコはフブキに軽く目配せをする。
『準備はいいか』、という合図だ。
――ここまでハミとの
ここからは、フブキ自身に交渉を運んでもらう。
「――今日の私は『
ユキコに示されたフブキは、深呼吸の後に名乗り上げた。
「わ、私は、ヴァルキューレ警察学校の一年、生活安全課の合歓垣フブキです!」
「あら?」
予想外の――全く意にも止めていない相手からの名乗りを受けて、意外そうに眉をあげるハミ。
目の前の――『
品定めをするがごとく、フブキを足先から頭まで見たハミは、とりあえず『試す』ことにする。
「――フブキさん、だったわね?ごめんなさい、あなたの存在をすっかり忘れていたわ。ずっとお話ししてくれなかったから、部屋の
「――っ」
言外に『だんまりのお飾り』と揶揄されたフブキ。
ハミからの拒絶を感じ取って、俯きそうになるが――
「(――いや、この程度でくじけない!)」
一度固めた覚悟はそう簡単には覆らない。
ハミの発言を『なんてことない』と感じているかのように、明るい声で切り出した。
「――お話に応じて下ってありがとうございます。今回は、ハミさんに――グラトニー・ムーブメントにお願いがあって参りました」
決然と自分の意志を述べるフブキの様子に、ハミは微笑む。
どうやらこの相手も――フブキも自分を満足させてくれるらしい。
「いいわ。言ってごらんなさい」
心なしか機嫌をよくしたように見えるハミ。
彼女はフブキの言葉に鷹揚に頷きを返した。
ハミの心境など知る由もないフブキは、どういうわけか先ほどまでの拒絶とは一転、寛容な態度すら見せるハミに内心で困惑を浮かべながらも、自分が伝えるべきことを述べる。
「お願いというのは、ラミニタウンのことについてです」
「ラミニタウンの――?」
「はい、グラトニー・ムーブメントのラミニタウンでの活動を、減らしてもらいたいんです――っ!?」
「――」
突如として向けられる重圧。
フブキは、その重圧を前に縫い付けられたかのように動けなくなる。
その重圧の発生源――ハミは鋭い視線でフブキを睨みつけていた。
「活動を、減らせですって……?どうしてか聞いても?」
「――ぁ、っ!」
掛けられた圧力そのままに――あるいはさらに強めて威圧的に笑い、ハミは問う。
当然、そのような状態でフブキがまともに口を開けるはずもない。
倒れないように必死にその場に踏みとどまるのが精一杯だった。
「――ハミさん」
見かねて横合いから口を挟むことを決めたユキコ。
ハミはその視線の矛先をユキコへと変える。
「あら?今日は
「どうかお怒りを収めていただけませんか?そのように振る舞われては、できる話もできなくなってしまう」
「――?怒り……?」
瞬間、霧散する圧力。
何を言われているのか分かっていない、という様子のハミ。
きょとんとした表情を浮かべ、小首をかしげる様は年相応の少女らしささえ感じさせる。
「おかしなことを言うのね?
「お戯れを。私達の要求が勘気に触れたのは分かります、ですがどうか話を最後まで聞いていただけませんか?」
「――?最初からそのつもりで……」
ユキコの発言に対して、妙にかみ合わない反応を返すハミ。
その様子を、圧力から解放されたフブキは観察していた。
「(どういうこと?さっきまであんなに怒っていたのに……?)」
ユキコと会話するハミの様子からは、圧力を伴う威圧感――フブキの感じた『怒り』は全く見受けられない。
それどころか、逆にハミがユキコの発言と態度に動揺しているようにすら見える。
「(なにかがおかしい。でも一体、何が――)」
フブキは己の感じた違和感の正体へと思考を巡らせ――
【違和感への洞察】
フブキの知性と洞察の合計値を参照しダイスロールで決定
フブキの知性 : 68
フブキの洞察 : 51
合計値 : 119
結果 : 2d100 = 25 + 22 = 47 成功
「(もしかして――)」
フブキはある結論に辿り着き、一つ行動を起こすことにした。
最悪、この結論が的外れで失敗したとしても、自分を支えてくれるユキコがいる。
ダメでもともと、という心持ちでフブキは打って出た。
「あの!」
「……何かしら?」
「フブキちゃん……?」
二人の会話に割って入るように声をあげるフブキ。
そしてフブキは――
「ハミ、さん――いや、『ハミちゃん』って呼んでもいい、かな?」
「――!」
ある意味、無謀とも、蛮勇とも取れる提案をした。
少なくともユキコは、ゲヘナの令嬢相手にあまりにも危険な発言であると考えた。
このフブキの唐突な発言を受けて、咄嗟に自分がカバーしようと動こうとして――
「――ええ!もちろん!
ハミの――予想外の反応を目の当たりにして固まった。
それまでの――どこか底の知れない雰囲気は消え、年相応の――まるで友達ができたことを純粋に喜ぶ少女のような反応。
ユキコの困惑をよそに、フブキは自分の結論が正しかったことを確信した。
「(やっぱり!この子、言動や雰囲気が分かりにくくしているけど――)」
「(普通の女の子だ!)」
<システムメッセージ>
フブキが
【ハミの能力値】
【判定①】 : 知性 : 35 普通
【判定②】 : 倫理 : 79 優秀
【判定③】 : カリスマ : 89 卓越
【判定④】 : 社交 : 18 欠落
「じゃあ、砕けた話し方でもいいかな?」
「ええ、もちろん。フブキの話しやすい喋り方で大丈夫よ」
ハミの正体が『わかりずらいだけの普通の女の子』だと分かってしまえば、フブキに緊張する要素はもうない。
あとは、伝えるべきことをしっかりと伝えればこの交渉は――お話しは成功する。
一方で、思考停止していたユキコはようやく再起動した。
「えっ!?待って、フブキちゃん。ハミさんって、もしかして、そういう――?」
「ユキコ先輩、気付いてなかったの?――ハミちゃんは雰囲気や喋り方がわかりずらいだけで、普通の子だよ?」
フブキとハミのやり取りを見て、遅れて同じ結論に辿り着いたユキコ。
しかし、それならば先ほどの――威圧的、高圧的な態度は一体何だったのか。
「えぇ……?じゃ、じゃあ!最初にフブキちゃんを挑発して試そうとしてたのは!?」
「挑発……?もしかして、
「じょ、ジョーク……?」
「ええ。フブキ、緊張していたでしょう?だからジョークのひとつでも言って場を和ませようと思ったの。ほら、『
そう言って笑うハミ。
ユキコには――フブキにも――笑いどころが分からなかったが、少なくともフブキのことを案じてとった行動だったらしい。
「それなら、さっきの威圧は!?グラトニー・ムーブメントの活動について触れたとき、すごい圧力を出してたじゃん!」
「――そうだったの!?ごめんなさい、そんなつもりはなくて!ちょっと、緊張して驚いた*3だけで……」
しゅんと俯くハミは、本心から申し訳なく思っているらしい。
「ぜ、全部、私の勘違いだった、ってこと!?」
「だからさっきからそう言ってるでしょ、先輩。ハミちゃんは普通の女の子だよ。言葉に裏とか無いと思う」
「裏?というのは、よく分からないけど、
ここまでくれば、もはや疑う余地はない。
ユキコが脳内に作り上げたハミ――扇片手に口元を隠し高笑いする悪役令嬢――そのイメージがガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
ユキコは自分の勘違いを理解し、がっくりと項垂れた。
「あぁ、うぅ……。穴があったら入りたい気分だよ……」
とほほ、と部屋の隅へと引っ込んでしまうユキコ。
何の裏もない少女相手に、交渉術を用いてまで駆け引きをしようとしていたなどとんだ笑い種である。
消沈してしまったユキコを尻目に、フブキは本題に立ち返った。
「えっと、さっきの話の続きなんだけど、グラトニー・ムーブメントは、ラミニタウンで活動してるでしょ?」
「ええ、とてもおいしい料理がたくさんあって、素晴らしい飲食街だと思っているわ」
目を細めるハミ。
彼女はシラトリ区に居を移してからというもの、ラミニタウンに足繁く通い数々の料理を満喫していた。
やはりD.U.と言うだけあって、各学園自治区の有名料理店が居並ぶラミニタウンはハミの食欲を大いに満たした。
各店で提供される料理のレベルも高く、種類、質ともにキヴォトスでも有数のグルメ街だとハミは高く評価している。
「うん、いい場所だよね。私もそう思う」
フブキもハミの言葉にうなずき同意を示す。
新しい『お友達』から賛意を得られたことで、ハミの表情が明るくなるが――
「――ドーナッツが食べられれば、もっとそう思えたのに」
「――ぇ?」
フブキの言葉に、凍り付いた。
ハミにとっては楽しい思い出しか存在しない場所。
フブキにとっては、違うのだろうか。
フブキの表情にはわずかに悲しみの色が見て取れた。
「ハミちゃんは、今のラミニタウンで起きてること――分かってる?」
「何が、起きてるの……?」
深刻な様子で語るフブキに、ハミは不安そうに聞き返す。
一体、ラミニタウンに何があったというのか。
「そっか、ハミちゃんは知らないんだね」
ハミのその様子に、フブキは少し安堵した――ラミニタウンの状況はハミが故意に起こしたものではないようだ。
それならば、しっかりと問題点を伝えることで協力を引き出すこともできるはずだ。
「ラミニタウンでは、深刻な食品の不足が起きてるんだよ」
「食品の、不足……」
「そのせいでお店が休業しちゃってて、お客さんに食事を提供できない状況が続いてるんだ」
フブキが思い返すのはどの店も戸口を閉ざし、静まり返った街。
あの状態では料理を目的にやって来た来訪者がいても、その望みが満たされることはないだろう。
――フブキ自身がドーナッツを食べられなかったように。
「私もね、おいしいドーナッツがあるって聞いてラミニタウンまで行ってみたんだけど、目当てのお店も閉まっちゃってて食べられなかったんだよね……」
「そう、だったのね……」
店が休業しなければならないほどの食品不足。
ハミは、その状況を招いたのが自分たち――グラトニー・ムーブメントであると察した。
ラミニタウンがそれほど深刻な状況にあると知り、表情を曇らせる。
思い出すだけでも唾液が溢れるほどの料理の数々――それが食べられない人がいる。
食べたい料理を食べられない――それは、一体どれほどの苦痛だろうか。
「……フブキ、あなたは私達の掲げる理念を知ってる?」
「理念?」
「ええ、『
おもむろに語られるハミの――グラトニー・ムーブメントの掲げる理念。
『食べたいだけ食べる』、それはシンプルで、欲望に忠実な在り方。
「私達は、グラトニー・ムーブメントはその理念のもと活動を行ってきた。もともとはもっと小さな集まりで、メンバーだって5人しかいなかったのだけど――活動を続けるうちに理解者が、賛同者が増えていって、今の大きな組織にまで成長した」
「――私達は正しいことをしてるって、そう思っていたわ。だってこんなに多くの人たちが共感し、賛同してくれたんだもの。私たちは欲望の赴くまま、求めるままに好きなだけ食べる。そうすることで、料理を提供するお店は儲かるし、私達は食欲を満たすことが出来る――誰も損をしない、素晴らしい活動なんだって……そう思っていたの」
あるいはそれは、ハミの掲げる『正義』とも言えた。
欲望に忠実に生きることで、自分にも、その周囲にも利を与える。
それが『正しいこと』なのだ、と信じて活動を続けてきた。
しかし――
「――でも、違ったのね。
「食欲を肯定し、それを満たす喜びを追求する私達が――誰かのそれを奪っていたなんて……これでは本末転倒ね……私達の在り方は、間違っていたの……?」
自らの過ちを悟り、項垂れるハミ。
震える声で、あるいは懺悔のようにも聞こえる言葉は、ハミの内心の強い後悔の色を表していた。
「――私は、全部が間違いだったわけじゃないと思うよ」
「グラトニー・ムーブメントは、たくさんの人が支えているでしょ?本当に何もかも間違ってたら、こんなにたくさんの人には支持されないよ」
フブキはハミの語るそれまでの活動、その全てが否定されるべきであるとは思わない。
グラトニー・ムーブメントの在り方を支持する人たちは決して少なくない。
ハミの示した理念は、そう言った人たちを今まで導いてきたのだ。
だから――
「間違いに気づくことが出来たなら、改めていけばいいんだ。だから――ハミちゃん、協力してくれる?」
間違いは正せばいい――フブキはそう言って手を差し伸べた。
――数拍の後、小さくかぶりを振ってハミは顔を上げると、決然と告げた。
「フブキ、あなたの言いたいことは分かったわ。私達の間違いも。そのうえで、
ハミの決意に満ちた瞳を見て――フブキは今までに感じたことのない高揚感、達成感のようなものを感じた。
「(届いたんだ、私の言葉が……!)」
交渉の席の直前で、いきなり主役を務めることになったフブキ。
内面でくすぶる自分自身への不安を『
だが、フブキは成し遂げた。
初めて背負った大役を、交渉の席で相手からの協力を引き出すという仕事を――見事にこなして見せたのだ。
心に立ち込めていた雲が晴れたような、不思議な感覚。
フブキは、知らず自分を縛っていた自己否定の檻から――一歩外へと踏み出した。
「うん!ハミちゃん、一緒に解決策を考えよう!きっと、私達なら上手くやれるはずだよ!」
普段ならば面倒なだけの仕事が、少しだけ、楽しく感じた。
<システムメッセージ>
交渉が成功しました。
追加でトラブルが発生するかを判定します。
判定には今回のシナリオの難度を参照し、ダイスロールで決定します。
【トラブル判定】
シナリオ難度 : 54 普通
結果 : 1d100 = 48 トラブル発生
<システムメッセージ>
トラブルの発生が確定しました。
ユキコがトラブルを事前に察知できたかを判定します。
【ユキコの察知】
ユキコの情報 : 97
結果 : 1d100 = 76 成功
和やかに、しかし情熱を持って進んでいくフブキとハミの議論。
それを部屋の隅からユキコは眺めていた。
「(良かったね、フブキちゃん。君にだって何かを成し遂げる力はあるんだ!今回の体験が、フブキちゃんの自信に繋がってくれるといいんだけれど……)」
後方腕組先輩面である。
もはや自分のフォローが必要な局面は存在しないと確信して、完全に観戦モードに入っていた。
「(何はともあれ、これでフブキちゃんの実績ができる。そうすれば、フブキちゃんへの非難の声も小さくなるはず)」
かわいい後輩が、口さがない輩の嘲笑によって傷つく――それはユキコにとって許しがたい事だ。
しかし、そうした非難や嘲笑の根拠に普段のフブキの素行不良があるため、表立って止めるというのも難しかった。
そこでユキコが考えたのが、周りを黙らせるほどの実績作りである。
フブキの不真面目な態度を改めるのは、一筋縄ではいかないと予想できた。
ならば、たとえ不真面目でも周囲が納得する程の何かをフブキが持っていれば良い。
もちろんユキコも最初から難事件や大騒動にフブキをぶつけるつもりなど無い。
最初は小さな案件から、一つずつ実績を積み上げていく――そのつもりだった。
その予定で、今回フブキを連れ出したのだ。
しかし、いざやって来てみるとラミニタウンではユキコの想像を超えた――ラミニタウン全体が機能不全を起こすという大問題が起こっていた。
当初の予定――ちょっとした武装集団の鎮圧――とは訳が違う。
下手を打てばラミニタウンはもとより、シラトリ区全体にまで問題が波及しかねない程の重大問題。
その解決を、果たしてフブキに任せても大丈夫だろうか――ユキコは悩み、しかし信じることにした。
――結果はユキコの期待以上。
フブキの根本的なコンプレックスの解消にこそ至らなかったが、一番重要な実績作りの点では文句のつけようがない。
これだけの規模の問題を解決に導いた立役者――その評価が得られれば、周囲もフブキへの認識を改めるだろう。
「(これであとはフブキちゃんの仕事が終わったら報告して終わり――)」
そこで、ユキコの視界――窓の外、鐘崎港の方角に黒煙が上がるのが見えた。
――そしてジャケットの内で通知を知らせるバイブレーション。
私用の携帯端末は電源を切っている――鳴ったのは仕事用の端末だ。
ユキコは端末を取り出すと、そこに映る情報に素早く目を通す。
ユキコが懇意にしている『情報屋』からの情報。
今まさに、シラトリ区金崎港方面で騒ぎを起こしている集団の姿がそこには映っていた。
「(これは――)」
<システムメッセージ>
ユキコがトラブルの察知に成功しました。
ユキコの行動を決定します。
行動決定のために、ユキコが相手を知っているかを判定します。
【ユキコの認知】
ユキコの情報 : 97
結果 : 1d100 = 11 知っている
<システムメッセージ>
次に相手勢力を決定します。
【相手勢力】
現れたのは、
1 : 美食研究会
2 : レッドウィンターのデモ部隊
3 : ヘルメット団
4 : 廃遊園地の謎の存在
結果 : 3 ヘルメット団
ユキコはその集団に見覚えがあった――というより、まさにユキコが事前に警戒していた集団だった。
「(――パクパクヘルメット団!)」
キヴォトス各地で飲食店をターゲットに略奪行為を繰り返している要注意集団である。
さらに『情報屋』によると、その目標はここ――グラトニー・ムーブメント本部ビルだ。
――不味いことになった、とユキコは顔をしかめる。
事前に集めた情報から、パクパクヘルメット団がシラトリ区に来ている事は知っていた。
ラミニタウンの現状が改善されなければ、いずれグラトニー・ムーブメントに対して攻撃的な行動をとる勢力が現れることも予想できた。
しかし、いくら彼女たち――パクパクヘルメット団が無法者とは言え、これほど早く強硬手段に出るとは――さすがのユキコも予想外である。
「(さて、どうするかな――)」
ユキコは、議論に集中している二人をチラリと見やると心を決めた。
「(二人を巻き込む必要は無い――それに、ちょっとくらい先輩らしいところを見せなきゃね。ここは一つ、暇を持て余してる私が動きますか)」
そのまま二人に違和感を持たれないように自然に動く。
「あー、ごめんフブキちゃん。私、急用を思い出しちゃって……埋め合わせは後でするからさ、ここは任せたよ。――ハミさんも、中座する無礼をお許しください。なにぶん外せない用事でして」
「えぇー、今から?……しょうがないなぁ。まあ?確かにユキコ先輩が居なくても大丈夫だし?いいよ、行ってくれば?」
「流石は『
「ええ、その機会があれば、今度はゆっくりとお茶でも楽しみながらお話ししましょう――じゃあ、行ってくるね!」
二人に背を見送られ、会議室を後にする。
途中、すれ違った黒ジャケットのアンドロイド――おそらくはハミの護衛――に、小声で一応警戒しておくように伝え、足早にビルを出た。
『あー、こちらヴァルキューレ
どこか間延びした声。
――まあ、暇な平常業務ではこんなものだろう、とユキコは自分の要件を伝える。
「――こちらはヴァルキューレ本部付き、生安所属の輝木ユキコです。中規模の武装集団との戦闘が予想されます。場所は鐘崎港から第三業務地区へと続く幹線道路沿い。至急応援部隊の派遣を」
『てるき……?ってあのユキコさん!?わ、分かりました!直ちに部隊を派遣します!』
ユキコの名前を聞いて、電話口の気だるげだった声音に力が入る。
一も二もなくユキコの要請を受諾した。
「……あはは。有名だと、こういう時に説明の手間が省けて便利だよね」
ユキコは携帯をジャケットにしまい込むと、軽く首を回す。
「さーて、やりますか――」
交渉も、情報処理も得意だ。
突出したその二つの能力だけを見れば、ユキコは裏方の業務が適しているようにも見える。
しかし――
「――久しぶりの『運動』だし、楽しみだ――!」
ユキコは獰猛に頬を吊り上げた。
さながら肉食獣を思わせる笑みを浮かべる様は、普段の穏やかな姿とは全く異なる印象を抱かせるだろう。
――彼女はこのキヴォトスにおいて、まぎれもない『強者』である。
二丁の愛銃を巧みに操り、持ち前の高度な情報能力と、交渉によって鍛えられた洞察力とによって成立する『短期未来予測』――常に相手の一歩先の手を打ち、相手に選択肢を与えない戦い方はユキコの必勝スタイルだ。
しかし、ユキコは生活安全局――最も『平和』な部署に在籍しているため、なかなかそれらを存分に振るう機会に恵まれずにいた。
――そこに、のこのことやって来た哀れな『生贄』。
もともとの計画でフブキに任せる予定だった相手、『パクパクヘルメット団』。
練度は普通、隠し玉も無し――ただ人数だけが少し多い。
一人一人では逆立ちしてもユキコに届くことのない雑兵だが、数が集まれば『もしも』があるかもしれない。
「――少しは楽しませてね?」
日常ではなかなか感じることのできないスリルを求めて――。
ユキコは足取り軽く、パクパクヘルメット団の集結する地点へと向かっていった。