推しのボ   作:モドラナイッチ

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拙作でのボーボボ達は『真説』終了から2〜3年後をイメージしております。


奥義:2インパクト

 児童養護施設へと入所した少女_星野アイと変人_ボボボーボ・ボーボボ達が衝撃的な出会いを果たした翌日の朝。

 時刻は5時30分を過ぎたばかりであり、まだ子供達の起床時間には幾分早い時間帯であるのだが、アイは目を覚まし顔を洗っていた。

 家庭環境の影響もあり、眠りが浅くなりがちであった故の早期の覚醒なのだが、眼前に映る鏡像はそれを感じさせないスッキリとした顔つきである。

 

(こんなにぐっすり寝れたのって、いつ以来だろ...。)

 

 久方ぶりに感じた快眠の余韻に浸るアイ。

 新しい環境での初日という事もあるだろうが、やはりあの三人による影響も大きいのだろう。

 昨日は昼食後のサッカーに加えて、改めて共同生活を送る事になる子供達との自己紹介を行った。

 新しい出会いと衝撃的な出来事の連続に、肉体的にも精神的にも疲労が溜まったのであろう。

 あてがわれたベッドに潜ると、消灯時間を待たずして意識を手放してしまったのだ。

 

(でも、悪い気分じゃないな。)

 

 少なくとも、彼女の実家での状況と比較するなら、雲泥の差であるとアイは感じる。

 実母に怯え、眠るというより部屋の隅で縮こまっていたと言った方が正しいであろう頃と比べたら。

 

 

 

 思考を中断して顔を拭く。

 時刻はまだ早く、彼女が目を覚ました時点で同じ部屋に住む子供は未だ夢の中であった。

 起床時間を考えれば、遅かれ早かれ他の子供達も目を覚ますだろうが、さりとて寝ている人間の邪魔になる行動は避けたいところではある。

 そうなると、静かに読書をするといった習慣も無いアイは、手持ち無沙汰になってしまうのが実情だ。

 

『そういや、明日は丁度二人が来る日だったな...。

 良い奴らだから、楽しみにしててくれ!』

 

 そこでふと、自身を衝撃の嵐の只中に叩き込んだ者達の言葉を思い出すアイ。

 ボーボボ達曰く、今日は彼らの友人が来る予定らしい。

 他の職員にも話を聞いたところ、定期的に訪問してくれている者達らしく、子供達と一緒に遊んだり職員には言い難い事について相談に乗ってくれるらしいのだ。

 施設としても、その間に別の業務を進めたり、職員では吸い上げ切れない子供達の悩みをフィードバックしてくれる存在として頭が上がらない状態なのだという。

 有志でそんな役割を請け負ってくれているのだとしたら、確かにボーボボ達と知己の間柄であるのも頷けるというものだ。

 とはいえ、その何某にしろ職員達にしろ、施設にやって来る迄にはまだ時間が掛かるだろう。

 

(あの人達の友達っていうくらいだから、相当変わった人なのかな...。)

 

 彼女が、まだ見ぬ相手に失礼な思考を働いた時であった。

 外から物音が聞こえたのだ。

 幸か不幸か、僅かな物音にも敏感に反応する様になってしまった彼女の鼓膜に伝わるのは、一定のリズムで何かが地面に当たる音と時折聞こえるガシャンと何かを叩きつける様な音。

 音の方に足を運べば、聞き覚えのある二人の男性の声が聞こえてくる。

 

(あの人達、今度は何してるのかな。)

 

 彼女は音を出している者達の正体に見当を付け、彼らの下へと向かう。

 話し相手にでもなって貰おうなどと、軽率な考えを抱きながら。

 

 

 

 『児童養護施設へいわ』には幾つかの遊具が存在している。

 昨日アイ達がサッカーで使用したボールやミニゴールの他、玩具屋に売っている移動可能なバスケットボールのゴール等、施設に寄贈された物が多数存在するのだ。

 故に、音を出している者の正体_ボーボボと天の助がバスケットボールに興じている事自体は不思議ではない。

 違和感を感じる部分は、彼らがボールとして使っているモノである。

 その特徴的なオレンジ色と棘。

 言うまでもなく首領パッチであった。

 

「おはようございます。」

 

 そうアイが声を掛ければ、二人もまた声を返す。

 

「おはよう。随分早起きだな。」

 

「昨日はすぐに寝ちまったみたいだな。

 どうだ?ここでやっていけそうか?」

 

 その言葉と共に、ボーボボが手にしていた首領パッチをアイへと放ってくる。

 『やっていけそうか?』という、余りにもざっくばらんな問い掛け。

 少なくとも『普通』の施設職員であれば、子供に対する配慮から口にしない様な言葉だが、彼女はそのさっぱりとした感覚が嫌いではなかった。

 

「どうだろうね...。

 少なくとも退屈はしなさそう...かな!」

 

 手元で見るからに死に体の首領パッチの「たすけて...」という呻きを無視し、彼女はリングへとシュートを放ちつつ返答する。

 不器用なフォームで放たれたシュートはリングに届く事すらなく、地面に向かって首領パッチの顔面が吸い込まれてしまった。

 

「もう少し近くから打ったほうがいいな。」

 

 一見すれば分を弁えろと捉えられかねない天の助の言葉だが、しかしそこに相手を貶す様な棘は感じられない。

 純粋にアイに楽しんで欲しいという感情が乗せられている証左だろう。

 

「そうだ、アイ! 俺と一緒にボーボボと戦ってくれよ!

 朝飯前の運動だと思ってさ。」

 

 天の助からの活動的な提案だがしかし、対するアイはあまり乗り気ではない様子だ。

 運動自体は嫌いではない彼女だが、先程の情け無いシュートを鑑みてもバスケに自信が有るとは言い難い。

 日中ならまだしも、激しい運動をする気にならない朝一という時間帯も、要因として重なったのだろう。

 しかし、次に紡がれたボーボボの言葉によって、彼女は俄然やる気を漲らせる。

 

「いいじゃねぇか。

 勝った方が、朝のデザートのライチを相手にあげるってのでどうだ?」

 

「...私、バスケは体育でしかやったことないから自信無いんだけどなぁ。」

 

 変わらず後ろ向きな言葉とは裏腹に、笑顔の二人に囲まれ彼女は拙いドリブルを開始した。

 

 

 

 朝食にて、アイが天の助と共に勝ち取った、ボーボボと首領パッチの分のライチに舌鼓を打っている時であった。

 職員から全員に声が掛けられる。

 

「皆さん、今日もまたお兄さんとお姉さんが来てくれましたよ!

 歯磨きの後にご挨拶しましょうね。」

 

 件のボーボボ達の友人の来訪を報せるものであった。

 その『お兄さんとお姉さん』の人望を示すかの様に、周囲の人間が一様に嬉しそうにしているのが、彼女にも感じられる。

 尤も、彼女からすると、周囲の雰囲気に取り残されているといった状況であった。

 周囲と完全に打ち解けていない事に加え、彼女は人の名前や顔を覚える事を苦手としており、これ迄も人間関係の構築において問題を抱えていたのだ。

 ボーボボ達の様に、外見と内面共に強烈な印象を与える者であればすぐに覚えられるのだが、どちらかの条件を満たす存在でさえ、現実的には稀な存在であろう。

 これから先、施設で上手くやっていく為にも、当面は施設内の人間を把握する事を優先したいのが、彼女の率直な気持ちであった。

 ボーボボ達の仲介も考えられる手前、最低限挨拶はする予定だが、彼女としては今回はあまり深く関わるつもりではなかったである。

 

 

 

 ボーボボ達の友人だというその人物達は、アイから見ても年若い男女であった。

 全体との挨拶が済んだ後、子供達に囲まれる様子からも慕われている事が窺える。

 子供達から見れば、ボーボボ達ともまた違ったより親しみやすい相手といったところであろうか。

 そんな風に彼女が件の男女を観察していると、ボーボボから手招きされまずは女性の方がアイに引き合わされた。

 昨日入所したばかりという事もあり、彼らも気を遣っているのだろう。

 

「初めまして! 私はビュティ。

 前にボーボボ達と一緒に旅をしてたんだ! よろしくね!」

 

 快活さを感じる声と共に柔らかい笑顔を向けつつ、アイへと挨拶をする女性_ビュティ。

 アイから見ても充分に美人と言える彼女への印象は、まさに『歳上のお姉さん』といった所だ。

 容姿だけでなく優しく包容力を感じる雰囲気からも、彼女が子供達から人気を集める理由が分かろうと言うもの。

 『ビュティ』という名前も実に覚えやすくていい。

 『名は体を表す』という言葉を後に知ったアイは、まさに彼女の為にある様な言葉だと感じた。

 

「初めまして、星野アイです。

 よろしくお願いします。」

 

「うん! ちゃんと挨拶出来て偉いね!

 それでね、アイちゃん。

 少し聞きたいんだけど、三人に変な事されてないかな?」

 

「ビュティさん⁉︎」

 

 ビュティの言葉に焦った様子のボーボボ達。

 『変な事』と言われても、寧ろまともな言動の方が少ないと昨日からの衝撃の出来事の連続を思い返すアイ。

 短い間に見せられた奇行の数々を思い返せば、或いはこの施設に入所した子供に対するある種の通過儀礼とも考えられるか。

 三人がビュティに対して必死に弁明しているが、彼女は聞く耳持たすである。

 

「,..急にごめんね、例えばだけど今朝は何してたかな?」

 

「えっと、首領パッチさんでバスケしてました...。」

 

 そうアイが答えた瞬間、彼女の笑顔が変わった。

 仮面を被る事に慣れてしまったアイだからこそ理解出来たのだ。

 形こそ笑顔であるが、その実ボーボボ達すら恐れるナニカが顔を覗かせているのだと。

 

「アイちゃん、ごめんね。

 私三人と話があるから、その間ヘッ君と話をしててくれるかな?」

 

 三人を部屋の外へと引き摺りつつ、『ヘッ君』なる男性をアイの下へ呼ぶビュティ。

 彼女と共に施設を訪れた『お兄さん』と呼ばれていた男性であった。

 見た目の年齢は、ビュティと同じか少し歳上位であろうか。

 

「星野アイさんだよね。よろ_」

 

 男性の挨拶が中断された。

 部屋の外からあの三人の悲鳴が響いてきたからだ。

 

「あー...、えっと、ボーボボさん達いつもあんな感じなんだ。

 最初は戸惑うと思うけど、悪い人達じゃないからさ。」

 

 その言葉と隠しきれない苦笑いは、ボーボボ達をフォローすると共に、男性もまた彼らによって苦労させられてきたのだろう事を窺わせる。

 

(なんていうか、普通だなぁこの人...。)

 

 男性の言葉に曖昧な表情を返すと共に、失礼な事を考えるアイ。

 正味ボーボボ達と比較するのは男性でなくても可哀想であるが、そうは言っても人の名前を覚える事が苦手な彼女にとっては、印象の強さは大切である。

 ボーボボ達と比較する是非は兎も角、感性が一般人に近いという意味では先のビュティも同じだが、あのボーボボ達にすら臆さない胆力は、アイの記憶に残るのに十分なものであった。

 それと比較すると、目上の相手に気を遣っているというのはあるにせよ、男性の人間性は良くも悪くも『普通』の域を逸脱していないというのが、彼女の率直な感想だ。

 体格を含めた外見に着目しても、素人目に見ても鍛えているのだろう事は分かるが、流石に巨躯を誇るボーボボ程ではない。

 外見、内面共に、凡百の存在から逸脱していないというのが彼女からの忌憚のない意見である。

 

(『ビュティさんと一緒にいる人』って感じかなぁ。)

 

 そうアイが男性への評価を下そうとした時、男性が再び口を開く。

 

「そういえば、自己紹介がまだだったね。

 俺の名前は『ヘッポコ丸』。

 よろしくね、アイさん。」

 

 優しい声と共に告げられたのは、二度と忘れられなさそうな名前であった。

 




『ヘッポコ丸』なんて名前、一度聞いたら忘れられないですよ。
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