推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:31ちゃんと考えようよ

 アイが無事出産を終え、彼女とヒカルとの間に双子の赤ん坊が誕生してから三日後、ポコミは自転車の様な姿に変形した天の助と共に産後の見舞いの為に病院へと向かっていた。

 産後間も無いとはいえ、壱護もボーボボ達も仕事の関係上、東京に戻る事を余儀無くされた為、今回の様にその体がそのまま移動手段にもなり得る天の助が代表してヒカルと共に宮崎に残っている形である。

 

「ねぇ、プルルン。

 赤ちゃんの事とは別に大事な話が有るって言ってたけど、それって今話しちゃダメなの?

 何か迎えに来てくれた時から難しい顔してたけど...。」

 

 自宅へと迎えにやって来た際の天の助の様子を思い出しつつ、その『大事な話』とやらの内容について問うポコミ。

 その時の彼は、顔の形が漢字の『難』となっており、醸し出す雰囲気からしても余り気軽に話せる内容でない事は窺えた。

 とはいえ、これからアイや彼女達の子供と面会する事を考えれば、難しい話を先に片付けておきたい気持ちは有る。

 その為、他の人間には聞かれないであろう移動中を利用できないかとの考えだったのだが。

 

「あー...、まあその気持ちは分かるし悪いとも思ってるんだけどな...。

 内容が内容だし、出来ればアイ達と同じ場所で話したくてよ...。

 取り敢えず、今は子供の顔見る事だけ考えててくれ。」

 

 何とも歯切れの悪い返答に、渋々ながら納得するポコミ。

 彼がここまで真面目な雰囲気で話す事からも、話を聞いた後に重苦しい空気になってしまう可能性が高い。

 そんな状態で見舞いに行っても、アイ達に対して失礼であろう。

 

(そういえば、せんせからも連絡無いし、もしかしたらアイちか赤ちゃんの調子が良くないのかな...。)

 

 本来ならすぐに自分へ連絡してくるであろう吾郎からの連絡が無い事実から、不穏な予想を立ててしまうポコミ。

 天の助から聞き出す事は難しそうである為、試しにと今の状況から話の内容を想像してみた結果だが、仮にアイや子供に関してのネガティブな情報であれば、天の助が言い淀んだり吾郎が連絡を躊躇う気持ちにも理解が及ぶ。

 こうしてはいられないと、逸る気持ちを伝えるかの様に変形した天の助のハンドル部分を握る力を強めつつ、更なるスピードを要求する。

 

「ああもう、なんかモヤモヤする!

 プルルン、もっと速くならないの⁉︎

 そんな事言われたら、私もアイち達の顔見ないと落ち着かなくなっちゃうじゃん!」

 

「全くしょうがねぇなぁ。

 うし、折角だからあの曲歌ってテンション上げてくぞ!」

 

 自身の要求に応える天の助の意図を察し、ある曲を思い浮かべるポコミ。

 成程、その曲は彼も作詞・作曲に参加し、彼女とアイにとっても思い出深い一曲だ。

 

「アハッ‼︎

 オッケー、テンション爆上げで行っちゃうよー!

 せーの!」

 

 

「おしどりふ・う・ふ〜♪」

 

 

 幸せそうな表情のアイとヒカルの視線を受けつつ、ポコミが二人の子の顔を覗き込み、感嘆の息を漏らす。

 何とも弱々しく、不用意に触れれば崩れ去ってしまいそうとすら思える儚さと、確かに呼吸をし鼓動を動かす命の力強さのアンバランスさは、やはり赤ん坊特有の魅力なのだろうか。

 

「はあぁぁぁ...。

 すっごいねぇ...、こんなに小さいのに、ちゃんと呼吸もしてて...。

 守りたくなる存在って、こういう事なんだろうねぇ...。」

 

「ホントに、命って凄いよね...。

 この子達が出てくる時ね、もう今迄感じた事が無いくらい大変だった...。

 よく『母は強し』って言うけどさ、あれを乗り越えたらそりゃ強くなるだろって感じだよね。」

 

 見事に双子の出産を自然分娩で成し遂げた友人の言葉に、成程と思わされるポコミ。

 『母は強し』の本来のニュアンスは、元来か弱い存在である筈の女性が、子供を産み守る為に強い力を発揮するというものであったと彼女も記憶しているが、アイの言う通り出産時の物理的な苦痛を乗り越えた事で精神的に強くなるという意味合いも含むのかもしれない。

 

「そんで、肝心要の名前はどうなったの?

 結局産まれる迄教えてくれなかったけど。」

 

 ここまでついぞ教えて貰えなかった二人の名前をポコミが問うと、待ってましたと言わんばかりのアイに対して、何とも微妙な表情のヒカル。

 『産まれた時のお楽しみ』と言っていたアイの方はさもありなんという様子だが、問題はヒカルの方だ。

 以前、せめて候補だけでも教えて貰えないかと彼に聞いた際にも、言い渋っていたのがポコミとしても印象深い。

 好みの名前や使いたい漢字等、意見が別れる所ではあるだろうが、或いはアイに押し切られたのだろうか。

 

「じゃーん!

 私が付けた名前だよ!

 男の子がこっちで、女の子がこっちね!」

 

「あっ、そっか。

 まだ結婚してないから星野性だよ...ね。

 ...ごめん、これ何て読むの?」

 

 意気揚々とアイに二人の名札を見せられ、まず両親が結婚出来ない現状から母親の性となった事情を理解しつつ、名前の方へと目を映せば、そこには何とも判断し難い文字列が並んでいた。

 名前の漢字に当て字を使うケースは珍しいものではない故に、一目で読めなかった場合に読み方を聞くポコミの姿勢は正しいものであろう。

 

 『星野愛久愛海』と『星野瑠美衣』。

 これを見せられて、初見で読める人間はどれだけいるのだろうか。

 『瑠美衣』の方は何となく想像は付くものの、今度は本当にその読み方で合っているのかという疑問が浮かぶ。

 成程、父親となったヒカルが言い渋るのも分かろうものだ。

 

「『アクアマリン』と『ルビイ』だよ。

 『ルビイ』の方は発音は『ルビー』になるけど。」

 

 その名を彼女が口にした瞬間、渋い表情でポコミに視線を送るヒカル。

 彼自身が、アイから聞かされた時の衝撃と困惑を覚えているだけに、彼女の反応が気になる所だ。

 宝石にあやかりたかったとのアイの考えを聞いて、出て来たのが先の名前であった為、最初は将来的に自分達と同じ様に芸能界に入った際の芸名かと思った程である。

 他の面々の反応はというと、壱護は絶句、ボーボボ達の方は逆に『アクアマリンって...、かっけぇ...。』等と漏らしており、些か判断に困る状況だ。

 自身の感覚に従えば、アイが付けた名前は所謂キラキラネームと呼べるものであろう。

 かの有名な『悪魔くん騒動』然り、親のエゴによって付けられた名前に関連した事件は、ヒカルにも覚えが有る。

 自分達の年齢も加味すれば、子供達に対する周囲の反応について楽観的な想像をするのは難しい。

 そこで、ボーボボ達よりもずっと自分との感性が近いだろうポコミの反応如何によっては、アイを説得し名前を変えるつもりでいるのだ。

 

「ルビーちゃんは、まあまだ分かるけどさ。

 アクアマリン君って、絶対読めないよこれ...。」

 

(そこもそうだけど、出来れば名前のチョイス自体にツッコんで欲しい!)

 

 自身の思惑とは若干ずれた指摘ではあるものの、ポコミがアイのネーミングセンスに違和感を覚えた事実を、内心喜ぶヒカル。

 同性の人間からの指摘であれば、自分が言うよりも冷静に受け止めて貰えるだろうとの期待を掛けるが。

 

「あと、こう言っちゃなんだけど、長くない?

 アイち、絶対面倒くさくなってアクア君って呼ぶでしょ...。」

 

「...そんな事...、ないよ...。

 私にとっては、ルビーもアクア...マリンも、頑張って考えた名前だもん。」

 

(何でそこでいつもの嘘が吐けないんだよ! そこは自信持てよ!)

 

 既にポコミの指摘通りになりかけているが、アイも彼女からの指摘には一理あると感じたのか、考え込む様子を見せる。

 

「まあでも、確かに毎回毎回アクアマリンは、本人も周りも大変だよね...。」

 

「私も何の気無しにアクア君って言ったけど、やっぱり三文字か四文字の方が呼びやすい感じはするね。」

 

 二人の話の流れに手応えを感じつつ、このまま考え直す方向に持っていこうとヒカルが発言しかけるが。

 

「ポコミさんもこう言ってるし、もう一度_」

 

「因みに他に何か考えてたの?」

 

「男の子だと、他には『ボンクラ丸』も考えたんだけどねー。

 女の子がルビー以外に思い付かなくってさー。」

 

「頭おかしいのか君は。」

(へ、へえ...、凄い名前だね...。)

 

「えっ?」

 

「えっ、僕今変な事言った?」

 

 ポコミからの問いに対してアイから出された代替案に苦笑いしつつ反応するも、何故か周囲の面々が驚いた様子で自身に視線を向けた事に戸惑うヒカル。

 もしかすれば、自分で思っている以上に感情が顔に出てしまっていたのかもしれない。

 

「...気のせいだったのかな?

 にしてもアイちさー、『ボンクラ丸』ってお兄ちゃんに影響され過ぎでしょ。」

 

「しょ、しょうがないじゃん!

 ポコっちだって、同じ立場になったら絶対周りの人の名前参考にするよ!

 ただ、お姉ちゃんの名前は、どう頑張っても良い感じに変えられなくってさー。」

 

「まあ、その辺は自分でしっくり来るかどうかにもよるからなぁ。

 こういうのが良いって一回決めちまうと、それに囚われちまうしよ。」

 

「それにしたって『ボンクラ丸』はないだろ...。」

(ビュティさんから取るなら、普通に『美咲』とか有るんじゃ...。)

 

「えっ?」

 

 周囲の人物の名を参考にするというアイの考えに理解を示しつつ、それとなく代替案を提示したヒカルだが、またしても周囲から怪訝な表情を向けられてしまう。

 確かに『ビュティ』を参考に『美咲』では、安直と思われても致し方無いだろうか。

 

「そ、そういえば、カミキ君は何か考えてないの?

 アイちからも、イメージくらいは聞いてるんでしょ?」

 

 何故か微妙なものになった空気を変えようと、ポコミがヒカルの考えを聞こうと水を向ける。

 彼も父親として、愛する子供達に付けたい名前が有るだろう_と。

 その問いに、ヒカルもはにかみつつ自身の案を披露した。

 

「えっと、最初にアイから宝石が由来だっていうのは聞いてたので...。

 『碧人(あおと)』と『紅里(あかり)』とかはどうかなって思ったんですが...。」

 

「...ヒカルさぁ、自分の子供の名前だよ?

 そういうお年頃なのは分かるけど、もうちょっとちゃんと考えようよ。」

 

「あー、その、私は悪くないと思うよ...。」

 

「まぁ、誰でもそういうのに憧れる時期は有るからな...。

 お前なりに頑張って考えたんだから、あんま気にすんなよ!」

 

 

(ああ、そうか。 僕の方がおかしいんだね。)

 

 そんな周囲の反応に打ちのめされたヒカルは、ゆっくりと立ち上がると我が子へと慈愛の眼差しを向ける。

 最早、自分一人でこの流れを変える事は叶わないだろうと悟った様子だ。

 ならばせめて、自分がこの暴走機関車達から二人を守る防波堤とならねばならないだろう。

 

「愛久愛海、瑠美衣。

 お父さんは何が有っても二人の味方だからね...。」




 今回は短めですが、双子の名前についての話でした。
 次回、同場面の続きで吾郎先生について触れる予定です。
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