推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:32何言っちゃってんの?

「そういえば、せんせってどうしたの?

 私、予定日に連絡貰ってからずっと音沙汰無しなんだけど。」

 

 双子の名前についての論争が一応の決着を見た事もあり、ポコミがずっと気掛かりだった事について、アイ達へと尋ねる。

 彼女がその言葉と共に自身の携帯の画面を見せると、そこにはアイの出産予定についての彼女と吾郎とのやり取りが表示されていた。

 医者が如何に苛酷な職業であるとはいえ、流石に三日間不眠不休という訳ではないだろう。

 ポコミとしても、当初はアイや子供達の状態が芳しくない故かと考えていたものの、素人目に見ても彼女達に異常が有るとは思えない。

 そうなると考えられる可能性としては、吾郎自身が連絡を取れない状況になったという事であろう。

 そんな彼女の言葉を受けた面々の表情が、一気に暗いものとなり、発言した当人も嫌な予感を覚えるが。

 

「ポコミさん、まずはこちらを...。」

 

 事情を説明する前に自身へとヒカルが差し出したそれを目にし、ポコミが目を見開いた。

 差し出されたキーホルダー_それは彼女が見間違う筈がないもの。

 かつて亡き友人と共に手に入れた思い出の品であり、その思い出の地で彼女と出産後間も無い目の前の友人との繋がりが出来たのだ。

 本来の持ち主であったさりなが亡くなった際には、親交が深く彼女が淡い想いを寄せていた吾郎が、ポコミと共に彼女を忘れまいと受け継いだものであった。

 自分達四人を繋ぐ存在と言ってもいいそれを、ヒカルが持っていた事実から、先程感じた嫌な予感が強くなる事をポコミが自覚した時、可能な限り落ち着いて聞いて貰える様、天の助がゆっくりと語り始める。

 

「ポコミ、落ち着いて聞いてくれな...。

 先生は亡くなったんだ...。

 警察の話だと、丁度出産した日らしい。」

 

「...ア、アハッ...、プルルン何言っちゃってんの...?

 いくら冗談でも、言っていい事と悪い事が有るでしょ...。

 ねぇ、アイちからも何か言ってやってよ...。」

 

 その言葉を、声を震わせつつ否定しようとするポコミ。

 状況だけを見れば、確かに彼の話を完全に否定する根拠を持ち合わせていないのは事実だが、だからと言って数日前迄連絡を取り合っていた人物が亡くなった等と言われて、納得出来る筈もない。

 比較の仕方としては不謹慎ではあるが、帰宅中に事故に巻き込まれ意識不明とでも言われた方が、まだ実感が湧く。

 

 一方で水を向けられたアイも、天の助が自分以外の人間に現状を語った事によって、より冷静に彼の言葉を咀嚼してしまっている様子だ。

 彼女とて、ポコミに言われずとも彼の言葉を否定出来るのならしている所である。

 しかし、自身の出産中についぞ吾郎が姿を現さなかった事実、出産後日を跨いで院内の人間より説明を受けた事や、自身に代わり警察からの事情聴取を受けた壱護の様子からも、吾郎の死が事実である事が彼女へと示されていた。

 

「...先生と当日に電話した看護師さんの話だとな...、アイのストーカーに絡まれたらしいんだ...。

 結果的にだが、出産の間、先生がそいつを食い止めてくれたらしい...。」

 

「良い加減にしてよ、プルルン!

 いくら何でも、今のアイちの前で言う冗談じゃないでしょ!」

 

 黙したままのアイを見遣りつつ、天の助が更に情報を開示するも、その言葉を否定したいが為にポコミからの糾弾が病室へと響く。

 出産を終えたばかりのアイがいる場で、彼女の主治医が亡くなったなど、冗談としては不謹慎極まりない為、言い分としては至極真っ当なものに思えた。

 彼の言葉を否定するだけの根拠をポコミが持ち合わせていれば、ではあるが。

 

「俺だってよ...、こんな事冗談でも言いたかねぇよ...。

 別に体調が悪そうだったとかじゃないんだ。

 呼ばれたらすぐ戻ってくるって言ってたんだぜ...。

 それが次の日に亡くなりました、なんて言われても納得出来る筈ねぇだろ...。」

 

 弱々しく語る天の助の様子に、いよいよ情報が真実であると認めざるを得なくなってきているポコミが、自身の中から込み上げる様々な感情に耐える為に、両手で顔を覆った。

 そんな彼女の背中を摩りつつ、天の助からアイ達へと今後の方針について質問がなされる。

 現実問題、犯人がまだ逮捕されていない以上は、彼らに危害が及ぶ可能性は捨て切れない。

 まして、犯人は今回の一件で一線を超えているのだ。

 理性的な行動が期待出来る相手ではない。

 

「子供の事もあるし、近い内に引越しは必要だって話はしてる。

 後は、おじさんが社長にボディーガードとして雇って貰えるか話してたみたいだよ。」

 

「僕の方は、仕事の時はマネージャーが付いてくれてますから、プライベートで子供に会いに行く時にボーボボさん達が同行して下さるとの事です。」

 

 ヒカルが天の助へと語った様に、現状二人に同居の予定は無い。

 出産の事実を隠す方針である以上当然とも言えるが、彼らの関係が露呈するリスクは極力減らさなければならないのだ。

 ララライの中でも、彼らの間に子供が出来た事を知っているのは、金田一と上原のみであり、その彼らでさえ宮崎への見舞いに訪れていないどころか、アイが入院している場所さえ知らされていない。

 事実として、最後の最後でストーカーが現れる迄は、情報が漏洩しなかった事からも、苺プロとララライ双方の努力の成果が出ていると言えた。

 この方法を続けるならば、必然ヒカルのプライベートでの行動に関してララライ側が一切関知しない事になる為、その際のフォローとしてボーボボ達の提案が有ったのだろう。

 腕っ節という面で、彼ら程頼りになる存在もそうそういるまい。

 

「...ねぇ、アイち...。

 苺プロって、高卒でも雇って貰える?」

 

 それまで沈んだ表情で周囲の話を聞いていたポコミが、唐突にアイへと問い掛ける。

 尤も、他の二人は勿論の事、問われた当人でさえ質問の意図が把握出来ておらず、壱護やミヤコに確認を取るとしか答えられないのだが。

 

「...分かった。

 もし大丈夫だったらさ、アイちのボディーガード、私がやるよ...。」

 

 それは一見すると、友人の身を案じた故の提案に思える。

 実際、彼女の実力を待ってすれば、たかがストーカー風情等容易に対処が可能であるし、個人としてアイと交友関係が有るというのは大きなアドバンテージであろう。

 壱護達は勿論、彼女の両親やヘッポコ丸がどんな反応を示すかは別として、アイにとってもヒカルにとっても悪くない提案であった。

 

 彼女のドス黒い感情に染まった表情を見なければ、であるが。

 彼女がこれまで見せた事の無い顔にアイ達が気圧される中、天の助が彼女の真意を確かめようと問い掛ける。

 少なくとも、ただ善意だけで発した提案ではないと感じられた故に。

 

「...ポコミよ。

 友達思いなのは分かるが、せめて親御さんに相談してからでもいいんじゃねぇか?

 そこまでして、アイの近くにいる事に拘る理由が有るのかよ...?」

 

 そんな彼の言葉を鼻で笑い、アイとヒカルの手を取りつつ返答するポコミ。

 こんな当たり前の事を説明しなければ分からないのか_と。

 

「決まってるじゃん。

 そのストーカーは、間違い無くアイちが妊娠してる事を知ってて病院に来たんだよ。

 ならこれからも、アイちが狙われる可能性は高い。

 出産を邪魔しようとして...、せんせの命を奪って...。

 そして今度は、四人の幸せを壊そうとしてるんだ...。

 そんな事させない為には、普段からアイちの近くにいる必要が有るでしょ。

 それで...、ソイツがまた性懲りも無く現れたら...。

 その時は、私が必ずこの手で_」

 

 殺してやる_そんな言葉を彼女が続けようとした時であった。

 

 赤ん坊の泣き声が室内へと響き、ポコミの言葉によって緊張していた空気が弛緩する。

 

「わっ、ど、どうしたんだい、ルビー...?

 お腹空いちゃったのかな...。

 それともオムツ...?」

 

「と、取り敢えず、鉄板の変顔はどうだ⁉︎

 ほーら、ところてんのおじさんだよー。」

 

「いや、目瞑ってるのに変顔しても意味無いですって!

 よしよーし、大丈夫だよー。」

 

 娘が泣き出した理由が分からず、ヒカルが天の助と共に懸命にあやす中、自身の手を握るポコミへとアイが言葉を返した。

 

「ポコっち...、さっき言おうとした事、聞かなかった事にするから。

 一緒にいてくれるのは嬉しいけど、変な事考えちゃダメだよ...。

 私...、周りの人がいなくなるの...、もう嫌だからね...。」

 

「...うん。 ゴメン...。」

 

 彼女の過去を知るポコミも、その意図を察し素直に謝罪する。

 産みの親、友人、信頼する大人に続き、仮に自分にも何かが起きたとしたら、彼女は一体どうなってしまうのか_考えたくもない仮定だ。

 しかし、ポコミとて生半可な気持ちで先の言葉を発した訳ではない。

 事ここに及んでは、彼女にも譲れぬ一線が有るのだ。

 病によって逝ったさりなと、人の悪意によって害されてしまった吾郎。

 二人にとっての大切な人物は、共に理不尽によってこの世を去ったが、少なくとも吾郎の方はまだ抗える可能性が有るものであった。

 無理を言ってでも、ポコミがアイの出産に立ち会っていたら_

 いつもの様に病院を訪れ、吾郎を院内に捕まえておけていたら_

 後悔に切りは無いが、まだ全てを奪われた訳ではない。

 

「極力無茶はしないよ、約束する。

 ...でも、もし四人の前にまたストーカーが現れたら...、その時は私も容赦しないから...。」

 

 つい先程迄見せていた暗い感情は鳴りを潜めつつも、アイに対して確固たる決意を語る。

 彼女の変化を感じ取ったアイも、今度はその意志を否定する事はない。

 現実問題、吾郎という被害者が出ている事も含め、彼女の言う様にまたストーカーが自分達を襲う可能性は高い。

 いざと言う時、自分やヒカルはまだ抵抗出来る可能性も有るが、子供達が狙われでもしたら、自分達だけで対処が出来るとはとても言えないのが実情。

 彼女が、本当にボディーガードの任に着くかは兎も角、現状を理解し危機管理意識を高めるという意味では、アイにとっても意味の有る言葉なのだ。

 

 ポコミの言葉に首肯を返しつつ、アイがヒカルへと声を掛け、未だ泣き続けるルビーを受け取る。

 二人がその顔を覗き込めば、不思議な程ピタリと彼女は泣き止んでしまった。

 

「おお、ルビーは偉いねー。

 ママ達が喧嘩する前に止めてくれたのかなー。」

 

「ハハハ、早速親バカ発揮してるねー。

 新生児が、そんなさりなちゃんみたいな気の遣い方してたら怖いって。」

 

「...。」

 

 ルビーをあやしつつ語ったアイに対して、何の気無しに放った自身の言葉を聞いた周囲の反応に困惑するポコミ。

 今回に関しては、空気を悪くする様な発言とは思えないが、さりなの名を出したのが原因なのだろうか。

 

「...えっと、私何か変な事言った?」

 

「あー、別にポコっちが悪い訳じゃないんだけどね...。

 ちょっと話すタイミング無くなっちゃってたなーって...。」

 

 三人の態度の理由についてのポコミの問いに、アイが出産直後の出来事を語り始めた。

 

 

「...ア、アハッ...、アイち何言っちゃってんの...?

 子供が人形で、阿修羅とメガネでせんせとさりなちゃん登場って意味分かんないんだけど...。

 ねぇ、カミキ君からも何か言ってやってよ...。」

 

「面白いくらい混乱してますね...。

 しょうがないですけど...。

 ...天さん、実際の所あれって一体何だったんですか?」

 

 アイが語った出産後の病室での一連の出来事に、先程とは別の意味で声を震わせるポコミ。

 アイの話と天の助からの注釈を要約すると、正しくは『阿修羅像の様になった首領パッチによって子供が人形にされたかと思えば、ボーボボによって今度は人形が吾郎とさりなに変わり、その後再び赤ん坊の姿へと戻った』となるのだが、実際に目にしていない者が聞いても到底理解出来ないであろう。

 水を向けられたヒカルも、彼女に同情しつつ更に詳しい解説を天の助へと求めるが。

 

「何って言われても、俺も分かんねえんだよなぁ...。

 一応、こうじゃないかって仮説は有るんだけどよ...。」

 

 対する彼としても、自分に聞かれても困るというのが正直な感想だ。

 そもそも『ガネメ補完計画』が、リミッターが外れた所謂暴走状態のボーボボが発動したものであり、平時と同様の基準で考えるのは難しい。

 それに付随して、首領パッチも『第二のガネメ』へと変貌した訳だが、そちらも当然ながら原因不明だ。

 一応、変貌する際の彼の台詞から、『ガネメの意思』とでも言うべきナニカが彼の肉体を器として言葉を発していると考える事は出来るが、何れにせよ理解の範疇を超えた事象である事は間違いない。

 よって着目すべきは、第二のガネメが発した言葉の一節、『残留意識』というワードになるだろう。

 

「...つまり、アクアマリンとルビーの体には、先生とさりなさんの魂が宿っていると...?」

 

「流石に、生まれ変わりなんてのが起こってるなんて信じられんがな...。

 寧ろ、近くで亡くなったばかりの先生の魂の記憶を再現して、あの二人の姿になったって方が近いんじゃないか?」

 

 自身の説明に、ヒカルが自分達の子供が吾郎達の生まれ変わりであるとする説を唱えるも、即座により説得力の有る可能性を語る天の助。

 奇想天外_それこそ、死すら超越する者まで見てきた彼であっても、死んだ人間が別の肉体に生まれ変わるという事例は覚えが無い。

 仮に、百歩譲って死んだ直後の吾郎の魂が、ガネメの働き掛けによってアクアの体に宿ったとしても、死後何年も経過しているさりなの方が説明出来ないのだ。

 彼女の魂が、地縛霊の様に何年もこの地に残っていたとするのは、余りに趣味の悪い考えであろう。

 

「そう...だよね。

 そんな都合の良い事、起きる筈無いもんね...。」

 

 仮説を聞き、冷静さを取り戻したポコミも、かつてさりなが死の間際に語った『生まれ変わり』などと言う現象は有り得ないのだと口にする。

 さりなが今際の際に語った思いも、起きる筈が無い事が起きる程の思いであるとの解釈が正しいだろう。

 命ある自分達としては、二人の魂が共に安らかに過ごしている事を願うばかりだ。

 

「アクアとルビーも、二人くらい仲良くしてくれると嬉しいな...。」

 

 そう語りつつ、アイが眠るアクアをルビーの隣に抱き寄せれば、双子の兄に笑みを向ける。

 その無垢な微笑みは、その名に違わぬ宝石の様な輝きである。




 ポコミ闇堕ち回避と、作中人物に考察と勘違いをさせてみた回でした。

 ボーボボ世界でも、一応ハロンオニが怒んパッチに敗北後にコパッチに生まれ変わるシーンが有るのですが、双子と違い明確に死亡した後にコパッチになってる訳ではないので、拙作中では別カウントとさせていただきました。


 遅くなりましたが、皆様のご厚意のおかげでお気に入り登録数が200を突破しました。
 こんな拙文を読んで下さり、誠にありがとうございます。
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