絶対にバレてはいけない大賢者の弟子(書籍版2巻発売中、書籍版タイトル:大賢者の弟子だったおっさん、最強の実力を隠して魔術講師になる~静かに暮らしていたいのに、世界中が俺を探し求めている件~)   作:星野純三

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第49話

 無事に鳩が宿に戻ったところで、おれは魔法を切る。

 視界がおれ自身のものに戻る。

 

 ふう、と息を吐き、目を閉じる。

 ああ、ずっと目を凝らしていたからひどく疲れた。

 

「あ、先生、大丈夫ですか? はい、お水です」

「それで、偵察の結果はいかがでしたか」

「ありがとう、クルンカ。姫さま、おそらく姫さまも予想した通り、山の民です。足跡は紅王獅子か闇皇魔狼のものでしょう」

 

 林の中でキャンプしている、という情報と共に伝える。

 あまり木々が密ではないから、上空からだと簡単にわかったことも。

 

 ただ、さすがに歩いて探していたら、キャンプを発見するのは難しかったかもしれない。

 彼ら山の民としては、充分に隠れたつもりなのだろう。

 

「方角的に、ここから北西ですか」

「ええ。おれたちがこれから通る道の近くになりますね」

「待ち伏せ、ですか? 我々が狙われていると?」

「そこまではわかりませんが、彼らも隣の国から来た一行のことは、情報源によってある程度知っているはずです。そもそも、あの町で我々が襲われたわけですから……」

「彼らの息がかかった者は、捕まえた内通者だけではなかった、と」

「断言はできませんがね」

 

 でも、山の民がこの国に張り巡らせた網はけっこう広そうだったんだよなあ。

 彼らの計画は、だいたい上手くいっていた。

 

 そこにおれたちがやってきて、めちゃくちゃにしたわけだ。

 いや、別にめちゃくちゃにするために来たわけじゃないんだけど。

 

 むしろおれたちは、巻き込まれた側なんだけど。

 でも向こうの視点で考えると、そういうことになる。

 

 勝手にやってきて、勝手に暴れて、自分たちの大切なものを軒並み破壊していった、最悪の敵。

 それがおれたち、ということになるのだ。

 

 うーん、これはもう、どうしようもない。

 

「さて、姫さま。待ち伏せ場所はわかりました。そのあたりを避けて移動すれば、無事に帰国できます。どうしますか」

 

 この場合、さすがに彼女の意思を優先するべきだろう。

 

「待ち伏せを避けて帰国した場合のデメリットは?」

「この村が襲われる可能性はありますね。あと山の民が何らかの手段でおれたちの動きを捕捉していた場合、追いかけてくる可能性が。背後から不意を打たれる恐れがあります。それと……」

「まだ、何か」

「襲ってきた奴らを返り討ちにすれば、彼らの持っているクルカニウム鉱石を奪えるなーと」

「先生、欲望全開です!」

 

 おっと、いけねぇ。

 だって、おれにとっては今回の旅、あまり収穫がないんだもん!

 

 襲ってきた山の民からクルカニウム鉱石を奪い取れば、少なくとも研究用の素材が手に入るんだよ?

 

「襲撃者から身ぐるみ剥ぐという発想、実に冒険者ですね」

「姫さまに褒められて、おれも嬉しいですよ。照れますね」

「褒めておりません」

 

 はっはっは、心はいつも現役冒険者なんで。

 まあ、冒険者時代の仲間からは「おまえ冒険者に向いてない」と言われ続けたわけだけども。

 

「こちらから襲撃をかけた方が、かえって安全ってことですよね、先生! わたしの準備はできています!」

「軍事的にも、敵の場所がわかっているならそれが常識だ」

「ですがそれは、勝てる場合だけでしょう?」

 

 それはもちろん、姫さまのおっしゃる通り。

 確実に勝てるような作戦があるなら、ということになる。

 

「先生のことですから、勝つ方法は考えてあるんじゃないですか?」

「相手の手の内は、ここまでの戦いでだいたいわかったからな」

 

 この地の領主が初戦で山の民に破れた理由も、情報不足が大きなウェイトを占めている。

 きちんと情報を揃えた上で適切な対処をすれば、そう難敵というわけではない。

 

 まあ、当然のことながら彼らの抱える魔物たちがいちばん厄介なわけだけど。

 今回は大型を囲む中型がたったの三体で、大型も二体だけなのだから、対処のしようはある。

 

 というか山の民の数も少なかったし、これ、仲間割れした?

 で、山に戻った組と、あくまでもおれたちを襲撃しようって組に分かれた?

 

 そうだとすれば、いろいろと納得がいく。

 何といっても、おれたちを攻撃したところで、彼らには何の得もないのだから。

 

 そもそも、おれたちはこの国から出ていこうとしているわけだからね。

 邪魔者が勝手に出ていってくれるのを邪魔するって、これはもう損得で考えていない、としか考えられないのである。

 

 それでもなお、やるってことは……。

 怨恨、だよなあ。

 

 恨まれる理由については前述の通りで、あまりにも明白すぎる。

 あと別の理由として、何か彼らの宗教的な物事であそこにいるってのも考えたんだけど……。

 

 これについては、正直、彼らの宗教がよくわからないからひとまず置いておく。

 いずれにしても、あそこにいるのは確実に、この国とおれたちに敵対的な、いわば強硬派だ。

 

 こいつらを潰せば、あるいはこの国と山の民の間で何らかの協定を結べる可能性がある。

 

「で、具体的な作戦ですが……」

 

 

        ◇ ※ ◇

 

 

 紅王獅子は、燃えるように赤い毛並が特徴の、獅子の魔物である。

 身の丈が馬の倍ほどもあり、駆ける速さは、短時間であれば地上の魔物でもトップクラス。

 

 全身を赤熱化する能力を持ち、触れたあらゆるものを焼き尽くす。

 何よりも優れているのは踏破性であり、ちょっとした垂直の壁くらいならばいとも容易く登っていく。

 

 先日の戦いでも、町を囲む壁を何度も登って、領主の兵をさんざんに叩いていた。

 精鋭たちがうまく連係して捌かなければ、きっとたいへんな被害が出ていたことだろう。

 

 いやーあれをしっかりと凌げるの、この国の兵は本当に練度が高い。

 おれだって、防衛戦でこいつとまともにやり合うのなんてゴメンである。

 

 ヒトの反射神経で対応できる相手じゃないのだ。

 ちなみに嗅覚と聴覚にも優れており、こいつが警戒していたら奇襲はほとんど効かないと言っていい、実に厄介な相手である。

 

 闇皇魔狼は、紅王獅子より更にひとまわり大きな、六本脚の狼である。

 全身が黒い剛毛に覆われ、赤く輝く双眸を覗き込むだけで全身に怖気が走る。

 

 これは実際に、その視線が魔力を帯びているからだ。

 専門的なことを言えば少し違うのだけど、大雑把に言えば目を用いて魔法を使っているということである。

 

 一般的には、魔眼と呼ばれる。

 迂闊に目を覗き込むと身体が麻痺したり、悪くすれば心臓が止まったりする。

 

 そうでなくても、何らかの魔道具による防護がなければ動きが鈍って戦いにならなくなったりする。

 非常に危険なタイプの特殊能力だ。

 

 闇皇魔狼の魔眼は、先日の戦いでも壁の上の兵をおおいに苦しめた。

 彼らもこの魔物の特性は知っていたから、直接、目を見ないようにしたりで対策していたのだが……。

 

 この魔物は、普通に身体能力も高いし、草原を駆けるスピードは紅王獅子と比べてわずかに劣る程度。

 その圧倒的なパワーでもって、隙あらば壁の上によじ登ろうとしていた。

 

 そんな相手を見下ろしながら、しかし目を見ずに戦うなど至難の業である。

 結局、もっとも腕が立つとおぼしき兵士の隊長が、遠距離から徹底的に嫌がらせの魔法を放つことで、何とか均衡を保っていた。

 

 いやーほんと、あの領主は兵に恵まれていたと思うよ。

 そんな領主でも初戦では大敗を喫してしまうのだから、戦というものは難しい。

 

 そして、次の戦いではしっかり対策していたのだから、たいしたものである。

 まあ、おれもちょっと意見を出したりしたわけではあるが……。

 

 それはそれとして、こいつらが恐ろしい敵だったのは、主に固定目標に対して攻撃してきたからだ。

 この二体の機動力と膂力、特殊能力は、攻勢でこそその真価を発揮する。

 

 山の民もそれを知っていたからこそ、常にイニシアチブを取り、相手を守りに専念させるよう動いていた。

 このあたりは、山の中で彼らがどういう戦いをしてきたか、ということでもある。

 

 たぶん、彼らの本拠地には、もっと守りに適した魔物もいるのだろうが……。

 山の民は、今回の遠征に際して、それらを持ってこなかった。

 

 自分たちの本拠地をカラにするわけにはいかない、という理由もおおきいだろう。

 それ以上に、彼らの指揮官が攻勢をこそ得意とすることの証ではないだろうか。

 

 そんなわけで、今度はこちらがイニシアチブを取る。

 奴らはおれたちに奇襲を仕掛けたいだろうが、その前にこちらから攻めさせて貰う。

 

 おれとクルンカは、深夜、林の中にある山の民の野営地の近くに潜んでいた。

 今回、姫さまはひとりで留守番だ。

 

 おれとしては、もともとひとりでやるつもりだったんだけどね。

 姫さまが、どうしてもクルンカを連れていくよう求めたのである。

 

「クルンカの能力も使いようです。あなたなら、上手く扱えるでしょう? 我々が無事に国に戻るには、どうしてもあなたのちからが必要なのです」

 

 そう言われてしまっては、仕方がない。

 幸いにして、彼らも今夜、村を襲う様子ではなかった。

 

 別動隊がいるとも思えない以上、姫さまを宿にひとり置いてきても、特に問題はないだろう。

 

「わたしが光ったら、お邪魔ですよね。わたし、先生のそばでいいんですか」

 

 クルンカはしきりに、魔法を使うとぴかぴか輝くという自分の特徴のことを気にしていた。

 たしかに、今日は月も出ていないこの暗闇だ、彼女が輝けば、ひどく目立つだろう。

 

 だがそれは、こちらが守勢でこそ問題になるもの。

 攻勢においては、もともとこちらが相手の鼻づらを掴んで引っ張りまわすのだから、たいしたデメリットにはなりえない。

 

「練習してきたアレも使っていいぞ。全力でいけ」

「は、はい、先生!」

 

 そういうわけで、おれたちは闇の中、こっそりと動き出す。

 さて、相手が期待通りに動いてくれればいいが……。

 

 




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