絶対にバレてはいけない大賢者の弟子(書籍版2巻発売中、書籍版タイトル:大賢者の弟子だったおっさん、最強の実力を隠して魔術講師になる~静かに暮らしていたいのに、世界中が俺を探し求めている件~) 作:星野純三
よろしければお手に取ってみてください。
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春の終わりごろ。
おれはクルンカを伴い、姫さまに誘われた乗馬披露会に顔を出していた。
王都からしばし離れた、周囲を人払いした草原の一角、四方を広く天幕に覆われた一帯にて。
招待された観客、およそ百人ほどを前に、四頭の大型の馬が引き出されてくる。
馬は荒々しく身をゆさぶる。
だがその手綱を引く華奢な者たちは、魔力で五体を強化し、さらなるちからで馬の動きを制すると、手慣れた様子でその鞍に跳び乗った。
馬たちは、すんとおとなしくなるも……。
尻尾をしきりに振って、落ち着かない様子だ。
大陸中央の大国から輸入した馬を品種改良して産まれた個体であるとのことだが、騎馬としてはまだ発展途上の様子だ。
それを乗り手のちからで強引にねじ伏せている感じである。
乗馬。
その大陸における一般的な認識は、魔法が使えぬ者が馬に乗り機動力の不足を補う、というものだ。
つまり乗馬とは、魔法を使える者たちにとって、無駄。
一部の国の貴族にとっては、下賤な行為とみなされることすらあるものであった。
それはそれとして、国によっては乗馬できる兵を集めた騎兵部隊みたいなのも組織されていたりするんだけどね。
平民が徒歩で戦ったところで、魔法を使える兵士が相手では壁にすらなれない。
だが鍛えられた騎兵ならば、少なくとも機動力では対抗できる。
中央の国々においては、わりとありふれた運用であった。
しかし辺境では、事情が異なる。
この国の兵士は、その全員が魔法を使えるからだ。
それどころがこの国に住む者の大半は、多少なりとも魔法が使えるのだから、中央とは前提が異なってくる。
故に、乗馬という習慣は、一部の好事家を除けば存在せず……。
まあだからこそ、熱狂的な好事家が存在することはおれも知っていたのだけれど。
この学院においては、また少し話が変わる。
すなわち、魔法を使える兵士が馬を強化して、超騎兵をつくれないか、という研究があったりするのだ。
今日は、その超騎兵のために産み出された馬による乗馬会なのであった。
のだ、が……。
「先生」
「なんだ、クルンカ」
「いろいろと無理がありませんか、これ」
招待席でおれの右隣に座るクルンカが、おれと姫さまにしか聞こえないくらいの声で囁く。
気づいてしまったか、我が弟子よ。
ちなみに右隣には学院の生徒の姿で姫さまが座っていたりする。
「騎手が馬に魔力を流し続けていますけど……これ、めちゃくちゃ疲れるんじゃ……」
「平然とした様子を保っておりますが、だいぶお疲れのようですね」
姫さまが、そう返す。
蒼いその双眸はまっすぐ騎兵を見つめている。
うん、姫さまは、嘘とか一発で見抜くタイプだからね……。
おれとクルンカは、騎手から馬に流れる魔力の量とか見て判断しているわけだけど、彼女は騎手の顔を見て判断したわけだ。
「ここまでして馬を運用する必要、ありますか?」
クルンカの手厳しい言葉に、おれは少し考えてみる。
うーん、そうだなあ。
「あの馬はあくまでも練習、技術も発展途上ということなら」
「でもあの馬、超騎兵のために品種改良されているんですよね」
「生き物の品種改良にはとても時間がかかる。最終的には、馬の方でも魔法を使って騎手を助ける、ってことになっている」
クルンカが、目を丸くする。
「馬が魔法を!? できるんですか?」
「魔物が魔法を使うんだ、馬が使えてもおかしくない、と計画書にはあった」
微妙な表現に、クルンカが怪訝そうな顔になる。
「先生、それ信じてます?」
ジト目になっておれをみあげる、賢明な我が弟子。
うん、いいところに気づいたね。
「可能性はゼロじゃない」
「それってほとんど見込みがないときの言いまわしだって、最近理解しました!」
うん、そうなんだよね……。
この計画の一番の問題は、その実現性がひどく低いということなんだ。
とはいえ、まったく成果が上がっていないというわけではない。
おれたちの前を通り過ぎる騎兵は、短時間ながら鍛え上げられた一流の兵士をはるかにしのぐ速度でもって風を起こし、背後に竜巻すら残して草原を駆け抜ける。
わずかな間のこととはいえ、あれだけのことが集団でできるなら、指揮官のアイデア次第で誰もみたこともないような戦法を披露できるかもしれない。
まあ、それもすぐに対策されるだろうけど……。
しかし、ただ一度でも戦場に勝利をもたらせるなら、この国のような小国にとっては意味がある。
去年の春の戦いとか、まさにそうだったからね。
南の国は、未だにこの国に対して敵意を剥き出しにしている。
だからといって予算が無限にあるわけでもなく、出資者のひとりである姫さまが演習場を見る目は厳しい。
うーん、これはちょっと来季の予算は無理かなー。
この研究に関しては、王家以外に軍からも予算が出ている。
軍の人たちは姫さまの更に向こう側に三人ほど座っていて……。
腕組みして唸っている彼らの視線も、やはり厳しい。
今度は馬上での弓術が始まって、馬の機動力を生かした弓技により、高速移動しながら遠くの的に次々と命中させていた。
これ、弓手の技量は本当にすさまじいな。
知り合いの狩人でも、ここまでの弓手はほとんどいない。
ただ……まあ……揺れる馬の上で弓を射るこの戦法、集団運用できるほどの乗り手を集められるのか?
全体的に、個人の技量が凄すぎて参考にならないんじゃ……。
いや、これだけの乗り手を集めたのはすごいと思うんだけど……。
「馬のかわりになる魔物を連れてきて、調教するんじゃ駄目なんでしょうか、先生」
「魔物を飼い慣らすのは非常に難しいと言われている。実際に成功した国はないのが現状なんだ」
魔物はえてして、気性が激しい。
ヒトになつかないのはもちろん、同族以外の生き物に対しても激しく敵意を剥き出しにする。
「山の民って凄かったんですね」
「あれは特殊な魔法を使って飼い慣らしたという例外中の例外だ」
本当にね、あの特殊な魔法に関してはもっと解析したかったところである。
それはさておき。
おれは魔物を飼い慣らすことについて、思索を巡らせる。
そうだなあ……もっとも、比較的おとなしい魔物を使って世代を重ねながら研究していけば……。
どうだろうな、いけるかもしれないし、あまりにも予算が膨大になるかもしれない。
そんな金を使うくらいなら、直接的に戦争に有用な魔法を研究した方がマシ、と皆が考えているからこその現状である。
やっぱり、厳しいか。
そんなことを、ざっとクルンカに説明した。
「わたしが考える程度のことは、誰でも考えているんですね」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。なんでも口に出してみる、なんでもとりあえず考えてみる、その上で先行研究を確認するという段階を踏むことで、研究者は一歩ずつ前に進んでいくんだ。思ったことは遠慮なく口にして欲しい」
「はい、わかりました!」
うん、返事が元気でよろしい。
後編は明日。
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