「アクア君、ルビーちゃん、お迎えが来たよー。」
自分達が通う幼稚園の職員に声を掛けられ、アクアは読んでいた本を閉じた。
生まれ変わってから三年の月日が経ち、保育園に入園してからの日々を満喫すると同時に彼は思う。
大人というのは、本当に大変なのだ_と。
かつての医師としての日々に比べて、園児の毎日のなんと楽な事か。
食べて、寝て、読書でもしていればそれで良しとされる。
業種こそ違えど、日々の業務に追われた経験を持つ者としては、自分達の様な子供を相手にする仕事を選んだ職員達に尊敬の念を抱かざるを得ない。
縦横無尽に動き回る園児達の中で、自分一人でも大人しく協力的に過ごしていれば、気持ち職員達の仕事も減らせる筈だ。
「ほらルビー、帰るぞ。
いつまで塞ぎ込んでんだよ...。」
彼の言う通り、妹のルビーに平時の溌剌さは感じられない。
職員からお遊戯会の開催とその練習開始の宣言をされてからこっち、何かを恐れる様に大人しくなってしまったのだ。
普段の彼女は、前世の存在を考えれば驚く程元気に遊んでいる。
童心に帰っているという可能性も考えられるが、それにしてもあそこまで無邪気になれるものだろうか、というのがアクアからの印象であった。
現状、互いの前世に関しては余程の確証が無い限りは相互不干渉としている為、今の所分かっている情報は前世でも女性であった事と前世からB小町のファンであった事だけだ。
どこかでその正体を探る上で重大なヒントとなり得る情報を聞いた気がするのだが、今日に至る迄それを思い出す事は出来ないでいた。
「やっ、二人共お待たせ!
...ルビーちゃん、何か元気ない感じ?」
そう自分達に声を掛けつつルビーを心配しているのは、自分達の母にとっても自身の前世にとっても縁深い女性である。
「ポコミさん、お疲れ様です。
...ほら、いい加減機嫌直せって。」
女性_ポコミへと挨拶しつつ、妹の態度を窘めるアクア。
彼女が塞ぎ込む理由に、或いは前世での出来事が関係している可能性は有るものの、だからと言って自分達の為に動いてくれているポコミを前にして取っていい態度ではない。
「分かってるよ...。
ポコミちゃ...じゃなくて、ポコミさんごめんなさい...。」
目上の人間に対して思わず『ちゃん』付けで呼びそうになり、慌てて訂正する。
どうやら自分が思っている以上に、幼稚園の先生に言われた事が尾を引いているらしい。
かつての自分にとっての貴重な友人を前に油断してしまっているのだろうか。
そんな自分と、先の失礼な発言をしかけた事に鋭い視線を送ってくる兄を見て何を思ったのか、彼女は驚くべき提案をしてきた。
「うーん...、よし!
二人共、ちょっと寄り道しちゃおっか!」
三人が訪れたのは、丘を利用した自然の展望スペースとなっている場所であった。
程良くなった気温と肌を撫でる風が何とも心地良い。
「良い場所ですね。
ポコミさんは、よく来るんですか?」
「息抜きしたくなった時にね。
東京ってビルばっかりだからさー。
私、宮崎って言う東京から凄い遠い所にいたんだけどさ、そっちから比べると都会が息苦しくなっちゃって...、って、こんな事子供にする話じゃないね!」
笑いながら語られた彼女の言葉を、アクアはとても微笑ましく感じる。
高校を卒業後に苺プロへと入社した彼女は、社会の中でもがきながら懸命にB小町を支えていた。
髪型も前世において覚えのあるツインテールからポニーテールへと変わっており、成長した背格好と相まって大人の女性に近付いた印象である。
B小町の面々は、彼とアイが映画に出演してからの二年間で、多少の差は有れど着実に仕事を増やしていた。
モデルやラジオパーソナリティとして活動するアイと新野_
ララライとのコネクションを活かし、演出や脚本の勉強をする時間を増やし始めた高峯_
元々興味が有った故か、作詞家・作曲家への弟子入りを考えているのだという渡辺と久常_
元々の歌唱力の高さから、ソロ、または彼女達二人のユニットとして歌手活動に力を入れる有坂と松井_
皆それぞれの目指す方向へ、そして『B小町解散後』を見据えた動きを見せ始めている。
細分化されてきた彼女達の仕事に対応する為に、苺プロ側も担当を新野と高峯、渡辺と久常、有坂と松井、そしてアイとアクアの子役としての仕事という形で分割しており、ポコミはアイ達親子の担当となっているのだ。
必然、彼女と双子が交流する機会も多く、ルビーの様子に違和感を感じたのも、この日迄の交流からただ落ち込んでいるだけとは思えなかったからである。
「そんで、ルビーちゃんは運動が苦手って話だったっけ?」
「苦手っていうか、運動は出来る気がしないです...。」
彼女のその言い草にポコミも目を丸くする。
元来溌剌とした少女という印象を持つ彼女からの言葉というのもあるが、『出来る気がしない』という言い方に違和感を覚えたのだ。
単純な苦手意識ではなく、どこか諦観の様な感情が垣間見えるが、流石に三歳児からそんな言葉を聞くとは思わなかっただけにどう返したものかと思案する。
「えっと...、試してみようとも思えないって事?
体を動かすのが怖いとか...?」
「その...、転ぶかもしれないって思っちゃうんです...。
急に足とか腰に力が入らなくなって、顔から倒れるかもって...。」
(前世で足の大怪我をしたとかか...? フラッシュバックを起こしてるとしたら厄介だが...。)
二人の会話と前世の知識からアクアも妹の症状を予想するが、仮に彼の予想するPTSD_所謂トラウマとして知られる症状だとすると、話が難しくなってくる。
ルビーが前世の記憶を持つ事等知る由も無い者からすれば、彼女が『存在しない筈の記憶』に苦しめられているとしか見えない故に。
また、そこまで重い症状でなかったとしても、前世の記憶が原因では周囲の理解を得るのは難しいだろう。
「そっか...、思ったより大変そうだね...。
うーん...、そうだ、ちょっと試してみたい事が有るからルビーちゃん立ってみてくれる?」
想像以上に複雑な様子のルビーの心境にポコミも考え込むが、何かを閃いた様に声を掛ける。
解決の糸口を探る為と素直に従ったルビーを見つつ、ポコミが指を鳴らすと。
「わっ、これって泡...?」
「しかもちゃんと弾力性が有る...。
これで衝撃を吸収するって事か。」
「ふふん、凄いっしょ。
それの中なら転んでも痛くないし、試しに動いてみてくれない?」
ポコミの力によって張られた泡の膜に包まれたルビーも、その様子を見ていたアクアも思わず敬語を使うのを忘れて彼女の妙技に嘆息する。
簡易的なバリアを使う事で、ルビーの恐怖心を軽減するのと同時に実際に彼女がどんな動きに恐怖心を抱くのかを見極めようという狙いであった。
彼女の意図を察したルビーも、一度深呼吸し自身の脳裏に焼き付いているB小町の曲の振り付けを始めるが、成程確かに彼女の動きはヨタヨタと頼りない印象であり、『転ぶかもしれない』という言い分も理解出来る。
すると案の定と言うべきか、バランスを崩した彼女の体は前方へと傾いていき、彼女が間も無く訪れるだろう衝撃に身構えるが。
「...あれ、ポコミ...さん?」
「...えっ、あ、えっと...、倒れても痛くない様にしたのはホントだよ!
ただ何というか、咄嗟に体が動いちゃったっていうか...。」
自身の体を支えた者_ポコミの行動に驚くルビー。
彼女が力を使った目的を考えると、それを確かめる前に助けに入ってしまっては意味が無い様に思える。
(今のはまるで、そうなるって分かってたみたいな...。)
一方でその一連の動きを見ていたアクアも違和感を覚える。
実際、ポコミの言う『咄嗟に体が動いた』との言い分通りの反応の速さではあった。
仮に安全が確保されているとはいえ、ある程度交友関係の有る者が倒れようとしていれば支えようとするのが自然ではあるだろう。
ただ、それにしても反応が早過ぎる様に思えたのだ。
まるで、『同じ様に倒れる人物』を知っているかの様に。
だからこそ彼は探りを入れる。
自身の想像が正しいとしたら、ルビーの前世は彼もよく知る人物である故に。
「今の凄い反応でしたけど、似た様な経験が有るんですか...?」
「...アハ、アクア君鋭いねー。
取り敢えず、一回そこのベンチに座ろっか...。」
ポコミが体を支えていた為に、彼女の体に隠れた妹が自身の言葉にどんな反応を見せたのか、確認する事は出来なかった。
ポコミが服の裏に隠していたアクセサリーを首から外すと、それにはアクアにとっても、そしてルビーにとっても見覚えのあるキーホルダーが繋がれていた。
それは彼女が前世において、結果として最初で最後となってしまったB小町のライブに参加した時に手に入れた代物である。
友情、感動、羨望、そして大切な人達への想いを詰めた物の片割れを、未だに彼女が肌身離さず持ち歩いてくれている事を喜ぶが、すぐさま違和感に気付いてしまった。
そこには二つのキーホルダーが繋がれている_『彼』に託した筈の片割れをポコミが所持している事実に、彼女の頭の中で様々な可能性が思い浮かんでいく。
B小町に興味を無くした_『彼』が元来アイドルに興味が無い人間であった事を考えれば、話題を共有出来る相手がいなくなった等の理由で離れてしまうのは十分あり得る。
天童寺さりなを忘れようとした_悲しい可能性ではあるが、一方で彼の医者としてのキャリアを考えるなら、今後も数多くの患者に向き合う事になるのだから、自分の死を乗り越えて前に進むという決断を否定はし難い。
そして最悪の可能性_『彼』の身に何か良くない事が起き、自分が託した物を今度はポコミへと引き継いでいるとしたら。
「...それ、おんなじの二つ持ってるんですね...。」
自身の想像との答え合わせを求める様に吐き出されたルビーの呟きに、ポコミもまた切なそうな表情を見せる。
アクアも表情にこそ出さないが、かつて自身が持っていたそれを彼女が受け継いでいる事実に、『自分の死』という余計なものまで背負わせてしまっている事を悔やんだ。
「これ、見ての通り二人のママの推しグッズなんだけどさ。
昔、B小町のデビューライブを友達と観に行った時に買ったやつでね...。
その友達は...、二人と同じ位の歳の頃から凄く難しい病気に罹っててさ...、結局これを買った年の冬には厳しくなっちゃって...。
私とその子がお世話になってた病院に、一緒にファンになってくれた先生がいたんだけど、最初はその先生に持って貰ってたんだ...。
その子の事を忘れない様にって...。
...あっ、ヤバいね、ゴメン...、ちょっと泣けてきちゃったや...。」
今尚、かつての自分との思い出を大切にしてくれている友人に辛い話をさせてしまっている事を申し訳なく思いながらも、ルビーはハンカチを差し出しつつ先を促す。
自分の記憶と合致するのはここまでだ。
そこから生まれ変わる迄の空白の期間については、彼女に話して貰わねばならない。
「それでその先生なんだけどさ、『その子の分も推し活するんだ』ってめっちゃ布教活動しててさ。
よく病院の人に怒られてたっけなー...。
ここだけの話だけど、せんせってばその友達の写真ずっと携帯の待ち受けにしててさー。
正直、あれは私もロリコン扱いされても仕方無いよなーって思ったよね。」
「⁉︎」
「そ、そうなんだ...。」
ケラケラと笑いながら語られたポコミからの情報に、顔が急激に熱を帯びていくのを感じるルビー。
よもや自分にとっての憧れの人物が、それ程までに自分との関係を大切に思っていてくれたとは驚きだ。
『彼』が自分の写真を待ち受け画面として設定していたという情報には、正直嬉しいと同時に恥ずかしさを感じてしまうが悪い気はしない。
何やら兄が驚いた様子であるが、或いは前世の彼も異性の画像を待ち受けにしていたのだろうか。
「それで、じゃあ何でその先生が持ってる筈のこれを私が持ってるのかって話なんだけど。
その先生は産婦人科医って言って、お腹に赤ちゃんがいる女の人を助けてくれる人でね、二人のママの担当がその先生だったんだ。
経過そのものは良かったみたいで、実際に二人も無事産まれてこれたんだけどね...。」
そこで一度言葉を切り表情を険しくするポコミに、アクアも内心で同情を禁じ得ない。
客観的に見て幼稚園児に聞かせるには余りに重い情報故に、必死に言葉を選んでいるのだろう。
いっそ自分の口で事のあらましを説明出来たら、彼女の心の負担も幾分軽くなるのだろうが、だからと言っていきなり前世だのと宣っても冷静に聞いて貰えるとは思えない。
すると話す覚悟が決まったのか、彼女が自ら頬を叩き再び語り始める。
「...ごめんね、オブラートに包んだ言い方が浮かべば良かったんだけど...。
その先生は、ママのストーカーとトラブルになって...、亡くなっちゃったんだ...。
それで、警察に許可を貰って今は私が持ち歩いてるの。
二人の分もママを、アイちを応援して。
そして...、絶対に同じ事はさせないって...。」
彼女から語られた衝撃的な情報と、決意と共に一瞬見えた暗い感情に二人は言葉が出ない。
前世を含めても彼女から感じた事の無い負の感情に加え、ルビーの方は余りの事実に処理が追いつかない様子だ。
すると自ら作り出した緊迫した空気を霧散させる様に彼女が手を叩き、漸く二人も我に帰る事が出来た。
「ふう、二人に話す様な内容じゃなかったね、ゴメンゴメン。
それで最初の話に戻るけど、ルビーちゃんが倒れそうになった時に、その友達の動きが重なってね。
『倒れ慣れてる』って言うのかなぁ...。
アハ、我ながらもっとちゃんと説明しろよって感じだよねー。」
先程の雰囲気はどこへやら、再びケラケラと笑いかける彼女にルビーは曖昧な笑みを返す事しか出来なかった。
星野家に有るレッスンルーム。
壁一面に大きな鏡が取り付けられたその部屋は、通常アイが自宅にてダンスの練習をする為に使用していた。
最低でも大人二人分の全身を映せそうな大きさである故に、その鏡の前に立つ人物の鏡像もまた全身を映し出している。
「せんせが...、死んだ...。」
自らの口でその言葉を発した事で、鏡の前に立つ少女_ルビーは自身の敬愛する雨宮吾郎医師の死を実感し始める。
今にして思えば、彼が自身の目の前から煙の様に消えてしまうあの光景は、これを示唆していたのかもしれない。
将来、母の様な有名なアイドルになれば、例え姿形が変わっていたとしても彼は自分に気付いてくれる筈。
或いは気付かれなくとも、ただ一目だけでいい。
彼の姿を目にする事が出来たなら。
そんな淡い希望を無惨にも打ち砕いたのは、今もどこかでのうのうと生きているストーカーだ。
自身の母にして前世における大切な友人を傷付けようとし、そして自身が淡い想いを抱いた大切な人を害した輩に、この日ポコミから感じたものとよく似た暗い感情が芽生えるが。
『ストーカーのせいにしてるけどさ、本当は誰のせいかなんて分かってるんでしょ?』
自分以外誰もいない部屋でそんな言葉を掛けてきたのは、他でもない鏡に映る自分自身であった。
『アナタがアイちゃんに興味を持たなければ、ポコミちゃんとアイちゃんは深く関わる事は無かった。
そうしたら、アナタのオトモダチが危険な目に遭うかもしれない今の状況は有り得なかったんだよ。』
「...そんなの、ただのこじ付けでしょ...。
そもそも、ママとお兄さんの繋がりが有ったから私達がママを知る切っ掛けが出来たんだから...。
例えB小町に興味が無かったとしても、お兄さんから同じ様な話をされる可能性だって有るじゃない...。」
鏡像が語る妄言を、そもそもの前提が違うと否定するルビー。
ヘッポコ丸という自分達とデビュー前のアイを結び付ける存在がいたからこそ、自分達は世間よりも一足早く彼女を認知する事が出来たが、例えそれが無かったとしてもストーカーによる被害が発生していたとしたら、ヘッポコ丸からポコミへと応援の要請が来る可能性は十分有り得る。
『じゃあせんせは?
アナタと関わらなければ、せんせはB小町のファンになる事は無かった。
そしたら、例えストーカーに襲われても命の危険を冒す様な事はしなかったんじゃないかな。』
「そんなの、それこそ私には関係無いじゃない...。
仮にせんせがB小町のファンじゃなかったとしても、ママが妊娠して偶々せんせが担当になる可能性だって有るでしょ...。」
自身の返答に、鏡像が今度はまるで三日月の様な不気味な笑みを浮かべる。
無知な子供を嘲笑うかの様に。
『アナタ、本当に何も知らないんだね。
アナタが死んだ後の宮崎での全国ツアーライブ、アイちゃんは死んだアナタを想って歌った。
せんせ達がアナタの為に手に入れてくれたそのライブのプレミアムチケットの交流会で、せんせとアイちゃんは出会った。
アイちゃんはね、妊娠した時にせんせを頼ったの。
アナタが信頼してた先生だからって。
せんせもアナタの死に影響されて、アイちゃんに対して普通の患者以上の入れ込み方をしてしまった。
だってそうでしょう?
いくら担当医だからって、ストーカーの対応するなんて普通じゃないよね?』
捲し立てる様に鏡像が語った内容に呼吸が荒くなるのを感じる。
否定する為に冷静にならねばならないというのに、どうにも頭が回らない。
『分かるでしょ?
アナタの存在が周りを不幸にするの。
せんせも、アイちゃんも、ポコミちゃんも、そしてアナタの両親も...。
皆、皆、みーんな、アナタの周りにいる人は不幸になってくんだよ。』
「...そんな事、どうしてあなたに分かるの...。」
『分かるに決まってるじゃない。
だって、ワタシはアナタなんだから。
そうでしょ、
前世の自身の鏡像の言葉が頭の中で何度も繰り返され、思考が纏まらない。
本当に鏡の中のさりなの言う通りなら、自分は一体何の為に存在しているのだろうか。
彼女の言う通りだとしたら、自分は不幸をばら撒く疫病神ではないか。
「せん...せ、私、わた...しは...。」
この期に及んで尚、吾郎に縋ろうとする自分に嫌気がさす。
呼吸が通常より遥かに荒く、早くなっているが、どうすれば正常な状態になるのか分からない。
ここで死ぬのが、自分に下された罰なのだろうか。
「大丈夫か...。
ゆっくり、ゆっくり息を吸え。」
自身の背を摩っていたのは、今生の兄であった。
ポコミから同じ話を聞いていただけに、自身の様子を心配してくれたのかもしれない。
涙で顔が酷い事になっているだろうが、それを気にする余裕は無い為、今は彼の指示に従う他無いだろう。
「...アク...、ご...めん。」
「全く、初めて会った時からそうだったが、君は本当に一度思い込むと一直線な子だな...。」
彼の口から聞こえてきたその偉そうな、しかし不器用な優しさが隠し切れていない口調を忘れる筈がない。
事前の相談も無く、勝手にサプライズを仕込んだりと、『三つ子の魂百まで』とはよく言ったものである。
「ほら、これ飲んで落ち着いて。
そしたら、少し話そうか、さりなちゃん。」
「せんせ、ポコミちゃんが言ってた事って...。」
「ああ、本当の事だ...。
ポコミちゃんが苺プロに入社した事もそうだが、俺という実害に遭った人間が出てしまったのが大きいんだろうな...。」
落ち着きを取り戻し、ルビーがポコミから得た情報を本人へと確認するべく問い掛けるが、アクアとしても今更自分から追加する様な情報が無い事から、その返答はあっさりとしたものだ。
ポコミという第三者からの証言が得られた以上、雨宮吾郎の死は覆しようが無い事実であろう。
「そ、それもそうだけど、ほら...。
私の写真を待ち受けにしてたって...。」
「...さてどうだったかな。
まあ、前世の携帯なんてデータも消されてるだろうし、今となっては確かめようが無いだろ。」
「ああーん、もう!
せんせってば、相変わらずイジワルなんだから!」
彼女が知りたがっている情報は闇に葬るべきものである為、残念ながら明かす事は出来ない。
尤も物的証拠が無い以上、例えポコミから追加の証言が有ってもそれを証明する手段が無いのだから、これ以上の追求が無駄な事は彼女にも分かる筈だ。
「あれ、二人してどうしたの? 秘密のお話?」
彼女の視線による抗議を躱していると、この部屋の主な使用者が入ってくる。
確かに自分達二人がこの部屋にいるのは珍しい為、彼女の発想も自然なものと言えるだろう。
「ルビーがダンス苦手なんだってさ。
折角だから教えて貰えば?」
「そうなんだ。
じゃあ今度昔の曲やる予定だから、一緒に練習しよっか。」
言いつつその曲の振付を確認する為に母が動き始めると、違和感を感じたのかすぐさまルビーから指摘が入れられた。
「凄いねー。
私のライブ映像観たの?」
「多分、振付は滅茶苦茶覚えてると思うよ。
『俺達』、多分百回以上は一緒に観たから。」
アシストしてくれるのはありがたいが、余計な事まで宣うそのニヤケ顔は如何なものか。
サプライズが成功して調子に乗っているのかもしれない彼には、この辺りでお灸を据えておく必要が有るだろう。
「おにいちゃん、前に髪が短い子の前で『ロングヘアは魅力的』って言ってたんだよ。」
「へぇ、アクアってそういう所が有るんだねー。」
「ちょっ、待ってくれ⁉︎
それは本人に謝っただろ⁉︎」
ボーボボ達を絡ませずにどうにか正体バレさせようと思った結果、凄い大変でした。
ルビーとさりなの問答の部分は、実際に原作のルビーが精神的に追い詰められていた時の描写を参考にしつつ、心理状況を想像して書かせていただきました。