絶対にバレてはいけない大賢者の弟子(書籍版2巻発売中、書籍版タイトル:大賢者の弟子だったおっさん、最強の実力を隠して魔術講師になる~静かに暮らしていたいのに、世界中が俺を探し求めている件~)   作:星野純三

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第40話

 行方不明になった商人は、闇市のとある屋敷の地下から、生きたまま発見された。

 ただし、発狂した状態で。

 

 頭の中を覗く魔法を使われたのだろう、と推察される。

 

 屋敷はとある貴族の名義であったが、当の貴族は無関係を主張していた。

 何重にも貸し手から貸し手に渡っていた、厄介な物件のひとつであった様子である。

 

 なお最近、屋敷を使っていた者たちは全員が失踪していて、この者たちの行方はようとして知れなかった。

 王家は管理不行き届きを理由として当該貴族に厳しい処分を言い渡した。

 

 これ幸いとばかりに、闇市を牛耳る王族と貴族の利権に手を入れるきっかけとしたとのこと。

 遠くない未来に闇市は解体され、かわりにギルドが手を出せない市場、仮称を楽市として生まれ変わる予定であるとのことだった。

 

 そのあたりは、おれにとってどうでもいい。

 何故あの商人は殺されたのか、いったい誰が動いたのか、問題はそこだ。

 

「クルカニウム鉱石、とあなたが名づけた石には、わたくしたちが想像していた以上の何かがある様子です。強い危機感を持って動く必要がありそうですね」

 

 姫さまは、「故に、軽挙妄動は慎むように」とおれたちに強く警告してきた。

 メイス教授が憤懣やるかたないといった様子で閉じこもった研究室から、槌鉾を振りまわす音が夜遅くまで響いていたという。

 

 

        ◇ ※ ◇

 

 

 数日後、おれは東の国に来ていた。

 ふたりの学生を連れての三人旅である。

 

 メリルって子とクルンカって子なんですけどね。

 あのさあ、姫さまさあ……。

 

「あなたの忍耐も、そろそろ限界のようでしたので。勝手に出国されるくらいなら、わたくしの目の届くところにいていただいた方がまだよろしい」

 

 いまは髪を黒に染め、冒険者の格好をした姫さま改め学生のメリルちゃんが、しれっとそう語る。

 ソンナコトナイヨ。

 

 クルンカも「先生を放っておけません! それにわたし、弟子! ですから!」と胸を張っていた。

 

「えー、メリルくんは、どうやってまわりを説得したんですか」

「いまのわたくしは一介の学生、気軽に呼び捨てしていただいて結構ですよ。父には、想定外の事態に対応できる人材を送り込む必要があり、それがわたくしである、とプレゼンしただけです」

「プレゼン、ねえ」

「学院で習った手法ですので」

 

 学院では研究内容を効率よく披露する訓練を、学生に対して集中的に行う。

 その手法は、王宮においても遺憾なく威力を発揮した様子であった。

 

 頭のいい人はどんな知識も応用してしまうんだなあ。

 知識と知恵の暴力で殴られた王さまには、ご愁傷様、と声をかけてあげたい。

 

「でも、いきなり王女さまが消えたらマズいのでは?」

「闇市に強引な介入をした一件で、わたくしは父上からたいへんなお叱りを受けまして。しばらく謹慎ということになっております故に」

 

 あー、あの一件の強制捜査、結局、かなり問題になったのか。

 それでも誘拐された商人の行方を突き止め、その結果として闇市のヤバげなアレコレが白日のもとに晒されてしまった。

 

 そりゃー、利権を持っていた人たちはお怒りだろう。

 形だけでも、姫さまが謹慎する、ということになるのは落としどころとして納得ではある。

 

 だからって出国していいわけがないのでは?

 それ故にこその、メリルちゃん十五歳という設定なのはわかるけども。

 

 そんなわけで、やってきた東の国であるが。

 目的地である南の山脈、その近くにある、とある町に入ってみたところ、だいぶ違和感を覚えてしまった。

 

「どうやら、だいぶ景気が悪いようですね」

 

 メリルの言葉が、おおむねおれたちの感想の総括である。

 行き交う人々の表情は暗く、旅人は少なく、店に並ぶ商品の数は少なく、宿代は高い。

 

 傭兵の募集だけはやたらと多いのが、余計に闇を感じる。

 ためしに冒険者ギルドに赴いて、話を聞いてみた。

 

 受付のいかつい禿頭の中年男は、元気のない様子でおれを見て、「なるべく早く他の国に行った方がいい」と親切なアドバイスをしてくれたほどである。

 

「特に、若いお嬢ちゃんたちを連れてるヤツはな。娘さんかい?」

「仲間の娘を預かっているんだ」

「なるほど、な。なら、なおさらだ。あんたも仲間に二度と顔向けできないようなことにゃ、なりたくないだろう」

 

 ずいぶんと不穏な話だな。

 

「理由を聞かせてくれないか」

「山の民の略奪部隊さ。あいつらの土地で、秋の収穫がよほど悪かったのか、ずいぶんと暴れている。あいつらに襲われた村は根こそぎ持っていかれた。穀物も、女も」

 

 おれと姫さまたちは、互いに顔を見合わせた。

 

「おれたちは西から街道沿いに移動してきたが、その間に通過した村ではそんな話は聞いていない」

「状況が悪化したのはここ数日だからな。東の方じゃだいぶやられたし、この町より南は全滅状態だ」

「領主や国は動かないのか?」

「この一帯を治めるお方の軍勢は、山の民とやりあって壊滅的な被害を受けたよ。いまは、ここより北にある砦に引きこもっている。国の応援が来るのはまだ少し先になりそうだ。で、この町は見捨てられたってわけだ」

「間もなく、この町への山の民の襲撃が予想される、ということでしょうか」

 

 これまで黙って話を聞いていた姫さまが口を挟んだ。

 ギルドの男は、姫さまの顔を一瞥して、「ああ、数日中に来るようだ」とうなずく。

 

「だから、女と子どもだけでも北に逃がすことになってな。護衛の傭兵を雇っている。そっちに登録するなら便宜を図るぜ」

 

 少し考えさせて欲しい、と告げて、おれたちはその場を辞した。

 高めの宿を取って、一室に引きこもり、結界を張って音を遮断する。

 

「意見を聞きたい」

「あの、山の民についてですけど、さっき宿の人に少し聞いてきました!」

 

 しゅぱっと手を挙げたのはクルンカである。

 おれが手続きをしている間に、宿の者と雑談していたようだ。

 

 彼女と出張するのはこれで三度目なわけだけど、とにかくコミュニケーション能力が高いんだよな……。

 おれが思いもよらぬところから情報を取ってくる。

 

「獣の顔をしたヒトで、不思議な魔法を使って、山の魔物を操って襲ってくるって話です。領主さまの軍と戦った山の民は二十人くらいだったらしいですけど、大型の魔物が何体もいて、剣も弓も魔法も通らなかったって」

「領主の軍勢はどれくらいの規模だったのでしょうか」

「最初に何人いたかはちょっとわからないんですけど、生き残った十人くらいが、ぼろぼろの状態でこの町を通っていった、って話です!」

 

 まあ、他国と隣接しているわけではないこんな地方の領主である、兵を五十人も抱えていれば上等だろう。

 常備軍、とにかくカネがかかるって話だからな……。

 

 でも常備軍でなければ全員が肉体強化魔法を使える均一で高度な戦闘能力なんて持ちえないし、充分な魔道具も揃えられない。

 だから、近年はどこの国も常備軍の確保に躍起になっている。

 

 そんな部隊が壊滅したんだから、そりゃ砦に引き籠もるのも無理はない話だ。

 そもそも論として、大型の魔物を相手にする準備ができてなかったんじゃないか、って気がするんだけど……。

 

 以前姫さまが、森の奥の存在するかしないかわからない魔物に対して異様なほど神経質になっていたのも、そのあたりと繋がる話である。

 森や山の中といった複雑な地形で当たるならともかく、何の障害物もない平原で戦う大型の魔物は、策もなしにヒトが相手取れるような敵ではない。

 

 以前から山の民が魔物を使役すると知っていたなら、たぶんこの地の領主はその対策をしていたと思うんだけど……。

 

「山の民は、ここ十年くらいおとなしかったそうです。少しですけど、交易とかもしていたそうで……。だから、いまの状態はびっくりしている、って。まだ現実味がない、とも言ってました」

「事態の急変に感情が追いつかず、危機感を抱けないのですね。無理もありません。とんでもない時期にやってきてしまいましたね」

 

 おれの方を見て、姫さまが言う。

 これ、おれが悪いのか……?

 

 いや、このタイミングでこの町にやって来たのは、全面的におれのせいだったわ。

 でもなあ、おれひとりなら何とでも切り抜けてみせるが、姫さまとクルンカを守りながら、となると……。

 

 やはり、まずはこのふたりを北に逃がすことを優先するべきか?

 そんなことを考えていたところ、部屋のまわりに張り巡らせた結界に反応があった。

 

「わたくしのお客さまかもしれません。通していただけますか」

「あー、以前におっしゃっていた現地協力者ですか」

 

 結界と沈黙の帳を解除して、部屋の扉を開ける。

 メイド服を着た中年の女性が、姫さまを見て、うやうやしく頭を下げた。

 

 




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