推しのボ   作:モドラナイッチ

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 本話において、有馬かなファンの皆様にとっては不愉快に感じられる可能性がある描写をさせていただいております。
 筆者としても原作における大好きなシーンの一つで、有馬かなというキャラクターにとって非常に重要なシーンであると考えております。
 同時に、拙作において関係性が変化したB小町の面々を表現する上で、これ程参考となるシーンが他に無かったのも事実でございます。

 以上を踏まえ、お読みいただけましたら幸いです。


奥義:10デビュー戦

 機内アナウンスが目的地へと到着した事を乗客へと報せる。

 機体が停止し、名も知らぬ周囲の乗客達が荷物を片手にキャビンアテンダントの誘導に従って移動する様を二人の少女が眺めていた。

 二人の少女_さりなとポコミはこの日、宮崎から遠路はるばる東京へと足を運んでいたのだ。

 目的は彼女達にとって目下最注目のアイドルグループ『B小町』の記念すべきデビューライブへの参加である。

 本来彼女達_特にさりなはそう気軽に出歩ける様な病状ではないのだが、彼女達の医師・保護者への懸命の説得に加え、さりなの体調が比較的良好であった事実も手伝い許可を得る事に成功、空路を経て東京_羽田空港へと到着したところだ。

 空港にはポコミの兄_ヘッポコ丸が迎えに来る事になっており、移動時間を加味しても余裕の有るスケジュールとなっているが、それでもさりなは逸る気持ちを懸命に抑え他の乗客達の移動を待つ。

 自由に動く事が叶わぬこの身では、人の手を借りねばスムーズな移動すらままならない。

 自分の趣味に付き合ってくれ、更に兄に掛け合ってまでライブへの参加を実現させてくれた友人に迷惑は掛けられない_そんな彼女の心情を察したポコミが、さりなの気を紛らわせる為声を掛ける。

 

「いやー、やっと着いたね。

 さりなちゃん、気分悪くない?」

 

「えっ、う、うん。

 全然平気、バッチリだよ!」

 

「アハ、気合十分って感じだね。

 でも、元気はライブ迄取っとかないとだよ。」

 

 その言葉にさりなはハッとさせられる。

 自分達が東京に来た理由は楽しむ為なのだ。

 自身の体調や周囲への影響を無視する事は出来ないが、それに気を囚われ過ぎるのも考えものである。

 キャビンアテンダントが車椅子を用意し二人へ声を掛けてきたのを確認し、さりなは一度気分を落ち着かせる為に深呼吸を行う。

 表情は既に、ライブを楽しみにするアイドルオタクのそれであった。

 

 

 事務所のアイドルグループのデビューライブという大切な日にも関わらず、ヘッポコ丸は半日の休みを貰っていた。

 先日アイから相談を受けた彼女の分の関係者用チケットの使用者をライブ会場へ送り届ける為である。

 空港にて合流後にライブ会場へ移動、同じく観客として参加予定のボーボボ達に対応を引継ぎ、彼自身はスタッフとして事務所側へ合流する手筈となっている。

 チケットの使用者は彼の妹とその友人であり、友人の少女が入院患者である事は妹からも聞いていた。

 とはいえ、ヘッポコ丸はその友人の入院理由を妹と同じ、つまり善滅丸によるものと勝手に想定しており、その少女の病状を知った際には流石の彼も大いに驚いたが。

 少女自身の行動力もそうだが、それ以上に彼女の両親が今回のライブへの参加を了承した事実に驚かされた。

 いくら担当医の許可が出たとはいえ、命に関わる病を抱える娘に長距離移動をさせてまでライブに行かせるものなのか_と。

 そんな彼に別の視点を与えたのは、この件を相談し彼に半日の休暇を与えた壱護であった。

 

(先が短いからこそ、好きな事をやらせてやりたい_か。)

 

 壱護の言葉を反芻するヘッポコ丸。

 知識だけでは到達し得ない視点を持てるのは、人生経験の成せる技であろうか。

 人生が長ければ長い程、多くの出会いと別れを経験するであろうし、楽しい事も辛い事も含めて様々な事を経験するだろう。

 そして短命であるということは、そういった経験をするチャンスすら巡ってこないという事だ。

 16歳_自分がボーボボ達と出会った年齢にすら至るか怪しいという少女の身に降りかかる理不尽に心が痛む。

 今日のライブには自分達苺プロの面々だけでなく、少女達を含めライブを観に来てくれる多くの人達の笑顔が掛かっているのだと再認識するヘッポコ丸。

 丁度その時、件の少女と彼女の乗る車椅子を押す妹の姿を認める。

 妹もまたこちらに気付いた様で、手を振りながらこちらへと向かってきた。

 無事合流出来た事に安心するのは理解できるが、手を振るのか車椅子を押すのかどちらかにしてもらいたい。

 

「お兄ちゃん久しぶり!

 すぐに分かって良かったー!」

 

「ポコミお前、車椅子片手で押したら危ないだろ...。

 ごめんね、さりなちゃん。

 飛行機で疲れたと思うけど、気分悪くなったりしてないかな?」

 

 開口一番、自身に苦言を呈した兄に膨れっ面を向けるポコミとそんな彼女の様子に呆れつつ自身を気遣うヘッポコ丸を見て、つい口元が緩んでしまうさりな。

 家族同士の温かい感情_長い事自身が感じる事の無かったものを間近で見たが故に。

 

「初めまして、お兄さん。

 二人ともホントに仲良いんですね。

 兄妹揃って同じ事言ってますよ。」

 

「お兄ちゃん、パクリだパクリ!」

 

 ポコミをあしらいつつ、車椅子の操作を引継ぐヘッポコ丸。

 後ろからよりは幾分友人と話しやすくなるだろうと妹を気遣ってのものだったが、どうやら彼女にその思いやりは十分に伝わらなかったらしく、とんでもない爆弾を投下してしまう。

 

「お兄ちゃん、今回は普通の格好で良かったよ。

 前に再会した時なんて、裸に紙おむつの状態でさー。」

 

「⁉︎」

 

「お前、余計な事言うなよ、誤解されるだろ⁉︎」

 

 

 ライブ会場へと到着した一行が、ボーボボ達との集合場所へと向かえば、そこにはギリシャ神話に登場する神々の様な格好のボーボボ。

 両手には、ガムテープを口に貼られロープに縛られて身動きが取れない首領パッチと天の助が池の上にぶら下げられており、ヘッポコ丸とポコミには次に何が起こるのか予想が着いてしまう。

 呻きながら必死にもがく二人の抵抗虚しく、無情にも彼らを池へと落とした張本人はヘッポコ丸達へと向き直ると_

 

「アナタ達ニ質問デース。

 コノ池ニ落トシタノハ金ノ首領パッチデスカ、ソレトモ銀ノ天の助デスカ?」

 

(これって『金の斧、銀の斧』かな?)

 

 目の前で繰り広げられる光景をなんとか理解しようと、さりなが状況が似通う童話を思い浮かべる。

 童話と同じだとするなら、正しい事_つまりは『どちらも落としていない』と答えるべきだが...。

 

「アハ!

 両方とも落としたが正解でしょ!」

 

「えっ⁉︎」

 

「オウ、見事正解デース!

 真実ヲ正シク言エタミナサンニハ、褒美トシテ両方ヲサシアゲマース!」

 

 何一つ正しい事を言っていないポコミの解答に、ボーボボが『金パッチ』と『銀の助』と共にさりな達へと近付いてくる。

 先に物販に行こうというボーボボの提案にヘッポコ丸達も従う様子に戸惑いつつ、先程の池をさりなが見遣ると_

 

「ゴバァ、助け、死ぬ!」

 

「飲み込まれる、何かに飲み込まれるー!」

 

 池に落とされた二人が必死に助けを求める姿が有った。

 故に、この中では最も常識人であろうヘッポコ丸へと声を掛けるが_

 

「お兄さん、あの二人いいんですか⁉︎」

 

「いいんだよ、いつもの事だから。」

 

「いつもの事⁉︎」

 

 ヘッポコ丸はこのライブに、苺プロのスタッフとして参加する。

 さりな達観客に楽しんでもらう為に、余計な事に労力を割く余裕は無いのだ。

 

 

 B小町のライブ開始時刻が刻一刻と迫ってきている。

 彼女達の出番はこのライブに合同で参加している中で最も知名度の高いグループの直前_所謂前座としての参加となる。

 四人は準備された衣装を身に纏い、会場へと続く通路で出番を待っているところであった。

 いよいよ現実の物になろうとしているアイドルとしてのデビュー戦を前に、四人の表情は一様に固い。

 口内が渇き、手が小刻みに震える。

 会場には彼女達の予想を上回る数の観客がおり、これから自分達がその観客の前に立つ事になるのをイメージ出来てしまったが故に。

 とはいえ、ここまで来れば腹を括るしかない。

 そんな全員の意思を代表して、高峯が声を掛ける。

 

「皆、緊張してるよね。 私もだけど。」

 

「うん、マジで手の震え止まんない...。」

 

「さっき水飲んだばっかりなのに、もう口の中カラッカラだよ...。」

 

「ここからでも、お客さんの声凄いね...、正直舐めてたよ。」

 

 彼女の言葉を皮切りに、全員が思った事・感じた事を口にする。

 考える事は皆同じなのだ。

 するとここで、とっておきの秘策とばかりにアイが緊張を和らげる方法を伝える。

 

「おじさんから言われたんだけどね、緊張したら自分達の方を見ろってさ。」

 

「それ大丈夫なの?

 また、変な事しようとしてるんじゃ...。」

 

「またアフロから何か飛び出してきたら...。

 やば、思い出してきちゃった...、ブフッ。」

 

「いやホント勘弁してよ⁉︎

 特にニノ! あんたライブ中に噴き出したら洒落になんないからね!」

 

 各々がその光景を想像し、空気が弛緩する。

 思い返せば、自分達はデビュー戦であり今日の主役の前座なのだ。

 ならばダメで元々、印象の一つでも残せれば御の字であろう。

 

「今日でもし駄目になってもさ、将来笑い話くらいには出来るかな。」

 

「いいねそれ、皆でお酒飲める様になったら集まるのもいいかも。」

 

「その時は社長達も呼んでさ、楽しく話せるくらいだといいよね。」

 

「たかみーとか案外社長からもらい泣きしてそうだよね。」

 

 そんな他愛も無い話をしていると、スタッフが出番を告げてくる。

 B小町の面々は、皆自信に満ちた表情へと変わっていた。

 

 

 最初の曲はアイをセンターとして、全員で歌う曲。

 この後に三人のメインボーカル曲が続く為、ここで全員に声を出させようという判断だ。

 イントロが流れ始めると全員が無意識にある一点を見つめた。

 緊張を和らげる為に自分達の事を見るように言っていたボーボボ達のいる関係者席である。

 

 

 そこにはそれぞれ新野・渡辺・高峯と同じ衣装を纏い四色のサイリウムを振るボーボボ・首領パッチ・天の助と、赤のサイリウムを必死に振るさりなとポコミの姿が有った。

 

(ちょっと待って、何て格好してんのよあの人達⁉︎)

 

 彼らの異様な出立ちに驚愕する高峯の_

 

(あれですまし顔とか、マジで腹筋持ってかれるんだけど!)

 

 予想以上の光景に噴き出すのを懸命に堪える新野の_

 

(ご丁寧に全員分サイリウム準備してるし、芸が細かいねー。)

 

 一方で彼らの周到な準備に気付いた渡辺の_

 

(二人はちゃんと私の色にしてくれてるのに、おじさん達はさぁ。)

 

 二人のファンが来てくれている事を喜び、頬が吊り上がるアイの_

 

(一丁前に箱推しってやつ? 上等じゃん! 目に物見せてやる!)

 

 四人の思いが一つになる。

 

(あなた達の推しの子になってやる!)

 

 

 後に驚異的な人気を博したアイドル『B小町』の伝説の始まりである。




 拙作も節目となる10話目に到達し、B小町のデビューまでたどり着きました。
 正直に申し上げますと、当初の構想段階で考えていたのはアイがスカウトされる迄であり、それ以降は手探り状態で進めているのが実情です。
(一応、単発的に考えているネタは有りますが。)
 拙作に対して、感想・評価・お気に入りに登録をしていただいた皆様が続きを書くモチベーションとなっており、改めてお礼申し上げます。
 今後とも、他作者様の作品の合間の暇潰し程度に楽しんでいただけましたら幸いです。
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