・ありぴゃん:有坂(ありさか)
・きゅんぱん:久常(くじょう)
・愛称も不明のメンバー:松井(まつい)
以上にて、よろしくお願い致します。
宮崎市内のコンサートホールに詰め掛けた人々の興奮は最高潮に達していた。
この日、熱気渦巻く会場の主役として君臨していたのは、最近アイドルファンの間で注目度を高めているグループ_B小町であった。
彼女達にとっての初の全国ツアー、日本の南から順に計十都市を回るものであり、彼女達自身は勿論の事、ファンにとっても彼女達の所属事務所である苺プロにとっても正に一大イベントであった。
そんなツアーのスタート地点として選ばれたのが、この宮崎市のコンサートホールである。
この場所を訪れたファンの多くは九州地方在住であり、これまでの首都圏でのライブには参加したくとも出来ない者が殆どである。
その為か、皆B小町の勇姿を直接観る機会を楽しみにしていたのだが、追加発表によって明らかになった情報により、B小町ファンのコミュニティは一段と盛り上がりを見せた。
『新曲の初披露と新メンバーのデビュー』
年明け最初の情報更新と共に齎された情報に、ファン達の期待は俄然高まる事となる。
ライブ中盤から、新加入の三人が合流し正式なB小町デビューを果たす。
ファンの間でも、彼女達の実力を疑問視する声が有ったのは事実だが、この日のパフォーマンスで見せた三人の歌唱力は、そんな不安を払拭するものであった。
事務所移籍からの約半年間を地道なレッスンと創設メンバーとの交流に費やした彼女達はB小町内における彼我の実力差を肌で感じ取っていた。
マネージャーのミヤコから、このツアー開始前にあたり、デビューから着実に実績を重ね研鑽を重ねた四人と比較し、リリース済みの曲全てのパフォーマンスを七人全員で行うのは現時点では不可能と宣告された際にも、反抗するどころか悔しさを滲ませつつもその決定を自ら後押しする程に。
なればこそ、彼女達もまた現時点で自分達が持てる全てをライブにぶつけた。
例え四人とは差が開く一方であったとしても、自分達も別のグループでアイドルの端くれとして活動していた意地が有るのだ_と。
そんな三人の思いを受けたファンは大いに盛り上がる。
新人達は実力を見せてくれた、次は君達の番だろうと言わんばかりの期待の眼差しを四人に向ける。
ライブで残る曲は四曲。
告知されていた創設メンバーそれぞれの新規メインボーカル曲である。
高峯、新野、渡辺の順に披露されたそのパフォーマンスは、新人三人が自分達の色に染め上げんとしたライブの空気を蹂躙し、あっという間に塗り替えてしまった。
「皆、ちょーっと三人の方ばっかり見過ぎじゃない?」
まるで曲に歌わされているとでも言わんばかりに、歌詞とメロディに合わせた感情を歌声に乗せ浮気者のファン達を鎮めた高峯。
「今迄と全然違う私でも、好きでいてくれる?」
これまでの元気で明るい曲調とは程遠い、醜い程の執着と狂気を滲ませたダークな曲を披露し観る者を圧倒した新野。
「残すはあと二曲! さあ皆、ブチ上げていくよ!」
歴代でも最もアップテンポな曲と、それに合わせた自身を中心とした圧巻のダンスパフォーマンスによって文字通り歌って踊った渡辺。
歓声に包まれた彼女達の自信に満ちた表情は、雄弁に物語る。
自分達が誰のファンであったのか、忘れた訳ではあるまい_と。
フィナーレを飾るべく、アイがステージの中央へと移動する。
新曲についての軽い説明を行い、その後彼女の合図で曲がスタートする流れは先の三人と同じだ。
「これから歌う曲は、自分が抱えてる苦しい事や辛い事を皆で共有しようって思いから作ってもらった曲なんだ。
大きい事も小さい事も、解決なんて出来ないって思える事も...、それから簡単に人に話せない様な悩みを抱えてる人もいるよね。
私もそう...、アイドル始める前も後も、色々な悩みを抱えてる人に会ったし、私自身もこう見えて少しは悩んだりするんだけどね。」
そう語る彼女の脳裏には、様々な人々の顔が思い浮かぶ。
生みの親でありながら、理解する事が叶わなかった母_
施設での出会い以来、まるで親兄弟の様に自分に対して親身になって接してくれた、頼り甲斐の有る愉快な人々_
自分をこの世界へと導いた社長を始めとする苺プロの人々_
運命の悪戯によって出会い、自分では想像もつかぬ苦しみを抱えた少年_
そして、まだ何も成し遂げてすらいなかった頃から自分のファンだと言ってくれた二人の友人_
「そういう悩みをちょっとずつでも分かち合えたら、お互いに対して少しは優しくなれる世界になるんじゃないかなって思います。
まあ、私の周りに運良く頼りになる人達がいたから、こうやって言えるのかもしれないけど。」
語られた言葉は、決して大きな力を持つ訳ではない少女が、等身大で抱くささやかな願いであった。
解決策が見つかるかも分からない、思考の袋小路に入ってしまう可能性も有るだろう。
それでも、一人で抱えきれない時は誰かに助けを求めても良いのではないか、話を聞いてもらうだけでも_そんな自身の実体験から来る言葉に続き、アイが今現在抱えている苦しみを共有しようと語り出す。
まるでお手本とでも言う様に。
「...実際に今聞いてほしい事を話すね。
私、実は宮崎に友達がいたんだ。
その子はアイドルが好きで、まだこんな全国ツアーなんて想像も出来ない位前からB小町のファンでいてくれて...、そして私を推してくれてた...。
そんな大好きな友達が、年明け位に亡くなっちゃってね...。
ホントにキツくて、何も考えられなくなって...。
こんな事を皆に話したってどうにもならないって、頭では分かってるんだけどね...。」
彼女の言葉に静かに耳を傾けていた観衆は、彼女の言わんとする事を理解する。
成程、こんな話を聞いてしまったら、その心に寄り添いたくもなろうものだ。
「頑張れ! 私達がついてるよ!」
客席の最前列からアイに対して叫んだのは、彼女がよく知る少女。
その手には、アイのイメージカラーである赤のサイリウムが二人分計四本握られている。
そんな少女の声に続く様に、客席から彼女を後押しする声援が続々と届く。
そんな自身へと声援を送ってくれるファン達、そして先程いの一番に叫んだ少女と、彼女と共にいる筈であった友人の有りし日の姿を思い浮かべ、アイは語り掛ける。
「聴いてください。」
全ての楽曲を歌い切り、歓声を浴びつつ舞台袖へと移動したB小町の面々。
客席からはアンコールを求めるファンの声が届いており、その熱はまだまだ収まる気配を見せない。
この後、彼女達はこの観客の要望に応え、追加で二曲のパフォーマンスを行う。
一曲目は新人三人が中心に歌う予定の為、舞台から退いたばかりではあるものの、彼女達に気を抜いた様子は見られない。
そして二曲目は七人全員で歌うB小町屈指の人気曲。
新メンバーがデビューを飾り、新体制となったB小町の船出となるライブ、そのフィナーレに相応しい曲である。
そのセンターを飾る予定の人物へ、新メンバーの一人である久常から声が掛かる。
創設メンバーと比較し幾分短い付き合いながらに、その人物の様子に違和感を感じた故に。
「アイちゃん、最後の歌凄かったね!
その、もうすぐアンコール始まりそうだけど大丈夫そう?」
「あっ、その、大丈夫です。
歌い終わったばっかりだから、ちょっと疲れちゃっただけで、全然ヘーキですよ!」
声を掛けた久常に同意する様に、同じく新メンバーである有坂と松井も心配した表情でアイを見つめるも、心配は無用であると返される。
事実、このライブ中でも創設メンバーは既にメイン、サブ含め十曲以上のパフォーマンスを披露しており、疲れたとの彼女の弁に違和感は無い。
三人が、彼女の言葉に納得しかけた時であった。
「なーにが『全然ヘーキ』よ、全然平気そうじゃないっての。」
そんな声と共に、高峯がアイの背後から頭にタオルを被せる。
そんな彼女の行動に面食らう久常達。
日頃から他のメンバーに対して世話焼きな言動が多く見られる人物ではあったが、この様に他人の言葉を完全否定する姿は初めて見るものであった。
「三人とも、あんま気にしないでねー。
あれは多分、ちょっと入れ込み過ぎちゃっただけだと思うから。」
ぶっきらぼうな言葉と共にアイの額の汗を拭いつつ水分補給を促す高峯を見つつ、双方についてフォローを入れる渡辺。
彼女の言う『入れ込み過ぎ』という言葉に、三人はアイの現状について把握し始める。
歌唱前に語られた、彼女の亡くなったという友人との関係が如何程のものであったのかは分からないが、少なくとも近しい関係の人物を弔ったとなればその心情は十分に察する事が出来る。
三人にとって意外だったのが、アイがそういった感情を予想以上に表に出した事だったのだが、恐らく歌っている途中で感情を制御出来なくなってしまったのだろう。
とはいえ、このまますぐに回復するのかと問われると首を傾げてしまうのも事実である。
アンコールパフォーマンスへの時間が迫る中、彼女達の様子を見かねたミヤコが次善策を打ち出した。
「最初のアンコール曲、三人だけで行けるかしら?
曲の後に、多少トークを挟んでも大丈夫だから。
アイ、あなたはその間にどうにか気持ちを切り替えてちょうだい。」
それは、最初のアンコール曲を久常達だけで歌わせるというもの。
これによって、結果的に創設メンバーの連続パフォーマンスにより霞んでしまった感のある彼女達へのアピールタイムを提供すると共に、先輩達に気兼ねなく歌える場を用意した形となる。
それによって稼いだ時間で、アイの回復を期待しているのだ。
その言葉に三人も俄然やる気を漲らせる。
ここで日和るようでは、この四人と共に戦う等不可能であると理解している故に。
そんな彼女達の覚悟をミヤコが認めるのと同時に、新野がアイを人目のつかぬ空いた部屋へと誘導するべく声を掛ける。
「アイ、一回そっちに行こ?
ちょっとでも吐き出さないと辛いよ...。」
「ごめん、ニノ。
ここでいいから、ちょっとだけ肩貸して...。」
そう返し、自身の肩に顔を埋めつつ嗚咽を漏らすアイを、赤子をあやす様に優しく抱き締める新野。
ようやっと気持ちを吐き出す彼女を新野達は少々呆れた様子で見守っている。
「全くもう...、だから我慢すると後で辛いよって言ったのに...。」
「ホントに生きるのがヘタクソよねー。」
「ビュティさん達も心配してたから、後で連絡しときなよー。」
「だって...、最強じゃなきゃ...、無敵じゃないと駄目なんだもん...。」
共に戦う仲間の前で感情を垂れ流すその姿は、アイドルなどではなく唯の一人の少女であった。
「やっ、アイち。
ライブお疲れ様、今日も凄かったね!」
ライブ終了後の交流イベント用の個別ブースにて、開口一番アイにそう声を掛けたのは先のライブ中の一幕にて彼女に最初に声援を送った少女_ポコミである。
よく知る友人の来訪に自然と表情を和らげるアイ。
その隣に見知らぬ男性がおり、二人の外見上の年齢差から彼女達の関係に疑問符を浮かべる。
「紹介するね、病院で仲良くなったゴローせんせ。
今日のチケットを東京まで買いに行ってくれたのもせんせなんだ。」
「雨宮です。 ポコミちゃん達の影響でファンになりました。
お会い出来て光栄です。」
ポコミの説明と本人の弁により、アイも彼が以前より話に上がっていた例の研修医であると得心を得る。
「二人とも、今日は来てくれてありがとう。
ポコっちにはさっきの分もお礼言わないとだね。」
「気にしないでよ。
それより、さっきの曲歌った後大丈夫だった?」
「ハハハ、全然大丈夫じゃなかった。
思ってるより冷静じゃいられないもんだね。」
目の前でポコミと軽口を叩き合うアイの姿は、吾郎から見ればアイドルとはかけ離れたどこにでもいる普通の少女である。
そして、本来ならここにいる筈であった『彼女』も加われば、読んで字の如く姦しい事この上無い状況であっただろう。
そんな有り得て欲しかった光景に吾郎が思いを馳せていると、アイの方から吾郎へと声が掛かる。
「っと、ごめんなさい先生。
ポコっちと話してばっかりだったね。
先生はポコっちかさりなちゃんの...、主治医って言うんだっけ?
そういう繋がり?」
ほったらかしにしてしまっていた事実を謝罪しつつ、自身の友人達と吾郎の関係性を問うアイ。
研修医という立場について理解が及んでいない為、自分の中での患者と医者の関係性を軸に考察を語っていく。
「いや、担当分野で言えば二人との接点は無いから、こうやってライブに来る位に仲良くなれたのは、二人の影響でB小町のファンになったからだね。」
アイの質問に二人と出会った経緯を語る吾郎。
今にして思えば、自分があの日サボタージュによってさりなの病室を訪れなければ今の状況はあり得なかったのだから、人生どこでどんな出会いが有るか分からないと思わされる。
あの日、結局さりなの病室にいる所を見つかり、『小児科医云々』の言い訳によって誤魔化そうとしたものの、そもそも自身が産婦人科医志望である事を思い出されお叱りを受けたのも、今となっては懐かしい思い出だ。
そんな昔語りをしていると、制限時間が近い事をスタッフが知らせてくる。
「ありゃ、もう時間かー。
二人とも、今日は本当にありがとう!
あっ、私が子供産む時はよろしくね、ゴローせんせ。」
「ファンとしては複雑だなぁ、その台詞。
まあ、その時になったら安全に産める様全力を尽くすよ。」
爆弾発言をかますアイと彼女の言葉にケラケラと笑うポコミに、吾郎は苦笑いを浮かべる他無い。
自身が思っていた以上に図太く、それでいて眩しい存在。
(『最強で無敵』か...、確かに君の言う通りだよ、さりなちゃん。)
原作においてアイに対して他のメンバーが感じていた劣等感や絶望感を、拙作において魔改造された創設メンバーが新入りに喰らわせるというお話です。
ちょっとやり過ぎ感も有りますが、まあなんとかなるだろの精神でやっていきたいと思います。