「あっ、見えてきた!
やっぱり凄い大きさだね...。」
B小町の面々を乗せたワンボックス車、その助手席の窓の向こうにこの日の目的地を認めた渡辺が、思わずと言った様子で感想を述べる。
しかしながら、彼女のその陳腐とも言える反応も無理からぬ事であった。
その施設は公的にはテーマパークという扱いになっており、事実彼女達の乗る車からも巨大な観覧車やジェットコースターの線路が見えており、その区分に間違いは無いのであろう。
彼女達が乗る車が走る高速道路_相応の高さが有るであろうその場所から見ても尚、その敷地の反対側すら把握出来ぬ程の広大さを抜きにすれば、であるが。
「来るのは初めてですけど、なんて言うか、最早ちょっとした町ですよねこれ...。」
「『世界一のテーマパーク』って評判にも納得ね...。
皆、くれぐれも今日は失礼の無い様にね。」
渡辺に続いて自身の座る運転席の後ろから声を掛けてきた高峯に対し、その評価に同意しつつ車中の面々へ注意を促すミヤコ。
そんな彼女の言葉に逆らおうとする者はいない。
これから彼女達が会う予定の人物の前で、粗相を働けばどうなるか_考えたくもないという表情だ。
『ハレルヤランド』
旧マルハーゲ帝国四天王の一人であるハレクラニが経営責任者であるテーマパークであると同時に、同国の重要拠点として機能していた施設である。
表向きは帝国へ恭順の意を示した者達に対しての娯楽施設となっており、老若男女問わず絶大な人気を博す一大テーマパークであった。
尤も、その売上が毛狩り隊の運用資金となっていただけでなく、帝国へ逆らった人間を収容し強制労働を行わせていたとの話も有り、黒い噂が付いて回る施設であった。
ボーボボ達の活躍も有り、旧『ハレルヤランド』は閉鎖され、紆余曲折を経て帝国の崩壊後も独立した動きを見せたハレクラニが別地に新しく設立したのが、現在人々に広く知られこの日B小町が訪れている新『ハレルヤランド』である。
旧帝国時代の黒い噂を払拭するかの如く、真っ当なテーマパークとして運営されている同施設は、内包している様々なレジャー、商業各施設の存在から莫大な経済効果を生み出しており、先の高峯の語った『町』という評価もバカに出来ない存在となっている。
この辺りの急激な方針転換は、ハレクラニが帝国崩壊によって完全に独立した事が大きい。
旧時代より帝国内においても十分な力を持っていたにも関わらず、ハレクラニが皇帝の意向に従っていたのは、当時の皇帝と自身、そしてサイバー帝国のギガが持ちつ持たれつの関係によってパワーバランスを保つのが目的であった。
そもそもハレクラニ本人としては、毛狩りへの興味等無く自身が利益を得られればそれで良しという考えであり、帝国との縁が切れた今となっては、寧ろ後ろ暗い要素は徹底的に排除するスタンスを取っていた。
そんなハレルヤランドをB小町が訪れているのは、彼女達のこの一年間での急成長に着目したハレクラニが、苺プロへとコラボレーションを打診した事が始まりとなる。
ハレルヤランドの公式YouTubeチャンネルでは、施設内のPRだけでなく定期的にコラボ動画が配信されており、今回のB小町とのコラボもこれに当たる。
ハレクラニ本人が選定するコラボ相手は、個人、グループ問わずその業界における所謂「新進気鋭の若手」や「埋もれていた人材」となる傾向が強い。
動画の内容は基本的に、ゲストが携わる事業や活動に対して質疑応答を繰り返す形で進められるが、そのゲストの活動内容もB小町の様に仕事を紹介する者から本人の趣味が高じて業界内で有名になった者まで千差万別だ。
では、今回彼が自分達を選んだ事には、どういった思惑が有るのか_不安と緊張を隠せぬまま、少女達は巨万の富を操る男へと向き合っていく。
「さて、今回のゲストを紹介しよう。
デビューからたったの一年で急成長を遂げ、先月にはグループ初の全国ツアーを完走したばかりと、今波に乗っているアイドルグループ『B小町』の諸君だ。
今日は、多忙の中で誘いを受けてくれた事、感謝する。」
とてもホストとは思えぬ高飛車な態度でB小町を紹介する言葉をカメラへ向けて発したこの男こそ、ハレルヤランド経営責任者のハレクラニその人である。
動画撮影時に着用している高級ビジネススーツからは、柔らかい香水の香りを漂わせ、自信に満ちたその表情と併せて正に『デキる男』といった風貌だ。
自己紹介を終えたB小町の面々とハレクラニの間には、彼女達の遍歴を纏めたフリップが置かれており、これに従って進行するのが定番の流れである。
「君達のここ一年での急成長振りは、目を見張るしかない。
遍歴を見るに、デビューから約半年の時点で既に全国ツアー開催へと漕ぎ着けている訳だが、素人目に見ても余りに順風満帆に行き過ぎている様に思える。
そこで質問だ。
この超短期間での成長と成功の要因について、君達自身の考えを聞きたい。」
この遠慮の無い鋭い切り口こそ、この配信が人気を集める要因である。
今回のB小町然り、自身にとって専門外の分野のゲストも多く、それらに対して率直に質問を行う事によって、それらの活動が自分にとってどう利益に繋がるのかを理解するのと同時に、活動内容を自分で語らせる事によって、その者が自己分析を行えるのかを見極める狙いが有るのだ。
いっそ清々しさすら感じる程にビジネスチャンスを拡げようとする姿勢や、未知の分野に対しては出しゃばる事無く聞きの姿勢を貫く等、視聴者からも好感を持たれている。
事実、コラボ相手のイベント開催場所をハレルヤランド内で提供した事例も有り、巨大な複合施設を有する彼だからこそ、様々な分野にアンテナを張っていると言えるだろう。
「えっと、まず前提として、ファンの皆様の応援と事務所や会場で手を貸して下さった方々のおかげというのは有りますけど...。
やっぱり、あのワークショップが一番大きかったかな?」
「私達三人から見ると、そこしか無いと思うよ。
初めて一緒にレッスン受けた時、『本当に同じ人か?』って思ったし。」
代表して回答した高峯の考察に、有坂が同意しつつ当時の自分達三人の心境を述べる。
何しろ、自分達と創設メンバーの最も大きな違いが、その点に有るからだ。
創設メンバーと新加入組、それぞれの中で冷静な発言が出来る二人が上手く会話の流れを作った事に、カメラに映らない場所で彼女達を見守るミヤコもひとまず胸を撫で下ろす。
一方のハレクラニ側も、その発言に目敏く食い付く。
ワークショップの情報は、眼前のフリップには記載されていないものであった故に。
「ワークショップ? 詳しく聞かせて貰えるかな?
発言のニュアンスから察するに、通常のレッスンとは趣が異なる様だが?」
「あっ、はい。
時期的には、丁度三人が移籍してきたのと同じくらいですね。
ある劇団が開催した演劇ワークショップに、一週間お邪魔させていただきました。」
「あれ以降、それぞれの強みを気付けたのが大きいのかなと思います。
無理に全員が同じ能力にならなくても良いんだって、ある種吹っ切れたと言いますか。」
自身の問いに再び回答した高峯に続いて、渡辺が語った考察を聞き、ハレクラニもまた自身の中で考えを纏めていく。
彼女達の経歴を鑑みるに、十中八九劇団の人間が指導を行ったであろう事は容易に想像出来る。
同じ舞台上でパフォーマンスを行う者からのアドバイスが、彼女達の秘められた才能を発現させる切っ掛けになったと言うべきか。
(別分野同士の接触が、思わぬ化学反応を生んだという訳か...。)
ハレクラニの頭脳が、B小町、そして彼女達の才能を見出した者を要する件の劇団を起用したイベントについての青写真を描いていく。
普段、ハレルヤランドを訪れないアイドルファンの来場や、同施設内にて演劇の公演を行った際の実験を見込めるだけでも、十分な成果と言えよう。
現状でも、ファミリー層向けのヒーローショーを行ってはいるものの、会場の設備やキャパシティを持て余してしまっているのが実情である故に、別の可能性が生まれるのは経営者として無視出来ないメリットなのだ。
新たな収入源の追求_飽くなき欲望の為なら、手段も分野も厭わないのがハレクラニという男である。
「さて、今回の収録はここまでとなる。
B小町の諸君、今日は実に有意義な時間を過ごさせて貰ったよ。
諸君の益々の活躍を願いつつ、動画を締め括ろう。」
「ハイ! オッケーでーす!
B小町の皆さん、お疲れさんでしたー!」
右手を上げつつそう語ったハレクラニの合図に従い、収録が終了した事を伝えると共にB小町を労う宇治金時の様な見た目の男_宇治金TOKIO。
ツルリーナ3世世代の毛狩り隊Fブロック基地隊長として、ボーボボ達と戦い敗れた後、次期皇帝決定戦の折に知り合ったハレクラニの資産に目が眩み、以後彼に従っている。
「TOKIO、彼女達にいつもの土産を持たせてやれ。
私は、斉藤マネージャーと少し話がある。」
「かしこまりました!
ほんなら皆さん、ワイに着いてきて下さい!」
そう語り、TOKIOがB小町を別室に誘導するのを見遣ると、ハレクラニもまたミヤコへと話を持ち掛けた。
「斉藤マネージャー、改めて今日は礼を言わせて貰おう。
機会があれば是非、我がハレルヤランドでのライブ開催を検討して貰いたい。」
「そんな、礼を申し上げるのはこちらの方です!
ライブまで検討していただけるなんて、願ってもないお言葉です!」
ハレクラニの言葉に頭を下げ、礼を述べるミヤコ。
彼女からすれば、今回のコラボによって配信を見た人間の一部でもファンとして取り込めれば上出来と考えていただけに、相手からの申し出に喜びを隠し切れない様子だ。
何しろ今はカメラが回っていない、つまり企画上の社交辞令ではなく本気でB小町の起用を検討してくれていると考えて良いだろう。
今勢いに乗っているB小町が、ハレルヤランドという国内屈指のブランド力を持つ舞台でライブを成功させたなら_想像するだけでも胸が躍ってしまう。
そんな期待に胸を膨らませるミヤコに、もう一つ_とハレクラニが相談を持ち掛ける。
「それから、先の収録中に出てきた劇団の事なんだがね。
可能であれば、紹介して貰えないだろうか。」
「かしこまりました。
先方の代表の方に了承いただけましたら、ご連絡させていただきます!」
「結構。
ライブの話も含め、色良い返事を期待しているよ。」
そう言い残し、部屋を後にするハレクラニに再度頭を下げるミヤコ。
まずは可及的速やかに壱護と金田一に連絡を取らねばならない。
やる事は山積みであるが、その表情は不思議と充実したものとなっていた。
「ミヤコさん、私今日の仕事で一つの真理に気付いたよ。
世の中、結局お金なんだね。」
帰り道の車内で徐にそう呟いたアイにどう返答すべきか、ミヤコは頭を悩ませた。
他のメンバーも口には出さないが、ハレクラニの姿に世知辛い現実を認識した表情だ。
未だ義務教育を受ける彼女達には刺激が強過ぎたのかもしれない。
「嫌な事に気付いちゃったね...。
まあ、遅かれ早かれ分かる事だし、社会勉強だと思っときなさい。
どんな世界で何をやるにしても、元手は必要なのよ。」
自身に返ってきたミヤコの言葉に、アイも納得した様子を見せる。
彼女が胸に秘めたささやかな望み_家族や友人との日常にも『共に過ごす人間』という元手は必要不可欠なものだ。
微妙なものとなった車内の空気を変えるべく、ミヤコは彼女達が持たされた土産へと話題を移した。
TOKIOが自身の原材料だと言って袋詰めで持たせてくれたとの話に、ミヤコも驚かざるを得ない。
「えっ、じゃあそれ全部小豆って事⁉︎
凄いじゃない、そんなに沢山。」
「えっ? 何で小豆なんですか?」
自身の感想に対して、ズレた反応をする新野にミヤコは怪訝な表情を見せる。
まさか、誰一人金時の材料を知らないとは思わなかった故に。
宇治抹茶という可能性も有るが、それは流石に土産として持たせるには度が過ぎているだろう。
「だって、金時の材料って言ったら小豆じゃない...。
...まさか全部抹茶とかじゃ無いわよね?」
「...全部コーヒー豆ですけど。」
「⁉︎」
ハレルヤランドの下りは、何となくで考えたものですので余り深く突っ込まないでいただけますと幸いです。
本話以降、B小町の本格的なスター化からアイの妊娠と出産迄を区切りとして書いていく予定です。
このペースだと、アクアとルビー誕生迄何話掛かるか分かりませんが、気長にお付き合いいただけますと幸いです。