推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:13諦めなさい

 苺プロが保有するワンボックス車。

 主に事務所の所属タレントの送迎に使用されるその車内には、B小町の創設メンバー四名が乗り込み、マネージャーであるミヤコの運転の下目的地へと向かっていた。

 

 『劇団ララライ』なる劇団が主催する演劇ワークショップへの参加が、壱護から四人へと言い渡されたのが、一週間程前の事であった。

 その場にて同時に言い渡された、B小町のメンバー増員という報せの後だっただけに、当初の四人にとってはワークショップ参加に対する不安よりも困惑の感情が大きかったのが実情だ。

 当面の間、新加入の三人はレッスンに注力し、ライブに関しては現状の体制を維持するという方針を聞いた事で、別々に活動する事に関しては納得出来たものの、それで新加入組とで何もする事が無いかと言うとその限りではないからである。

 三人の歌唱力等を見極めるだけでなく、交流を図ったりダンスの振り付けについてアドバイスを送る等、やれる事は少なくない。

 特に、他人へのアドバイスというものが予想以上に自分の為になる事を実感していた事が大きかった。

 モデル経験の無いアイに対して、他の三人から姿勢の取り方についてアドバイスを送った事が、三人にとっては自己のライブパフォーマンスを反省する意識に繋がり、アイとしてもカメラを向けられた際の表情の研究を行う等相乗効果を生んでいたのだ。

 アイ個人としても今度は自分が教える立場になる事で、新たな視点を得られると考えていた。

 しかし、そんな四人の迷いは壱護の言葉によって断ち切られた。

 アイドルとしての活動以外も検討している_それは、四人にとっては芸能人として小さくとも確実に一歩を踏み出せると思える一言であった。

 アイドル出身のタレントが、モデルや役者等様々な分野に活躍の場を広げる_一タレントとしてステップアップした前例は彼女達も数多く見てきたのだ。

 そんな展望を胸に秘め、車内にてミヤコと四人が言葉を交わす。

 

「ミヤコさん、この前社長が言ってた事って、実際の所どの位実現しそうな話なんですか?」

 

「一番現実味が有るのは、やっぱりモデルのオファーかしらね。

 後は、今社長と検討してるところなんだけど、動画配信者とのコラボが出来ないかと思ってるの。」

 

「配信ってYouTubeとかですか?

 前に私達もチャンネルでライブ配信やるかもみたいな話有りましたけど。」

 

「配信ってそんなに影響有るんですかね?

 ファンの人達が観に来てくれるとかは有りそうですけど...。」

 

 渡辺の質問に返答しつつ、社内で進行中の計画を語るミヤコに対して、高峯が更に質問を重ねる。

 今回のワークショップ然り、自分達への向き不向きは別として芸能活動の一環と考えられるものはともかく、動画配信というものが現実的にどれ程の影響を齎すのか想像し辛い故に。

 自身の言葉に続いた新野の言う様に、普段ライブに来られないファンとの交流というのは考えられるものの、そもそも自分達の配信を視聴してくれる程となるとライブには来れないまでも熱心に応援してくれていると考えるのが自然だろう。

 

「存外バカに出来ないわよ。

 なにしろ、どんな人でも基本自由に観れる媒体。

 何が切っ掛けで新規のファンが増えるか分からないわ。」

 

 ミヤコの言葉に目を丸くする一同。

 まるでテレビ出演する様な言い方に、少々大袈裟ではないかと思わされるが。

 

「四人が頑張っているのは、私達も分かっているし、実際に観客の数や売上も伸びてきてる。

 でもそれは、アイドルファンという狭い界隈の中の話。

 すぐにとは言わないけど、いずれ頭打ちになる可能性が高い以上、別の所から新規のファンを取り込まなきゃならないのよ。」

 

 続けて語られたミヤコの解説に一同は納得の様子を見せる。

 成程、そもそもコンテンツに興味が無い層をどう取り込むかという取組みは、様々な業界で試行錯誤が行われている難題だ。

 時折、スポーツ中継にそのスポーツの経験すら無い芸能人が呼ばれるケースが有るが、成功するかは別にして全く関係無い界隈同士を結び付ける導線と考えれば、起用した側の狙いは見えてくる。

 そう考えると、今回のワークショップもまた新たな可能性を広げるチャンスと捉えられる。

 単純に自分達のパフォーマンスの参考になればそれで良し、劇団の人々と上手くいけば興味を持ってくれるかもしれないのだ。

 そんなやる気を漲らせる四人に、信号で止まったタイミングでミヤコから本が渡される。

 表紙に『よくわかるビジネスマナー』と書かれた本を受け取った四人は一様に渋い表情だ。

 

「少しずつでいいから読んどきなさい。

 例えばさっきのも『言ってた』じゃなくて『仰ってた』って言わないとダメよ。」

 

「日本語って面倒ですね...。」

 

「それで回ってる社会なんだから諦めなさい。」

 

 

 劇団ララライの代表を務める金田一敏郎は、今回のワークショップに小さい事務所のアイドルグループ四名の参加を打診してきた旧友である鏑木勝也の思惑について考察していた。

 劇団の現状を鑑みれば、人を集める事すら苦労しており、公演の稽古にも支障が出てしまっているのは否めない。

 事実、過去にも同様のワークショップによって集まった人員と劇団員との混成状態で公演を行なった事も有る。

 粒揃いに良い役者が揃ってきてはいるものの、劇団の懐事情も含めて無いものねだりは出来ない以上、たとえ演技未経験の素人だとしても練習相手として贅沢は言えない立場なのだ。

 そんな状況下で届いた鏑木からの連絡に不安を覚えたのも事実である。

 金田一とて何も目にしていない現状では極力色眼鏡で見ぬよう務めるつもりではあるものの、せめて未経験者なりに真剣に取り組んで貰わねば困るのだ。

 それ故に鏑木の話に当初は難色を示したものの、彼から勧められ件のアイドルグループのライブ映像を観て評価を改めた。

 デビュー当初と最新のライブ映像を確認しただけでも、姿勢や目線について研究を重ねたであろう事が感じられたし、素人ながらにダンスのキレも格段に良くなっていると思わされたのだ。

 ここまで努力出来るなら演劇という分野でも、もしかすると_少女達の可能性に淡い期待を抱きつつ、金田一はB小町の面々に向き合った。

 

 

 金田一の前には、マネージャーであろう女性を除いて七人もの人物が立っていた。

 事前に聞いていた人数よりも多い事実に、金田一はこのグループをこの場に呼んだ張本人の発言を思い出し、思案する。

 

(別の所から三人移るからどうとかって言ってたが、予想以上に早く進んだって感じか...?)

 

 鏑木から、苺プロにこのワークショップを紹介した大凡の話の流れを聞いていただけに、上手い具合に情報のズレを自ら補完してしまう金田一。

 事前に確認したライブ映像に映っていた四人が、他の三人と目を合わせようとしない事も、移籍したばかりでまだ交流が出来ていないのだろうという予測を助長させた。

 

「予定より人数が多いみたいだが、まあ良いだろう。

 劇団ララライ代表の金田一だ。

 B小町の皆さんにはこれからウチの劇団員が指導員として付く事になるから、遠慮無くぶつかってやってほしい。

 皆がこの機会を通じて、少しでも芝居に興味を持ってくれたら幸いだ。」

 

 金田一の言葉に、対する面々が次々に挨拶を行う。

 

「たかみーです。短い間ですが、よろしくお願いします!」

 

「めいめいです。精一杯勉強させていただきます。よろしくお願いします!。」

 

「ニノです。演技の事は正直分からない事だらけですけど、少しでも多く吸収出来たらと思っています。よろしくお願いします!」

 

「アイです。ご迷惑をお掛けすると思いますが、どうぞよろしくお願いします!」

 

「ボボ子です!皆さんの胸をお借りします!よろしくお願いします!」

 

「パチぴゃんです!ステージでもっと可愛くなれる様な秘訣教えてほしいです!よろしくお願いします!」

 

「天ぱんです!今回の経験をライブに活かせる様、頑張ります!よろしくお願いします!」

 

 全員が挨拶を終えると、ボボ子と名乗った者の特徴的なアフロが割れ、小型の野球のユニフォームを身に纏った男が『バッチコーイ!』とノックを待ち受ける声を出す。

 全員真剣な表情であり、ニノと名乗った少女は緊張故か或いは武者震いか顔を俯かせ僅かに体を震わせている。

 

「準備万端のようだな。

 これから各々の指導員と顔合わせをするから、少し待っていてくれ。」

 

 金田一が劇団員を呼びに行くのを一同が見送ると。

 

「ブフゥ! ゲホッ、ゲホッ、マジで危なかった...。」

 

「よく我慢したね。で、おじさん達はなんでいるの?」

 

 耐え凌いだ新野を労いつつ、ボーボボ達がここにいる理由をアイが問うが。

 

「おじさんとは失礼しちゃうわね! ヒロインの座は渡さないわよ!」

 

「あっ、はい。 頑張ってねー。」

 

 聞いても無駄だと悟り、気持ちを切り替える。

 彼女が兄や姉の様に慕う二人はこの場にいない以上、彼らを止める術は無いのだ。

 

 

 金田一は、劇団員を新野、高峯、渡辺へと引き合わせ、残るアイ達の指導を行わせる為、ある少年を呼んでいた。

 歳の頃はまだアイ達と変わらぬ小中学生と言った所であり、そのあどけない表情は正に美少年と言って差し支えない風貌であった。

 少年は金田一に呼ばれ、指示を受けるも怪訝な表情を見せる。

 指導役となるのは良い。

 演技指導というものが自分にも求められるであろう事は理解しているし、他人へ教えるという行為を通して自分の芝居を見つめ直す事も出来る。

 ただ、目の前で繰り広げられる光景はとても自分一人で手に負えるものだとは思えなかったのだ。

 

 

「パラレルパラレル、時間よ止まれ。」

 

「ガンジスの流れー! ガンジスの流れー!」

 

「俺は豆腐には屈さんぞー!」

 

 魔法少女の様な姿のボボ子、何処から持ち出したのかピアノで雑音を出すパチぴゃん、何故か拷問を受けている様子の天ぱんを見やり、金田一は少年へと声を掛けた。

 

「誰もやりたがらないんだ、諦めてくれ。」

 

「あっ、はい。頑張ります...。」

 

 

 金田一によって生贄にされた少年は、指導相手の四人と向き合い自己紹介を行う。

 腹を括るしかないという表情だ。

 

「カミキ ヒカルです。 よろしくお願いします。」




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