推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:14演技

 B小町が参加している演劇ワークショップが、全七日間の日程の内五日目を終えようという頃合いであった。

 金田一からB小町とその指導担当を任された劇団員への招集が掛かり、一同が彼の言葉を待っている状態の中、彼は複数枚の折り畳まれた紙を手に語り始める。

 

「皆、今日もご苦労だった。

 このワークショップも残り二日となるが、B小町の皆はどうだろう?

 俺達ララライとしては、初日にも言った通り皆が芝居に興味を持ってくれたら嬉しいんだがな。」

 

 その言葉にB小町の面々が次々に感想を語っていく。

 歌う時と同様、ある意味で別の自分になっている気分だと語る高峯_

 ダンスの経験からか、体を使った表現を評価されたと語る渡辺_

 良くも悪くも感情が出やすく、自分と人間的に近い役柄でないと演じる事は難しいだろうと現実的な視点で語る新野_

 演じている人間を間近で見る事で、観客から見た自分の動きを見直す切っ掛けになったと語るアイ_

 四人の言葉に頷きつつ、金田一は手にした紙をそれぞれの担当者へと渡す為、再び声を掛けた。

 

「四人ともありがとう。

 得意不得意関わらず、自分で感じた経験ってのはそうそう忘れんもんだ。

 その体験の最後の仕上げとして、皆に明日と明後日を使って取り組んでもらう課題が有る。

 お前ら、この紙一枚ずつ取れ。」

 

 各員の担当者が、紙を受け取り元の位置に戻った事を確認すると、金田一は件の『課題』について語り始める。

 

「その紙にはそれぞれテーマになる内容が書かれている。

 皆にはそのテーマに沿った芝居をしてもらいたい。

 話の内容は自由、この建物の中なら何を使っても構わん。

 今日の残り時間はこの課題について話し合ってくれ。

 期待してるぞ。」

 

 話を締め括り、一同を解散させる金田一。

 その顔には、彼女達への期待が表れていた。

 

 

 アイ達の指導担当であるカミキ ヒカルが四人に囲まれ渡された紙を開くと。

 

「テーマは『修行』ですか...。」

 

「なんだ簡単じゃねーの。

 要はカンフー映画の特訓シーンみたいなのをやれば良いんだろ?」

 

 紙に書かれた内容を呟いたカミキに首領パッチが反応する。

 安直であるが故に即座にイメージしたアイ達も納得の表情を見せるも、カミキはこの『課題』の真意を補足していく。

 

「問題はそれらのシーンの前後をどう表現するかでしょうね。

 どんな理由が有って修行するのか、修行した結果どうなったのか、せめて芝居のオチ迄を考える必要が有ると思います。」

 

 語りつつ、カミキは自分の頭の中でこの課題に対しての考えを纏めていく。

 金田一が課題を出したのは、B小町ではなく自分達指導員に対してなのだと。

 チーム毎に大雑把なテーマのみが与えられ、脚本はおろか大まかな舞台設定すら無い状態。

 その中でB小町の面々_所謂素人を導き、ある程度の芝居をしてみせろという事だろう。

 演技指導に加え、物語やキャラクターへの発想や理解力を見ようと言った所であろうか。

 

「そうなると、自分達で設定迄考えてやる必要が有るのか...。」

 

「特に僕らの場合、人数も多いですからね...。

 矛盾が起きないよう気を付けないといけません。」

 

 天の助の考察をカミキが補足するが、幸いと言うべきか彼らの中には気軽に発言しやすい空気感が出来ていた。

 カミキ自身が物腰柔らかい事に加え、このワークショップ期間中という短い間ながらにボーボボ達と打ち解けていた事が大きい。

 最初こそ、彼ら三人の突飛な言動に面食らったカミキであったが、以前より彼らを知るアイのフォローに加え、自分には真似出来ないと思える程の感情の出し方に少なからず影響を受けていたのだ。

 ボーボボ達もまた、若いながらに芝居に対して真剣に向き合うカミキの姿を見て、彼の指導に素直に耳を傾ける等、教える側と教わる側の良い関係を構築出来ていた。

 先の首領パッチや天の助の様に、素人なりに考え意見を言えるのも、彼らがここ迄のカミキの指導に真剣に取り組んできた証左である。

 

「とりあえずさ、最低限どんな役が必要か書いてった方がいいんじゃない?

 何をやるにしても、大筋が決まらないと進まないし。」

 

「そうですね。

 まず、修行する本人は当然として、やはり師匠役も必要でしょうか。」

 

 アイの言葉に同意したカミキが役を書いたのを皮切りに、各々の意見を出し合っていく。

 皆が生き生きとした表情で一つの議題について語り合う様を見て、カミキは自身の心が柄にも無く踊るのを自覚していた。

 

(誰かと話してて、こんなに楽しいのっていつ振りだろう。)

 

 周囲の人間の影響か、はたまた生まれついたものなのか、『他人にとって都合の良いカミキ ヒカル』を自身の存在理由と考えてきた彼にとって、自身に対して愚直な程正面からぶつかってくる存在は、彼の価値観を揺るがすに足るものであった。

 しかし、現実とは非情なもので、彼を心地良い気分にさせる人々と関わる機会はもうすぐ終わりを迎える。

 もしかすればB小町の面々とは仕事で関わる可能性は有るし、ララライの演劇を観に来てくれる事もあり得るが、いずれにせよカミキ側から行動を起こせる事ではない。

 せめて大切な思い出として心に残そう_そんな考えに耽っていた為か、自身を繰り返し呼ぶ声に気付き、慌てるカミキ。

 

「す、すいません! 何でしょうか?」

 

「だからよ、主役はやっぱお前にやってもらうのが一番良いと思うんだよ!」

 

「そんな⁉︎ むしろ僕は皆さんに合わせますよ。

 例えば、僕が敵役とかどうですか?」

 

 首領パッチの言葉に驚きつつ、あくまで自分はサポート役に回ると語るカミキ。

 これはボーボボ達に自由にやってほしいという気持ちは勿論の事、曲がりなりにも役者として彼らを支えようという矜持から来る言葉だ。

 しかし、そんなカミキの提案をボーボボが退けた。

 そう言ってこちらに気を遣ってばかりだっただろう_と。

 

「素人の俺達が生意気言うけどよ、カミキの方からこっちを振り回してくれよ!

 お前に教えてもらったからよ、少しは喰らい付いていけると思うぜ。」

 

「カミキ君さ、私達の事気にしなかったらもっと凄い演技が出来るんだよね。

 劇団の人が言ってたけど、凄い有望株ってやつなんでしょ?」

 

 ボーボボに続いたアイの言葉は、確かに事実ではある。

 彼なりに努力を積み重ね、周囲から勝ち得た評価であった。

 故にカミキは逡巡する。

 彼らの言葉を、素人の戯言と一笑に伏すのは簡単な事だ。

 きっと彼らが自分に対して見せた、思うがままに演じようとする姿を見ていなければ、こんな葛藤等抱かなかったであろう。

 

(良いのかな、素直にぶつかってみても...。)

 

「もっとハジケてぇって顔に描いてあるぜ!

 あっ、勿論俺にも美味しい役は有るよな?」

 

「まあ、私は? 存在感の塊だし?

 きっとどんな役でも主役を喰っちゃうかなって思うからね!」

 

「ナレーションなら任せてくれ!

 このところてんボディを活かして、ビブラート効かせまくってやるぜ!」

 

「まあ主役は演技が一番上手いカミキに任せるわ!

 どうせ活躍するの俺だしなぁ。」

 

 揃いも揃ってなんたる暴言だろうかと頭を抱えたくなる発言に、カミキは苦笑しつつ決意を固める。

 その顔には、見る人を魅了する不敵な笑みが浮かんでいた。

 

「ふふ、皆さん結局自分が目立つ気満々じゃないですか。

 僕がやりたい様にやっていいって言うなら、後悔しないでくださいね。」

 

 

 来たるワークショップの最終日。

 新野、高峯、渡辺の各組はそれぞれ、準備してきたものを見せつけた。

 自身の感情表現を最大限に活かし、素人なりの表現力を見せた新野_

 新野とは真逆、敢えて感情を抑え指導員の指示と演出に身を任せた高峯_

 台詞周りは覚束なくとも、持ち前の体全体を使った表現を徹底した渡辺_

 観ているアイ達にもその努力の程が伺えるものであった。

 残すはカミキ主導の下、アイ達が演じるもののみとなる。

 

 

「パチさん! パチさん! 嘘だろ...。」

 

 カミキの手の中で、目を閉ざす首領パッチ。

 予定通りナレーションを担当する天の助によって、状況説明がなされる。

 

『戦火に巻き込まれたカミキ。

 彼の手の中には、先程迄憎まれ口を叩いていた友人の亡骸が有った。』

 

「だってよ...、パチさんなんだぜ...。」

 

『悲しみに暮れるカミキの前に、ボーボボと名乗る男が現れ、鼻毛道場で自身を鍛えると言い出す。』

 

「あなたは一体?」

 

「強くなりたければ、付いてこい。

 道場に丁度良い相手がいる。」

 

『そこでカミキを待っていたのは、戦士金田一であった。』

 

「鼻毛真拳奥義『鼻毛分身』‼︎

 金田一が三人、金田一が四人、金田一が五人、鏑木も一人、金田一が六人。」

 

 

『何とか金田一を退けたカミキに対し、自身の正体を明かすボーボボ。

 圧倒的な力でカミキを捩じ伏せるボーボボを前に、カミキは思わず呟く。』

 

 この時、カミキが発した台詞はただの台詞ではなかった。

 自分の内に秘めた悩み、誰にも相談出来ない恐怖から自分を救ってくれる存在が現れたら_そんな淡い希望を胸に抱いた魂の叫び。

 

「どうしたらいいんですか...。

 僕は、ずっとこのままなんですか...。」

 

『そんな彼の前に、まるで伝説の女神と思える様な存在が舞い降りる。』

 

「助けが欲しいの?

 なら、手を取って。 一緒に頑張ろう。」

 

 アイが演じる女神の手を取った瞬間、カミキの目から一筋の涙が流れたのは、果たして演技の一環だったのか。

 真実は彼の心の中に隠されたままだ。

 

 

 片付けを終え解散となった後、カミキは先の自分の演技を思い出し苦笑していた。

 現実には、世界を変える存在等いない。

 明日からはまたいつも通りの日々が待っている。

 瞬間、自身に刻み込まれた不快な記憶に身を抱えるカミキ。

 仮にまた暗闇の中にいる様な日々が訪れたとしても、この暖かい思い出が有れば頑張っていける。

 心理的に余裕が出来たら、また彼らに連絡を取ってみるのも良いかもしれない_そんな考えをカミキが抱いた時であった。

 

「おーい、ヒカル! この後、時間有るか?

 一緒に飯喰いに行こうぜ!」

 

 どうやらこの光は、まだ彼を離そうとはしない様だ。




 時が経つのは早いもので、執筆開始から1ヶ月となりました。
 こうして続けられるのも、拙作を手に取って下さる皆様のおかげです。
 スローペースではございますが、今後ともお付き合いいただけましたら幸いです。


 カミキ ヒカルのキャラクター像については皆様それぞれの見解が有るかと思いますし、筆者も彼の描写に関しては非常に迷った次第です。
 拙作におきましては、原作より前倒しで自分を認めてくれる存在と出会えた+アイが良い意味で他人と力を合わせる事を覚えたという解釈から、本話の様な描写とさせていただきました。
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