推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:38涙の味

「さて、早熟ベイビー。

 日本の映画制作では、キャスティングが上の方で粗方決まってるもんなんだ。

 これは『その企画を成功させる』、つまりビジネスの側面が強いからだな。

 兎にも角にも、客を呼べなきゃ話にならないって訳だ。」

 

「でも監督は今回、母さんの為の役を用意してくれてて、その上俺の役まで追加してくれたんでしょ?

 それだけ母さんで客が呼べるって判断したって事?」

 

「いい質問だな。

 キャスティング権の有る監督は極々一部の超大物監督か、超低予算でやってる小規模映画の監督くらいだ。

 さぁ、俺はどっちに見える?」

 

「...超大物かんと...」

 

「はーい、ハズレ。

 ここは低予算の現場ですよっと...。」

 

 山奥の田舎町、古びたベンチに腰掛けつつそんな会話を交わす人物達の様子を見つつ、目が隠れる程の長髪が特徴的な男性_ベーベベが笑みを浮かべる。

 

「ククク、泰ちゃんの奴、ありゃ相当気に入ってんだな。

 確かにおもしれー存在ではある。」

 

「そ、そうなんでしょうか...。

 正直、側から見てると『凄い嫌な赤ちゃん』にしか思えないんですが...。」

 

 そんな彼に心配の声を漏らすのは、その視線の先で五反田と会話を交わす赤子_アクアのマネージャーとして同伴しているミヤコである。

 大人と子供という、互いの立場を良い意味で意識せずに会話出来る間柄と捉える事も出来るが、一歳になったばかりの子供が現場の責任者に気を遣う等、不気味と言われても仕方あるまい。

 

「だからでしょう。

 あの子を使う事でしか撮れない画が有る...。

 泰ちゃんには、それが見えてるんだと思います。」

 

 ベーベベも彼女の言葉を否定はしない。

 寧ろ、その点にこそ五反田の思惑が潜んでいると考えている。

 『リアルな画』に拘る彼が、物珍しさだけであの赤子を求めたとは思えない故に。

 

 

 少女_有馬かなは不満を溜めていた。

 その理由は大きく分けて二つ有る。

 一つは、現在彼女が参加している映画のキャスティングについて。

 この作品のとある役に、五反田監督直々の指名で最近巷で話題になっているアイドルグループのメンバーが抜擢された事、そして台本の読み合わせの段階では修正が間に合わなかったのか、はたまた何かしらの力が働いたのかそのアイドルと同じ事務所に所属する子役の参加が決まった事である。

 

 監督に指名されたという件のアイドルの起用については、まだ納得出来た。

 歌手活動をしているのは伊達ではない様で、読み合わせの段階でも存外発声に関しては問題を感じなかったのだ。

 演技指導を受けた経験も有るらしく、全体の中では割り振られた台詞も少なめなので、演技が拙くとも余りボロは出ないとの判断かもしれない。

 この映画の大まかなストーリーは、『自分の容姿にとことん自信の無い女が、山奥の怪しい病院で整形を受ける』というものだが、彼女に割り振られたのはその主人公の女性が『整形を受けた後の姿』であり、元の姿からの変化を印象付けるという意味では、容姿の評価が高い人物を起用する意味も理解出来る。

 『コネクション』というものの大切さがまだ理解出来ないかなとしては、所謂コネ採用に思う所は有るものの、違和感の無いキャスティングなのは事実であるし監督が思い描く画の為には必要な事なのだろう。

 小耳に挟んだ話である為真偽の程は定かではないが、監督のアマチュア時代の作品に出演していたらしく、或いは本職ではないだけで監督にとっては愛弟子の様な存在なのかもしれない。

 

 問題は、同じ事務所から来る子役の方だ。

 出演が急遽決まった故なのかは不明だが、少なくとも読み合わせの段階ではその子役の出番も台詞も存在しなかった。

 百歩譲って台本の修正が間に合わなかったとしても、せめて見学や挨拶に来る事位は出来る筈である。

 事の真相は、アクアの業界内での親子関係についての協議が苺プロ内で遅れた事で、読み合わせの時点でタレント契約が間に合わなかった故なのだが、そんな事を知る由もないかなとしては件のアイドルとの抱き合わせでゴリ押しされた様にしか見えない。

 

 そんな子役の何某が、何やら監督やスタッフと共に控室で騒いでいるとの話を聞いたのが二つ目の理由であるが、比重としてはこちらの方が遥かに大きい。

 何も自分の事を世間の様に『天才子役』として扱い敬え等と言うつもりは無いが、せめて他の共演者も含め芸歴が上の者に挨拶位はするべきだろう。

 ましてやその子役は、この後の撮影で自分や主役の女優との共演シーンを控えているのだ。

 共演者やスタッフとの付き合い方は人それぞれだろうが、読み合わせに参加していない事も踏まえ事前の相談を行う位の殊勝さを見せても罰は当たるまい。

 だと言うのに、仕事の準備をするどころかスタッフの邪魔をしているのだとしたら、流石に文句の一つも言ってやらねば収まらない。

 丸めた台本を片手に、その何某の性根を叩き直してやるつもりで勢い良くドアを開き言い放つ。

 

「ここはプロの現場なんだけど!

 遊びに来てるんなら帰り...な...。」

 

 彼女が言葉を途切れさせてしまったのも無理からぬ事だろう。

 そこには間違いなくプロがいたのだ。

 プロの変人達が。

 

 

「それでは、これより我が社の新商品『鼻毛ちゃん』について説明を始めます。」

 

 ホワイトボードの前で指し棒を片手にそんな台詞を吐いたアフロの男性の横で、件の子役の男児が腕を後ろに組み立っていた。

 彼らの前には、まるで会議の様に五反田やスタッフが座っている。

 子役の男児とよく似た女児が顔の前で腕を組みつつ肘を立てているが、彼女は一体どういった立場なのだろうか。

 

「色は白・黒・赤の三タイプ用意しており、お客様に様々なカラーバリエーションを楽しんで貰える様になっております。

 着脱の容易なクリップ方式を採用、一つの鼻の穴に最大三個着けられる大きさで販売予定です。

 主なターゲット層についてはアクア君から説明を行います。」

 

 恐らくは議題のメインテーマなのだろう商品の概要について説明を行ったアフロの男性から指示棒を受け取った子役が、中々に見事な姿勢で一同に対し礼を行う。

 

「よろしくお願いします。

 まず、我が社の既存商品の販売実績から、女子中高生を主要購買層として想定しております。

 ピアスホールを空けたくはない、若しくは空けられないが何かしらのアクセサリーを着けたいという方に対し、イヤリングと共に体に傷を付けない新しいアクセサリーとして展開します。

 また、商品の性質と購買層の特性から、アクセサリーとしてだけでなく学生鞄等に着けるキーホルダーとしての展開も可能かと考えます。

 PRの一環として、ターゲット層からの人気が高いB小町のアイさんをモデルとして起用しました。

 お手元の資料の三番の画像が、実際にアイさんに試着していただいた画像になります。」

 

 そんな説明に従い、一同が指示された資料に視線を移す。

 かなもホワイトボードに貼ってある恐らくは同じものなのだろう写真を見ると、そこには例の監督が指名したアイドル『アイ』が両方の鼻の穴に一つずつ『鼻毛ちゃん』なる商品を着けポーズを取る姿。

 彼女の所属事務所に訴えられそうなその画像を見て、かなは吹き出すのを堪えた自分を褒めてやりたかった。

 何故、この場にいる者達はこんな意味不明な内容を聞いても、真剣な表情を保っていられるのだろうか。

 

「成程、悪くはないな...。

 社長、どう思われますか...?」

 

 『悪くない』どころか『問題外』である筈の商品に何故か好感触を得た様子で呟いた五反田に水を向けられたのは、先程から黙って腕を組み成り行きを見守っていた女児であった。

 

「...まず、色とデザインを七種に増やす事。

 アイさんだけでなく、B小町のメンバー全員にモデルをお願いしましょう。

 先程説明に有ったターゲット層以外にも、B小町ファンにファンアイテムとして展開出来るわ。

 確か、メンバーのデフォルメデザインを使ったグッズが有った筈だから、苺プロさんにお願いしてコラボ商品を出してみるのも良いんじゃないかしら。」

 

 彼女の言葉を皮切りに口々に歓声を上げる大人達。

 揃いも揃って、謎の商品への絶大な信頼は一体何なのだろうか。

 商品の説明を行っていた二人は早くも成功の未来を幻視しているのか、恍惚とした表情を浮かべていた。

 

 

「ちょっと!

 いい加減、撮影の準備しましょうよ‼︎

 大体あなた、ちゃんと台詞覚えてるんでしょうね‼︎」

 

 妙な流れを断ち切るべく放たれた言葉の主に視線が集中し、それまでの和気藹々とした空気が一変する。

 件の子役は見知らぬ者の登場に困惑した表情を浮かべているが、その態度が更に言葉の主をイラつかせる。

 これでは本当に遊びに来ただけの子供ではないか_と。

 

「私は有馬かな。 今日の共演者よ。」

 

 子役に対して名乗ると自身の名に思い当たる節が有ったのか、彼の隣にいたアフロの男性が反応を示す。

 

「あぁ、この子この前ドラマにも出てた子だろ。

 確か『重武装で鳴らすテン・サイコ役』じゃなかったか?」

 

「十秒で泣ける天才子役‼︎

 何よ、テン・サイコって‼︎」

 

 何をどう変換したのか、自身の通称を間違えられ更に憤慨するかなだが、気持ちを切り替え改めて目の前の共演相手_アクアへと向き合う。

 現実問題、撮影時間は有限である為些事にかまけていられる暇等無いのだ。

 

「大体何なのよ、その...『鼻毛ちゃん』?とかいうの...。

 普通に考えて売れるわけないでしょ、そんなの。

 正気に戻りなさいよ!」

 

「何だよ、急に入ってきて偉そうに...。

 ああ、もしかして君も試着してみたいのか?」

 

「いらないわよ、そんなの!

 そもそも鼻毛に着けるアクセサリーとか、頭おかしいんじゃないの⁉︎

 アイドルに何てもん着けさせてんのよ!

 そんなの着けてたら、そこそこ長い鼻毛が有るって言ってる様なもんでしょうが!」

 

「...いや、鼻毛位誰にでも有るだろ。

 もしかして君、『アイドルはトイレ行かない』とか言っちゃう人...?」

 

「...ああぁぁぁぁ、もういい‼︎

 監督、私先に行って待機してますから‼︎」

 

 アクアとのやり取りにストレスが極致に達したのか、五反田への宣言を捨て台詞に部屋を出て行ってしまうかな。

 そんな彼女に対する大人達の反応はと言えば、まるで腫れ物扱いするかの様である。

 アクアも彼女への対応を間違えたと感じたのか、五反田へと謝罪するが。

 

「構わんさ。

 俺達も悪ノリし過ぎた所は有ったしな。

 実際、有馬みたいに真面目な奴が現場を引き締めてくれる事も有るんだ。

 有るんだがなぁ...。」

 

 頭を掻きつつ苦い表情を見せる五反田の言葉の意味をアクアが理解するのは、この後の撮影が終わった後の事であった。

 

 

 

 現在『十秒で泣ける』と評判の有馬かなが、周囲の大人に心配される程悔しさに顔を歪ませ涙を流しているのは、台本に書かれた動きでなければ、五反田に求められた演技でもない。

 先程撮影を終えたアクアとの共演シーン、そこで見せられた五反田を納得させる彼の技量に、彼女の中の小さくも確かに持っていたプライドは無惨にも打ち砕かれてしまった。

 

「早熟、役者に一番大事な要素は何だと思う?」

 

 彼女からは離れた場所のベンチで掛けられた五反田の問いに、アクアはその意図を思案する。

 現在のかなと自身の状況を踏まえての質問だとすれば、少なくとも実力やセンスと言った答えを求められている訳ではないだろう。

 当然の事ではあるしその点で競おう等とは微塵も考えていないが、現実として演技力という観点では彼我の実力差は圧倒的である。

 実際に隣で共演してみて、彼女が『天才子役』と評される所以を肌で感じる事が出来た。

 彼女が今涙を流しているのも、幼いながらに自身の演技に対するプライドを持ち、何より演じる事が好きであるからこそであろう。

 

「やる気と努力の量...とか?」

 

 思案の末、アクアはそう答えを返す。

 実力とセンスを含め、四つの要素をかなと比較した時、今回の現場において自分の評価が彼女を上回った要因として考えられるのはその点だと考えた故に。

 実力とセンスに関しては比べるのがかなに失礼な程の差だ。

 やる気に関しても、一応前世からの考えも手伝い、仕事である以上は真面目に取組む所存ではあるが、そもそも役者という仕事自体に前向きかと問われればこの要素もかなに軍配が上がるだろう。

 ここまでの圧倒的な差を覆したのは、偏に『前世の記憶』という超常の力によって得ている『赤子には似つかわしくない人生経験』と、そこから来る『周囲の意図を汲み取る力』と言える。

 尤も、前世を含めた人生経験の差等、今のかなからすればどうにも出来ない問題である為、そこを『努力の量』と表現していいものかは甚だ疑問ではあるが。

 

「まぁそれも大事だけどな。

 結局の所、コミュ力だ。」

 

「それって、演出の意図を汲み取るって事?

 今回の仕事が偶々上手くいっただけじゃないかな...。

 実際、見る人が見ればあの子の方が凄かったのは分かるだろうし、俺はいつも通りの俺やっただけだし...。」

 

 五反田の言わんとする事を自分なりに解釈した上で、今回の件はあくまでビギナーズラックだと語るアクア。

 今作の演出と、自身の外見と中身のギャップが生み出した気味悪さが上手くマッチしたというのが彼の見解であり、同じ様な役でもない限り今回の様にはならないだろう。

 それこそかなの様に『十秒で泣け』と言われても応えられるとは到底思えない。

 

「でも、俺はそうしろとは一言も言ってないだろ。

 確かに演出や意図を理解して演じるのは、役者の基本だ。

 だが、言語化出来ない意図迄も汲み取ってくれるってなると話も違ってくる。

 演出家の頭の中に有る『正解の画』を役者が汲み取ってくれようとしてたらよ、今度は逆にスタッフ側もその役者を可愛がって助けてやりたいと考えるもんだ。」

 

 そこまで言われ、アクアも漸く彼の真意を汲み取る事が出来た。

 今回のアクアが、作品を作り上げる為に周囲の期待に応える事が出来た者だとするなら、反対に彼女は_

 

「...あの子にお灸を据えたかったの?」

 

「そんな偉そうな事は考えちゃいねぇけどよ、少なくとも才能も熱意も有る奴なんだ。

 だったら、真っ直ぐ育つ様に矯正してやるのも栄養だろ?」

 

 実際、業界内における『有馬かな』のここの所の評判は、決して良いものばかりではない。

 年齢を考えれば、仕事や芝居に対する向き合い方は非常に真面目であり、その才能も相まって一役者として間違いなくリスペクトされる存在である。

 だが一方で、現場の空気や共演者の演技に合わせる等の柔軟性を欠く部分が有るのも事実であり、子役の内はまだしも『可愛げ』として許容されない年齢になった時が心配される性分であった。

 

 

 いい加減止まって欲しいという自身の気持ちに反して、涙は中々止まる気配を見せない。

 十秒で泣くのは得意でも、その逆はそうではなかったのだろうか。

 今日の自分は、役者として彼に完敗した_五反田がカットの宣言をした瞬間から込み上げてきた感情を未だに自分は制御出来ないでいる。

 役者失格_そう言われても仕方の無い振る舞いだろう。

 自己嫌悪に苛まれていると、自分が泣きじゃくるベンチに腰掛ける者が現れた。

 

「ほら、これで拭けよ。

 あんまり泣いてると、目が腫れちまうぜ。」

 

 ポケットティッシュを差し出しつつそんな言葉を掛けてきたのは、先の謎の会議でアクアと共にいたアフロの男性であった。

 未だに彼の正体もアクアとの関係も分からないが、泣きっぱなしの醜態を晒す訳にもいかない為、その厚意に甘える事にする。

 

「素人質問で悪いんだがよ、何でそんなに悔しがってんだ...?

 アクアも凄かったんだろうが、俺みたいなのから見たら、君も十分凄いって思ったんだが...。」

 

 涙を拭う自分に対して彼が掛けてきた言葉は、言葉通りの素人質問なのか、或いは自分を励まそうとしているのかは分からなかったが、折角なので胸の内を吐露させて貰う事にする。

 こんな事を言ってくる位だから、彼はきっと業界の知識が全く無いか底抜けのお人好しかのどちらかであろう故に。

 

「かな、あの子みたいに監督がやって欲しいって思ってる事を、全然考えられてなかった、ただ自分がやりたい様にやってただけだった...んです。

 あの子みたいに頭が良い子が、どんどん演技が上手くなったら、かなは...、使われなくなっちゃうから...。」

 

「...なら、アクアみたいにやってみれば良いんじゃねぇか?」

 

 吐き出した思いを、何でもない事の様に返されてしまい目を丸くしてしまう。

 そんな事が出来たら苦労は無いし、そもそもそんな子役ばかりだったら自分如きが天才等と持て囃される事も無いだろう。

 

「言っとくが、本当にアクアみたいに大人の考えを読めなんてつもりじゃないからな。

 スタッフの人や共演者にどうして欲しいのか聞くとか、せめて『自分はこうしたい』ってのを伝えるだけでも取っ掛かりにはなると思うんだ。」

 

「あ...。」

 

 彼が語ったのは、何という事はないコミュニケーションの基本だ。

 だがそれは、伝え方一つでいくらでも周囲の反応が変わり、仕事のし易さも変わってくるという事である。

 

「少なくとも、失敗したって自覚出来て、反省もして、相手の凄い所も分かる。

 なら後は、それをどう次に活かすかだろ。

 人が誰かを『天才』って呼ぶのって、相当凄い事だと思うぜ、有馬かな。」

 

 そんな自身へのエールと共に彼が差し出したクリアファイルの中身は、どうやらCMの企画書の様だ。

 監督の項目には『五反田 泰志』。

 どうやら自分には、まだ『次』が有るらしい。

 

 

 後日、かなは五反田が監督を務める件のCMの撮影に臨んでいた。

 五反田を始め、再度自分にチャンスをくれた者達に報いる為。

 自分のちっぽけなプライドを粉砕した子役_アクアにリベンジする為。

 そして何より。

 

(おじさん、私頑張ります。 おじさんに『凄い』って言って貰える様に。)

 

 そんな思いを秘めた少女は現在、磔にされていた。

 腹の底に響く様な重低音。

 周囲に並ぶ改造バイクの数々。

 これまでの彼女の短い人生の中で関わりもしない世界観であった。

 

 監督の掛け声と共に、バイクは爆音を響かせ速度を一気に上げていく。

 この時点で既に極致に達しそうな恐怖心を必死に抑えていると、車両が目的地へと到達したのか運転手が急ブレーキを掛けた。

 前もって設定されていた装置によって磔が傾き、かなはクッションの上へと投げ出されてしまう。

 

「次ピーマン残したらこの程度じゃすまねーぞ、分かったな...。」

 

 そんな言葉を吐き捨て、『ヘッド』の文字が書かれた鉢巻をした人参が、自身の仲間『関東野菜連合』の野菜達と共に走り去っていく。

 

 

「...だって、しょっぱいじゃないのよ...。」

 

 このCMが放送された後、実際に全国の子供の野菜嫌いが幾分改善されたという。




 書いてて、あかねちゃんの気持ちが凄く分かりました。
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