推しのボ   作:モドラナイッチ

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奥義:42天才

 人気アイドルグループB小町のメンバー_アイの殺人未遂事件は、年末の忙しない空気感の中で尚、世間を騒がせる話題となった。

 被害者自身の人気もさることながら、事件当日が東京ドーム公演の開催予定日であった事、容疑者がストーカーであった疑いが強い事等から、様々な方面からの言及がなされた事が要因であろう。

 識者を気取りオタク文化そのものへの疑問を投げ掛ける者、これを機にストーカー規制を強化しようと画策する者、事件の内容と公開された容疑者の情報から彼の心理状態について分析する元警察関係者。

 果たして公共の電波に堂々と自身の意見を乗せている彼らの中に、心から被害者と容疑者の事を考えている人間はどれだけいるのだろうか。

 

『_聴取の中で貝原容疑者は、「ベランダに干されていたトゲトゲとゼリー状のものを目印に部屋を特定した」などと意味不明な供述をしており、警察では精神鑑定も視野に入れつつ動機の解明に注力する方針との情報が届いています。』

 

 テレビ画面の向こうからキャスターが伝えた情報に、事件の当事者たるアイ達は厳しい表情を見せていた。

 

「この前からずっと犯人の事ばっかり!

 少しはママを心配するとか、ファンにインタビューするとかないの⁉︎」

 

「まあまあ、落ち着いて。

 逆にそっとしておいてくれてるって事でもあるから、ね?」

 

 直接の被害者たる母に配慮する様な報道の少なさに不満を漏らすルビーを、何とかヒカルが宥めようとする。

 事実としてアイにメディアの手が及んでいないのは、壱護が迅速に会見を行いメディアの目を犯人たる貝原、そして中止となった公演の後処理に誘導した事が大きい。

 彼女の心理的負荷への配慮は勿論だが、事件に居合わせたアクアとルビーの存在が露呈するのを防ぐ意味でも致し方ない処置と言えよう。

 

「まあ、仮に俺達の事を公表してても、そんなに扱いは変わらないだろ。

 精々『我が子を護りながら奇跡の生還!』みたいに祭り上げられるのが関の山って所か。」

 

 自身の意見を後押しする様な息子の冷めた意見にはヒカルも苦笑いとなるが、彼の語った内容が容易に想像出来てしまうのが悲しい所だ。

 商売としてやっている以上仕方の無い事だが、メディアが気にするのは視聴率であり、それを効率良く獲得する為にはキャッチーな話題が必要である。

 壱護の采配を差し引いても、事件後の被害者の心情に時間とコストを掛けるより、既存の問題と結び付けるだけで十分ニュースになり得るなら大概の人間はそちらを選ぶだろう。

 自分の意見を言いたくて仕方がない人間は山程おり、それらのガス抜きを来月には大衆の殆どが忘れているだろう一事件で複数実行出来るなら安い物と言った所か。

 事件に巻き込まれた身としてはアクアもルビーの憤りを理解は出来るが、メディアの姿勢は今に始まった事ではない以上父の様な考えでいる方が精神的に健康でいられるという考えである。

 

「そ、そういえばアクア、CMのお仕事来週だったよね?

 台詞とかは大丈夫そう?」

 

「うん、そんなに長い台詞じゃないし、監督からは『いつも通りにやれば大丈夫だ』って言われてる。

 主役はあくまで『あの二人』だからね。」

 

 空気を変える為かヒカルからなされた質問に、彼の息子からは何とも頼もしい言葉が返ってくる。

 実際、彼も台本を読ませて貰ったが、割り当てられた台詞も少なく動きも少ない役であった。

 アクアの言う通り、件のCMの主役はあくまでも彼の共演者となるだろう。

 

「それこそ、父さんから見ればどっちが才能が有るかなんて一目瞭然でしょ。

 二人が将来凄い役者になるのなんて、俺にだって分かるし...。」

 

 続けてアクアが語った自身を卑下する言葉に寂しげな表情を覗かせるヒカル。

 元々アクアは、実父の彼から見ても非常に成熟した精神を持ち合わせており、自己評価もシビアな傾向にあった。

 それ自体は悪い事ではないし、今回の比較対象となる彼の共演者にしても『舞台上でどちらがより強い光を放つか』という観点で言えば、残念ながらアクアが不利であると言わざるを得ないのはヒカルも認める所である。

 マネージャーである上原からの『才能を見抜く目を鍛えておけ』という要請も有って、監督である五反田との伝手を利用し件のCMのオーディション現場を見学させて貰ったのだが、確かに二人の持つ輝きはヒカルから見ても凄まじいものであった。

 

(アクアがやってる事だって凄いんだけど、やっぱり周りに凄い人が多いのが影響してるのかな...。)

 

 そもそも彼の年齢を考えれば、スタッフ側の意図を十全に汲み取ろうとしているだけでも異常であり、今回のCM然り自身の現場で度々彼を起用している五反田が目を掛ける理由も分かろうものだが、如何せん彼の周囲には輝く様な才能を持つ人間が多いのも実情であり、それがある種のコンプレックスになっているのではと考えるヒカル。

 母であるアイは言わずもがな、その才能を目の当たりにした件の共演者に加え、彼の妹であるルビーすら母親譲りのルックスと母も認めるダンスの才能を垣間見せているのだ。

 いくら精神的に習熟しているとは言えど、周囲の同年代の顔触れを考えると自信を無くしてしまうのも無理は無かろう。

 

「監督がいつも言ってるけど、『凄い演技』じゃなくて『ぴったりの演技』が出来るアクアだって凄いんだよ。

 アクアもルビーも、『あの二人』も皆それぞれ凄い才能を持ってるんだから。」

 

 子供達の頭を撫でつつ言葉を掛けるヒカルは、かつてのオーディション会場での一幕を思い返していた。

 二人の『天才』を目の当たりにしたあの日の出来事を。

 

 

 

 アイの殺人未遂事件より遡る事数ヶ月前。

 ヒカルは上原と共にとある子役のオーディション会場に訪れていた。

 食品メーカーの新規CMに出演する子役を選定する会場に何故彼らが足を運んでいるのかと言うと、専ら上原のスカウト活動にヒカルが付き合わされた形である。

 一応、彼も度々世話になっている五反田が監督を務めるという事もあり、見学の申請自体はスムーズに通ったのだが、ヒカル自身としては今回のオーディションに実子であるアクアが参加予定である事から少々後ろ向きな状態であった。

 実際、上原の『才能を見る目を養っておく』という言い分に理解は出来るのだが、そうは言ってもアクアと同席する可能性が有っては気まずさを感じてしまう。

 

「まあそう重く考えるなって。

 今回の主な目的は、『直接有馬かなの才能をこの目で見る事』だ。

 お前の息子君も上手くやるだろうし、他に面白そうな子が一人でもいたら儲けもの位に思っておけ。」

 

 上原が小声で語った通り、今回の主要キャストとなる女子の子役二枠の内、片方はほぼ間違い無くかの『天才子役』有馬かなのものとなるだろう事は、業界の人間なら疑う者がいない意見だ。

 出来レースと言われようが、現実として彼女の実力は他の有象無象の子役達とは一線を画しており、監督を務める五反田の作品に度々出演している事実からも態々他の者を優先させるメリットは無いと言っていい。

 上原としても、今後ヒカルとの共演の可能性が十分に考えられる才能豊かな子役を直に見せておきたい狙いが有った。

 するとそんなヒカルの腰辺りが何者かに突かれる。

 

「...何でいるの?」

 

「...は、はは、仕事でね...。

 ちょっとそっちに行こうか...。」

 

 

「その...、アクア君ごめんね...。

 僕が急遽お父さんの事を連れ出しちゃったからさ...。」

 

「いえ、こちらこそ父が平素よりお世話になっております。

 今後ともどうぞよろしくお願い致します。」

 

 大の大人と四歳児が繰り広げるお辞儀合戦に微妙な顔をしつつ、ヒカルがアクアへと彼の同行者がどこにいるのかを聞くと。

 

「ボーボボさんならほら、あそこで有馬と話してるでしょ。」

 

「あの子が有馬かなさん...。」

 

 

「今回も自信満々みたいだな、有馬。」

 

「ふふ、まあ私位になると最早強者の余裕ってやつよね!

 さっきの私のファンっぽい子みたいにオドオドしたりしないもの!」

 

 ともすれば傲慢とも言える程自信に満ちた言葉をボーボボへと語る少女_有馬かなの言葉は、自他共に認める厳然たる事実でもある。

 そのキャリアの中で培ってきた演技力は勿論だが、監督を務める五反田のやり方を理解出来ているのも大きなアドバンテージだろう。

 かつて目の前に立つ人物に与えられた助言に従い、今では周囲をよく観察してその意見を尊重出来る様に成長していたのだ。

 ファンらしき人物とオーディション会場で出会うという話には、流石のボーボボも驚かされるが。

 

「凄えじゃねぇか。

 同年代の子ですらファンがいるなんて、よっぽどの影響力が有るって事だな。」

 

「でしょでしょ!

 それで、その子に言ってやったのよ。

 『私に憧れてる様じゃまだまだね、これじゃあオーディションも出来レースみたいなもんだわ』ってね!」

 

 ヒカル達が二人の近くへと来たのは丁度そんな言葉をかなが宣っているタイミングであった。

 なまじ幼少期から『天才』と持て囃されてきた彼女にとって、自分の話を真剣に聞いてくれる大人の存在は貴重であり、今回の言葉も純粋にボーボボから褒めて貰いたいという気持ちから発せられたものだったのだが。

 

「調子に乗るなー‼︎」

 

「ぴぎゃん!」

 

 鼻毛でかなをしばくボーボボの姿に驚く一同。

 いくら加減しているとはいえ、彼が女子供を相手に制裁を加えるのはヒカルですら初めて目にする光景だ。

 ましてや相手は役者であり、態度を注意するにしても外見に傷が残る様な行動は避けねばならない筈である。

 見かねた上原が二人の間に入ろうとするが、それをヒカルが制止した。

 何の考えも無しに彼が拳を振るう事は無いだろう_と。

 

「痛いじゃない!

 酷いよ、おじさん!」

 

「『酷い』か...。

 その言葉、お前が馬鹿にしたファンの子も同じ様に思ったんじゃねぇか?」

 

 その言葉を聞いたかなも、間に入ろうとしていた上原もハッとさせられる。

 成程、確かに先の彼女の言葉は余りにも傲慢な物言いであっただろう。

 肉体的な痛みを与える是非は兎も角として、大人として注意せねばならない振る舞いなのは間違いない。

 

「そ、それは...、言い方は悪かったかもしれないけど...。

 でも、私の方が絶対良い演技が出来る自信は有るわ!

 それは例えおじさん相手でも譲れない!

 それこそ、アクアみたいなのが来ない限り負ける気なんてしないもの!」

 

 さりとてかなの方にも言い分は有る。

 自身が培ってきた技術とそれに裏打ちされた評価は、そう簡単に覆るものではない_と。

 他ならぬボーボボの助言によって周囲を見る事が出来ているからこそ、他の子役との実力差を冷静に分析出来る様になっているのだ。

 かつてのアクアと出会った時の様なイレギュラーが発生でもすれば話は違うだろうが、そう簡単に起こらないからイレギュラーなのである。

 

「...その子がアクア程じゃないって保証はどこに有るんだ?」

 

 彼の静かな一言に冷や水を浴びせられたかの様に冷静になるかな。

 何故気付かなかったのか。

 一度起きてしまったら、二度目も有るかもしれないと。

 そもそもアクアとて、当時の自分から見ればポッと出の存在であった筈だ。

 それに打ち負かされた経験を自分は全く活かせていないではないか。

 日本にいる数多くの子役の中に、自分以上の才能を持った人間がいないとどうして言い切れるのか。

 或いは、才能では自分が優っていたとしても、五反田が言う所の『ぴったりの演技』が出来る者だったら?

 掛けられた言葉に何も言い返せなくなり俯くかなの肩を優しく掴みつつ、ボーボボが再度語り掛ける。

 

「いいか有馬。

 自信を持つのは良い事だ。

 だが、周りの人を貶して自分の品位を落とす様な事をするな。

 お前位才能が有る奴なら、堂々と前に進めばいいんだ。」

 

「で、でも...。

 それじゃあ私、また同じ事繰り返しちゃうもの...。

 アクアみたいに周りを見る様にしたから、ちゃんと他の子と比べられる様になったんだよ...。」

 

 しかしその言葉にかなも素直に頷く事が出来ない。

 かつての自身の振る舞いを恥じる程度には、彼女もしっかりと成長している。

 芝居は一人でするものではないと気付かせてくれた恩人が、今度は堂々と我が道を行けと言ってくる状況に堪らず困惑してしまうのだ。

 

「俺は『アクアみたいにやってみろ』とは言ったが、『アクアの様になれ』とは言ってないぞ。

 アイツにはアイツの強みが有って、お前にはお前の強みが有る。

 勿論、周りの事をよく見るのは大切だがな、どっちかなんてケチ臭い事を言うな。

 周りを引っ張って、時には周りを助けてやる。

 両方出来てこそ、『天才』だろ?」

 

 その言葉に目を見開くかな。

 今迄のただ自分を褒め称えてきただけの者達とは違う、本当の意味で自分を評価し期待してくれている言葉である事が感じられた故に。

 

「お前が本当の意味で自分を認められる日が来たら。

 その時は、俺のとっておきのアフロ屋に連れて行ってやるよ。」

 

「うん、約束だよ、おじさん!」

 

 輝く様な笑顔を向けると、謝罪の為に件の子役を探しに走り出すかな。

 また一つ、彼女の中で何か吹っ切れるものが有ったのやもしれない。

 成り行きを見守っていたヒカルと上原も、同じ子供に接する者として尊敬の眼差しをボーボボへと向ける。

 

 

「アクアが言ってた通り、アイツホントにチョロいよな。」

 

「でしょ。

 周囲が大人ばかりだから、真剣に褒められるのに弱いんだよ。」

 

「⁉︎」

 

 

 

 周囲の人々の証言を頼りに、件の子役の少女が自販機コーナーにいるとの情報を掴んだかなは一目散に目的地へと向かっていた。

 少女へと先の振る舞いを謝罪し、互いにスッキリとした気持ちでオーディションに臨むべく、彼女が自販機コーナーのドアを開けると。

 

「お、お前ムツ美じゃねーか。」

 

「ユウ君...。」

 

(役者人生始まって以来の出来事に我遭遇ー‼︎)

 

 そこには数字の『6』の形をした謎の物体を、件の少女が涙目で『ユウ君』と呼ぶ謎の光景が広がっていた。

 6の言う通りだとしたら、『ムツ美』というのが彼女の名前なのだろうか。

 

「どうした?

 まさかよりを戻して貰いにでも来たとか?」

 

「冗談‼︎

 誰がアンタなんかと‼︎」

 

(何してんの⁉︎ 何なのこの人達⁉︎)

 

 二人の台詞からすると、彼女達は元交際相手であったか、もしくはそういった設定の寸劇という事になるだろう。

 何故こんな場所でこんな事をしているのかは、全くもって意味不明であるが。

 

「いいんだぜ、オレはよりを戻したって。」

 

「ダメ...、揺るぎそう...。

 騙されるに決まってる...、でも...。」

 

(設定はありきたりだけど良い演技するわね...、演技よねこれ...?)

 

 6の言葉に少女が顔を赤らめる様を見て、彼女の演技力を高く評価するかな。

 これが演技であって欲しいという願望も見え隠れしているが。

 

「6。」

 

「ッ⁉︎ ヤダ、何今の⁉︎ 何今の⁉︎」

 

(何今の⁉︎)

 

 6が両手を使って『6』の形を作ると、少女が焦った様に赤面しつつ口元を抑える。

 『何今の⁉︎』等と言っているが、説明して欲しいのはこっちだとかなは叫ぶのを必死に堪えた。

 

「7。」

 

「6なのに7⁉︎ 6なのに7⁉︎」

 

(おじさんごめんなさい、かなはこの問題を解けそうもありません...。)

 

 今度は『7』の形を作った6とそれに対する少女の反応に、理解を放棄するかな。

 ここまでカオスだと、このまま結末を見てみたい気持ちが有るのか静観を選んだ様だ。

 

「さぁムツ美も一緒に、8。」

 

「ハ...、ッ⁉︎」

 

 自身の繰り出した8のポーズを少女が声を震わせながら繰り返そうとする様を見て、6が彼女を嘲る様な笑みを浮かべるが、そこで少女の目にある存在が映る。

 

(かなちゃん...。)

 

 それは少女にとっての憧れであり、演技の道を志す切っ掛けとなった存在_有馬かなであった。

 少女の脳内に、テレビの向こうで活躍する彼女の姿、それに憧れ両親の説得も手伝い今の道を進むと決めた時の感情が蘇っていく。

 

「どうしたんだムツ美?

 さぁ一緒にやろうぜ、8、8。」

 

「...メェェェェェ...。」

 

「山羊⁉︎ 山羊になった⁉︎」

 

(山羊になった⁉︎)

 

 

 

「我が盟友、Uよ。

 変わり果ててしまったその魂をこの黒炎で浄化しましょう。」

 

 少女が山羊となってしまった事実にその場にいる者達が驚いていると、かなの横を通りその場へと乱入する者が現れる。

 渋くもよく通る声とピシッとしたスーツ姿に、かなは思わずイケメンの紳士を想像しその顔を見遣ると。

 

(タマネギだー⁉︎)

 

 それは口髭を生やしサングラスを掛けた玉葱の様な男であった。

 首から上と下の余りのミスマッチさにかなが言葉を失ってしまうが。

 

「お、お前は...、J‼︎」

 

(いやJって、に...、似合わねー‼︎)

 

 初対面の相手に甚だ失礼な考えではあるが、彼の見た目で『J』という名前が思い浮かぶかと言われると、少々かなに同情してしまうのも事実だ。

 

「せめて一思いに。

 黒太陽真拳奥義『罪色カタルシス』‼︎」

 

「ぎゃああぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

 騒ぎを聞き付けた五反田やボーボボ達が合流し、Jとの情報交換を行う。

 ボーボボ曰く、かつて激闘を繰り広げながらも現在は彼の仲間との交流が有るとの情報からアクアやかなも安心するが、問題は少女に近付いた6の目的である。

 

「皆さんにも紹介しましょう。

 この男は『U』。

 かつてはSになる事を目標としていた心優しい男であり、私と二人で『USJパワーを世界の為に活かそう』と約束していたのですが。

 よもや数字に身をやっしていたとは...。」

 

 Jの言葉を聞いてもその内容を何一つ理解出来なかったかなではあるが、旧友が罪を犯した事を悔やんでいるのは伝わってきた為、6が少女を狙った理由を尋ねる。

 決してこれ以上聞いていても意味が無い等とは考えていない。

 

「恐らく、何か『6』という数字に関係が有るかとは思うのですが...。

 それだけでは、幻影をその手で掴むかの様ですね...。」

 

(何言ってんの、この人⁉︎)

 

 Jの迂遠な言い回しは兎も角、確かに『6』という数字は手掛かりになるだろうが、如何せんそれだけでは目的は判然としない。

 他にも何か無いかと、先の一幕を見届けていたかなが記憶を探るが。

 

「そういえばこの子、何でか分からないけど山羊の真似してたよ...。

 あと、この6に『ムツミ』って呼ばれてた...。」

 

「...もしかして、名前か誕生日に『6』が入ってるとか...?」

 

 少女の振る舞いを思い出したかなが出したヒントに思い当たる節が有ったのか、アクアが一つの可能性を語るも、それに対して五反田が渋い表情を見せる。

 

「今時ダミアンかよ...。

 つうか、よくそんな昔の映画知ってんな...。」

 

「あー、友達の親にホラー映画好きな人がいるんだよ...。」

 

 アクアの返答に、思い浮かべた作品の知名度を考えれば自然な事かと納得した五反田であったが、上原以外の他の面々は今一ピンと来ていない様で、ベーべべが説明を求めた。

 

「なんだ、そのダミアンとかってのは...?」

 

「『オーメン』って言う昔のホラー映画に出てくるキャラクターなんすけどね...。

 6月6日6時に生まれた悪魔の子って設定で、そいつの周りで怪事件が起きるって話でして...。」

 

 そこまで聞いて、ベーベベ達もアクアがそれになぞらえた考えを語った理由を理解した。

 多くの場合、悪魔は山羊の顔をしており、かつ『6』という数字まで絡んでいるとなると信憑性も増してくる。

 こちらが本来の性格なのか、先程迄とは打って変わってオドオドとした様子の少女にヒカルが名前を問うと。

 

「えっと...、黒川あかねです...。

 誕生日に6は入ってないです...。」

 

 少女_黒川あかねはそう自己紹介すると、複数人から一度に注目を浴びた故か恥ずかしそうに俯いてしまった。

 ボーボボとJが再び6へと体を向けると。

 

「『ロク』じゃなくて『クロ』じゃねーか‼︎」

 

「ぎゃああぁぁぁぁ‼︎」

 

 

 

 時は進み、舞台は件のCMの撮影現場。

 集められた子役は有馬かな、アクア、そして黒川あかねの三人である。

 形としては、同じメーカーから販売されている二種類の食品のPRをそれぞれかなとあかねが行い、CMの終盤をアクアが締めるという流れであった。

 

(負けられない、新人の子に!)

 

 片やプライドを胸に。

 

(かなちゃんと同じCM...、私に出来る精一杯をやろう!)

 

 片や憧れた人物に全力でぶつかっていく為に。

 

(このCM色んな意味で危ない気がするけど大丈夫なのか...?)

 

 片やCMの内容に一抹の不安を抱えつつ。

 CMの撮影が幕を上げる。

 

 二台のカメラはそれぞれ、ロープで縛られて天井から吊るされたかなとあかねに向かっている。

 かなの周りには山盛りのスパゲティ、あかねの周りにはこれまた山盛りのカレーが置かれていた。

 

「ほーら、スパゲティだぞ。

 スパゲティ、スパゲティ。」

 

「くっ、誰がスパゲティなんか‼︎」

 

「君如きがカレーに勝てるのかな?

 この匂いに、スパイスに。」

 

「むぅー、カレーなんて...、カレーなんて!」

 

 周囲に立つ大人達にそれぞれスパゲティ責め、カレー責めをされる二人の子役。

 既に危険な絵面である。

 

「ほーら、スパゲティ、スパゲティ!

 さっさとスパゲティしちまいな‼︎」

 

「私はスパゲティには屈さないわよー‼︎」

 

「君の鼻腔には既にカレーの匂いが届いている筈だ。

 素直になりなよ、君だってカレーしたいんだろう?」

 

「誰でも彼でもカレーで喜ぶと思ったら大間違いだもん‼︎」

 

 必死に抵抗を続ける二人から場面は移り、カメラはアクアの下へ。

 遠近法を利用した立ち位置により、彼の手の上に丁度吊るされた二人が映る構図となっていた。

 

「皆さん、お二人を助けたいですか?

 それなら、それぞれの商品をお買い求め下さい。」

 

 

 意味不明な撮影を終えたかなが、アクアに同行していたボーボボに褒めて貰おうと近付いていくと、そこには彼女にとって受け入れ難い光景が広がっていた。

 

「あかねって言ったよな。

 お前の今日の演技、素人の俺から見ても凄かったぜ。

 お近付きの印として、このアフロを受け取ってくれ!」

 

「は、はい...。

 ありがとう...、ございます...。」

 

 それは自分よりも先にあかねへと友好の品とも言うべきアフロが贈られる光景。

 しかも、自分はまだ苗字で呼ばれているというのに、何故か彼女は名前で呼ばれており、かなの中で言い様の無い感情が膨らんでいく。

 

「あっ、かなちゃんお疲れ様!

 あの人面白いね。

 よく分からないけど、アフロ貰っちゃった。」

 

 ボーボボから受け取ったアフロを被りつつ自分へと声を掛けてきたあかねを冷ややかな目で見つめるかな。

 能天気に笑っている様に見えるその顔がどうにも鼻につき、彼女は抑え切れない感情を発散させるかの様にあかねのアフロを弾き飛ばし、言い放ってしまう。

 

「私はアンタみたいなのが一番嫌い。」

 

 この日、有馬かなは人生で初めて『負けたくない相手』という存在を認識した。




 前回急にお気に入り数が伸びて、UA数も過去最高を大幅に更新されびっくりしました。
 なんだかんだ、令和になってもウンコパワーって凄いんですね。
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