因みにメロディとかは全く考えてません。
八月の咽せ返るような暑さから遮断され、エアコンによって快適な室温が確保された苺プロのレッスン室には、実に十人もの人物が集まっていた。
そもそもの発端は、この十人の内の二人である壱護とミヤコの発案である。
B小町のメンバーによる作詞・作曲への挑戦_あくまで企画段階ではあるものの、グループ内において新しい風を吹かせる事を期待したものであった。
元々、メンバーの渡辺が時折ミヤコに対して作詞への興味を示す発言をしていた事や、ピアノの演奏が出来る久常の存在も有り、取り敢えずやらせてみようとの壱護からの判断が下った形である。
現実的には、作曲に関しては久常に頼ってしまう形となるだろうが、少なくとも作詞の方は各々が一曲は持ち寄ろうとの取り決めを行い、この日はそれぞれが準備してきたものを披露していた。
壱護達としても、何も彼女達が準備したものをそのままリリースしよう等とは考えていない。
実際に自分達で作詞・作曲に取り組ませる事で、普段自分達に曲を提供してくれているクリエイターの人々の偉大さを認識出来ればそれで良し。
元々興味を示していた渡辺は勿論だが、七人も集まれば各々が作った詩の一部だけでも良いものが出来上がってくるかもしれない。
それこそ互いの歌詞に対して意見交換を行い、洗練された一曲でも生み出そうものなら万々歳なのだ。
部屋にいる十人の内二人が、残りの八人の前に立つ。
先の壱護達とB小町のメンバー六人だ。
八人の前に立っているのは、アイとポコミである。
何故部外者であるポコミがこの場にいるのかと言うと、今回の企画により人生初の作詞をする事になった彼女の隣に立つ人物から相談を受け、どうせならばとボーボボ達も巻き込んで取り組んだ結果、二人で歌う曲を持ち込んで来てしまった経緯が有る。
夏休み中の為時間を持て余していた故か、二人でユニット名まで考えてきた熱量に壱護達も押されてしまい、物は試しと披露させてみる事にしたのだ。
本来の企画の趣旨とズレてしまってはいるが、彼女達が並び立つ姿が魅力的であるのも事実であった為、曲の内容如何によってはヘッポコ丸を説得してポコミと本格的なタレント契約を結ぶ腹積りである。
(ヘッポコ丸君に写真を見せて貰った時にも思ったけど、いざこうしてアイの隣に立つと中々どうして様になるわね。)
過去にポコミの姿を初めて見た時の印象を思い出すミヤコの前に立つ二人は、服装こそ運動に適したラフなものであるが、その表情は自信と魅力に満ちた正にアイドルそのものである。
新たなスター誕生の瞬間に立ち会えるかもしれない_そんな期待の眼差しを受ける二人が、ユニット名を高らかに宣言した。
「アハッ! 浮き沈みアイドルユニット『沈没ガールズ』いっくよー!」
「デビューソング『おしどり夫婦』スタート!」
「⁉︎」
「おしどりふ・う・ふ〜♪」
「物々こ・う・か〜ん♪」
「おしどりふ・う・ふ〜♪」
「物々こ・う・か〜ん♪」
「おしどり夫婦と鮪の赤身を♪」
「等級価値で物々交換♪」
「おしどりふ・う・ふ〜♪」
「待て待て待て!
ストップ! ストーップ‼︎」
止まる気配の見えない二人の勢いを無理にでも堰き止めるべく、壱護が声を張り上げる。
歌唱を途中で止められてしまった二人は不満気な表情を見せるが、壱護からすれば不満を言いたいのはこっちである。
「もう何から突っ込んだら良いのか分からん...。
何でそれでいけると思った⁉︎」
『沈没』というネガティブな言葉をユニット名に入れた事、中高生の少女がデビューソングとして歌うにはヘビー過ぎる様に思える『おしどり夫婦』という曲名とその意味不明な歌詞に、聴かされた面々はげんなりとした表情だ。
なまじ歌っている姿が魅力的に見えてしまうのが腹立たしい。
「そんなに駄目かなー。
覚え易くて良いと思うんだけど、『沈没ガールズ』。」
「パッチンとプルルンに、社長さんとミヤコさんをイメージして作って貰ったんだけどなぁ...。」
「さっきのが⁉︎ 俺達のイメージどうなってんだよ⁉︎」
一通り全員が作ってきた詞を披露し終え、一旦少女達だけで話合わせる事にした壱護とミヤコが、事務所内のソファへ深々と腰掛ける。
パフォーマンスへの刺激になればと思い付きでやらせてみたは良いものの、言葉選びに関してジェネレーションギャップを感じる部分も多く、若干の疲労感を漂わせていた。
そんな二人に書類の確認を依頼する傍ら、ビュティが労いの言葉を掛ける。
「お二人ともお疲れ様です。
なんだか思いの外盛り上がってるみたいですね。」
「ありがとな。
盛り上がってるのはありがたいんだが、正直知らない単語が出てくると付いていけん...。」
「言葉は生き物とはよく言ったものね...。
正直、ちょっと感心しちゃう言い回しも有るもの。」
くたびれた様子で語られた二人の言葉に、ビュティも苦笑いを返す他無い。
事務所内では最も彼女達と年齢が近い身でありながらも、時折知らない言い回しに驚かされる事が有るのだ。
情報をアップデートし続けるというのは、言う程簡単な事ではないと思い知らされる。
「まあでも、今迄に無い曲が出来上がるかもってのは楽しみでもある。
若者に響くのは同じ若者の言葉だろうしな。」
「ああ成程。
だから最近、アイちゃんとポコミちゃんも一緒に盛り上がってたんですかね。」
一方で、彼女達特有のセンスが刺さる層もいる筈だとの壱護の前向きな言葉に、ビュティもまた最近アイ達が協力して励んでいた様を思い返すが。
「いや、あれは流石にちょっとね...。
あれはもう世代がどうとかじゃないし...。」
その言葉に遠い目をするミヤコ。
当然の如く『沈没ガールズ』はボツとなったが、先の一幕で聴かされたものは理解の範疇を超えた代物であった。
何がどうなってあの歌詞が出力されたのか_そんな諦観の表情の理由をビュティは探る気にはなれず、大人しく別の話題を振る事にした。
「はは...、そ、そういえば、皆が出てた五反田監督の映画、ノミネートされたみたいで良かったですね!」
ビュティが語った通り、先のアイ達も出演した五反田の監督作品が、応募したコンクールの優秀作品賞の候補となった。
最終的な結果はまだ出ていないものの、五反田から送られた作品のコピーを観たビュティも、素人ながらに作品の質に驚かされた事は記憶に新しい。
特に、主役とヒロインを演じたヒカルとアイが出す雰囲気は、役なのか素なのか分からないと感じさせられたものであった。
それには壱護達も同意の様で、プライベートでも親密な二人だからこそ出せたものであろうと語り出す。
「まあ、あれだけメイン二人が雰囲気作ってるんだしな。
ビュティちゃんから見ても、あれからもアイツらは順調な感じか?」
それは、自分達よりも距離感が近いビュティに二人の関係の進捗を問う言葉。
苺プロとしては、彼女を含めB小町のメンバーに対し恋愛の制限はしていないものの、他の団体に所属する人間が相手となると、節度を守ってもらう意味でも関係性についてある程度は把握しておきたい。
アイ達の場合、ヒカルの性格や過去を考えれば短絡的な行動は起こさないであろう事は壱護も信じてはいるものの、何事も万が一という可能性はあり得る故に。
そんな彼の問いに困った様な表情で本人から聞いた現状を語るビュティ。
「前にアイちゃんに聞いた時は、付き合ってないって言ってましたよ...。」
「あれで? 照れてるんじゃなくて?」
ビュティの言葉に思わずと言った様子で返すミヤコ。
彼女も映画撮影時の様子を見ていた上、ビュティ達からも度々食事を共にしている話を聞いているだけに、側から見れば少なくとも互いに好意を持っている様にしか思えない。
言われたビュティとしても、彼女の意見に同意する所ではあるが、本人から否定されてしまってはそれ以上突っ込む訳にもいかなかった。
「まあ、二人ともまだ中学生ですし、私達の方が気にし過ぎてるだけかもしれませんね。
アイちゃんだと『彼氏じゃなくて家族だけど』とか言いそうですけど。」
そう冗談っぽく語るビュティにつられ、二人も自然と笑顔になる。
あの嘘吐きの天才なら、確かに恋人関係を否定しておいてそんな事を宣いそうだ_と。
周りが焦らずとも、本人達の気持ちが本物であるなら遅かれ早かれ然るべき関係に落ち着くであろう。
この日、アイとボーボボ達が住む部屋には、ポコミに加えヒカルも来訪していた。
彼がこの部屋を初めて訪れてからこっち、最早呼ばれるのが習慣と化しており他人の家ではあるものの、幾分寛いだ態度を見せている。
とはいえ、ポコミとヒカルは初対面である為、こういった場合二人の共通の知り合いであるアイが間を取り持つ事を求められるが。
「ねぇポコっち、ステッキ貸してくんなーい?」
「...何に使うつもり?」
ソファの上でだらけた格好でそんな事を宣う彼女に、その意図を問うポコミ。
出す事自体は簡単だが、強力な力を振るってしまう可能性が有る為、素直に頷く訳にはいかない。
「足ツボ押す物が欲しくてさー。」
「絶対やだよ! ふざけんなし!
大体、硬い棒だったらボールペンとかでも良いでしょ!」
そう憤慨するポコミに、今度はニヤニヤとした表情で口元に手を当てるアイ。
なんとも腹立たしい表情で何を言うのかと思えば。
「硬い棒とか、ポコっちやーらしフゴゴゴゴゴ。」
ステッキを瞬時に出現させ、柄の先をアイの頬へとめり込ませるポコミ。
仮にもアイドルの人間に対するものとは思えない所業に、横で一部始終を見ていたヒカルも苦笑いを浮かべる。
「アイちがこれからやるのは晩御飯の準備。
答えは『はい』か『イエス』、分かった?」
「...ふぁい。」
彼女の怒りを買った哀れな少女が台所へ向かうと、一連の流れにヒカルが感想を述べる。
「凄いですね、ポコミさん...。
アイにあんなに遠慮無く言えるなんて、ボーボボさん達でも出来ませんよ。」
それは純粋な賞賛の言葉。
付き合い自体は彼女よりも長いボーボボ達との関係よりも、より遠慮の無い関係に感じられたのだ。
年齢と性別を考えれば、B小町の面々も同年代である筈だが、流石にここまで砕けた態度を見せている様子は無かった。
「まあ、私はファンでもあるけど、基本アイドルの仕事は関係無いからね。
カミキ君も、彼氏なんだから遠慮しちゃダメだよ!
アイちったらすぐ調子に乗るんだから!」
「ぼ、僕らは別に...。」
ポコミの言葉に赤面しつつ口籠るヒカルの後ろから、二つの影が飛び出す。
「ヒカルちゃんよー、良い加減ゲロっちまえってー。
ホントはやる事やってんだろー?」
「別に恥ずかしがる事じゃないんだぜ。
お似合いなんだし認めちまえよ。」
首領パッチと天の助に絡まれ、更に顔を赤くするヒカル。
そんな光景を見たポコミも、ここまでウザ絡みされては言いたくても言い難いであろうと感じるが、直後に語られたヒカルの思いはその予想とは異なるものであった。
「僕なんかが、誰かを好きになるなんて...。
迷惑ですよ、僕なんかに好きになられても...。」
その言葉にポコミは眉を寄せるものの、一転して彼に絡んでいた二人が真剣な表情になった事から、静観を選ぶ。
恐らくは何か複雑な事情が有るのだろう_と。
一方の首領パッチ達も彼の言わんとする事を理解した。
彼が過去に負った傷の事を思えば、確かに負い目を感じてしまうのも理解は出来る。
恐らく、アイの方からはそれとなく気持ちを伝えてはいるのだろうが、どうしても一歩が踏み出せないのであろう。
そんな彼に首領パッチが『おやびん』の顔となり、語り掛ける。
「ヒカルよ、彼女だろうが、家族だろうが、ダチだろうが、大事にしてぇって思いに嘘を吐くもんじゃねえぜ。
手を伸ばして繋ぎ止めておかねぇとな、すぐどっかに行っちまうんだ。」
それは、かつて激闘を繰り広げ、生き残ってきた者故の言葉であった。
なまじ彼自身が強過ぎたが故に、同じ敵に挑み傷付いてきた仲間の姿を飽きる程見てきたのだ。
「パチさん...。」
「つう訳で、一つ俺からお節介のプレゼントだ!
ありがたく受け取っときな!」
そんな言葉と共にポコミが手に持つステッキを強奪した首領パッチが、ヒカルへとそれを向けると。
「アクシオ・ナンタラカンタラー‼︎」
ヒカルの下腹部へと光が伸びたかと思えば、まるで釣竿の様に引っ張るとその先には白い光が満ちており。
「抉る様にして、シュウゥゥゥゥ‼︎」
それを今度はアイの方へと振りかざし、その光を彼女へと飛ばしていく。
「うわっ、何これ⁉︎ パチさんのイタズラ⁉︎」
自身の下腹部へと謎の光が吸い込まれるのを見たアイが、ステッキ片手に妙なポーズを取っている下手人を問い詰めるが。
「二人のキューピッドだっちゃ!」
そんな言葉に顔を見合わせると、同時に顔を赤らめるアイとヒカル。
微妙なものとなった空気に思わずと言った様子でポコミが呟く。
「ねえプルルン、私今滅茶苦茶苦いコーヒー飲みたい。」
「フッ、奇遇だな、俺もだ。」
ポコミが宮崎へと戻る日、空港にはヘッポコ丸やアイと共にヒカルも見送りに来ていた。
いよいよ出発という時に、ポコミがヒカルを呼び声を掛ける。
「カミキ君、私来年もこっちに来るから、その時にはアイちとどうするか教えて欲しいな。」
それは、彼と友人の関係を案じる言葉。
ポコミも先の一幕から、彼が何かしらの事情を抱えている事は察しているが、とはいえ友人の気持ちを思えば答えを出してやって欲しい気持ちも有る。
そんな彼女にヒカルも首肯を返す。
アイにばかり甘えてはいられないという表情だ。
「頑張ってね、私も応援してるから。
それじゃあ、皆またねー‼︎」
遠ざかっていくポコミの姿を見つつ、アイがヒカルへと声を掛ける。
「行っちゃったね。
んで、ポコっちと何話してたの?」
「アイとの事、答え出せる様に頑張るから...。
だからもう少しだけ、待っててくれるかな?」
そんな彼の言葉に笑みを浮かべるアイ。
踵を返すと腹部を摩りつつヘッポコ丸へと、声を掛ける。
「へっさんゴメン、ちょっとトイレ行ってくるね。
何か気持ち悪くってさ...。」
筆者「待てないっス。」
2943ちゃんから皆様へのメッセージ
「拙作を読んでくれている読者諸氏に忠告しておくよ。
このアホな筆者は『推しの子』という作品のクロスオーバー先として『着せ恋』と『ボーボボ』で『ボーボボ』を選ぶ奇特な人間だ。
これから先の数話で星野アイの出産という一大イベントを描く訳だけど、このアホにまともな描写を期待しない方が身の為だよ。」