よろしくお願いします。
奥義:1出会い
児童養護施設
保護者のいない子供や、親からの虐待を受けた子供を自立に至るまで養護する施設とされ、入所した子供の養育やカウンセリング、里親との連携等多岐に渡る分野で入所した子供達を支援している。
そんな、数ある施設の一つである『児童養護施設へいわ』に一人の少女が入所した。
「今日から、皆さんと一緒にこの施設で過ごす事になった、星野アイさんです。
皆さん、星野さんに元気に挨拶しましょう。」
そんな職員の声に従い、子供達が挨拶を行う。
対する少女もまた、緊張した面持ちで挨拶の言葉を述べた。
「星野アイです。よろしくお願いします。」
その言葉と共に頭を下げた少女に対し、周囲から拍手が送られる。
その周囲の雰囲気に、小さく息を吐き安堵の表情を浮かべる少女。
見知らぬ人間ばかりの中で過ごす事となり不安を感じていたものの、少なくとも彼女が自身の家庭で感じていた暗い感情は認められず、ひとまず安心したといったところであろうか。
(大丈夫。ここでもいい子にしてれば、お母さんが迎えに来てくれる。)
そう自身を納得させ、新たな生活へ向き合おうとする彼女へ職員が声を掛ける。
「それじゃあ、星野さん。
これから先生と一緒に、部屋と施設の中を見て周ってもらうわね。
一通り周ったら、皆と一緒にお昼にしましょうか。」
「はい、分かりました。」
職員の言葉に素直に頷くアイ。
彼女の家庭環境や施設へ入所した理由について聞いている職員は、その年齢と釣り合わない従順な態度に哀しみを感じつつ案内の担当者を紹介した。
「ボボボーボ・ボーボボだ、よろしくな。」
アイに対し、そう言葉をかけた者の出立ちは彼女の常識から大きく外れたものであった。
圧倒的な長身に加え、サングラスを掛けたアフロの男性。
笑顔と共にサムズアップを行う姿から、自身に対して友好的な感情をアイは感じたものの、その異様さに圧倒され生返事を返すに留まってしまう。
(これからお世話になるのに、私ってば!)
見た目で相手を判断した事を自覚し、己を恥じると共に瞬時に笑顔を取り繕うアイ。
それは彼女にとっての鎧であった。
大人に怒られないように、殴られないようにする為に自身を守る手段として身に付けてしまったモノ。
そんな『いい子でいる為の仮面』をつけてボーボボへと向き合う。
そんな彼女の内心を知ってか知らずか、背を向けるボーボボ。
すると、彼のアフロがパカリと炊飯器の蓋の様に割れたかと思えば、その中から小型の中年男性が姿を現し...
「付いてきな。」
と彼女に声が掛けられると、ボーボボが先導を始める。
その意味不明な光景とは裏腹に、案内自体は恙無く進行された。
全員で共用されるトイレや浴室、食堂を案内され一階の最後の案内場所である職員室に着いた時、ボーボボが徐に指笛を鳴らす。
「パチ座右衛門、天ザブロー、散歩に行くぞー。」
「ヒャッフゥ!」
そんな奇声と共に二人の元へ向かってくる二つの影。
それらはアイの知識に無い全く未知の物体であった。
オレンジ色の丸いボールの様な体に複数の棘が生えたモノと、プルプルとした人型のゼリーの様なナニカ。
母からの一般教養を受けた経験も少なく、自身の学力が同級生のそれと比較して幾分低いものである事を自覚している彼女ではあったが、それでも眼前の光景には眼を疑わざるを得なかった。
かろうじて両者とも手足が確認出来、ボーボボも両者の頭部であろう部分を撫でて可愛がっている様子から、自身の知らない愛玩動物であろうと自身を納得させるアイ。
そうでもしなければ、まだ小学生である彼女の心は平静を保てなかったのであろう。
既に先程付けた『笑顔の仮面』は大分ぎこちないものとなっている。
「アイ、コイツらは首領パッチと天の助だ。
施設全体の下僕だから、仲良くしてやってくれ。」
「えっ⁈」
その言葉に三者共に驚愕の表情を浮かべるが、そんな事はお構いなしとばかりに続けるボーボボ。
「次は二階のアイが住む事になる部屋に行こう。
お前らはアイの荷物持ちだ。」
その言葉を聞いた瞬間、首領パッチが声を荒げてボーボボに掴み掛かった。
「誰が下僕じゃ、コラァ!!」
そんな首領パッチに対して、ボーボボもまた暴言を吐き互いに罵詈雑言の応酬となっているが、しかしアイの隣にいる天の助も他の職員も、それを止めに入る様子は無い。
まるで、これが日常茶飯事であると言わんばかりな雰囲気に困惑の表情を浮かべるアイ。
(ペットじゃないんだ...というか、これ止めなくて大丈夫なのかな?)
不安を感じる彼女の肩に手を置き、話し掛けようとする様子の天の助。
この状況を変えて貰う為に、彼に期待を掛けるが...。
「お嬢さん、お近付きの印にこちらは如何かな?」
紳士的な台詞と共にどこからか取り出した小皿にはライチが三つ載せられていた。
ご丁寧に、相手が食べやすいよう皮を剥いてある。
「あ、ありがとうございます...。」
ニヒルな笑顔を見せる天の助に絞り出すようにして礼を言うアイ。
余りにもカオスな状況に、現実から目を背けようと差し出されたライチを口にする。
(私、これから大丈夫かなぁ。あっ、これ美味しい。)
彼女が抱えた漠然とした不安感を相談出来そうな相手は、残念ながらこの場に存在しなかった。
ややあって、アイがボーボボ達の案内により自分の部屋に荷物を下ろした後、昼食の時間となった。
正直に言って、この施設に到着してから数時間程度の間の出来事に彼女の脳は疲労困憊である。
他の子供達や職員達と上手くやっていく為にも、『いい子』でいなければならない。
本格的に他の子供達との交流が始まるであろう午後に備えて、ここで一つ落ち着きたいところであった。
複数人で使える大きなテーブルに椅子が並べられており、学校の給食の様に配膳を受け取った者から順番に座っていく。
彼女の席から離れた場所のテーブル上には大きな皿に載った天の助がいるが、ものの見事に無視されていた。
(あれもいつもの事なんだ...。)
げんなりした様子のアイであったが、憂鬱な気分の原因はそれだけでは無かった。
彼女の前にある、茶碗に盛られた白米。
彼女は過去の経験から、それに対して苦手意識を持っていた。
無論、その原因となった出来事がこの場で再び起こる事などあり得ないと頭では理解しているのだが、そうは言っても拭い切れない恐怖心が残り続けているのだ。
「星野さん、大丈夫?食欲無いとか?」
そんな様子を心配した隣席の子供がそう声を掛けるが、彼女もまた大丈夫だと返答する。
(普通じゃないって思われたら駄目だ、早くしないと!)
周囲に怪しまれない様にと内心で焦りを覚えるものの、それでどうにか出来る程度の悩みならアイとて苦労はしていない。
そんな彼女の背後を大声で話しながらボーボボと首領パッチが通り過ぎていく。
「奥様、新鮮な卵が取れた日には卵かけご飯がいいザマス!」
「あらぁ、それじゃあ今日はウチでも卵かけご飯にしちゃおうかしら!」
何故か、買い物に来た主婦の様な恰好の二人を見遣ると、二人もまた彼女の方をチラリと見て笑みを浮かべる。
(あっ!)
二人の意図を察したアイは、茶碗を持って近付いていき...。
「あのっ、私もいいですか?」
「勿論ザマス! 卵かけご飯が世界を席巻しちゃうザマス!」
「オーホッホッホッホッホー!」
卵とかき混ぜる事でなんとか食事を終えて、自室に戻ったアイは先程の出来事を思い出す。
(気を遣ってくれたんだよね...、後でお礼言わないと。)
午前中から、意味不明な言動の連続に振り回されてばかりではあったが、少なくとも悪い人間ではないのだろうと彼らに対する評価を修正するアイ。
施設に着いた時には不安な気持ちが強かったし、今でもそれが払拭されたわけではない。
それでも、久方振りに感じた温かい感情に気分が上向いているのもまた事実であった。
その口角が無意識に上がっていることにアイが気付いたのと同時に、彼女の部屋のドアがノックされる。
ドアを開ければ、そこには件の自身を振り回した笑顔の三人組。
「磯野ー、一緒にサッカーやろうぜ!」
「私、星野なんだけどなぁ。」
そう言いつつ、邪険にはしないアイ。
この変人達がいる限り、少なくとも退屈することは無さそうである。
キャラの口調が合ってるか、分からない...
違和感や誤字脱字等ありましたら、教えていただけますと幸いです。