ヒカル救出への決意を固めたボーボボ達は、取り急ぎ壱護達との合流を選択した。
仮にもハレクラニの膝元で犯行を実施した相手ともなると、救出に向かうにしても相応の準備が必要との判断である。
あの異形がどれ程の力を有しているかも分からない状態では、さしものボーボボと言えどアイ達三人を守りながらというのはリスクが大き過ぎるだろう。
B小町のメンバーを含めた苺プロの面々に加え、ソフトンと破天荒も合流した一同は、当然とも言うべきかボーボボが語った事のあらましに驚愕する。
「クソッ!
ドームの時に続いて、今度は最後の最後かよ...!
一体何の恨みが有るってんだ!」
話を聞いた壱護が、苛立ちをぶつける様に壁へと拳を打ちつける。
吾郎が殺害された件も含め、一連の事件の黒幕が件の異形の存在であるとすれば、余りにも的確に節目となるタイミングを狙ってきている相手の執念に戦慄してしまうのが正直な所であった。
「...アイ、雨宮先生の時から狙われるのは都合三度目になるけれど。
犯人に心当たりは有るかしら?」
話を少しでも前に進めるべく、ミヤコが努めて冷静にアイへと犯人の人物像を問う。
相手が実力行使に出た事でヒカルを攫われるという事態に陥ったが、それは貝原を裏で操っていた者を表へと引きずり出したという事でもあるのだ。
ほんの少しの接触とは言えど、声や話し方に覚えがあれば捜索の手掛かりになり得る。
「...多分、あの人なんじゃないかって思い浮かべてる人はいるよ...。
でも、あの見た目はどう見ても人間じゃ...。
おじさんはどう思った?」
少しの逡巡の後に、アイが候補となる人物の顔を思い浮かべるものの、あの悪魔の様な外見がどうしても思考の邪魔をしてしまう。
あれが幻覚等でないのは、空の彼方へとヒカルを連れ去ってしまった事実からして疑いようがないのだが、当然そんなものは普通の人間には不可能な芸当であり、となれば一応は普通の人間である筈の件の人物と結び付ける事が難しい。
そこで、彼自身の能力や首領パッチ達との関わり等人外の相手をする経験がより多いだろうボーボボに意見を求める。
「ヤツの正体については流石に断言は出来んが...。
もしかするとあっちの狙いは最初からヒカルだったんじゃないかとは思ったな...。」
その言葉に当然の様に周囲が驚いた様子を見せるが、それは想定内とばかりに推論を語っていくボーボボ。
一見すると貝原を唆す等、その悪意をアイに対して向けている様に思えるが、そうなると攫われたのがヒカルというのが疑問として残る。
ボーボボ達の存在から、最初の急襲からアイへと追撃を放っていたとしてその魔の手が届いていたかは兎も角、本当にアイが狙いだとしたらヒカルの拘束を優先する理由は薄いだろう。
それこそ、あの状況であればヒカルを手に掛ける事によって間接的にアイを苦しめるという手段も取れた筈だ。
「言われてみれば成程とは思いますが...。
アイの自宅を特定したり、今回の場所を特定したりというのはどうやったんでしょう...?」
(確かに貝原が病院に来た時も、ボーボボさん達の存在を手掛かりの一つにしている様な口振りだったが、三人の行動を追うのだって相当な労力がかかる筈だ...。)
ボーボボの説に一応の納得を見せた一同ではあるが、壱護が問い返した通り、アイ達がいるだろう場所を特定した手段に疑問が残る。
吾郎殺害事件の後に、ボーボボ達がボディーガードを始めたのはこの場にいる全員が知る所だが、アイの自宅の特定等を彼らの監視を掻い潜って成し遂げたという事でもあるのだ。
発信機の類が疑われる贈呈品については、苺プロ側もララライ側も入念なチェックを行っている。
飛行能力を使ったとしても、そんな存在は間違いなく目につく筈であるし、もし一定時間透明になれる様な能力を持っていたとしたら、狙いが誰であれ他に幾らでもチャンスは有った筈だ。
かつての事件の実行犯である貝原が、ボーボボ達の存在を判断材料の一つにしていたのは確実であるが、彼の言葉を思い返したアクアが考えた通り、ボーボボ達の動向を把握するという手間が掛かる事実は変わらない。
推察を語ったボーボボもその点については口を噤んでしまう。
敵の正体や大凡の力量すら掴めない状況に空気が重くなる中、首領パッチの背後に控えていた破天荒がふとした拍子に彼の姿に違和感を覚えた。
「...あれ、おやびんちょっと待って下さい⁉︎
トゲが一本だけとんがりコーンになってますよ⁉︎」
「ハッ⁉︎ ちょっ、マジ⁉︎
早く取って、取って!」
突然掛けられた言葉には流石の首領パッチも慌てた様子であり、破天荒が慎重に彼の体から異物を取り外すと、その中には小型の発信機が取り付けられていた。
「くっ、そういう事か...!
こいつでおやびんの行動を把握しておけば、その近くに嬢ちゃんや坊主がいると考えても不思議じゃねぇ...。」
「本人じゃなく、その近くにいる奴をマークしてたって訳か...。
確かにこれは盲点だったな...。」
敢えて狙う対象本人ではなく、その近くにいる存在の行動範囲から対象のいるであろう場所を推測する方法に、ボーボボ達も舌を巻く。
芸能界との関わりが無い貝原を使う意味でも、プライベートで付き合いの有る一般人を利用して、アイ達の動向を探る事が出来たのは非常に大きかったのだろう。
彼らの交友関係を知っているという犯人の人物像こそ判明はするものの、事ここに及んではそれを知られた所で大した弊害とはなるまい。
「いやいや、待って、待って⁉︎
何で皆普通に受け入れちゃってんの⁉︎
俺のトゲがとんがりコーンになってんのよ⁉︎
もっと違和感感じようよ⁉︎」
冷静に現状を分析しつつ、発信機の調査や今後への対策を検討する一同に、首領パッチがツッコむが大きな反応は見られない。
本来、体の一部が異物に変わっている等、どう考えても異常事態である為、彼の主張は至極真っ当なものなのだが、悲しいかなそんな彼に対して返された言葉もまた至極真っ当なものであった。
「ハハハ、パチさん相手にその位じゃもう何も感じないって。」
「チクショー‼︎‼︎
これが『ボーボボキャラ』の扱いかー‼︎」
「よし、大凡の位置は分かった。
問題は移動手段だが...。」
発信機から残留思念を読み取ったソフトンが、敵方の位置を把握するが、物理的な距離が障壁として立ちはだかる。
彼によれば、少なくとも東京都内へと移動する必要が有る様だが、中部地方に位置するハレルヤランドから移動するとなると容易ではない。
「そうだ、ソフトンさん!
バビロン界を通って向かう事は出来ませんか⁉︎」
「無理だ。
君の家へと移動したのも、事前に『出口』を設定しておいたからこそ。
繋がっていない場所へ移動する事は出来ない...。」
そこでアイが、かつて自身が救われた際の出来事から彼の能力を使えないかと考えるものの、その案は即座に否定されてしまう。
トンネルと同じで、片方の『入口』から中に入る事は出来ても、道が繋がっていない場所に出る事は出来ないのだ。
せめて戦闘要員であるボーボボ達だけでも移動できないかと一同が思案する中、意外な人物から声が掛かる。
「あの、ソフトンさん。
『運ぶ手段』が有ればいいんですよね?」
「む、それはそうだが、当てがあるのか?」
ソフトンの返しに対して自信に満ちた表情を見せるヘッポコ丸。
一同は彼の指示に従い、駐車場へと移動していく。
「取り敢えず、我々は会社の車に乗るとして、ボーボボさん達は何か当てが有るんでしょうか?」
苺プロの社用車を移動させた壱護が、彼らの足となるものについて問い掛ける。
ヘッポコ丸がどの様にして問題を解決しようとしているのかは兎も角、流石に生身の状態で移動する訳ではないだろうとの考えからであったが。
するとその質問は想定内とばかりに、天の助とソフトンがあるものを呼び出す。
「最速マシン、ぬのMAXターボ号‼︎」
「バビロン33号。」
「何、この乗り物⁉︎
というか、乗り物なのかこれ⁉︎」
天の助が呼び出したのは、ボディと思われる各面が『ぬ』で覆われた箱型の物体に車輪が付いたもの。
一方のソフトンが呼び出したのは、正にウンコに車輪と窓が付けられたとしか言い様がない物体。
その外見に対する壱護の反応も、当然と言えるものだろう。
「行くぜ、ヒカルを助けによ!」
その言葉と共にボーボボ達とアイ達親子がバビロン33号へ、その他の面々が苺プロの社用車へと乗り込んでいく。
「チクショー‼︎‼︎
何年経ってもウンコに勝てねー‼︎」
「よし、こっちは全員乗ったぞ、ヘッポコ丸。」
「こっちも全員乗った、いつでも始めてくれ!」
「分かりました!
最初は少し揺れると思うので、気を付けて下さい!」
ソフトンと壱護からそれぞれ声を掛けられたヘッポコ丸が、車内の人間に注意を促す。
バビロン33号の上でいつも以上に集中した様子の彼だが、やはり移動方法が気になったのかミヤコが壱護へと声を掛ける。
「それにしても、どうするつもりなのかしらね...。
この車潰す気で走ったって、そう簡単に移動出来る距離じゃないわよ...。」
「さてな、態々エンジンを点けるなって言ってくる位だから普通じゃない方法なんだろ...。
ヘッポコ丸君の顔を見れば大真面目なのは分かるが、俺達がどれだけ考えても無駄なんだろうな...。」
二人の会話を聞いていたB小町の面々も、一様にヘッポコ丸に対して不安げな視線を向けるが、かと言って別の具体案が浮かぶ訳ではない以上静観を選ぶ。
この車内にいる人間は誰一人知らないのだ。
彼が曲がりなりにもボーボボ達と共に戦った戦士でもあるという事を。
一方のバビロン33号内でも、やはりと言うべきか不安を感じたアイがポコミへと声を掛ける。
「ねぇ、ポコっち。
こう言ったらなんだけど、へっさん一人に任せて大丈夫なの...?」
(お兄さんは確かに頼りになる人ではあるけど...、正直どうするつもりなんだろう...。)
アイも、そして前世において関わりの有るルビーも、彼の人間性に関しては信頼を寄せているが、流石にこの窮状を打開出来る様な超人染みたイメージは無い。
先のバビロン界の件で質問したソフトンや、ボーボボ達の方がまだ何とかしてくれそうな予感がする故の質問なのだが。
「ふっ、アイちも分かってないねー...。
お兄ちゃんならこんな状況、超絶ヨユーってやつだから!」
「まあ、安心して見てな。
あいつは俺達の中でも、中々に器用な奴だからな。」
こんな状況でブラコン振りを発揮する友人の態度をアイが訝しむものの、ボーボボからのフォローも手伝い矛を納める。
超絶的な力を持つ二人が『手を貸そうともしない』という事は、それだけの自信が有るのだろう_と。
バビロン33号の上で一度呼吸を整えたヘッポコ丸は、自信のコンディションと技のイメージを再確認していく。
鍛練自体は続けてはいたものの、こうして実践するのは本当に久しぶりの事だ。
しかも今から自分がやろうとしている事は、ミスをすればこの場にいる全員が命の危機に晒される行為である。
自身の集中と共に、腹部から臀部にかけて力が漲っていくのを感じる。
するとバビロン33号の窓からビュティが顔を覗かせた。
「へっ君、これお兄ちゃんと通信出来る様にって。
それと、皆から伝言。
『頼りにしてるよ』って!」
「ありがとう。
ビュティも、アイ達の事気に掛けてやってくれ。」
彼女がくれた言葉一つで、自身の中の感覚が確固たるものになっていく。
未熟な自分を頼りにしてくれているのなら、自分は出来る事を全力で遂行するのみだ。
「オナラ真拳奥義『如月』...。」
電車の車両すら持ち上げる程の力を持つオナラの塊が、静かにワンボックス車とウンコを空へと浮かび上がらせていく。
陸路が駄目なら空路を行けばいい_そんな暴論の様な手段を可能にするヘッポコ丸の能力に、尊敬と畏怖が入り混じった表情で壱護が叫んだ。
「ウンコがオナラに乗って空を飛ぶとか、絵面ヤバ過ぎるだろ‼︎」
「ここって...、ララライの稽古場?」
バビロン33号から降りたアイが着いた先を確認すると、そこは自分達にとっても思い出深い場所であった。
犯人がこの場所を選んだ事実、そしてあの『ワタシ達の思い出の場所』という台詞に犯人の正体について確信を得た様子のアイが、ボーボボ達と共に入口へと走っていくが。
「ぐっ...、これはバリアか⁉︎」
恐らくはあの異形によるものなのだろう力が、一同の侵入を阻んでしまう。
物は試しと、アクアとルビーがタイミングを合わせて首領パッチを障壁に向かって蹴り込むが、案の定と言うべきか新たな被害者が出るのみに留まってしまった。
一刻を争う状況で足止めされ一同が歯噛みする中、ボーボボが対応策を呼び出さんとアフロを開く。
「壁をぶち破るなら、ドリルの出番だろ!
来い、ボーボボドリル!」
「ボーボボドリル?
先週、粗大ゴミに出しましたよ。」
アフロの中から現れた田楽マンによる無情な宣告の憂さ晴らしとばかりに、ボーボボが彼を壁へと投げつけるものの、状況が変わる事はない。
「思いの外しっかりとしてやがるな...。
仕方ない、あの方の力を借りよう。」
障壁の破壊に相応の威力が必要だと判断したボーボボではあるが、この後の戦いに備え力を温存しておきたいのが実情である。
そこで再びアフロを開いたボーボボが取り出したのは、ソフトンの等身大パネルであった。
どう考えても武器になる様な代物ではなく、ましてやソフトン本人がこの場にいる状況でこんな物を用意した理由が分からないアイ達が困惑していると、何かが空気を割く様な音が一同の耳へと届く。
「キャアァァァ‼︎ ソフトン様ぁぁぁ‼︎」
轟音と共にパネルごと障壁が粉砕され、立ち込める煙の向こうに見えた人影の正体に一同の注目が集まるが。
「もう一度MVPを取りに来たわ。
この、ステフィン・ギョラーがね。」
「ステフィン・ギョラー⁉︎
何言ってんだ、この魚雷⁉︎」
そこには、ボーボボ達にとっての心強過ぎる味方である魚雷ガールが立っていた。
何故かバスケのユニフォームを身に纏った彼女の名乗りにビュティがツッコむが、当然あの男達が黙っている筈がない。
「俺達も先生に続くぜ‼︎
俺はダーク・ボヴィツキーだ!」
「俺の名はパチール・オニール!」
「そして俺はデリック・とこローズ!」
「...ヤニス・ソフトクンボだ。」
「私達は人呼んで、『キセキの世代』よ‼︎」
「お兄ちゃんまで何してんの⁉︎
いい加減にしないと、色んな方面から怒られるよ⁉︎」
「やっと来たか...、遅かったな。」
「お、お前は...‼︎」
魚雷ガールの協力を取り付けた一行が進んだ先に待ち構えていた者の姿は、確かに一部の者達にとって見覚えのあるものであった。
今にして思えば、最初の事件の時からヒントは散りばめられていた。
貝原にボーボボ達を追跡する事でアイの入院先を特定しようとした_つまり、彼らの特徴を把握している事。
アイの自宅にて貝原が持っていたクリスマスローズと黒い薔薇の花束_それぞれが持つ『私を忘れないで』と『あなたはあくまで私のもの』という花言葉。
人の枠を超えた強大な能力を持っている事実。
その正体とは_
「皆さんお待ちかねの最後の仲間‼︎
コアラ骨法の使い手『ガ王』です‼︎」
「...。」
そこにいたのは、かつてボーボボ達の仲間としてツルリーナ3世打倒の為に戦ったさすらいのコアラ『ガ王』であった。
自身で語った通り、相手の関節を砕く『コアラ骨法』を駆使して戦った戦士であるが、徐々に存在感を無くしてしまった悲劇の存在である。
「ボクはあの3世との戦いの後、自分を鍛え直すべく旅に出ました...。」
彼がこれ迄の数年間の出来事を語る傍ら、ボーボボ達が徐にロケットを準備し始める。
「恥ずかしながら、ボクはあの戦いで殆ど役に立てなかった...。
それが本当に悔しかったんです!」
過去の実力不足を嘆く彼の体がロケットに固定され、エンジンへと火が灯る。
「もっと皆さんの役に立ちたい...。
そして何より、ビュティの姐さんに_」
ロケットが天井を突き抜け、空へと旅立った所で彼の話は途切れてしまった。
一応、ロケットの行き先についてビュティがボーボボへと問うと。
「勿論、ヤツの故郷オーストリアさ。」
「オーストラリアじゃなくて⁉︎」
「この扉の先から、凶悪な気配を感じる...。」
先行するソフトンの言葉を聞くまでもなく、ある程度の力量を持つ者達は自分達の前に有る扉を開けた先に『ナニカ』がいるのだろう事を敏感に感じ取っていた。
しかし、ここで臆する者達ではない事を示す様に、全員の思いを首領パッチが代弁する。
「なら話は早え。
ここにヒカルもいるって事だろ。
なら、正面切って進むだけだ!
という訳で、高峯、先頭を頼む。」
「えぇっ⁉︎ ここで私ですか⁉︎」
「うぉぉーい、待てやコラァ‼︎
何、B小町を先に行かせようとしてんだテメー‼︎‼︎」
「ぎゃあああ‼︎」
「来たわね...。
相変わらず騒々しいったらないけど。」
ビュティの怒りが炸裂した蹴りによって首領パッチが部屋に叩き込まれると、案の定と言うべきか部屋の中にいる人物からは彼らをよく知っているかの様な言葉が掛かる。
「やっぱりあなただったんだね...、姫川さん。」
「あら、アイドルのお嬢さん達も元気そうじゃない。
それとも、卒業おめでとうと言った方がいいかしら?」
その言葉の主は、自身の立場を利用してヒカルの心に消えない傷を付けた者_姫川愛梨であった。
「テメェ、またこんな事を繰り返しやがって...。
上原や子供の事は何とも思わねぇのか‼︎」
ヒカルを傷付け、恐らくは一時の入院以降彼女を支えてきたであろう夫や息子を裏切る行為に胸が痛まないのかと、ボーボボが彼女を糾弾するが。
「あら心外ね。
私達『四人』は、これからずっと一緒よ...。」
暗い笑みと共に彼女が背後を指差すと、そこには確かに三人の人影が有った。
その内一人は磔にされている事から、アイ達にもその人物がヒカルなのだろうという予測が立てられる。
「ヒカル、大丈夫⁉︎」
アイが彼を心配する言葉を掛けると共に、一同がその三人の姿に目を凝らすと、恐らくは姫川に抵抗しようとしたのか全身が傷だらけで倒れている上原、自身の母の凶行に怯え涙を流す大輝少年、そして。
「う、うぅ...、僕は何とか大丈夫だから...。」
全身の上着を脱がされ、上半身にはまるでブラジャーの様に二つの油あげを、下半身には『油あげうす塩』の文字が刻まれた褌を着せられたヒカルが磔にされていた。
(うわっちゃー、全然大丈夫じゃねー...。)
「くっ、三人をどうするつもりだ!」
今のヒカルには極力触れないでやるのが優しさだと判断したヘッポコ丸が、姫川の目的を問う。
先の彼女の台詞からして、狙いはヒカルだけに留まらず、彼女自身を含めた四人全員に手を掛けようとしている様に聞こえた故に。
「勿論、私がこの手で逝かせてあげるのよ...。
最後に私が逝けば、私は愛する三人に囲まれてずっと幸せでいられるの。」
その狂気に満ちた考えに一同が戦慄し、特にアイはかつての貝原の行動を思い返し、彼が姫川の思想に染められてしまった事を理解した。
ソフトンが語っていた『自分の中だけで関係を完結させようとする者』を実際に目の当たりにし、言いようの無い嫌悪感を感じてしまう。
「そんな勝手な理屈...。
自分の子供を殺すって、それ本気で言ってるんですか?」
「あなたに理解されようなんて思わないわ。
私はただ、私がしたい様にするだけよ...。」
「それってまさか...。 やめて‼︎」
同じ子を持つ親として、自身の子を巻き込む事すら厭わない姫川の姿勢をアイが批難するが、最早そんな言葉で彼女の心が揺れる事はない。
彼女が懐から取り出した錠剤に見覚えのある様子のポコミが必死に制止する言葉を掛けるが。
「アーハッハッハッハッハッハ‼︎」
「やっぱり...、善滅丸だったんだ...!
まだ残ってたなんて...。」
旧マルハーゲ帝国の遺物である丸薬が未だに市場に出回っている事実にポコミが表情を歪めるが、当然それで敵の動きが止まってくれる事などありはしない。
異形の姿となってヒカル達の近くに移動した姫川の出すドス黒いオーラは、着実にヒカル達三人を苦しめていく。
苦しむ三人の姿に怒りを募らせるボーボボ達が、姫川打倒の為に戦意を高める中、苦しい状況に置かれながらもヒカルがアイへと言葉を紡いだ。
それはここまで長い事伝える事が出来なかった言葉。
先の広場での一幕にて中途半端な形で終わってしまった言葉を彼女へと伝える為に。
自分が肉体的な、そして社会的な死を迎える前に自身の気持ちを叫ぶ。
「アイ、アクア、ルビー...。
三人とも、僕と家族になってくれてありがとう...。
愛してる‼︎」
その言葉にアクアの、ルビーの、そしてアイの視界が歪んでいく。
ずっと言って欲しかった。
なんて事の無い言葉の筈だった。
その言葉を聞くのも、言うのも怖かった。
それが本当の気持ちじゃないと思ってしまう可能性に怯えていた。
そんなヒカルの命が削られているのを示すかの如く、彼の左胸の油あげが砕ける。
やっとの思いで自分達に『その言葉』を届けてくれた想い人に訪れる理不尽に、アイは吠えた。
「こんな状況で感動出来る訳ねぇだろ‼︎‼︎
46話も掛けてヒカルに一番大事な台詞言わせるシーンで何て格好させてんだよ‼︎‼︎」
怒り狂うアイをビュティとヘッポコ丸が何とか宥めようとする中、ボーボボ達が全ての因縁に決着をつけるべく臨戦態勢に入る。
「姫川愛梨、テメェは速攻でぶっ潰す‼︎
ヒカルを色んな意味で助ける為にな‼︎」
お気に入り登録数が300件に到達しました。
こんな拙文をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。